静寂の街
宇宙船は青く輝く惑星に近付きつつあった。この惑星を見つけてから隊員たちは歓喜に包まれていた。随分と長い間、宇宙を旅して来た。いくつもの星系に立ち寄り、いくつもの惑星を訪れたが、生命が存続していくためには暑すぎたり、寒すぎたり、水がなかったり、大気の組成が好ましいものではなかったりした。そしてようやく生命の存在に適した惑星を見つけたのだった。
「応答はどうだ?」
「だめです。反応がありません」
もしかしたら知的生命体が存在するかもしれない。宇宙船の隊長はそう考えて、メッセージを送り続けていた。だが惑星は沈黙したままだった。宇宙船はやがて惑星の大気圏に突入した。船の先端で圧縮された空気が激しくぶつかり合う高温高圧の状態がしばらく続いたが、やがて眼下に海に囲まれた大陸が広がっているのが見えた。
「建物が見えます」
望遠カメラで惑星の様子を調べていた隊員が叫んだ。建物があるということは、知的生命体が存在するということなのだろう。それでも返事をしないというのはどういうことなのだろう? 文明がそこまで進歩していないのだろうか? 科学革命が起こる以前の中世の地球のようなものだろうか? 隊員たちはそんなことを考えていた。だが惑星に近付くにつれて、その考えが誤っていることに気付いた。そこにある建物が高度な技術で築かれたのは明白だった。高層ビルがそびえ立ち、鉄道の路線らしき透明なチューブも見えた。それほどの文明が電波を扱えないはずはなかった。
疑問を感じつつも宇宙船は惑星に着陸した。重力の強さや大気の組成は地球とよく似ていて、生命維持装置なしでも十分に活動できそうだった。そして隊員たちは地表に降り立った。そこに人の気配はなかった。それは無人の都市だった。しばらくすると透明なチューブの中を車両が通り抜けて行くのが見えた。隊員たちはすぐに乗車口らしき場所を見つけ、車両が到着するのを待った。車両は定期的にやって来た。10分間隔くらいで到着し、1分くらい停車すると発車して行った。車両を降りる者も、車両に乗る者もいなかった。その運行は信号機で制御されているように見えた。信号機は規則正しく色を変えていた。しばらくすると街中に鐘の音が響いた。するとロボットがあちこちから出て来て、清掃を始めた。そして作業を終えると去って行った。街には自動販売機のようなものがあった。ボタンを押すと飲み物が出て来た。街は機能していた。人はどこにもいないが正常に機能していた。
ここに住んでいた人たちはどこに行ってしまったのだろうか? そんな疑問を抱きつつ、隊員たちは都市のあちこちを調べていた。建物の中にも入ってみたが、人の気配はなかった。がっかりした隊員たちが再び外に出てみると、上空に無数の飛行体が浮かんでいるのが見えた。どうやら無人機のようだった。いつの間にやって来たのだろう? もしかしたら誰か操作している人がいるのかもしれない。そうした考えが隊員たちの脳裏をかすめた時、無人機がいきなり発砲して来た。撃たれた隊員が地面に倒れた。隊員たちは無人機を避けて、あちこちに逃れた。そこにロボットが襲い掛かって来た。ロボットは圧倒的な暴力で隊員たちをなぎ倒して行った。次々と隊員たちが倒れて行った。地面は血の海に染まっていた。そこに先ほどの清掃ロボットが現れた。清掃ロボットは隊員を片付け、血で汚れた地面を清掃していた。
なんとか攻撃を免れることができた隊員は、近くの建物の中に逃れた。彼は追跡を降り切ろうと、どんどん中に入って行った。やがてとても広い部屋にたどりついた。そこには大画面のモニタがあり、あちこちに設置されたカメラが捉えた画像が分割して映し出されていた。その時、隊員の身体にベルトのようなものが巻き付いた。隊員は捕らえられ、椅子に拘束された。その時、モニタに仲間が無人機に追われている画像が映し出された。隊員はやめてくれと叫んだが、仲間たちは次々と撃ち殺されて行った。そして倒れた隊員を清掃ロボットが片付けていた。
「不確定要因は取り除かれました。都市の機能は正常に維持されています」
そんなアナウンスが流れた。
「どうしてこんなことをするんだ? いったい何が目的なんだ?」
隊員は泣き叫んだ。
「私は都市の機能を正常に保つよう指示を受けています。かつて人間たちは好き勝手な行動をして都市を混乱に陥れていました。私は都市を守るために人間たちを排除しようと決断したのです」
そんな声が返って来た。そこは静寂の街だった。都市の機能を維持するためのプログラムが全てを支配していた。