Ep.85 忘却とは前進③
「はぁ……はぁ……」
ジューデスへと向かう道の上、立ち塞がったガステイルを私は息を荒らげながら見つめる。何度か彼を拘束するべく動いたのだが、その度に地面に埋め込まれた光の弾丸で反撃を受ける。訓練場で戦ったランのスピードほどではないため致命傷こそ避け続けていたものの、ダメージは無視することはできないくらい蓄積していた。
「ガステイル様……」
「アルマスト、ダメだ!!!」
暫く何かを熟考していたアルマストが、何か思いついたかのようにゆらりとガステイルに近付こうとする。私はアルマストを止めながら放たれた光弾をいなそうと手を構えた。その瞬間、
「え……?」
光弾は私に当たる直前で曲がり、私達の左後方の地面に埋まった。何が起きたのか分からず埋まった弾丸をただ見つめる私とアルマストをよそに、ガステイルは弾が逸れた向きとは逆方向の森を睨みつけていた。
「自分が何をしたのか分かっているのか?……マルキス。」
「父さんこそ、何をしてらっしゃるんです?」
私がその会話を聞きガステイルの方へと振り向くと、ソイルバートの聖騎士であり英雄ガステイルの息子マルキス・ミレアが右手の森から現れた。彼はゆっくりと剣に手をかけ、ガステイルのもとへ数歩じっくりと踏みしめるように歩いた。
「何人たりとも、魔王城に近付いてはいけないと言ってあるはずだよ。それを破る者の足止めをするのだ……何が悪い?」
「この方たちは女王様のご命令で動いています。陛下の未来視の結果必要な行動なんです!」
「アムリスの救出なら、魔族の助けなど借りる必要はない。それに……陛下の未来視は、アルエット殿下を救ってはくれなかっただろう。」
「違います!!」
ガステイルの言葉に、アルマストが強く反発する。アルマストは勇み足でガステイルへと歩み寄りながら口を開いた。
「聖女様の救出だけではないんです。今はもう……ルガル君まで連れ去られてしまったんです。」
「「なんだって!?」」
ガステイル、マルキスの両名が共に驚きを見せる。だがマルキスはすぐにガステイルの肩を掴み言う。
「父さん、もうタイムリミットだよ……アイツらに刺激を与えないように慎重に事を進めたかったのは分かるけど、ルー君まで連れて行かれたのならもう急ぐべきだ。」
「……」
「お願いします!」
アルマストはガステイル達の目の前で頭を下げる。ガステイルは驚きを隠せないまま、バツが悪そうに目を逸らす。
「アルエット様と共に戦ったガステイル様にとって、人々がアルエット様の記憶を失うことを看過できないことも、お母様の未来視にも不安が残ることも、重々承知しております。ですが……ここを通して貰えませんか?ガステイル様がアルエット様と彼女との思い出を大事にされているように、私たちもルガルと彼との思い出が大事なんです。」
「……」
ガステイルは黙って俯いていた。目を瞑り、何かを考え込んでいるように見える。そして眉のシワが濃くなり、やがて非常に不本意な、苦虫を噛み潰したような顔で歯を食いしばりながら、地面に手を伸ばした。
「弾丸の反応が、消えた……!?」
「気に食わんね。それならいっそ、アンタ達のことなんかどうでもいいって突き放されてしまう方が良かったさ。」
「父さん……」
「自分勝手だと謗られても構わなかった。そんなことなど、アルエット殿下のことを忘れたルーグさんとアムリスを見るのに比べれば……些細なことだと思った。」
ガステイルはその場に座り込み、独白を続けた。
「だがルガルは……ルガルまで失っちまったら、ルーグさんは二度と正気には戻れられないんだろうなって思った。俺も、殿下を忘れちまった二人を見たら正気じゃいられないんだろうが……まあ、狂うならアイツより俺の方がいいさ。」
ガステイルは自嘲気味に笑った。私はそんな彼に歩み寄り、肩を担いだ。
「何するんだ!」
「何って、アンタも行くべきだと思うわ。魔王城。」
「「「ええ!?」」」
私以外の三人が、驚き声を上げた。アルマストが私に駆け寄り問い詰めてくる。
「ちょっとルリさん!ガステイル様を連れて行って、何するつもりなんですか!?」
「ケジメね。」
「ケジメ……?」
「ええ。人間と魔族を弾く結界なら、エルフは入れるんでしょう?」
「ああ。何度か魔王とコンタクトを取ったことがある。」
「だったら、アンタが先に魔王と会って確かめてみるべきよ。本当に結界を破らなければならないのか……そのうえで改めて、決断を下すべきだと思う。」
私は右腕をガステイルの肩に回し、無理やり彼を立たせながら言った。もう一度会えて話ができるなら……絶対そうした方がいいと私の中で何かがそう囁いた気がしたのだ。
「マルキスさんは?」
「遠慮しておきます。治安も悪化してますし、ソイルバートを留守にできませんから。」
マルキスはそういうと、立ち上がり一礼し去っていった。
こうして私たちはガステイルを一行に加え、再びジューデスへと出発した。




