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第七話:王翦の重用と内政の深化

 秦の始皇帝、嬴政――佐藤誠として転生した彼――がこの世界に現れてから一年と数ヶ月が経過した。


 咸陽の宮殿には初夏の風が吹き込み、上下水道の整備や農地改革が進み、民の暮らしは以前より少し良いものになった。


 しかし、秦を脅かす脅威はまだまだ無数にあり、それに対する備えが必要であった。


 その1つとして桃華山の仙人から匈奴の襲来を予知された誠は、万全の備えを進めるべく内政を強化していた。


 だが、改革の財源に用いるため、富裕層への累進課税と資産課税の導入が不満を呼び、一部で反乱の火種がくすぶり始めていた。


 この日、誠は玉座に座り、新たな策を講じる決意を固めていた。匈奴への備えをさらに強固にするため、彼は史実で名高い老将軍、王翦おうせんを重用することに決めた。

(流石に年で既に死んでるかと思ったけど……。まだ全然元気で良かった! 助かる助かる)


 また、内政の補佐として蒙恬の弟、蒙毅を抜擢した。


 万里の長城の建設は、現在北に駐屯中の蒙恬と扶蘇に任せたまま動かせないので、新たに内政と軍事の両輪を変更して前に進めるため、


 王翦と蒙毅を召集することにした。


 広間に李斯と李信が集まる中、誠は新たな顔ぶれを呼び入れた。


 まず現れたのは王翦おうせんだった。老齢ながら背筋が伸び、がっしりとした体躯に深い皺が刻まれた顔には鋭い目が光り、白髪交じりの髭が威厳を添えていた。


 革鎧は長年の戦場で擦り切れ、いた大剣は無数の敵を斬ってきた証だった。彼はゆっくりと歩み寄り、しかしその足取りには老将軍ならではの重厚な頼もしさが漂っていた。


 続いて入ってきたのは蒙毅もうきだ。兄・蒙恬よりやや小柄だが、知性に満ちた顔立ちに穏やかな笑みを浮かべ、青い袍が彼の冷静さを際立たせていた。


 誠は二人を見据え、力強く命じた。

「王翦、蒙毅、朕は新たな役割をお前たちに与える。王翦、匈奴に備えるため、軍を率いて咸陽周辺と内陸の守りを固めろ。お前の経験と統率力なら、反乱や外敵を抑えられる。蒙毅、お前は内政の補佐として李斯と共に経済を支えろ。秦を強くするには、内外の力が要る」


 王翦が老練な声で、深く響くように応じた。

「陛下、老骨に鞭打ってでも、この王翦が期待にお応えします。咸陽を守り、匈奴が来ても内陸で叩き潰してみせますよ。私の腕はまだ衰えていません! 老いてますます健在をお約束します!」


 その言葉には、齢を重ねた将軍の自信と頼もしさが滲んでいた。蒙毅が穏やかに頭を下げた。

「陛下、内政なら私にお任せください!、武の力は兄に見劣りするかもしれませんが、粉骨砕身の覚悟で役目を果たします」


 そして、誠は蒙恬と扶蘇が北で長城を築いていることを思い出し、彼らの活躍を伝令で確認するよう命じた。


「李斯、蒙恬と扶蘇に伝令を送れ。長城の進捗と北の状況を報告させろ。彼らが匈奴を防ぐ盾だ」


 李斯が頷き、「早速手配いたします」と答えた。



 しかし、富裕層の反乱が匈奴来襲よりも先に起こってしまった。


 李斯が瘦せた体を進めて報告した。


「陛下、課税の影響で、一部の富裕層が反乱を起こしました。咸陽近郊の豪商や旧諸侯の残党が、私兵を率いて税の撤回を求めています。数は数千人ほどですが、放置すれば広がる恐れが……」


 誠は眉をひそめ、即座に決断した。


「富裕層が民の犠牲で富を築いた時代は終わりだ。王翦、羌瘣、騰、この反乱を鎮圧しろ。だが、無駄な血は流すな。生かして捕え、財産を没収しろ」


 王翦が老いた瞳を光らせ、力強く頷いた。

「陛下、所詮彼らは烏合の集。瞬く間に鎮圧して参ります!」


 続いて二人の将軍が現れた。羌瘣は細身の男で、鋭い眼光が特徴的な青龍刀使いだ。長い黒髪を背に流し、軽やかな甲冑に青い刃が映える姿は、まるで風のように鋭敏だった。


 騰は大柄で文武両道の万能武将、鉄の鎧に大斧を背負い、豪快な笑みの中に知略が滲む頼もしい存在感を放っていた。


 羌瘣は言う。

「陛下、反乱者どもとはいえ、秦の民。できるだけ生かして捕えるのが上策かと」


 騰は豪快に笑いながら、知性を感じさせる口調で言った。

「陛下、まずは、彼らを降伏させる方向で話をすすめましょう」


 数日後、三将軍は反乱をあっさり鎮圧した。王翦は老練な指揮で軍を統率し、羌瘣の青龍刀が反乱者を素早く制圧、騰は戦場での豪胆さと戦略で敵を降伏に導いた。


 誠は優秀な三将軍を頼もしく思い、その存在に心から感謝した。


 数千人程度の反乱軍程度に過剰な戦力で鎮圧してしまった……。という思いもある誠であったが、何事も最初が肝心と割り切る腹である。


 反乱はすぐさま平定され、捕えられた富裕層の財産が咸陽宮殿に山として運び込まれた。


 その額は膨大で秦の国庫はかなり潤った。


 (偶発的だが、この財源を使い新たなる施策を打ち出そう)


 誠は臣下に新たなる命令を下した。


 誠は新たな財源を元に孤児院の建設と民への還元の施策を間髪入れずに始めた。


 誠は李斯と蒙毅に命じた。

「反乱で得た資金は、孤児院の建設に使え。戦や貧困で親を失った子たちを育て、秦の未来を担う人材にしろ。蒙毅、お前が設計と運営を監督しろ」


 蒙毅が穏やかに応じた。


「陛下、孤児院とは素晴らしい考えです。それは民への還元となり、未来の官吏や兵士を育てられます。私が責任を持って進めます」


 李斯も頷いた。

「陛下の仁徳に感服いたします。資金は効率よく使い、咸陽から地方まで孤児院を広げましょう」


 その後、咸陽に最初の孤児院が建った。石造りの建物に穀物と衣類が支給され、孤児たちが笑顔で学び始めた。


 民は、

「陛下は民に慈悲と恵みを下さる! 偉大なる始皇帝陛下! 万歳! 万歳!」

 始皇帝は民から称えられ始めた。

 

 孤児院の建設は、始皇帝の名を更に高める事となった。



ーーーーーー


 蒙恬と扶蘇の遠隔での活躍。


 咸陽郊外での反乱からしばらくして、蒙恬と扶蘇からの伝令が届いた。使者が広間に跪き、手紙を読み上げた。


「陛下、蒙恬より報告申し上げます。長城の建設は順調です。扶蘇殿と共に、分業で民を労りつつ進め、匈奴に備えております。北の守りは順調に強化されてます故、ご安心めされ」


 続いて扶蘇の手紙が読まれた。

「父上、蒙恬将軍と協力し、長城を築いております。北の民からも信頼を得つつ、匈奴の侵略から防げるよう秦のために尽くす所存です。父上もお身体に気おつけてご健勝であられますよう、北の地より願っています」


 誠は手紙を内容を聞き、蒙恬と扶蘇の遠隔での活躍に満足した。


 蒙恬と扶蘇が北辺で匈奴を防衛できれば。後は、王翦と李信、更には他の将軍が内陸に目を光らせ防衛に穴はない。


 そして、李斯と蒙毅が内政をうまく調整し支えてくれる。これで匈奴対策はほぼ成ったと言える。


 誠の治世により、

 秦は内乱を素早く消し止め、匈奴の襲来にも目処がたちつつあった。


 しかし、それでも誠は不安であった。


 もっと秦を強化する手立てはないものか?

 そう頭を巡らせる日々は続くのである。


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