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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第四章 忘却とは前進、記憶とは停滞
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Ep.79 たとえ無実であったとしても④

※ショッキングな表現を含みます。ご注意ください。

「失礼します。」


 2階、園長室。荷物を置き服を着替えた私がそこに向かう頃、時刻は9時を回っていた。仰々しい巨大な木の扉を数度敲きながら、過去の私はそう言いゆっくりと扉を押し開ける。白い髭を蓄えた男が一人、奥の大きな机の前に座り、頬杖をつきながらパソコンを操作している。


「藍原瑠璃、出勤しました。遅刻してしまい、申し訳ございません。」


 過去の私はそう言いながら、深々と頭を下げる。しかし男はそれを見ることもせず、パソコンをいじり続けていた。


「あの……」

「……」

「そ、その……柾木さんが辞めたって、本当ですか?」

「それは、今貴女が聞くべきことであると思っているのかね?」


 柾木の名前を出した途端、男はタイピングの手を止め目だけこちらを睨むように動かした。そして電話口での声よりも冷たく、質問というよりは脅しに近いような、そんな口調で言い放った。


「い、伊佐崎先生から私が業務で注意したからだとお聞きしたので、事実確認を……」

「そんなことは知らん。貴女達の問題の話は我々の預かるところではありません。いい歳こいていつまで他人に面倒見て貰っているつもりですか?」

「面倒だなんて、そんなつもりはありません!ただ、私が悪いことをしたっていうなら、謝りたいっていうか……」

「……とはいえ、遅刻した若手職員とその穴をひとりで埋めたベテラン職員とでいうなら、どちらの言うことが信用されるか。貴女でもお分かりでしょう?」

「は……?」


 男の言っていることが何一つ理解できず、過去の私は絶句し立ち尽くしていた。悲しみと怒りが腹から逆流するように込み上げ、私はいつの間にやら、それを言葉に乗せて音にしてしまっていた。


「す、すみません。私だって、遅刻したのは悪いことだと思っています!ですがそれだけで……今日のその過ちだけで、今までの私の仕事を無にするかのような扱いは、納得いきません。」

「おかしなことを……もしも本当にこれまでのことを無として評価するのならば、貴女のクビを飛ばしています。クビが飛ばされないだけ温情だと、何故思えないのです?」

「な、なんでって……?」

「もうよいです。早くここから出て仕事に戻ってください。伊佐崎先生や他の皆様にも迷惑がかかっていますから。」

「で、でも!!」


 担任の業務が残っていようといつも私や柾木さんに押し付けていた伊佐崎が自分よりも信用されていることに納得がいかないまま、過去の私は男にむかって声を張った。しかし男はもはや私のことなど眼中にない様子で、再びパソコンのキーボードを高速で叩いている。私は諦め、男に背を向けて扉を開く。


「失礼しました。」


 私がそう言い、園長室を出たその瞬間だった。ドズンという重く鈍い音が、下の階から響いた。


「え……何!?」


 私はまず驚き、辺りを見回した。下の階から響いたので当たり前といえば当たり前ではあるが、2階には何も異変は起きていなかった。そして私は下の階の、音のした方角――自分の受け持つクラスの保育室の方へと目線を送る。そこで私は妙な胸騒ぎを感じ、気がついたときには一息に階段を降りていった。


「い、伊佐崎先生?」


 1階の階段の前には、保育室で子供たちを見ているはずの伊佐崎が真っ青な顔をしながら不審な動きをしていた。辺りを見回しながらドタドタと足を踏み鳴らし続けているその動きを見ただけで、私の胸騒ぎはほぼ確信へと変化した。


「あぁ、あと、えの、そのぉ……アンタ、あのぉ……」

「部屋で何かあったんですか!?ちゃんと答えてください!!」

「あぁ……ワタ、私は……私のせいじゃないわよ!!私は悪くないの!!遅刻したアンタと勝手に辞めたあの女が悪くて、だから、だから……」

「悪い……きゃっ!」


 伊佐崎は急に激昂し、私の肩を掴んで押し退け階段を勢いよく登っていった。突き飛ばされた私はその後ろ姿を見ていることしかできず、伊佐崎の言葉でより大きくなった不安を抱えながら廊下を走る。そして、


「え……」


 保育室の扉を開けた私は、言葉を失った。パニックで泣き喚く子供たちの声をどこか遠くに感じながら、私の視線は扉から一番遠い角で……一人だけ、全く動きもしない女の子を捉えた。


「ぜんぜぇぇぇぇぇ」

「ライカちゃんが!ライカちゃんがぁぁぁぁ!!!」


 泣き喚く子供たちが私を見るなり、自分の心の不安を吐露するように動かない女の子の名前を呼びながら、私の足に縋り付く。私はその子達を振りほどきながらライカの側へと近付き、彼女の様子を確かめる。


「うぅっ!」


 ライカの頭部は、血で真っ赤に染まっていた。傷痕こそ髪に隠れて見えなかったものの、赤黒い血が一向に収まる様子もなく溢れ続けているその様子は、子供たちはおろか大人である私ですら少し吐き気を催すほどのものであった。しかし私はすぐに平常心を取り戻し、


「救急車……救急車!!」


 と言いながらポケットを探り、スマートフォンを取り出す。そのまま救急に繋げ、電話をかけた瞬間、


「なんだね?これは。」


 保育室の扉から男の声が響く。私がスマートフォンを耳に翳しながら振り返ると、そこには震えている伊佐崎と鬼の形相でこちらを見つめる園長がそこに立っていた。

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