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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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118/196

118.囮は走る

闇の口が続々と影から生えてきて、二人を囲み追い詰める

その口から見える白い歯が笑うようにガチガチと鳴り、その首を振らしながら不気味に二人の眼前で揺れる

襲い掛かるようで襲い掛かってこない、というよりもいつでも襲えるから遊んでいるという感じ


猫が昆虫を目の前にらんらんと目を輝かせていつでもその爪と牙を繰り出せる、そんな雰囲気で闇の口は二人をもてあそんだ


「な、なんだこの気持ち悪い化け物……召喚獣にしても見たことがないぞ!? 勘弁してくれよお腹いっぱいだよもう!」

モンギューが情けない声で叫ぶ、リンファは敵の数と位置を視線を動かしながら把握に努め少しずつ構えを動かす


闇の口の一匹がガチリと歯を噛み、その首が刹那に飛び掛かる!

だがリンファはその動きを読み切って掌底をその顔面らしき部位にカウンターで叩き込む


「う、うわぁぁ!?」

しかしカウンターを叩き込んだはずのリンファが叫ぶ

叩き込んだはずの右掌底はその闇の口にズブズブと沈み込み、焼けるような痛みを感じて慌てて引き抜くとその腕はわずかに爛れて血が滲む

闇の口はリンファのそんな動きをあざ笑うようにゲタゲタとその口を開閉させながらリンファの腕にバクリと噛みついた!


その咬合は恐ろしく強く、リンファの腕の骨が軋む音がその耳に響きリンファは悲鳴をあげる

リンファの悲鳴に反応したかのようにその口を開きリンファを開放、自由になったこと瞬間、反射的にその白い歯に肘打ちを叩き込むリンファ


だがその一撃もズブリと白い歯に沈み、リンファは慌てて距離を取る


そんなリンファと恐怖に震えるモンギューを見ながら闇の口達はゲタゲタと笑い、いつでも攻撃できる間合いを保ちガチガチを歯を鳴らしその身を揺らす

いつでも殺せるぞ、いつでも食いちぎれるぞ

そう言わんばかりの挑発的な動きが二人の前で繰り広げられる


そして大通りからの群衆の怒声と足音は更に距離を近づけてくる



二人は追い詰められたまま、ただ荒く呼吸をする

「こいつら……遊んでるのか……! ダガー!!」

リンファが怒りで吠える、モンギューはそんなリンファの背中にビビりながらもブツブツと何か独り言を言っている


「この国で使える召喚獣じゃない……という事は眷属魔法……となると冥術……」

やがて闇の口が笑うのをやめて歯を向きだしにしてゆっくりと近づいてくる

その刹那、踏み込もうとしたリンファの後ろからモンギューが叫ぶ


「リンファ君、目をつむって!!」

そういうやいなやモンギューは眼鏡を手にもってレンズを闇の口に向けると、魔法を叫ぶ

「ストレート・ライト!」


魔法名を呼ぶと同時にレンズが発光し、直進性の高いまっすぐな強い光が闇の口を照らす

その光は闇の口に吸いこまれ消えるが、その光に闇の口はけたたましい声をあげて歯をむき出しにして苦しむような姿を見せた!


そしてその光を受けた闇の口の様子を感じてか、周りの闇の口も動きを止めて戸惑いだす


「ひ、光に弱いのか……! モンギューさんすごいです!」

「いや、多分あれはダメージになってない」


少しだけ希望を感じた顔をしたリンファに、首を振りそれを否定するモンギュー

モンギューの顔は険しく、その口は強く食いしばられていた



「多分だけど、嫌がっているけどダメージはないと思う……痛がってる素振りは多分嘘だ」

「嘘……!? な、なんで!?」

「光が攻撃になるんなら障害として役に立たないからさ、リンファ君はともかく普通の人間は照明程度の魔法は誰でも使える 魔法が使えなくても大通りの松明を一本持ってくれば事足りる」

言いながらモンギューが眼鏡のレンズを通して照明を闇の口に放ち続ける

闇の口達はダメージを受けたくないかのような動きを見せてわざとらしくよけるが、よく見ればその身になんども光を浴びていた



「な、なんでそんな……!?」

「考えたくはないが、多分この魔法を使っている奴の性格が相当悪いんだろうね…… 路地裏にわざわざこういう場所を用意したり光にそんな反応を示させたり、とにかくこちらの絶望する顔が見たくてしょうがないって感じだ」



光を当てながらモンギューが自分の顎に手をかけ考える

放つ光に対して、闇の口はダメージこそないもののその光自体には反応をする

反応をするというよりも、何かをおしつけられたかのように光の当たった分がわずかに凹む


「威力はないけど障害物としては有効ってことか……リンファ君、ちょっと提案があるんだけど聞いてくれるかい?」

「は、はい」

リンファは警戒しながら返事をする

迫ることをやめたとはいえ未だにいつでも襲ってきそうな目の前の闇の口、そして町の人の声……

悠長にしている暇はないことを肌で感じ、リンファは焦りを感じていた


「目の前の化け物、光がダメージにならなくても障害物としては有効みたいだ……だからそれを利用してここから脱出しよう」

「ど、どうしたらいいですか!?」

少しだけ焦りの色を濃くするリンファの肩にモンギューがそっと手をかける


「焦っちゃダメだ、君にはやるべきことがあるんだろ? もちろん僕にもある、失敗できない場面こそ焦らず深呼吸だ」

その言葉にハッとしたリンファは、深い呼吸を一度だけ行って気を整える

まだ心臓と冷や汗は落ち着かないけど、それでも焦ってる自分は自覚できた



「いいねぇ、さすが噂のゴブリンハーフ君だ 作戦は至ってシンプル、僕が上空に向かって閃光の魔法を放つから、その光を合図に君はこの外壁を蹴って建物の屋上を跳んで中央広場に行ってくれ 中央に近づくにつれて建物が密集してるし君の脚力なら飛び移れるだろ?」

「で、できると……思いますけど……でも……」

「私を心配してくれてるのかい? 大丈夫、というか悪いがリンファ君を囮にさせてもらって私は大通りに戻って隠れながら進むよ 君の姿を発見すれば追手のみんなは君を追うだろうからね」


肩にかかる手に力が籠る

「いいかい、領主の館だ 必ずそこまで来てくれ、私も必ず辿り着く ここからはもう振り返るな、まっすぐ目的を果たせ 私もそうする、君もそうしろよ」

「目的……わかりました、絶対にみんなを引きつけますから、モンギューさんもご無事で」

「私は大丈夫だよ、だって死ぬの怖いもん やばかったら何かも捨てて逃げるから何の心配もいらない、むしろ逃げても恨まないでね」




そういってモンギューがリンファの肩から手を離す

闇の口がもはや興味もなくしたといった感じで光りに当たっていても痛がる素振りをしなくなり、周りの闇の口が歯を鳴らして蠢きだす



「準備はいいかい?」

「いつでも行けます……」

「OK、じゃあ3つ数えたらスタートだ」




「3」

闇の口が再びその体を二人に迫りくる


「2」

追手の足音が大きく強く近くで響きだす


「1」

リンファが発勁を練りこみ、腰を落として構えを作る



【GO!】




リンファが跳ぶ

モンギューが閃光の魔法を唱える


しかしその閃光の魔法はリンファのいる上空ではなく

モンギューの眼前で炸裂した!





「モンギューさん!?」

背後に光る強烈な閃光に思わずリンファは視線を向ける

その閃光の中心は白くまばゆく輝きモンギューの姿はかろうじてしか見えない

しかしその最中、モンギューの存在は激しく際立っていく



モンギューは閃光魔法と同時に強烈な爆発音の魔法を重ねる

本来は敵を驚かせるだけの強烈な音と光がモンギューを中心に展開されていた



「おい!とんでもない音がしてるぞ! もしかしてゴブリンハーフか!?」

追手の群衆がその音に反応し足を速める

闇の口はその強烈な光で動きをわずかな間動きを封じられる



モンギューは魔法を唱えた直後即座に踵を返し

大通りとは真逆の方角……更に深い暗い裏路地に向かって走り出した




約束は嘘だった

モンギューは囮になってくれたのだ




「モンギューさん!待って!なんで……」

リンファが思わず叫ぼうとするが、モンギューの姿を視界に収めた時その言葉を失う




モンギューは逃げながら自らの手を払うような動きをリンファに向けてやって見せた


『こっちに構うな 行け』


そんな動きを見せながら、音と光の魔法を連発させながら闇の口と追っ手を引き付けながら逃げていく


「ひゃあああたすけてくれえええこっちにこないでくれえええええおってこないでくれええええ」

わざとらしいモンギューの声が爆発と共に路地に響き、やがて小さくなる

そしてその姿は路地裏の闇に消え、その光も見えなくなる



リンファはその姿を目で追うが、歯を食いしばりながら踵を返して中央広場を目指す


助けに行くよりも、アグライアさんを止めてダガーを倒す!


「絶対に無事でいてくださいね……モンギューさん……!」




リンファは足下に見える光に照らされながら、その足を急がせる


その視界に、アグライアのいる中央広場が見えた――――!





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