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第四話 外伝:李斯の視点―主君の叡智と未来への誓い

 私は李斯、秦の丞相として長年この国に仕えてきた。陛下の玉座の前に跪く日々は数え切れない程である。


 だが、あの秋の日、陛下から法家思想を学びたいと命じられた時、私の心に新たな波が立った。


 その朝、咸陽の宮殿の大広間に呼び出された私は、陛下の前に立った。


 陽光が石畳に反射し、静寂が支配する中、陛下は玉座から私を見下ろした。

 その瞳は鋭く、しかしどこか深い思索に満ちていた。


「李斯、朕は秦の法家思想を深く学びたい。この国がどう動いてるのか、もっと知る必要がある。詳しく教えてくれ」


 その言葉を聞いた瞬間、私は一瞬眉をひそめた。

(法家思想を学びたい? 陛下は法家の教えを既に学び終えたはすだ。何故、今さら私に教えを乞う?)


 内心に疑問が湧いたが、陛下の真剣な眼差しを見て、私はその思いを抑えた。


 主君の命令は絶対だ。

 故に超高の斬首も一瞬の迷いもなく執行された。


 たとえ奇妙に思えても疑問を持ってならぬ!

 私の務めはそれに応えることだ。

 私は立ち上がり、声を整えた。


「陛下、法家思想は秦の礎であり、国を統べるための厳格な秩序を重んじる思想でございます。その根底には、三つの柱がございます」


 第一の柱「法」、第二の柱「術」、第三の柱「勢」。私は一つ一つ丁寧に説明を始めた。法の絶対性、統治の技術、君主の権威――これらが秦を統一へと導いた力だと。陛下は真剣に耳を傾け、時折頷きながら私の言葉を噛み締めていた。


 説明を進めるうちに、私は陛下の態度に変化を感じた。


 陛下は単に聞いているだけでなく、私に質問をし、その質問の内容は回数を重ねる事に鋭さを増してきた。


「李斯、法が厳しすぎると民が反発しないか? 術で臣下を縛るだけじゃ、人心が離れることはないのか?」


 その問いかけに、私は内心で驚嘆した。


(これは…単に知りたいだけではない。陛下は法家思想を既に理解した上で、さらに深く探ろうとしているのだ。君主として、新たな視点で国を見直そうとしているのか?)


 当初の疑問が薄れ、私は納得した。

 陛下は法家の修めて既に本質は掴んで知っているはずだ。


 それでも私に更に教わるのは、単なる復習ではなく、統治を再構築する意志の表れなのだと。


 私は目を輝かせ、さらに熱を込めて説明した。


「法は確かに厳しさで民を抑えますが、それだけでは不満が溜まります。術は臣下の忠誠を引き出す技術であり、勢は陛下の威光で全てをまとめます。これらが一体となって秦は成り立っております」


 陛下は静かに頷き、深い息をついた。


「李斯よ、法家思想はよく分かった。法の厳しさは国の秩序を守る。でも、朕は罰を重くするだけじゃなく、民を労る国を作りたい民を幸福に導きたい。行き過ぎた厳罰主義を緩和するぞ! まずは臣下にそれを徹底させろ」


 私は思わず目を丸くした。

 法家の教えは厳罰主義だ。

 民を甘やかせば秩序が乱れる――そう信じてきた私にとって、陛下の言葉は異端だった。


「陛下、それは法家の教えに反します。民を甘やかせば、反乱の火種が……。秦国を脅かす事になりかねませんぞ」


 陛下は手を挙げ、私を制した。

 陛下に対する諫言をしくじれば私の命等風前の灯だが、譲れぬところ私にもある。これは私の最後の意地である。


 しかし、陛下のその瞳に宿る決意と迫力に、私は言葉を失った。


「朕は民に慕われる君主を目指す! 厳罰で恐れさせる皇帝ではなく、愛される皇帝にな! 勿論法は守らせるし法家主義無くす事はしない! しかし、罰は必要最小限に抑え、民が罪に怯えて暮らす世にするわけにはいかぬ! 豊かにするにはある程度の寛容さと恵みが必要であろう! これが朕の意志であり願いだ!」


 その瞬間、私の胸に衝撃が走った。陛下は法家思想を深く理解した上で、それを越えようとしている。

 厳しさだけでなく、民の心を掴む統治を目指すその発想は、私がこれまで仕えたどの君主にもなかったものだ。


 その後、蒙恬と李信の賛同もあって私も「陛下の命に従います」と答えた。



 そしてその後に上下水道という驚異の知恵を陛下は披露なされた。


 陛下の驚くべき発想はどころから来たのだろうか?

 陛下が口にする概念や手段は、私にとって未知の物だった。


「李斯、もう一つ命じる。朕は国中に上下水道を整備する。民が清潔な水を飲み、汚物を流せる仕組みだ。これで病気を減らし、民の暮らしを向上させる」


 私は困惑し、思わず尋ねた。

「上下水道? それは何でございますか?」

 陛下は玉座から立ち上がり、自ら竹簡に簡単な図を描きながら説明してくれた。

 その手つきは確信に満ち、声には熱がこもっていた。


「上水道は川や湖から水を引いてきて、町や村に配る管だ。石や竹で作れる。下水道は汚水を町の外に流す溝で、病気や悪臭を防ぐ。朕の知恵で考えた仕組みだ。土木工事のついでにこれをやれば、民が喜ぶぞ」


 私は図を見つめ、息を呑んだ。こんな発想は秦はおろか、どの国にも存在しない。水を民に届け、汚物を流す――それは単なる統治を超えた、民の命を守る知恵だった。


 蒙恬が目を輝かせ、李信が感嘆の声を上げたのも無理はない。

 私の中で、陛下への認識が大きく変わった。

(この知恵は一体どこから来るのか? 陛下はまるで天命を超えた聡明さを持っている。陛下の才覚が、ここまで深いものだったとは……。いやこれはもはや神の発想では? 真人ともなるとこうなるのだろうか……。)


 陛下の命令はすぐに実行に移され、まずは咸陽近郊の村で上下水道の工事が始まった。


 工事が完成すれば清潔で豊富な水が民達の暮しを楽にするであろう。


(陛下は法家思想を基盤にしながら、民を愛する統治者だ。そしてこの上下水道は提案は、未来を見据えた知恵を持つ主君でもあるのは明白だ。私はこれまで厳罰に頼りすぎていたのかもしれない。陛下の道こそ、秦を永遠に導く光なのだ)


 その夜、私は陛下の御前に再び跪いた。


「陛下、私は法家思想に縛られ、民の心を見ていませんでした。陛下の叡智と仁徳に感服いたします。上下水道の知恵は、未来を見通す先見性そのものです。私は今一度誓います! この命を陛下に捧げ、秦を永遠の国とするために尽くすことを!」


 陛下は微笑み、私の手を取った。


「李斯、朕はお前と一緒に国を作る。未来への道を共に歩もうぞ」


 私は涙を堪え、深く頭を下げた。

「陛下、私はあなたの忠臣です。未来を見据える聡明な主君に、この身を全てを捧げます」


 私は陛下の先見性に心を奪われ、ここに忠義を新たにした。


 陛下の未来への眼差しが、秦を更なる豊かで幸せ溢れる素晴らしい国に変えると信じて。


補足 

上下水道工事はわりと大変ですが

中華全体に行き渡り工事が完成するのはだいぶ先になるとは思いますが、主要都市は1年くらいでだいぶやれたとは思います。


街単位でみて。

計画と測量: 1か月

導水路の建設(数キロメートル): 2〜4か月

都市内の水路・排水溝: 3〜6か月

貯水施設: 1〜2か月

試験運用と修正: 1〜2か月


最初はそんな感じで進んで行ったと思って下さい。


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