第三十話:秦国の科挙試験 後編の2(頭痛いな第二試験)
【科挙武官試験:第二試験】
第一試験の武術試験で選抜された50名の受験者たちは、第二試験にコマを進め、次なる挑戦への緊張感を胸に、第二試験の会場に集まっていた。
第二試験は、戦術立案試験である。仮想の戦場の状況がが提示され、受験者は竹簡に戦術を記入し、地形、兵力、補給を考慮した現実性と革新性を評価される。
当たり前過ぎるセオリー通りの戦術を理解しながらも何かしら革新的な部分がなければ高評価を得る事が難しい試験である。
更には試験官にも、戦術知識や好む傾向があるため、必ずしも良い答案を書けば報われるとは限らない試験である。
それにより、試験官により評価が分かれる事が予想されるので、最終評価は韓信が全て行う事で公平性を計る事になっている。
試験会場は、訓練場の一角に設けられた仮設の天幕内で、木製の机と竹簡が整然と並び、試験官たちが厳しい目で受験者を見守っていた。
韓信は、試験開始前に天幕の高台に立ち、受験者たちを見渡した。
彼の鋭い目は、まるで戦場を睥睨する将軍のようだった。劉邦の斬首事件以来、韓信が現れる度に訓練場には一種の緊張感が漂うようになっていた。
それゆえに、受験者たちは韓信の言葉を一言一句聞き逃すまいと耳を傾けた。
「秦の最高司令官、韓信である。第二試験は、諸君の知略を試す場だ。戦場は武勇だけでは制せぬ。地形を活かし、兵力を配し、補給を確保し、敵の意図を読み切る知恵が将には求められる。提示された状況に対し、最善と考えられる戦術を竹簡に記せ。時間は一更以内とする。(2時間)時間内であれば減点も加点もないゆえその事を留意せよ。それでは試験を開始する」
韓信は息を吸い、開始の号令をする。
「始め!」
韓信の声は、天幕内に冷たくも力強く響いた。受験者たちは一斉に自分に渡された竹簡を手にし、書かれている状況設定を読み始めた。
会場は、筆の擦れる音と、時折、頭を悩ませ、漏れる呻き声で満たされた。
【第二試験:仮想状況設定と評価基準】
第二試験は戦場の状況設定を、以下の三つの戦場からランダムに割り当てられた。
受験者は、竹簡に書いている状況を理解し、最適な戦術を考案しそれを記入する形式である。
試験官(韓信を含む、秦の高位武官(将軍級)が評価する。
【戦場状況設定 その壱】
匈奴の騎兵襲撃:秦の辺境で、匈奴の騎兵3000が急襲。秦軍は歩兵2000、騎兵500で迎撃。補給線は脆弱で、近くに川と丘陵地帯がある。敵の機動力を封じ、秦軍の損失を最小限に抑える戦術を立案せよ。
【戦場状況設定 その弐】
谷間での防衛戦:敵軍5000が谷間で秦軍1000を包囲。秦軍は補給が乏しく、援軍は3日後に到着。谷の狭さと岩場を活かし、敵を撃退または持久戦で凌ぐ戦術を立案せよ。
【戦場状況設定 その参】
山岳での奇襲:秦軍1500が山岳地帯で敵軍2000を奇襲。敵は山頂に陣を構え、補給は豊富。地形と夜襲を活用し、敵を壊滅させる戦術を立案せよ。
評価基準は以下の通り。
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現実性:兵力、補給、地形を考慮した実行可能な計画であるかどうか。
革新性:従来の戦術を超える独創性や機転が含まれているか。
明確性:提案が論理的で、部下に伝達可能な具体的計画か。
効果性:敵の撃破または秦軍の損失最小化にどれだけ貢献するか。
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韓信らしい試験内容である。
試験が始まり、
一更(2時間)が立ち。
第二試験が終了した。
試験官が受験者が記入した竹簡を回収し、それを韓信が採点する。
韓信は、受験者の記入した竹簡を一つ一つ精査し、時に眉をひそめ、時に頷きながら評価を下した。
高位武官も、韓信の厳格な基準に合わせ、細かな議論を重ねた……。
重ねたが……。
…………。
…………。
わりとレベルの低い答案があったり、その採点は荒れた……。
しかし、それは無理もはない……現実である。
始皇帝が中華を統一してから実践の場は、特に戦術を発揮する場は激減しているのである。
ましてや、武官試験を受ける猛者は頭を使うより、身体を動かすが得意の肉体派揃い……。
その脳筋達にとって韓信の出したお題で、韓信の納得行く回答が出来る者はいないのである……。
知略と武勇を兼ね備える韓信のような存在は希少といえた。
何はともあれ、韓信含め試験官達は、武官試験受験者の斬新な答案を採点し順位付けした。
【第二試験:順位発表】
一位 季布:冷静な知略が光る。
二位 彭越:ゲリラ戦の才が際立つ。
三位 鍾離眜:偽陣の独創性が鮮やか。
四位 龍且:豪快な戦術に革新性が輝く。
五位 灌嬰:騎馬戦の知恵が冴える。
六位 田横:弓兵を活かした戦術が評価。
七位 英布:武勇一流、知略は二流とされた。
八位 樊噲:豪快な戦術に力強さ。
九位 周勃:堅実な防衛が信頼感を与える。
十位 王陵:誠実な提案に安定感。
十一位 曹参:無難ながら実行力がある。
十二位 項悍:現実的な計画で粘り強い。
以下、下位は省略して高評価答案を一部抜粋。
第二試験の一番の成績は季布であった。
季布の答案と評価。
季布の戦術は、第二試験の谷間での防衛戦状況設定で特に際立った。
彼の提案は、谷の狭い入口に岩を積んで防壁を構築し、弓兵を岩場に配置して敵の突撃を牽制するもので、限られた秦軍1000の兵力と乏しい補給を最大限に活かす現実性が評価された。
さらに、夜間に少数の精鋭で敵の補給を襲撃する機転は、持久戦を有利に進める発想として試験官に高く評価された。
季布の提案は論理的で部下に明確に伝達可能であり、谷の地形を巧みに活用した点で効果性も認められた。
ただし、敵の包囲を完全に打破する策が不足していたため、完璧とは言えないものの充分及第点という評価であった。
(韓信談)
多数の試験官からは「冷静な判断力と柔軟性が光る」との意見が寄せられた。
この第二試験の内容で、第一試験での「舐めプ」誤解を払拭し、「優秀な指揮官」としての印象を得る事に繋がり彼の総合評価は上がった。
次点は彭越だった。
山岳での奇襲状況の設定で、敵の補給路を特定し、少数の精鋭で夜間に補給を焼き払う。敵が混乱した隙に、山道の要所に弓兵を配置し、敵の退路を封鎖。主力は正面から牽制し、敵を山頂で孤立させる。
革新性と効果性ありと認められ高評価 ゲリラ戦の名手らしい補給襲撃と退路封鎖の提案は、敵の戦意を挫く点で優れ、弓兵の配置も具体的で的確であった。
ただし、主力の牽制策がやや曖昧と指摘される。
(韓信談)
多数の試験官らは「ゲリラ戦の才が際立つ」と高評価した。
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【第一試験と第二試験の総合評価にての結果 第三試験に進んだ選ばれし10名】
上位10名(第三試験進出者)
英布:総合1位。武勇抜群、知略はイマイチであったが。匈奴戦術の現実性と効果性は認められて、総合はトップ評価。
「秦の新たなる将軍候補」として期待される事になった。
季布:総合2位。冷静な戦術と柔軟性が評価され、第一試験の誤解を払拭。「義侠の知将」と試験官に印象づける。
龍且:総合3位。豪快な武勇に山岳奇襲の革新性が加わり、高評価。「戦場を支配する才」と称賛される。
彭越:総合4位。ゲリラ戦の才が知略で開花。補給襲撃と退路封鎖の提案が際立つ。「機動戦の鬼才」と評価。
灌嬰:総合5位。偽陣と騎兵の活用が光る。武勇と知略の安定感が評価。「騎馬戦の新星」と評価。
樊噲:総合6位。武勇は抜群だが、知略の粗さが課題。豪快な戦術は効果的だが、細部に欠けるが武勇の評価は高い。
周勃:総合7位。堅実な武勇と戦術だが、革新性不足。安定感は評価されるが、上位争いは厳しい。
田横:総合8位。弓術と戦術の革新性で上位通過確実かと思われたが、文官試験からのイレギュラー参加が評価に影を落とした結果この位置となる。
曹参:総合9位。無難な戦い方と戦術が続き、目立つ成果なし。辛うじて通過。
王陵:総合10位。第一試験の敗北を乗り越え、堅実な提案で滑り込み通過。堅実で無理のない戦術が評価された。
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不合格者(抜粋)
項悍、武臣、呉芮、鍾離眜(辞退)、共敖、第一試験と第二試験の総合評価により無念の不合格となった。
その他40名:第一試験の繰り上げ通過者や、武術で善戦した受験者の多くも、脱落。今回の受験者は戦場経験が少ない者が多く、第二試験の答案が荒れた結果となった。そのため、次回科挙武官試験の第二試験は見直しが検討される事になる。
そんな中、韓信は受験者のあまりにも酷い答案内容にわりとぶち切れていたが、表情はなんとか保ちしっかりと私心なく採点業務をこなした。
試験として出す難易度を間違えたのかもしれない……。
そう後で反省する韓信であった。
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第三試験に続く!
一人一人の答案と評価を書き出すと、とても読みづらい物が出来上がりまして、読みやすいように、色々と工夫してみましたが……。
とにかく、第三試験、第四試験、科挙編終わらして、内政書きたい作者です……。




