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第三話:奸臣の罪と絆の芽生え

 咸陽の宮殿に朝陽が差し込む頃、佐藤誠(嬴政)は玉座に座り、深い思索に沈んでいた。


 泰山での趙高の処刑と、その後の宦官排斥から数日が経ち、宮廷内は静けさを取り戻しつつあった。しかし、誠の心は未だ波立っていた。


 趙高を殺し、宦官を一掃した決断は正しかったのか。その罪悪感と向き合うため、彼は李斯を呼び出し、真相を明らかにする決意を固めた。


 広間の扉が開き、李斯が姿を現した。瘦せぎすで背の高い彼は、青白い顔に鋭い鷲のような目を宿し、長い顎髭が知性と威厳を漂わせていた。黒い袍が朝陽に映え、彼は恭しく跪いた。


「陛下、ご命令を」


 誠は静かに立ち上がり、李斯を見下ろした。

「李斯、趙高と宦官たちの罪を詳しく話せ。朕が彼らを殺した理由をお前達がどのくらい理解してるか把握したい」


 李斯は一瞬目を伏せ、慎重に言葉を選びながら話し始めた。

「陛下、趙高は表面上は忠臣を装いながら、宮廷内で暗躍しておりました。その罪は大きく三つに分けられます」


 第一の罪:権力の私物化

「趙高は宦官の長として、宮廷内の情報を独占し、陛下の耳目を塞いでおりました。例えば、地方の郡守からの報告書を握り潰し、彼に賄賂を払う者だけを重用する仕組みを作り上げていたのです。昨年、雍城の郡守が民の困窮を訴えた文書を陛下に届けようとした際、趙高がそれを焼却し、『陛下を煩わせるな』と脅したことが記録に残っております」


 誠は眉をひそめた。

(民の声が俺に届かないようにしてたのか……。それじゃ国がどうなってるか分からないじゃないか。やっぱり殺して正解だったな)


 第二の罪:私兵の結成と反乱の企て

「さらに、趙高は宦官たちを使い、私兵を密かに養っておりました。咸陽近郊の隠し倉庫から、数百の刀剣と甲冑が見つかりました。彼は宦官仲間と共に、陛下の命令を無視して武装勢力を育て、いつか宮廷を乗っ取るつもりだったのです。私の密偵がその証拠を掴み、報告しようとした矢先、趙高に暗殺された者もおりました」


 誠は拳を握り潰した。

(私兵!? 史実でも胡亥を操って権力を握ったけど、こんな早い段階で準備してたのか……。危ないとこだったんだな)


 第三の罪:民への収奪と裏切り

「最後に、趙高と宦官たちは民を苦しめる収奪を行っておりました。税金を宮廷に納める前に中抜きし、私腹を肥やす一方で、飢えた民を無視。ある村では、趙高の命を受けた宦官が穀物を強奪し、抵抗した農民を殺した事件がございます。また、匈奴との戦いで蒙恬将軍が求めた補給を故意に遅らせ、軍を危機に陥れたこともありました」


 誠は目を閉じ、怒りと悲しみが胸を締め付けた。

(民を苦しめて、軍を裏切って…。宦官共は秦を腐らせる癌だったんだな)


 李斯はさらに続けた。

「趙高一人を斬っただけでは、新たなる趙高がまた出出てくる可能性もある程に、宦官達は腐敗していたと私は確信しています。それ故に、他の宦官たちが同じ道を歩む恐れがありました。彼らは趙高を頂点とする一つの組織でありましたが、陛下が全員を排斥されたのは、秦の未来を守るため正しい決断かと」


 誠は玉座に座り直し、深い息をついた。趙高の罪がこれほど深いものだったとは、前世の知識だけでは想像もつかなかった。


「李斯、朕の決断に間違いはなかったか?」


 李斯は静かに頷いた。


「私は陛下の決断は素晴らしいと支持します。趙高を斬ったのは、罪を裁くためであり、血を流したのは国を浄化するためです」


 そこへ、蒙恬と李信が広間に駆け込んできた。蒙恬はがっしりとした巨躯に短く刈った髭が特徴で、武骨な顔に優しさが滲む。革鎧が彼の肩を飾り、大剣を腰に佩いていた。


 李信は若々しく凛々しい顔立ちで、穏やかな笑みが優しさを際立たせ、青い甲冑が朝陽に輝いていた。


 蒙恬が太い声で報告した。


「陛下、宦官の残党を片付けました。隠し倉庫の武器も押収し、民に危害が及ばねぇように、配慮はできたんじゃねぇかと」


 李信が穏やかに補足した。


「抵抗した者は斬りましたが、生き残った残りの宦官は咸陽の外に追放しました。民衆も混乱せず、その影響は最小限に抑えられたかと」


 誠は二人の顔を見た。彼らの誠実さと実行力に、心が温かくなった。


「蒙恬、李信、よくやってくれた。朕は秦を導くために血を流す決断をした。しかし、お前たちが最小限に抑えてくれたおかげで、少し救われた気がするぞ」


 李信は跪きこう答える。

「は、勿体なきお言葉です! 私共は始皇帝の臣であり、陛下の命令通り、当然の事をしただけです」


 それに蒙恬も同じく頷くき、照れ臭そうに頭を掻いた。

「陛下、俺は戦うのが仕事です。それに趙高の奴らが匈奴戦で補給を遅らせた時、兵が飢えて死にそうになった事が何度かあった。陛下があいつらを斬れと命じてくれて、正直、俺は感謝してますよ」


 誠は驚き、蒙恬を見つめた。


「蒙恬、お前がそんな目にあってたなんて……。朕がもっと早く気づけば良かったな」


 始皇帝にそんな下手に出られては立つ瀬がないと言うくらいに蒙恬は困りながら言葉を返す

「俺如きにそんな言葉は勿体ない! 宦官共がのさばらずに、陛下がこれからも秦を救い導いてくれるなら、それで十分です。俺はこれからも北の守りを固めて、秦を支えて行きます」


 次に李信が穏やかに進み出た。

「陛下、私も趙高の罪を知ってました。不当に税を巻き上げ、穀物を奪われた民が、私に助けを求めてきたことがあったのですが。しかし、当時は趙高の権力が強くて動けなかった。陛下が決断してくれて、民が救われました。私もこの度の件に本当に感謝しております」


 誠は李信の優しい瞳に、心が震えた。


「蒙恬、李信……。感謝する。朕はお前達のような忠臣がいてくれて心より嬉しいぞ! これからも秦をより良い国に導くため、より一層、頼りにさせてもらうぞ!」


 二人は揃って跪き、


「「陛下の命にこれからも忠実に従います!」」


 と力強く答えた。


 誠は心の中で呟いた。


「趙高を殺した罪悪感は消えない。でも、おかげで蒙恬と李信は俺に更なる忠誠を誓ってくれた。それは思わぬ副産物ではあるがとても有り難い! これで俺の覇道はますます進む事間違いなしだ!」


 誠はより良い未来に向かってる。

 そう確信していた。


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― 新着の感想 ―
うーん やはり法家の扱いに問題あるかな 実際に悪さしてたかどうかよりも、「手続き」を重要視するのが法家としての根っこ。 例えば 「これこれこういう罪を犯しておりましたので当然死罪相応でありますが、 …
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