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第三十五話:とある秦の強過ぎる精兵の話 後半の壱


『紀元前217年、楚の旧地・会稽郡の乱』


【項梁、項羽の反乱軍の膨張】


 会稽の城下では、反乱軍の旗が風にはためき、旧楚の民たちが集まっていた。


 旗には楚の古い紋章が縫い取られ、夕陽に照らされて鮮やかな赤が際立っていた。


 項羽の武勇はたちまち噂となり、項氏を慕う農民や旧貴族の若者たちが次々と項梁の軍に加わった。


 城下の広場には、粗末な鎧を身に着けた若者や、少数ながら鍬を手に持つ農夫たちの姿が溢れ、希望と怒りに満ちた声が響き合っていた。



 夕暮れの野営地では、焚き火が赤々と燃え、兵士たちが項羽の戦いぶりを語り合い、笑い声と剣を研ぐ音が響き合っていた。


 火の粉が夜空に舞い上がり、野営地の周囲には松の木々が黒い影を落としていた。


 遠くの山々は紫色に染まり、夜の帳が下りる中、反乱軍は五千にまで膨れ上がった。


 反乱の表の動機は、秦の資産課税と累進課税による豪族の没落と、楚の名誉の回復だった。



 項梁は「秦の搾取を許さず、楚の魂を取り戻す」と宣言し、項羽は戦士としての誇りを胸に戦った。



 しかし、もちろんながら秦の始皇帝・嬴政(佐藤誠)はこの反乱を看過しなかった。



 誠は、自身が直接、貧困から救い出した韓信と、密偵網と鬼謀妙計を駆使する老軍師・范増に秦の兵、五万を託し鎮圧を命じた。



 范増の情報網は項氏の動きを逐一把握し、韓信の天才的な軍略が項梁、項羽の反乱軍を圧倒した。



【会稽の山中での夜襲】

 会稽の山中は、月明かりに照らされ、深い闇と静寂に包まれていた。


 反乱軍の野営地では、疲れ果てた兵士たちが眠りに落ちていた。


 所詮は寄せ集めの集団であり、秦軍の正規兵五万の重圧に項梁、項羽軍の士気は幾らも持たなかった。


 韓信の軍は夜陰と敵軍の士気の低下につけ込み、音もなく忍び寄った。


 松林の間を縫うように進む彼らの足音は、落ち葉の上でかすかに軋むだけだった。夜風が木々の間を吹き抜け、遠くで梟の鳴き声が響いていた。



 突然、陣中に松明が投げ込まれ、火の手が上がり、驚愕する項軍は混乱に陥った。


 野営地の天幕が燃え上がり、黒煙が月光を遮った。


 叫び声と馬のいななきが響き合い、兵士たちは武器を探して慌てふためいた。



 異変に対応すべく、項羽は咆哮を上げ、矛を手に敵に突進したが、先読みした韓信が立ち塞がる。


 韓信の布陣はまるで鉄壁のごとく項羽を跳ね返し、さらには項軍の補給線と退路を完全に封じた。



 山の斜面を転がる岩石と、矢の雨が項軍を追い詰め、項羽の猛攻も韓信の戦術の前には、為す術もなく散った。



 岩石が地面を砕き、土埃が舞う中、項軍の兵士たちは次々と倒れていった。



 項羽は捕らわれ、それを聞いた項梁は降伏した。



 会稽での乱はこうして鎮圧され、項羽と項梁は咸陽の牢に収容された。







ーーーーーー


【咸陽の牢獄】

 咸陽の牢は、冷たく湿った石壁に囲まれ、わずかな松明の光が鉄格子の影を揺らす。


 壁には苔が生え、水滴がぽたりぽたりと落ちる音がこだまする。埃と血の匂いに満ちた狭い独房に、項羽と項梁は鎖につながれ閉じ込められている。


 項羽は拳を握り、悔しさに歯を食いしばり、項梁は静かに目を閉じ、未来を思案していた。


 遠くから聞こえる衛兵の足音と、牢の外を行き交う何かの音が、彼らの孤独を一層際立たせる。


 松明の炎が時折爆ぜ、壁に映る影が不気味に揺れた。



 項羽と項梁は牢に繋がれ、ここで初めて始皇帝と話す機会を得ることになる。




 だが、その最初の機会は、互いに情報の錯誤もあり、すれ違う悲しい結果となった。






ーーーー後編の弐に続くーーーー

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