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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.65 拗れた三角関係に巻き込まれる方はたまったものではない①

「ラン!!お前一体、どういうつもりでそれを……!!」


 観客席を立ち上がったベルジオは、武舞台と観客席を隔てる柵を掴みながら、ランに向かって大声で叫んでいた。ランが作り出したコチョウという人形はあまりにも……先程ベルジオに見せてもらった写真の、彼の妻でありランの姉弟子であるファプレという女性にそっくりであった。


「……違う。こいつはコチョウ、魔道具士ランの最高傑作たる自立戦闘魔道具だ。」

「そんなことを聞いているんじゃない!一体どういう了見で、私の妻の形をした魔道具なんぞを開発したって聞いているんだ!!」


 ベルジオの声が訓練場全域に響く。しかしランはまるで全く聞こえていないかのようにそれを無視し、私の方へと向き直った。


「ルリ!まずい!備えて!!」


 ベルジオの対岸の観客席から、ラズベリィの声が響いた。コチョウを作ってからのランの様子がおかしいことは私にもすぐに分かっており、私は警戒を一層強めて彼らを見つめていた。


「備えろったって、何すればいいのよ……!」


 私は手甲の魔道具に魔力を注ぎ、彼らの突撃を迎撃すべく構える。だがランは深く失望したような表情で、


「不正解だ。」


 と、それだけ呟いた。その意味を咀嚼する間もなく、


「なっ……!」


 人形のコチョウの方が、隙を突き一瞬で間合いを詰めて刀を突きつける。刀は私の頬を掠り、血がポタポタと零れ落ちる。


「コチョウには、俺の戦術と思考を入れてある。つまりこれからは、二人がかりでお前の隙を突いて攻撃するってわけだ。備えたところで対応は不可能だ。」


 私はコチョウの攻撃を捌きながら、ランの宣告を聞いていた。彼の宣告が事実なら、二人のコンビネーションを受け身で対応しても無意味である……そう結論付けた私は、コチョウの攻撃の隙間に入り込むように一気に間合いを詰めた。


「それなら……受けではなく、インファイトで攻め続けるのみ!」


 私は手甲に魔力を込め、これまでとは比にならないスピードで連撃を叩き込む。これまで戦った生き物とは全く違う、金属同士が打ち合うガチンガチンという音が、コチョウ自身の人間に近すぎる見た目も相まってノイズとなって脳裏にこびりつく。


「やぁっ!!」


 私の足払いが決まり、大きく体勢を崩したコチョウに私の右腕の一撃が突き刺さる。ガシャガシャという音と共にランの元へ吹き飛ばされたコチョウは、まるでダメージそのものが無かったかのようにランの隣で立ち上がった。


「もう、止めろ……止めてください!アルマスト殿下!!」


 観客席でベルジオが叫ぶ。しかし武舞台にいるランも、ベルジオの隣で座っているアルマストも、彼の訴えに耳を傾けることなく、ベルジオの叫びは虚しく響いて消えた。


「どうしてまだファプレが戦っているのです!?どうしてこんな……死者を冒涜するような行いが!こんなに平然と行われているのです!?」

「……まるで、アナタのその口調は死者への冒涜ではないとでも言うかのようですね。ベルジオ代表。」


 アルマストはそう言い、ベルジオを睨みつける。これまであまり見ることのなかったアルマストの一面に、当事者では無いはずの私の方が少し驚いていた。


「それに、アレはただの魔道具です。金属の身体にラン・オチェルドの行動理念が組み込まれたアレはもはやファプレ・ノーシスではございません。」

「詭弁です!ファプレの見た目をしたものがこれ以上傷ついていくことが許せないと言っているんです!」

「表面上に漂う意味がそんなに大事でしょうか?我々は冒険者の本質を見抜かなければなりません。ランとコチョウの力の本質、そしてルリさんに未だ眠る才能の深淵を見抜き、導かねばならないんです。それが冒険者ギルドのマスターの仕事です。それがこれまで死んでいった冒険者への手向けなのです。」


 アルマストは腰を下ろしたまま、凄まじい形相で言い放つ。ベルジオは不満を隠せない表情のまま、その場に立ち尽くしていた。歓声も消え静かになった訓練場に響き渡るようなよく通る強い低音で、アルマストは立ち上がり私たちに呼びかけるように言った。


「続行しなさい。」

「感謝するぜ、ギルドマスターとやら。」


 ランはそう言うと、コチョウと共に一歩ずつ私との間合いを詰め始める。ゆっくりと歩調を合わせて近づくラン達を私は呼吸を小さく刻みながら睨みつける。次の瞬間、コチョウの左足がガクリと不自然に曲がり、体勢を崩した。


「うおおおおおっ!!」


 私は弾かれたように飛び出した。そしてコチョウに接近し渾身の一撃を叩き込むべく、拳に力を込める。隙を突かれ続けた戦闘の中、私はようやく生まれた最高の一瞬に夢中になってしまったのだ。視界の端に映るコチョウの顔が、してやったりとほくそ笑んでいることにも気付けないほどに。


「罠だ!!!」


 観客席から響くレイズの声で私はハッと我に返る。その瞬間、体が自分の意思で動けなくなっていたことに気付いた。頭が大きな力で無理やりに動かされ顔を上げると、コチョウの奥で立っていたランが右の掌を私の方へと翳していた。


「舞え、『傀儡踏陣(アラクノフォビア)』」

「動け……ないっ……」


 私は無理やり魔法から逃れようと四肢に力を込める。しかし、それらは無駄な努力に終わった。そして、コチョウが持っていた刀を私の首元へとそっと置いた。


「28本目だ。」


 ランがそう言った次の瞬間、私は上から無理やり叩きつけられるような攻撃を受け、地面に這っていた。

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