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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.58 望まぬ才は刃を侵す猛毒となる⑥

「ルリ!起きろ!」


 ぼんやりとした意識の中、自分を呼ぶランの声が響く。なんとか目を開きつつ不明瞭な視覚情報に耳を劈く大声、そのふたつにイライラとしながら私は昨日のことを振り返った。


(あれから魔法回路を組んで、精錬を繰り返して……終わったのが確か、2時だったかしら。そしてそのまま2人してその場で寝たはずだけど。)


 私は目をこすって部屋の時計を見る。時計は10時を指していた。アルマストの話の通りならギルドには正午の10分前に着けば良い。だが擬似妖羽化(ヴァンデルン)やら魔道具精錬やらで汚れた今の格好でギルドに直行するわけにはいかないから、風呂やら着替えやらで一度帰ることを考えながら逆算すると……


「もう出ないとまずそうね。」

「え、少し早くねえか?」

「バカ。こんな格好で模擬戦やれるわけないでしょう。監禁されるなんて考えてなかったもの。」

「ま、それもそうか。」


 ランはそう言うと魔道具作りに使用した物をまとめて無造作に近くの箱へと入れた。そしてそのまま、ここに来た道を戻っていく。私は手甲の魔道具を手にして彼のあとを慌てて追いかけた。そのまま店内も器用に駆け抜け、店の外へと出る。店頭に並べられていた魔道具は、昨日と比べて明らかに数が減っている。


「ラン、これ、盗られてるわよ。」

「盗られたんじゃねえよ。0円で奴らが買ったんだよ。」

「なんなのよ、その屁理屈。」

「屁理屈じゃねえ、事実だ。ソイツらにとってその魔道具は0円の価値しかねえってことだろう。だから0円で買っていったんだ……まあ、俺はそんな奴らに作品を売るわけねえから、そうするしかないよな。」

「あんたはいいかもしれないけど、0円だと値踏みされた魔道具がかわいそうよ。」

「ダッハッハッハ!!」


 私が嫌味っぽく、しおらしいように魔道具の気持ちを代弁するも、ランはそれをバカにするように笑い飛ばした。そんなにおかしいかしらと無言で抗議するべく私は不貞腐れたような顔でランを見上げるが、ランは違うといった様子で手を振りながら答える。


「俺の魔道具はね、頭が良いんだよ。不当に安く買い叩こうもんなら、例えば実戦の途中で急に魔力が通らなくなったりするかもね。」

「えっ……ええ!?」


 私はその話を聞き、慌てて懐の麻袋を探り始める。相場通りに金を支払っておかないと、実戦の途中で急に不具合を起こす魔道具なんてあまりにも怖すぎて使えない……そう思って、手甲代を払おうとしたのである。


「今出せるのは……9000ルペアが限界だわ。これでなんとか!」

「くれんのか!?9000ルペアも!?こんだけありゃ毎日飲んでも半月はもつぜ!!」

「……は?いやいや、払わなかったら不具合が起こるんでしょ!?怖すぎるわよ!」

「何言ってんだ?それはお前の作品だろ。なんでお前の作品をお前が使って俺に金払わなきゃなんねえんだ?」

「私の……?」

「なんだよ、気付いてなかったのかよ。あんな無茶苦茶な型取りして……お前以外にそんな魔道具扱えるやつはいねえよ!」


 私はランの言葉を聞きながら、自分の手甲を見つめる。全体に張り巡らされた魔力の回路に残った魔力を見ながら、昨日の魔道具作りのことを思い出していた。


「お前以外に売るなら、その魔道具には値はつかん……ろくに使えん、ただのグローブだからな。ただ、使い手がお前なら俺は金を取るだろう。それも9000じゃ足りない、90000でも売るかどうか分からん……それだけの値段をつけることになると思う。そんな代物が懐を痛めることなく手に入ったんだ。もっと喜べよ。」

「いや、実感湧かないし。今日の結果次第かな。」


 私はクスリと笑い、ランから数歩遠ざかる。そのままランの方へと振り返り、


「世話になった。まあ……監禁されたのはともかく、魔道具作りはいろいろ参考になった。ありがとう。絶対、結果残してくるから。」

「……そうか。まあ、せいぜい頑張りな。」


 ランはそう言って、天井より高い頭を縮こませながら店の中へと入っていった。私は深呼吸をひとつした後、店から伸びる街道を全速力で駆け抜けていった。

 途中で私はベルジオ商会の前で立ち止まった。ベルジオの様子を窺うべく中を覗き込もうとすると、


「何用でしょうか」

「うわぁ!!」


 背後から女性店員に声をかけられた。私は慌てて後ろを振り返ると、そこには以前来たときに見た覚えのある女性店員がそこにいた。


「えっと、貴女は……エレスさん?でしたっけ。」

「覚えておいででしたか、ルリ様。」

「さ、様だなんて……えっと、用事はあまり大した用事じゃないんですけど……」

「オーナーでしたら、今日はお休みでございます。」

「へ?休み?昨日と今日も?」

「はい。ルリ様こそなにかご存知でしょうか?」

「い、いやぁ……知らないわね。」


 昨日私が地下に連れられて以降、ベルジオがどこに行ったのか私には分からない。先程店を出たときには彼の姿はなかったことから、昨日のうちに店に戻ったのだろうとそう考えてここに来ているのである。

 一応ベルジオに無事を知らせに来たわけだが不在なら仕方ない、とはいえ何もせずに帰るのも不義理な気がしてならない。幸い魔道具製作のおかげで手持ちの金が少し余っているのもあり、私はエレスに向かって言った。


「とりあえず、少しだけ服を見させてちょうだい。」

「ありがとうございます。」


 午前10時30分。私はベルジオ商会に足を踏み入れた。

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