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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.64 望まぬ才は刃を侵す猛毒となる⑫

「くっ……」

「どうした?防いでばかりじゃ始まらんぞ!」


 訓練場にランの怒号が響き渡る。私はなんとかランの剣撃を受け止めながら、大ダメージを回避していた。


「反撃をしてみろ!その隙だらけのままで防御をしていても、いずれは力押しで突破されるだけだ!」

「……違う。ハッタリね、それは。」

「何だと?」


 ランの雰囲気と態度が一変する。確信があったわけではないのだが、ランの攻撃が差し込まれるときに違和感があった。


「超スピードで動くと周囲がスローモーションのように感じるけど、貴方の攻撃だけ……コマ送りのコマが抜け落ちたように私の感覚を狂わせていた。それを私は貴方の魔法だと思っていたけど、そうじゃない。私の感じる意識の齟齬ね。」

「それが、俺がハッタリをかましていると思ったこととどう繋がるのかね?」

「その無意識の時間感覚のズレに気付いてから私は、意識の持続を強く明確に意識し続けた……そうすればするほど、その“抜け落ちたコマ”の隙間は短くなっていった。だから、これまで27回致命傷を浴びてきたけど、今はこうして堪えている……貴方もその変化を感じているはずよ。」


 私はあがった息を整えながら、そう啖呵を切る。ランは神妙な顔で聞いていたが、再び鋭い眼光を飛ばして言った。


「ならば俺はアンタの反撃を望んでいると、そう考えていると言いてえのか?」

「……少なくとも、こうして私が防御し続けて戦闘時間を長く使うことを嫌がっているでしょう?防御から回避、回避から反撃へと貴方自身の攻撃への適応が進化することを、恐れているのではないかしら?」

「……なるほど、恐ろしい女だ。」


 ランはそう呟くと、刀を悠然と構え突撃する準備を整える。私はふらふらとよろめきながらなんとか2足でバランスを取りながら、迎撃体勢を整える。


「では……次の一撃で、防御ごと叩き潰してくれる!!」


 ランのその言葉を聞き私は……よくぞ挑発に乗ってくれたと、内心ほくそ笑んでいた。


(意識の繋ぎ目という意味での虚、そして最初の二撃や先程のハッタリという意味での虚……。ランのアドバンテージがそれらの虚を扱う驚異的なまでの鋭敏な感覚なら、私のアドバンテージは絶対に、魔力の知覚であるはず。そして、意識が本当に非連続性であっても、ランの動作は連続的であるはず……)


 私は翅に回していた魔力を体内へと戻し、少しずつ魔力の溜めを作る。次の刹那、ランが眼前に接近し刀が振り下ろされた。その瞬間、


「うわぁっ!」

「眩しっ!!」


 私の体から放たれた魔力の光が爆発する。意識の虚を突くランの攻撃を捉えるべく、全方位に魔力の光を爆発させ拡散させたのである。


「何だと!!」


 魔力の爆発を至近距離で受け、折れた刀ごとランは吹き飛ばされていく。私はその姿を見逃すことなく、追撃するべく地面を蹴った。仰向けに地面に叩きつけられたランの体に馬乗りになり、拳をそっと心臓の上に置いた。


「これで……27-1よ。」

「……」


 ランは大の字に倒れ、呆然と天を仰いでいた。私はゆっくりその場から立ち上がり、数歩下がって拳を構える。しかしランは仰向けのままなかなか起き上がってこなかった。


「これでようやく、本気とやらが見えるのかしら……それとも、それもハッタリだったのかしら?」

「……」


 私は息を整えながらランを挑発する。しかしランは変わらず寝転がっている。暫くの沈黙の後、ランは右手で頭部を触れる。そしてヒタリという音とベトベトした感触の答え合わせをするように、右手の掌を見てポツリと呟いた。


「血か。」


 ただの事実確認にすぎないというように、まるで初めて習った英語の例文の和訳かのように、ランの口から放たれた二音は平易でありふれたものを指しているように響いた。しかし試合の場にそぐわないその不気味な口調に、私は思わず一歩退いていた。ランはそのままゆっくりと上体を起こして言う。


「随分と久々に見たもんだ……だが、やはり赤は良い。ワクワクするほど沸沸と、いつでも俺のやるべきことを指し示してくれる……うんざりするほどな。」


 ランはそのまま立ち上がり、柄だけになった刀の魔道具を投げ捨て、胸元のポケットから小さな石を取り出した。


「それは……」

「喜ぶべきだルリ、俺の作品とお前の作品がこの場でぶつかりあえることを。俺は昨日から待ち遠しくてたまらなかったんだからよ。」


 ランの魔力が小さな石に吸い取られていく。小さな石は魔力を吸うとどんどん大きくなり、ランの手を離れ170センチを超えたあたりで成長が止まった。そしてランはそっと石に触れながら、小さく吐き捨てた。


「狂い咲け、『飛来する悲愛(ファレノプシス)』」

「うっ……」


 石は先程のルリのように強く発光し、やがて円形の霧のように空気に溶け込んでいった。そしてその石の中から……薄い緑の髪をした女性が現れた。


「アンタ、その人は……」

「自立戦闘魔道具『コチョウ』……俺の最高傑作さ。」

「ラン!!!」


 観客席からランを呼ぶ強い声が響く。私たち二人は声の方へと振り向くと、そこにはコチョウと同じ顔をした人の写真を持ったベルジオが、鬼のような形相でランを見つめていた。

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