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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.60 望まぬ才は刃を侵す猛毒となる⑧

 冒険者ギルドのカウンターの奥にある裏口の扉をギイと押し、その先から伸びる道を私とアルマストは進んでいた。じゃりじゃりと砂を踏みしめながら、私は奥に見えている小さな円形の建物を見据えていた。


「あれが訓練場かしら?」

「ええ。貴女にはあそこで、3人のDランク冒険者と模擬戦をしてもらいます。」

「え?3人も!?」


 Dランク冒険者といえばやはり、初日に魔法での戦闘をやりあったあのクライスという男を思い出す。あのときはなんとかやり過ごしたとはいえ、あれほどの使い手を3人となると……。私が渋い顔をしながら進んでいると、その様子を見たアルマストが少し微笑みながら言った。


「安心してください。本分はCランク昇格試験ですので、Cランク相当の任務を受けるに相応する力を見せていただければ良いのです。」

「……まあ、本気で勝つつもりでいくけどね。いずれにしてもそうしなきゃ、昇格させるつもりはないんでしょう?」

「ええ、まあ。」


 少し返事を濁らせるアルマストを横目に見ながら、私は下から訓練場を見上げていた。小さなスタジアムのような形をしたその建物を見て、私はふとあることが気になりアルマストに問いかける。


「そういえばさ、アンタ以外に見られたり、しないわよね?」

「レイズとリッサは見に来るって言ってましたよ。他にも何人か見に来られるそうです。」


 私はアルマストの話を聞き、腑に落ちない表情で話を続ける。


「レイズ達はともかく、その他の人達はいったいなんなのよ……。」

「そりゃ、相手側にもそういう人達はいらっしゃいますから。」

「ああ、そういうこと。」

「ええ。まあ今日はここは開放してますから、あとからどんどん増えていくかもしれませんけどね。」

「ええ!?」


 私は大声を出しながら勢いよくアルマストへと振り返る。


「なんで?」

「金ですよ。入場料は取りませんが、客として見に来た皆様にお気持ちをいただいているんです。」

「せ、世知辛いわね」

「ええ。ですので、今回の公開模擬戦で多くのお気持ちが集まれば……評価に左右するかもしれませんよ。」

「アンタ、思ってたより意地汚いわね……」

「嘘に決まってるでしょう。さっさと控え室に行ってください。」


 意地汚いと言われ不機嫌そうに眉を顰めたアルマストに急かされ、私は訓練場へと立ち入る。

 訓練場の外周は円形の廊下のようになっており、扉を開けてすぐに簡素な案内看板のようなものが目に入る。私がそこから控え室の文字を探していると、


「貴女の控え室なら、向こうにしばらく進んで左よ。3番でしょう?」


 左側、やや高いところから女性のような声が聞こえる。私がその声を聞き振り向くとそこにはオリオン・ベルジオが柔和な微笑みを浮かべて立っていた。


「アンタ、店はどうしてんのよ。」

「今日は予め休みを取っていましたの。今日の試合を見逃すわけにはいきませんので。」

「ふぅん……Dランク冒険者に一人、アンタの知り合いがいるのね。」


 私が少し思案しそう言うと、ベルジオは何がそんなにおかしいのか吹き出して笑っていた。


「貴女を見に来たとは思わないのかしら?」

「だって私、知らないもの、その女の人。」


 私はそう言い、ベルジオが抱えている額縁の中にある投影魔法の紙を見つめる。薄い緑の長い髪が印象的な、綺麗な女性が座っている。それを見た途端、ベルジオは笑うのを止めた。


「どうやってそうなったかは知らないけど……女性のような口調が混ざるのも、才能は浪費するべきじゃないという考え方も、その人が関係しているんじゃないかしらって思っただけよ。」

「……失礼しますわ。」


 ベルジオは伏し目がちになりながらウインクして右目を閉じ、額縁を脇に一旦挟んで手を目の前で軽く叩いた。パンと乾いた音が廊下に鳴り響き、ベルジオは低い声で語り始めた。


「概ね、推測通りですよ。彼女はファプレと言い、私の妻だった女性です。そして……今日私が見に来ている理由は、彼女の弟弟子が戦うからです。」

「ファプレ、弟弟子……」


 私はベルジオの言葉を反芻するように呟く。ベルジオは呆れた顔でふうと息をつき言った。


「今はそれだけでいいです。貴女が何かを感じるのは、彼と戦ってからでいいんです。」

「ちょっと、ベルジオ……」

「これから模擬戦なのに、直前の大事な時間を使わせて悪かったね。私達は観客席からゆっくり見させて貰うよ。」


 ベルジオはそう言い去っていった。私は追いかけようとしながら、ふと目に入る時計が11時55分を指していることに気付き、躊躇いながら振り返り控え室へと走った。

 私は控え室に置かれた金属製のボックスを開き、そこに不要な荷物を無造作に入れる。手に装着した手甲の様子を軽く確認し、私は控え室を出て中央の円形広場に向けて再び走った。ベルジオから別れてその約3分後、私は円形広場の扉を掴み一息に開いた。


「遅せぇぞ!先輩を待たせる気かよ!!」

「クライス、喧しい。」


 対峙する真向かいの冒険者3人組のうち、2人がそれぞれそう言うのが聞こえる。一人はクライス――私が異世界初日にドンパチやらかした男で、もう一人は私の知らない女性であった。大きな木を削り立派な装飾と宝玉をはめ込んだ大きな杖を持つ、RPGで言うところの僧侶のような装いをしたその女性は、クライスを睨みつけている。


「え……なんでアンタが?」


 私は驚いていた。前述の2人ではなく、残ったもう一人……見間違いでなければ、その大男は私の知っている男であったからだ。私の知る限りの情報だと、その男が冒険者であるなんて結論にはどうやっても辿り着けるわけがないからだ。


「さぁルリ……闘ろうぜ。その手甲をつけたお前と、俺の作品を使う俺のどっちが強えか、分かりやすく決めようじゃねえか。」


 抜き身の細い刀を担いだ大男――魔道具士ランはすっとぼけた私の顔を見ながらそう啖呵をきった。

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