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第十話:鶏の家畜奨励政策と真人の知恵

 秦の始皇帝、嬴政――佐藤誠として転生した彼――がこの世界に現れてから二年と半年が経過した。


 咸陽の宮殿には春の暖かな風が吹き込み、匈奴の防衛や項氏の反乱鎮圧を乗り越えた秦は、さらなる繁栄への道を歩んでいた。


 韓信、范増を始めとする新たな臣下が加わり、張良、蒼海公、項羽、項梁も牢屋で説得を待つ中、誠は奏、ひいては中華の全体の事を考えていた。


 とりわけ、彼の心には一つの懸念が重くのしかかっている。


 それは長き戦乱で疲弊して、国を支える民がかなり減っているという実態である。


 戦乱を武力で終わらせ、法で統治を安定させた今、食料生産を飛躍的に向上させ、人を増やすことが中華全体のさらなる発展のためには必要であるという自覚があった。


 誠は自らの現代知識や知恵を「真人」としての洞察と位置づけ、配下にその起源を悟らせぬよう心がけながら施策を打つことにした。


 その手始めとして、現代知識を元に鶏の家畜奨励政策を打ち出す。


 やると決めたらすぐさまやるのが誠の長所である。

 転生していきなり趙高斬首を決断できるイカれ具合は伊達ではない。


 この程度の決断は即時即決であった。


 すぐさま広間に李斯、蒙毅、韓信、范増を召集した。玉座に座り、彼は力強く新たな構想を語り始めた。


「朕は民の暮らしを豊かにし、国を再び強くしたい。戦乱の世は武力で終わらせ、統治は法で安定させた。上下水道や孤児院を建設したがそれだけではまだ足りぬ! 民の生活をもっと豊で安定したものに朕はしたい! 


 それに長き戦乱で民は減り、田を耕す手も、剣を握る者も不足している。食料を増やし、人を増やすことが今、我が秦の命題だ。そのためには鶏の家畜を奨励する。鶏は育てやすく、卵と肉で民の栄養を支える。だが、ただ配るだけでは不十分。朕の真人たる知識を活かし、効率的な飼育法を編み出す。農家に鶏を配り、飼育を支援しつつ、食料生産を飛躍的に高めろ。これが朕の詔だ」



 誠は立ち上がり、配下たちに具体的な技術を詳細に説明した。


「まず、鶏舎の設計だ。鶏は密集すると病気になり、生産が落ちる。1羽につき手のひら二つ分の広さを確保し、鶏舎は地面から浮かせて竹や木の床を作れ。糞が下に落ち、清潔を保つ。屋根で雨を防ぎつつ、通気口を設けて空気を流せ。次に餌だ。穀物だけでは足りぬ。魚の内臓や野菜の残渣を乾燥させて混ぜ、栄養を高めろ。貝殻や小石を砕いて与えれば、卵の殻が硬くなり、産卵数が増える。病気対策も怠るな。鶏舎の周りに灰を撒き、虫を遠ざけろ。病気の鶏は即座に隔離し、他の鶏を守れ。これで卵と肉を安定供給し、民の体を強くする。人が増える基盤を作るのだ」


 この時代の中華では、鶏を野外で簡素な囲いの中で飼っているだけで、管理が本当に雑であり誠の施策はかなりクリティカルにヒットした。


 更に秦の始皇帝である誠が現代知識を軽く説明するだけで、優秀な配下達は即座に疑いもなく理解してしまう。


 1を知るだけで100を理解するような有能な配下達である。



 李斯が瘦せた体を進めて応じた。


「陛下、鶏で食料を増やす策は賢明です。魚の内臓や貝殻は川沿いの村で手に入り、穀物の備蓄と合わせれば餌が安定します。鶏舎の図面を官吏に描かせ、農家に配布すれば、すぐに卵と肉が民の食卓を満たし、子を産む力も戻るでしょう」



 蒙毅が穏やかに付け加えた。


「陛下、通気口付きの鶏舎は病気予防に優れ、生産が安定します。戦乱で木材が不足する地域では、反乱鎮圧で得た資材を使いましょう。灰の代わりに焼いた石灰を使えば効果が上がります。孤児院にも鶏を配り、卵で子供たちを育てれば、将来の民が増えます。資金は戦利品で賄えます」


 韓信が冷静に頷き、答えた。

「陛下、人が減った今、食料がなければ国は立ちゆきません。この鶏舎と餌の改良なら、少ない労力で多くの食料が生まれます。民が飢えなければ子を産み、育てられる。陛下の知恵は、人の命を救い、国を再興する道です」



 范増が杖をつきながら進み出て補足した。

「陛下、密偵によると、地方では戦乱で村が荒れ、食に乏しい地域が目立ちます。鶏舎を簡略化し、移動可能な小型のものを作れば、遊牧民にも配れます。灰や石灰は匈奴との交易路で確保し、病気を防げば、辺境でも人が増える基盤ができます」



 農業技術の革新と人口回復へ向かう秦。


 誠はさらに現代知識による施策を打つために言葉を続けた。


「鶏だけでは足りぬ。戦乱で人が減った今、農業そのものを革命的に進化させ、食料生産を倍増させる必要がある。朕の知る真人たる技術を応用し、田畑の収穫を飛躍的に高めろ。まず、輪作だ。同じ作物を育て続けると土が痩せ、収穫が落ちる。穀物の後に豆類を植えろ。豆は根で空気中の養分を取り込み、土を肥やす。次に堆肥だ。家畜の糞や野菜の屑を積み、発酵させて田に撒け。土が豊かになり、収穫が安定する。さらに灌漑用水路を整備しろ。水路に石を敷き、土砂の詰まりを防ぎ、田に水を均等に届けろ。干ばつや洪水に強い農地を作り、穀物を増やせ。これで鶏の餌も安定し、民の食が豊かになり、人が増える。食料生産の向上は、国を再び興すための必死の策だ。」



 李斯が目を輝かせて応じた。

「陛下、輪作と堆肥は驚くべき知恵です。豆類で土が肥えれば、次の稲や麦が倍増し、飢えが消えます。農民が慣れぬうちは、官吏が模範田を作り、成果を見せましょう。灌漑用水路も、川から分水する形で簡略化し、村々に広めます」


 李斯は秦の始皇帝の言葉を一切疑う事なく飲み込み実行する覚悟である。



 蒙毅は知恵を絞り、提案を重ねた。

「陛下、灌漑用水路に水門を設ければ、水量を調整でき、洪水も防げます。上下水道の技術を応用し、竹や木で簡易な水門を作りましょう。堆肥に鶏の糞を加えれば、農業と鶏飼育が互いを支え、食料が安定します。戦乱で減った労働力は、反乱鎮圧の捕虜を使い、数月で整備を進めます。人が増える礎がここにあります」



 韓信が戦術家の視点から補足した。

「陛下、人を増やすためには生活物資が十分でなければなりません。そして軍の食糧も不足しがちです。なので陛下の食料施策に私も大賛成です。輪作で豆を育てれば保存が利き、兵士の体力維持に役立ちます。灌漑用水路を国境に作れば、駐屯地の自給が可能になり、戦力も保てる。食料生産の向上は、軍と民を同時に救い、人を増やす基盤です。流石陛下! この韓信は陛下の言に毎日驚かされるばかりです」



 范増が老練な意見を述べた。


「陛下、地方の土壌は地域で異なります。豆類の代わりに黍や粟を輪作に取り入れれば、土地に合った収穫が増えます。堆肥の発酵に時間がかかるなら、村ごとに共同の堆肥場を設け、官吏が管理すれば効率が上がります。戦乱で減った民が食に困らなければ、子を産み、国が再び栄えます」




 政策の実行と成果

 またたくまに、誠の詔が実行に移された。完全なるトップダウンの指揮命令系統は動きが早い。


 農家にはすぐさま鶏が配られ、官吏が通気性の良い鶏舎の作り方や餌の配合法を指導した。


 竹と木で作られた鶏舎は清潔で、魚粉や貝殻入りの餌で卵の生産量が急増した。灰や石灰が病気を防ぎ、市場には卵と鶏肉が溢れた。


 農業革命も同時進行した。模範田で輪作が実演され、豆類を植えた後の稲の収穫が倍増した姿に農民は驚嘆した。鶏の糞を含む堆肥が土壌を豊かにし、灌漑用水路と水門で田が守られた。穀物が安定供給され、鶏の餌も確保された。


 民は「秦の始皇帝が武力で戦を終わらせ、法で民の暮らしを安定させて守り、鶏と農業の革新で食を豊かにしてくれた」と喜んだ。


 咸陽から地方まで鶏の鳴き声と豊かな田畑が広がり、秦は新たな繁栄へと突き進むのであった。

今回はただの内政パートです。


次回は儒教との対話です。

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