Ep.66 拗れた三角関係に巻き込まれる方はたまったものではない②
「ぐっ……くそっ、体の自由を奪う魔法かっ……」
訓練場の武舞台。私はランとコチョウの目の前でうつ伏せになっていた。起き上がろうにも魔法で強く押し付けられており、身体を動かすことができない。私は視線だけを強く保ち、ランを睨みつけていた。
「足りない。『傀儡踏陣』は身体の自由を完全に奪い、意のままに操作する魔法だ。俺がこれを解かない限り、お前はもう自分の意思では動けない。」
「なっ……」
ランは変わらず私にむかって右腕をのばし、掌を向けている。コチョウはランの指示を待っているのか、私に追撃を行う様子を見せず静かに立っていた。私は苦々しく声を絞り出し呟いた。
「分からない……」
「何が?」
「なぜ同じDランク冒険者でも、クライス達と貴方でここまでの差があるのか……」
「別に……こういうのは同じランクでもピンからキリまでいるもんだろ。お前だってBランクなのにって同じように思われてるだろうし、そんなに珍しいことかよ?」
「違う。そうじゃなくて、なぜ貴方はランクが上がらないの?」
私の質問に、ランはやれやれといった様子で目を閉じ、大きくため息をつき答える。
「別に、強え奴はランクを上げなくちゃならんって義務はねえけどな……まあでも、一度も依頼をこなしてねえ奴のランクが上がったとしたら、みんな不満だろ?」
「一度も!?どういうこと!?」
「そのままの意味さ。俺は冒険者としての依頼は一度も受けたことがない。だいたい冒険者として登録したのもファプレのやつに無理やり登録させられただけで、俺は元々魔道具作りの方だけしていたいんだよ。」
ランの言葉を聞き、私はその背後の観客席に座るアルマストを見上げる。アルマストは厳しい表情で何かを悩みながら、武舞台を見下ろしている。そして少しの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「ラン・オチェルドの言葉は真実です。彼は一度も冒険者ギルドでの依頼を達成しておりません。しかしその戦闘の才能及び高い洞察力により、Dランク相当の冒険者が受ける水準の依頼ならば単独でも遂行可能と見做され、Dランク冒険者として登録されています。」
「ああ……そんで今回、俺はギルドマスターに呼ばれて来たってわけだ。ガキを救い出して欲しいってな。」
「なっ……」
「俺は条件を提示した。そのルリって奴の魔道具を作らせろ。そして、その魔道具をつけたルリと戦わせろ。その上で俺が冒険者として貴様らの願いを叶えたいと思ったら、受けても構わないと。」
「そんなの、気分じゃないか!」
「ああ。気分だ。何せ俺は冒険者なんてモノは嫌いでねェ。冒険者なんてやるくらいなら、俺は魔道具を作って……あの女を、魔道具士としてのファプレ・ノーシスを越えるその日まで、魔道具を作り続けていたいんだよ!」
ランはそういうと、私に向けている右の掌を強く握りしめる。私の身体を押さえつける力が強くなり、私は思わず呻き声をあげる。それでも私は、ランに向かって声を絞り出し尋ねる。
「なぜ、嫌いな冒険者に……そこまで、こだわり続けるの?」
「……」
「嫌いなら、登録されても辞めればいいじゃない。嫌いなら、頼まれても断ればいい。なんで貴方は、嫌いだって言う冒険者にしがみつこうとしているの?」
「冒険者にしがみついているだと?俺が?」
ランが私を睨みつける。私は負けじと目線を合わせながら、精一杯少しだけ頷いた。
「だとすると……呪いだな。」
「呪い?」
「ああ……あの日、いや、あの日までにかけられ続けた呪いが俺を縛ってんだ。」
ランは右手を下ろし、私を解放する。そして背後を振り返り、観客席にいるアルマストとベルジオを見上げながら、再び語り始めた。
「20年ぐらい前だ。ザイリェンに引っ越してきた二人の駆け出し魔道具士がいた。名前はファプレ・ノーシスとラン・オチェルド。田舎で修行を重ねた俺たちは師匠に認められ、店を作るためにザイリェンへ来た……少なくとも俺は、そう思っていた。」
私はゆっくりと立ち上がりながら、ランの話に聞き入っていた。隙だらけのランを目の前にして、自由の身であるにも関わらず、体が動けなかった。




