Ep.83 忘却とは前進①
私が目覚めて2日程経過した。あれから病室を訪れたベルジオやラズベリィといった人たちに随分ともみくちゃにされたわけだが、私は不思議と嫌な気分ではなかった。死にかけた割には肉体的にも精神的にも不思議と不調はなかったため、私を含めたザイリェンの冒険者一行は女王から伝えられた目的――魔王ネームレスとの接触を果たすべく、今は馬車に揺られている。
「……」
「なにガン飛ばしてやがんだよ。」
4人乗りの車両の中、私の向かいに座ったレイズが私の隣に座る大男――ラン・オチェルドをずっと睨み続けている。レイズは目を離すことなくランに尋ねる。
「アンタ、なんでルリに謝りに来なかったの?」
「俺も治療中だったんだよ。それにルリが目覚めてから出発だってのはテメエだって聞いていたはずだろ?」
「それが謝らない理由になるの?」
「アホか……自分を殺そうとした奴が謝って、許しを乞うて、テメエはそれを許すほどテメエの命を軽視してんのかよ。」
「詭弁。ランはいつもそう。」
険悪な雰囲気を見かねて、ランの向かいに座るラズベリィが苦言を呈する。ラズベリィは続けて、ランを窘めるように言う。
「許されるために謝罪をする?許されるかどうかは、謝罪をしない言い訳にはならない。」
「別に言い訳にしたつもりはねえ。」
「だったら、なぜ……」
「分からんか?」
ランの身体から殺気が迸る。ラズベリィとレイズは怯み、言葉を詰まらせる。ランは殺気を収めることなく、吐露するように言葉を続けた。
「ファプレを殺して一言も謝罪しなかった連中が、結果的には死ななかったルリへ謝罪することを要求するのか?」
「ミラのことを言っているならそれは違う。あの村はもう……」
「敗黒を隔離するためだと、言い訳にするつもりか?」
「それは……」
「その辺にしましょう。私は気にしてないから。」
私は口を挟み、話題を無理やり切り上げる。幾つか気になるワードこそあれ……このまま私が口を出さなければ、お互いの関係に不必要に亀裂を生むだろうと判断したためである。レイズとラズベリィは俯きながら窓の外へと目をやる。私はランの顔を見上げながら声をかける。
「コチョウさんは直ったの?」
「完全にとなると流石に無理だ。だがまあ動くならなにかの役に立つだろうと連れて来てはいる。」
「ふぅん」
「修復の時間もあるかもしれないしな……それと、人形なんだから“さん”は無くていい。」
「あら、それならアンタこそ、“連れて来る”じゃなくて“持ってくる”が正しいんじゃないかしら?」
「……」
ランは腕を組みながら私を見下ろし押し黙る。しかしすぐに正面を向き、わざとらしい様子で服から小さな石――あの日コチョウへと変身した、小型の魔道具を取り出し、いじり始めた。そのとき、馬車が突然停止した。
「なんだ!?」
私は驚きながら窓を開け、前方の街道を見る。整理された街道のど真ん中に、1人のエルフが立っていた。右腕で指鉄砲を作り真っ直ぐ馬車に伸ばし足止めを仕掛けたそのエルフの顔に、私は見覚えがあった。
「ガステイルさん……?」
「「なんですって!?」」
レイズとラズベリィが驚きながら車両から身を乗り出す。私が車両の扉を開けて外に飛び出すと、他の馬車に乗っていたアルマストも姿を現す。
「アルマスト……」
「話を聞きましょう。相手は魔王を倒した英雄ですから敵対するのは得策ではありません。」
「分かってる。」
私はアルマストの隣に行き、ガステイルを見つめる。真剣な眼差しでこちらを狙ってはいるものの、何故か不思議と敵意や殺気の類はあまり感じられない。むしろ不気味なその雰囲気に私は息を呑みながら、一歩ずつ踏みしめて近づいて行った。




