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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.72 拗れた三角関係に巻き込まれる方はたまったものではない⑧

「き、消えっ……」


 目の前から姿を消したコチョウとランに驚きの声をあげた瞬間、引っ張られるように私の身体は後ずさった。私は思わず顔だけ振り向いた。しかしその時には既に、私の懐深くまで潜り込んでいたコチョウが横薙ぎに腹を斬り裂いていた。


「がふっ……」

「壱の舞・『月夏赤熱(げっかしゃくねつ)』」


 ランの言葉が終わると共に、刀の通った軌道に炎が走る。まるで三日月の弓の弧を描くようにコチョウと刀は踊り続け、ランはその後方で両手を向け魔力を送り続けていた。

 傷口が焼け爛れる。決して浅くない傷口だが、火傷のおかげと言うべきか出血はさほど酷くはない。気を緩めれば倒れそうになるその状況の中、私は剣舞を踊るコチョウをじっと見続けていた。


「弐の舞・『秋遷橙火(しゅうせんとうか)』」


 壱の舞で生まれた炎が、コチョウの周りをグルグルと回っている。その全てがコチョウに集まった次の瞬間、


「なっ……!」


 炎を纏ったコチョウが、凄まじい速さで私を突き飛ばす。私を圧し切るように構えられた刀が炎と共に炸裂し、私は数メートル後方まで吹っ飛ばされる。『傀儡踏陣(アラクノフォビア)』の支配下でなければ、私は暫くその場でのたうち回っていたであろう……だがそれを良しとしないランによって、私は無理やり立たされた。


「ぐぅっ……ごほっ!」

「参の舞・『黄水成霜(おうすいせいそう)』」


 コチョウが刀を持つ腕を両手で組みながら目を閉じ、何かを念じる。すると周囲の地面を砕くように大量の水の柱が湧きはじめる。コチョウはその水の柱のひとつに近寄り、その柱を刀でそっと撫でるように切り上げる。


「グオオオオ!!」

「なんだと!?」


 その水の柱はたちまち黄金の龍と化し、大きく吠えながら私に襲いかかる。凄まじい水流に身体を引きちぎられそうになりながら、私はコチョウの動きを必死に目で追っていた。彼女は踊るような軽く優しい足取りで、次々と水の龍を生み出していた。


「肆の舞『木雪掠緑(ぼくせつりゃくろく)』」

「き、消えっ……」


 数多の水龍に食われながらランの声を聞いた私はその瞬間、姿を消したコチョウに驚きの声をあげていた。水龍が消え辺りを見回してもコチョウの姿は無く、ゴウゴウと何かが動き続けている風の音だけが私の耳に運ばれる。


「超高速移動の……強風?」


 風は勢いを増していき、やがてピシピシという音と共に私に2つの感覚を齎す。それは風圧かコチョウの刀かすら分からないものによる切創と……気温の低下によって水龍の残滓が凍っていく感覚であった。


「濡れた状態には堪える寒さね……」


 重くなる瞼と遠ざかりそうになる意識に抵抗しながら、私は膝を着くことすらも許されずふらふらと立ち尽くしていた。ランはそんな私をじっと見つめ、再び口を開いた、


「伍の舞・『青萌金牙(せいほうきんが)』」


 その言葉と共に、変わり果てた姿のコチョウが姿を現した。薄緑の髪は完全に色褪せてくすみ、使用人風の服ももはやボロボロであった。腕や顔にも傷が目立つその姿に、私は思わず息を飲み怯んでしまった。コチョウは変わらず無表情のまま、その隙をつくべく刀を一気に突き出した。


「くっう……」


 私は刀を紙一重で躱した……否、躱させられた。コチョウは流れるような動作で再び私に突きを繰り出す。私はそれを手甲で弾くようにいなす……いなさせられる。私の意思とは無関係に、コチョウの舞うようなコンビネーションと私の回避行動が繰り返されていく。


「やめろぉっ……やめろ!!」


 私は必死で抵抗するべく歯を食いしばり、全身に力を込めながら叫んでいた。しかしなんの成果も得られることはなく、


「がふっ……」


 コチョウの最後の縦切りが、私の左肩に直撃した。


「うわぁぁぁっ!うあああ……」

「陸の舞・『淑藍豊土(しゅくらんほうど)』」


 コチョウは刀を地面に刺し、刀の刃を人差し指でそっと撫でる。流れ出た藍色の液体が、私の血と混ざり地面へと溶けだしていく。やがてその紫色の何かは高速で枝分かれをしながら足元へ広がっていき、


「うわぁっ!!」


 それに沿うように地面が割れて、私はバランスを崩し仰向けに転げてしまう。砕けた地面の上で痛みに顔を歪めながら顔をあげた私はそこで、ランの頭上で煌めく魔力の星々を見た。


「何……これ……」


 私は恐る恐る、周囲の上空を見回した。無数の魔力の塊が武舞台を包むドーム状に展開されている……そしてその塊は現在進行形で、増え続けていることすらも確認してしまった。


「死地の舞・『雨裂叢飛輪(うれつそうひりん)』」


 その言葉が発せられることを待っていたかのように、天空の魔力の塊が落下を開始した。ランはその言葉と共にぐったりと手を下ろし、力なく立ち尽くしている。


「うれつ、そうひりん……?」

「そのままの意味さ。無数の太陽が雨の如く……叢り、炸裂する。」

「う、うおおおおっ!!!」


 恐怖が突き動かしたような叫び声をあげながら、私は力を込め立ち上がる。自分を縛る『傀儡踏陣(アラクノフォビア)』の魔力をひとつずつ引きちぎり、自由を手にしていく。ランはその様子に驚きを見せつつも、込み上げてくるようにニヤリと笑った。


「よかろう……てめえが俺の魔法を破るが先か、死地の舞が完成するが先か、勝負といこうではねぇか!!」


 星と星が共に食い合い、新たな巨星としてさらに接近する。もはや着弾まで猶予も許さない状況……ブチりという音と共に、私は飛び出していた。

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