【短編】お・た・ん・じょ・う・び
「「「「お誕生日おめでとう~!!!!」」」」
ある一軒家のリビング。響くのは誰かの誕生日を祝う声。
大げさなほど派手な装飾が部屋のそこら中に施され、テーブルの上には食欲をそそる豪華な料理も並べられて、まさにお祝いムード一色といったような雰囲気だ。
さらにテーブルの中心に置かれているのはガトーフレーズのホールケーキ。その上には誕生日にとっての定番である蝋燭が17本刺さっている。
先ほどお祝いの言葉を発し、今は揃って満面の笑みを浮かべ立っているのは中年の夫婦とその息子、娘。
そしてこの家族が見つめる先に『本日の主役』がいるのだが……椅子に座る金髪やピアスが目立つ女子高生は、まるで自身のハレの日とは思えないようなほど怯えた表情を浮かべていた。
「お父さんはお前を祝えて嬉しいよ!」
大げさに両手を広げてこんな言葉を少女にかける、父親。
「そうよ!お母さんもとっても嬉しいわ!」
香ばしい匂いを出す大きな肉の塊を切り分けている、母親。
「勉強で分からないことは医学部生の兄ちゃんに聞いてくれよな!」
ポロシャツ越しでも体格のよさが分かるような、兄。
「お姉ちゃんだって勉強が得意なんだからね!」
スマホで料理の写真を撮り続けている今時らしい雰囲気の、姉。
家族から口々にかけられるこれらのような歓迎の言葉。ところが少女は目に涙を溜め、弱々しく首を横に振るだけだ。
「ご、ごめんなさい……。アタシが……アタシが悪かったから……」
少女はこのように声を絞り出すが、蚊の鳴くようなそれは興奮気味の家族の耳には届かない。
「さあご馳走を食べて!このお肉はお父さんがわざわざ上質なものを用意したのよ!」
「そうそう!でも味の決め手になるのは肉汁を活かしたソースだ!これはお母さんが気持ちを込めて作ってくれたんだから!」
「どんどん食べていいぞ!兄ちゃんが皿に盛ってやるからな!」
「お姉ちゃんは美味しそうな料理の写真をたくさん撮っておくからね!」
怯えているような少女の態度は無視され、テーブルの上にある皿には切り分けられた肉が次々と置かれていく。
それから家族は各々が席につき──母親は少女の隣を陣取り──会話を楽しみながら食事を進めていったのだった。
◇◇◇
数時間後。父親と兄、姉は自室へと戻り少女と母親だけがリビングに残されている。
「あらあら。お肉だけじゃなくケーキも食べない……。食欲がないのかしら?」
母親はフォークに刺さったケーキを少女の口元にまで運ぶものの、ここまで一向に食事をしようとしない少女の様子に、困りながら首を傾げる。
すると意を決したように、少女は小さく震えながらも横を向き、母親に向かってようやく口を開いた。
「ア、アタシが……『ナナ』ちゃんのことをいじめて病院に送りにしたから仕返しをしているんでしょ……?」
少女のこの言葉を聞いた母親は。手に持つケーキが刺さったままのフォークを、静かに小皿の上に置く。
「あ、謝りますから……け、警察にも学校にも全部話すから……は、早くここから出して……!」
涙を流しながら謝罪を口にする少女。だがこれに対して母親は小さく首を振って、むしろ一層の慈愛を込めたように微笑む。
「ううん、もういいの。アレは失敗作だから。私もお父さんも、もちろんお兄ちゃんもお姉ちゃんも気にしてないわ」
こう告げた母親は椅子から立って移動し、リビングに飾られている夫婦ふたりが並んでいる写真を愛おしそうに眺める。
「私もお父さんも親の望みを叶えられなかった人間。大人になっていくらでもお金を稼げる術を身につけたとしても……親の期待を裏切ったトラウマは消えないのよ」
その写真を持ったまま母親は再び少女の隣に座ると、彼女の膝を優しくさする。
「ごめんなさいね。少し強引なことをして。まだ薬の影響で手足が動かなくてつらいでしょう?それでもすべてあなた……娘のことを考えてのことなの。分かってちょうだい」
さらに母親は「私とお父さんの夢を聞いてくれる?」と伝えると、少女は怖がりながらも怪訝そうな表情を浮かべて眉をひそめる。
「私たちはね、とにかく子供を良い大学に入れて医者にさせたいの。それが子供たちの幸せに繋がるから。でもね……産んだ子たちは揃いも揃って勉強ができなかったわ。3人も作れたのに」
これまで柔和な雰囲気で明るかった母親。ところが段々とそれは変化していく。
「私は悩んだ。『このままだと私とお父さんは親と同じ思いをしちゃう』『子供たちに私たちと同じ思うさせちゃう』ってね。すっごく悩んで悩んで悩んで……それから答えを見つけたのよ」
発する声は徐々に低くなる。その目からも感情は失われて非常に冷たいものとなり、顔もこわばってしまった。
「『いらない子は捨てて、優秀な子を連れてくればいい』、これを思いついた時は自分を褒めてあげたわ。まさに発想の勝利ね。手なんていくら汚しても望みを叶える方が大事なんだから」
そして母親は先ほどまで兄と姉が座っていた席を指さし、こう続ける。
「結局お兄ちゃんもお姉ちゃんも医学部に進めた。上の2人は少ない試行回数でどうにかなったのよ。でも3番目でずっと手こずっている。アレも最初の噂じゃ優秀だって聞いてたんだけどね」
大きなため息をつく母親。肩を落とし、呆れたように舌打ちも交えながら。
「真面目ぶってんのに成績は上がらない。もう来年は受験生だって言ってんのに苦手な化学は伸びないまま。あれじゃ医学部は無理よ」
静かなリビングの中、聞こえるのは母親の愚痴だけ。
「アレは典型的な早熟タイプ。大金積んで『ナナ』にしたんだけどね。高校レベルの勉強についていけないなんて期待外れもいいとこよ」
だが恐怖に染まる少女の視線に気づいたのか、すぐに口角を上げて先ほどまでの様子に戻った。
「でもあなたは不良だけど成績も良いものね!それって天才タイプじゃない!しかもアレが苦手だった化学が得意な理系女子!色んな人から話を聞いててね、ずーっと欲しいって思ってたの!」
すると母親はテーブルの置かれているナイフやフォークが入っていた茶色の箱から、液体の入った注射器のようなものを取り取り出す。
それから笑顔のまま身を乗り出して少女に迫るが、この先に待ち受ける得体の知れない末路を感じ取った彼女は必死になって首を横に振り、抵抗の意思を示すものの……。
「まずはそのお顔から変えないとね。知り合いの腕のいい医者がいるのよ?アレとまるっきり同じ顔にして、きちんとお父さんと私の子供にしないと。髪も黒色に染めてピアスも外して……私たちの末っ子はそういうことしないものね?」
「ひ、ひぃ……!い、いや……!」
「最初は戸惑うでしょうけど慣れたら幸せよ。お兄ちゃんやお姉ちゃんだってあなたと一緒だったんだから。でも今やあのふたりもすっかり家族の一員ですもの!」
「い、家に……家に帰して……!」
「嫌だわ。あなたの家はもうここじゃない。……それにもうここしか帰る場所はないわよ?このために色んな手を使ってきたんですもの。今日のためにかなりの大金だって積んだのよ?」
「ほ、本当に……だ、誰か助けて……!!!」
「今からぐっすり寝て、目を覚ましたらあなたは『ナナ』になってるの。学校も別の私立に変えてあげるから安心してね。18歳の誕生日には、すっかり家族のことを好きになってるわ」
お誕生日おめでとう。
今日は最初の『ナナ』が生まれた日。
だからあなたの誕生日でもあるのよ?
母親のこの言葉の後に少女が発した悲鳴。しかし悲痛に満ちたこれは誰のもとにも届くことない。
このリビングは一軒家の地下にある。窓もなく、出入り口はひとつだけ。
だから少女の助けを呼ぶ音は……じきにむなしく消えていった。
※今回のテーマに沿うかどうかはやや微妙な内容の気はしますが、せっかくですのでやはりホラー企画に参加することにしました。




