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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.73 拗れた三角関係に巻き込まれる方はたまったものではない⑨

 訓練場の観客席にて。武舞台の空に舞っている無数の火球がゆっくりと落下していくのを、レイズとリッサは見下ろしていた。


「ルリ!!!」

「避けて……お願い!避けて!!!」


 二人は椅子から立ち上がり必死に叫んだ。しかしもはや逃げ場などないほどに火球は密集し、ルリとラン達を包み込んで小さくなっていく。


「まもなくだ。死地の舞は太陽がこうして(あつ)まり、巨大な光を伴う爆発を起こすことで幕を下ろす。こうして、七曜式季舞は仕舞いを迎える……。」


 火球が迫る中もがき続けるルリとは対照的に、ランは酷くやつれた様子でそのように呟いた。レイズは彼らに迫る火球を青ざめた顔で見つめながら、ランに向けて声を飛ばした。


「なんなの……この技は。貴方にもコチョウさんにも大きなダメージがあるみたいで、結局は自爆技になっているじゃないですか!!」

「ちょっと待って、リーダー。」


 リッサはいきり立ち叫ぶレイズの肩を掴み宥める。レイズは振り向き泣きそうな目をしながらリッサを見つめるが、リッサは難しい表情を浮かべながら武舞台の地面を睨み指をさした。


「多分……これも『傀儡踏陣(アラクノフォビア)』の一部分、だと思う。」

「一部分……?」

「うん。この最後の火球が展開されている範囲が、あの地面の蜘蛛の巣みたいな模様の範囲とほとんど同じなの。だから多分……あのランって奴の魔法の本質は、自分を中心とした一定の範囲に何かを起こすことだと思う。」

「それは……根拠が薄くないか?」

「でも、この仮定があるなら納得がいくことも多いんだよ。傀儡踏陣(アラクノフォビア)が強すぎることも、ギリギリまで手の内を隠していたことも、初めに残りのDランク冒険者2人をけしかけて彼1人で戦うことにこだわったことも。」


 突如、ガチンと鈍い音が響いた。音に反応してレイズとリッサは武舞台の方へ振り向くと、武舞台の中心で巨大な火球が眩く光を放っていた。


「ま、まぶしっ……」


 レイズとリッサだけでなく、観客席にいるもの全てが武舞台から目を逸らす。光は凄まじい勢いで輝きを増し続けるが、やがて炎が燃え尽きるように突如として消滅した。


「な、にが……?」

「ルリ!!!」


 リッサの鼓膜にレイズの悲鳴が突き刺さった。リッサは目を慣らしながら武舞台に目線を送った。すると武舞台には苦悶の表情を浮かべ立ち尽くすランと……その目の前で右腕を伸ばしながら倒れているルリがいた。


「担架を2つ用意しなさい!!」

「ふ、2つ!?」


 アルマストが訓練場のスタッフに号令する。スタッフの困惑の声を聞いたリッサは改めて武舞台を目を凝らし見つめる。するとランの右後方――ルリが伸ばしている右手の延長線上に、胸部を激しく損傷したコチョウが転がっていた。


「リッサ、下りるよ!!」

「え?リーダー!?ちょっと!」


 レイズはリッサの腕を強引に掴んで引っ張り、観客席の階段を下りて武舞台の入口まで走った。駆け込んでいく訓練場スタッフ達を通路の端で避けながら武舞台に辿り着くと、ランの後ろ姿を見上げていた。


「……あなたの勝ち、かしら?」

「そう、見えるか?」


 答えが返ってくると思っていなかったリッサは一瞬怯みつつ、右に転がっているコチョウを一瞥しながら口を開いた。


「そうにしか見えないけど。」

「……死地の舞は失敗した。最後の爆発が無かったことがその証拠だ。それは何故か……最後の最後でルリが傀儡踏陣(アラクノフォビア)を打ち破り、一撃を報いたからだ。そして……それはもうひとつの操り人形でも同じことが起きたからだ。」

「操り人形……コチョウのことね。」

傀儡踏陣(アラクノフォビア)の支配から逃れたルリの攻撃を見たコチョウも、同様に魔法を打ち破り……俺とルリの間に割って入った。奇しくも俺の望んだ魔道具同士のぶつかり合いがそこで実現したってワケだ。」


 ランはそう言うと、ぐらりと巨体を揺らし膝をついた。そのまま項垂れた姿勢のまま、話を続けていた。


「喧嘩に勝てる奴の必須条件って、分かるか?」

「それは……力が強い、とか?」

「悪くねえ条件だが、必須ではねぇ。力が強えことも動きが速えことも、それ以上に大事なモンがある。そいつは……相手より先に倒れねえことだ。」

「……つまり、ルリは貴方より先に倒れたから貴方に負けたように見える、ってこと?」

「魔道具同士のぶつかり合いはアイツの勝ちだ。だが喧嘩は俺の勝ちだ。でもよ、冒険者ランクを上げたいアイツは喧嘩に勝ちたくて、魔道具士として拘りたい俺は魔道具同士のぶつかり合いで勝ちたかった。果たしてこの戦いに、真の勝者があったと思うか?」

「難しい話は分からないわ。」

「そうか……それなら、それでいい。だけど22年前の話も結局は、そういう話になってんだ。」


 ランはそういうと、ドサリと音を立て左側に倒れ込んだ。リッサは思わず彼に駆け寄ろうとするが、ランが目で制し言葉を続けた。


「君たちは……そうならないことを願う。」


 スタッフがランに駆け寄り、数人がかりで何とか担架に乗せて運んでいく。武舞台から担ぎ出されたランを、リッサは黙って見送った。

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