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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.71 拗れた三角関係に巻き込まれる方はたまったものではない⑦

 時は戻り現代。訓練場の真ん中で過去を語ったランは口を噤み黙りこんでいた。(ルリ)はその様子を見ながら口を開く。


「……無理やり冒険者ギルドに登録されたのが、冒険者にこだわり続ける呪いってことかしら。」

「……」


 ランは私の質問には答えず、黙ったまま私をじっと見つめていた。ならばと私は上の観客席にいるベルジオとアルマストの方へと見やる。


「もう、その話はやめにしないか?」


 ベルジオが絞り出したような声で言った。その言葉に反応したランは顔だけをベルジオに向けてジロリと睨みつけている。


「もう、いいだろう……この先の話は。ルリさんにも分かっているはずだ。この後ファプレが死に、今このようになっているというだけの話は、やめてしまいませんか?」

「いいえ、今の話で明確にしておかなければならないことがひとつあります。」


 ベルジオに反論したのはアルマストであった。アルマストはゆっくりと立ち上がり、訓練場の武舞台と観客席を仕切る透明な壁に触れながら言った。


「ファプレさんを追いかけ、冒険者ギルドで暴れた貴方が会った冒険者の少女の名前をもう一度答えてください。」

「……ミラ・ケイトス。」

「確かに、ミラ・ケイトスと名乗ったんですね……」


 アルマストはそう言いながら、口惜しそうに顔を歪め俯いた。少なくとも彼女だけは、その名前に心当たりがあるような反応であった。


「そのミラって子……いや、22年前ならもう大人か、そいつが一体どうしたって言うんだ?」


 私がアルマストに問いかけると、アルマストは目を逸らしベルジオとランを交互に見つめる。二人はそれに何の反応も見せることはなく、アルマストははぁと息を吐いてポツリと呟いた。


「……そうですね。貴女には知る権利がある。そして今後、戦いに赴くのならば知っておくべきことでもある。」

「……」


 ランは黙って観客席を見上げ、アルマストを黙って睨めつける。アルマストはやや怯んだ後に咳払いをし、意を決して思いがけない真実を打ち明けた。


「ミラ・ケイトスは……魔法少女ホワイトステラ本人です。」

「なんだって!?」


 魔法少女ホワイトステラ――魔族との戦争で荒れた王都の復興に尽力し、王都の女児の憧れを一身に集めた少女その人が、ランの語る過去話に登場しているとは……。安易には飲み込めない話だと思い私はアルマストへと問いかける。


「なんで王都の英雄が、ザイリェンで冒険者をしているの?」

「私も前任者からの又聞きになりますが……もともと彼女はこちらで冒険者として活動していたらしいのです。魔王が斃れ、母上が王都を再建するために多くの街から様々な人材を集めたその中に、ミラさんがいらしていたんでしょう。」

「それが今や、ねぇ……」

「今や、だと?」


 私が何の気なしに呟いたミラの今現在という部分に、ランが食いつき反応する。ランはゆっくりと振り向きながら凄まじい形相で私をじっと見つめ言った。


「お前はあの女の今を知っているのか?」

「今……というか、少し前に王都に行った時に見たわ。彼女は私たちの……王都の叛逆者となって、兵たちを大量に殺していた。」

「なんだと?」


 ランの目が大きく見開く。その巨体から放たれる威圧感も増大し、武舞台を飲み込んでいく。私は強烈な重力に似た力に押しつぶされそうなその感覚の中、ランの口元が一瞬、悲哀に歪んだのを見留めた。


「奴は、奴は正義にのみ邁進しなければならない存在だったはずだ……それが、叛逆だと?」

「ラン……?」

「そんなことが許されてたまるか……!そんなことが許されるなら、奴が正義のために黙殺した犠牲は……ファプレの死は何の価値があったんだよ!!」

「正義のために……黙殺した犠牲……」


 生成りの如く釣り上がる目と口の端が、ランの胸中を物語っている。詳細な事実よりもその鬼の形相こそが雄弁に、私の心を撃ち抜いていた。


「ヒッ……ヒッヒッヒッヒッ……」


 やがてランはぐったりと肩を落とし頭を垂れ、不気味な声で笑い始める。悪寒が背筋に走り、私は反射的に……体が勝手に動くかのように臨戦の構えをとった。


「生きているんだな?あの女は……」

「アルマストの話が本当なら。」

「お前とギルドマスターについて行けば、あの女と戦えるのか?」

「……避けられないでしょうね。」

「ならば良い。俺はここで実力を誇示してやる。そして必ずあの女を……ファプレを殺したあの女を!俺のこの手で殺してやるッ!!」

(来るッ……え?)


 膨れ上がるランの魔力を察知した私はすかさず間合いを取るべく後ろへ飛ぼうとした。しかし……私の身体の自由は既に奪われていた。


「嘘ッ……また!?」

「また?妙なことを……俺の『傀儡踏陣(アラクノフォビア)』はずっとお前にかかっているというのに。」

「だって……貴方の右手は、さっきまでこっちに向いてなかったのに……」

「魔法で加える力に連動させて右手を動かしておけば、例え魔力が見えるアンタが相手でも余計な先入観に引っ張られるだろう?」


 ランはそう言いながら、自分の足元を指さしていた。私がそれにつられてランの足元へ目をやると、ランの立ち位置を起点に大きな蜘蛛の巣のような魔力の糸が張り巡らされていた。その糸状の魔力は私の身体に巻き付くように伸び、人形劇の操り糸のようにランの元へと戻っている。


「でもそれなら、さっきまで私はなぜ自由に動けたのよ!」

「アンタが自分の意思で動いているとそう錯覚するように、俺が動かしてたってだけだ。」

「そんな……そんなの……」

「不可能だと思うか?有り得ないと思うか?それとも、それすらもブラフで……本当のことはまだ何一つ分かっていないと思うか?」

「んぐっ……」


 心を見透かすかのようなランの言葉に黙らされ、私は悔しさに顔を歪めていた。そして……ここまで心を読まれていたのなら、ランの言う私を錯覚させて動かしたということすらも事実かもしれないと、そう刷り込まれ始めていた。


「な……にを、するつもり……?」


 その諦めかけている精神を現実に引き戻したのは、目の端に映ったコチョウの魔力であった。彼女も私と同じように『傀儡踏陣(アラクノフォビア)』から伸びる魔力の糸に身体を絡め取られていた。そして彼女は刀をゆらりと構え、私の方へと向けている。


「これで仕舞いだ……始めるぞ、『七曜式季舞(しちようしきぶ)』」


 ランがそう言った瞬間、二人の姿が眼前から消え去った。

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