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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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126/198

126.窮鼠

「う……こ、ここは……? な、なんでおらぁ斧なんか持ってんだ?っていうか寒ッ!」

「あたし、なんで鎌持ってこんな夜中に町をいるの……? あれ?なんか通りの植木とか屋台が壊れてる!?」


雪深い深夜のエタノー領の大通りのそこらかしこで町の人の声が上がる

全員が何故ここにいるのかをいぶかしがり、驚く

その目は青や茶色や黒など様々な色を持つが、あの禍々しい赤い色は失われていた――――





「アグライアさん、目が……!」

リンファは抱き留めるアグライアの眼の色が美しい青色に戻った事に感嘆を漏らす

すぐにアグライアは目を閉じ、静かに呼吸で胸を上下させる

その健やかさに、リンファは肩を震わせる


「む、むう……ここは……?」

アグライアに続き、部屋に入り込んできた整然とした魔導装束を着込んだ男性や鎧姿の女性が意識を取り戻し始める


「目が覚めたかランバー! 寝ぼけているところすまないがすぐに部屋中を照らせ、影の一つも作るな! サリエナはすぐに抜刀しろ、化物が侵入してる」

光を失ったかと思うと目の前のソファに倒れるように座り込んだモンギュー……いや、エタノー領主ヴァレリアはこみ上げる動悸を必死に抑えながら部下に指示を送った

その言葉にすぐ反応し、各々が即座に行動に起こす

「こいつは影を起因にした魔法を使っていたからね、これで少しは安心だ」



煌々と照らされる部屋の真ん中で数人の兵士に抜刀状態で囲まれたダガーは椅子に肘をついたまま不機嫌な表情を隠そうともしなかった

「……こんなショーのぶち壊し方があるかよ、ふざけやがって」

そういうダガーの口はワナワナと震える


その口を見ながら、疲労困憊と言った感じのヴァレリアは両手を膝について体を支えながら答える

「見ての通りここは劇場じゃない、そんなに自分の脚本した観劇が見たいなら山に帰って仲間とやってくれ」

そういいながらヴァレリアはゆっくりと北に向けて指を差した



「も、モンギューさん……貴方は一体……?」

「あ、あぁすまないねリンファ君、私はモンギューじゃないんだ、というかモンギューなんて人間はここにいない あの場で適当にでっちあげた偽名だったんだ、ごめんね」

アグライアを抱き留めたまま目を丸くしたリンファに、肩で息をしながら心から頭を下げるヴァレリア

「町の様子が明らかにおかしかったんでね、私が領主であることを表に出したくなかったんだ……とはいえ町の人間が私の事まで認識できなくなるとは思わなかったが」

「そ、そうだったんですね…… すごいです」

「すごくないすごくない、君の方がよっぽどすごいよ! アグライア君を連れてここまでよく来てくれた、おかげで私はファルネウスに怒られずにすんだ」

ヴァレリアはそう言いながら座っているソファをゆっくり撫でる


「私は力がそんなに強くなくてね、この館にいないと神代王の力を発現できないんだ それもごく一部の力程度さ」

自嘲するように鼻で笑いながら手のひらを遊ばせる

そしてその手を遊ばせながら、ヴァレリアはダガーに視線を向ける


「そう、例えば……【人格侵略系魔法の完全無効化】とかね、大本の力はもっとタチが悪いが、私程度の末端でもこれくらいの力が使えるんだ」

「ふ、ふざけやがって……!」

「ふざけてるのは君だよゴブリン君、王都がこの力を持ってることは君らは知っていたはずだろ? 特にお前のボスのクイーンは絶対に知ってるはずだ」

「そ、そんな馬鹿な……俺は……そんな……!」


ヴァレリアの言葉に動揺を隠せず、ダガーは体を揺らし顔を落とす

その様子にヴァレリアはため息をついた


「なるほど、何も聞かされていないといった感じだな……独断専行だったのかそれとも……」



「捨て駒にされたってところか」



その言葉にダガーが体を震わせ叫ぶ!

「そんなわけがねぇだろ!クイーン様がそんな!俺を!」


両手で顔を押さえ、ダガーはうなだれる

その様子をヴァレリアとリンファは警戒しながら見つめる



「ヴァレリア様! こちらの女性ですが、少し容体が……」

「どれ…… 魔力の構成がかなり乱れてるな、粗雑な魔法を大量に打ち込みやがって……! 治療室に運んで回復を続行しろ、私も後で回復に参加する」


アグライアは数人の魔導士に連れられ、部屋を後にする

リンファは何もできぬ自分を少し恨めしく思いながらも、アグライアが無事であることに安堵し……

そして、自分にできることをするために立ち上がった




「……さて、どうするかねゴブリン君、今更だがダガー君と呼んだ方がいいかね?」

「……気安く呼ぶんじゃねぇよクソ人間」

「そうか、じゃあクソゴブリン君 見てわかる通り君は袋の鼠だ、怪しい動きをすれば周りの兵士が即座に串刺しにする」

周りの兵士が武器を構えたまま警戒を強める



「このまま投降するなら捕虜として扱おう、一応だがちゃんと正規の捕虜としての立場を約束しよう」

「……」ダガーは何も答えない


「意志を示さない場合は拒絶としてこの場で対処する、10秒以内に回答したまえ」

深夜には不釣り合いなほど眩しい部屋の中、ダガーは頭を下げたまま沈黙を貫く


そんなダガーを睨んだまま、ヴァレリアはカウントを続けていく

数が少なくなっていくごとに全員の緊張が高まる



だが、それでもダガーは何も発さない


やがてヴァレリアのカウントと共に折れてゆく指が少なくなっていき……

「2,1……ゼロ。 それが回答か、承知した」



何も言わずうなだれたままのダガーを見ながら、ヴァレリアがスッと手をあげる

その合図に兵士が武器をガチャリと鳴らし、攻撃の構えを完了させる



最後の指示を待つ兵士

その手を上げたままダガーを睨むヴァレリア

身動き一つ見せず下をむいたままのダガー




数分にも感じられた数秒の後





ヴァレリアがその手を振り下ろす




そしてその瞬間、ダガーは醜怪に口角を上げて笑った




【八極剛拳 地烈爆震脚】



兵士が今まさに止めを刺さんと踏み込んだ瞬間、轟音と共に地面が揺れる!

床が抜け、地面が炸裂する

全員が何が起きたのかわからぬまま慌てる中……




リンファが解き放たれた矢の如き速さでダガーに飛び掛かった!




「り、リンファ君!?」

「みんな離れて! すぐにここから出てください!」



リンファの拳を受けたダガーがドプンと液状化し、闇に解ける

そしてそのダガーだった液状の闇は、リンファを飲み込み巨大な漆黒のドームとなり膨れ上がる!

しかしそのドームは爆震脚で砕けた地面に引っかかり、肥大化を手間取らせる




「ぜ、全員撤退だ! 館から出ろ!急げ!飲み込まれるな!」

ヴァレリアがふらつく体を必死にお越しながら叫ぶ

その声に全員が戸惑いながらも館から慌てて撤退する

その撤退の最中もその闇のドームは更に肥大化し、やがて建物そのものを飲み込んだ



―――――――――――――


『こくごとく俺の邪魔ばっかりしやがって……この出来損ないがぁ!』

ゴブリンハーフの眼を以てしても自らの手すら見えぬまさに漆黒の闇の中、ダガーの声が不気味に聞こえる


「あのままおとなしく殺されるわけがない……お前が!」

光どころか音すらも吸収する闇の空間で、リンファは探るようにゆっくりと構える

普段の手を相手の前に差し向ける構えではなく、両の手を体の側面に備えて開く構え

どこに敵がいて、どこから来るかもわからない攻撃に対してリンファはその構えを選択した


音すらも消えるこの空間は、リンファの感覚を奪う

自らの喋る言葉は頼りなく小さく聞こえ、心臓の音だけが不気味に響く




『あのままあのクソ人間を殺してやるつもりだったのに……お前のせいで俺のショーは全部台無しだ!』

「お前の思い通りになんて、絶対にさせない……! みんなに手出し何てさせないからな!」



リンファのグローブに埋め込まれた左右の魔鉱石がリンファの言葉に反応するかのように光る!



『うるせぇ……お前だけは絶対に許さねぇからな……! その首引きちぎってクイーン様の土産にしてやらぁ!』


音すら飲み込む部屋のはずなのに、皮膚を揺らすほどのゴブリンの鳴き声がリンファを貫く

闇の中の空気が揺らぎ、敵意がリンファに纏わりつく



深呼吸をして、腰を落とす

光も音も消えた漆黒の空間の中で



リンファはその目を見開いた――――


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