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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.55 望まぬ才は刃を侵す猛毒となる③

 店の奥にて、ランは石造りの扉を力任せに引きずりこじ開けた。洞窟のような少し湿った岩の壁が続く回廊が姿を現す。私はランの背中越しにそれを覗き、鬼気迫るその雰囲気に私は息を呑んだ。


「貴方、こんなところに連れてきて何をするつもり?」

「なんてことはないさ……アンタ、魔力が見えるんだって?」

「質問に答えなさいよ。まあ、どうもそうらしいけど。」

「そうだそうだ。アイバラ・ルリという女は突如この街に現れて、その特異な目を以て冒険者として売り出し中の、明日Cランク昇格を控えた奴、だろう?」

「!?」


 私はバックステップでランから間合いを取り、腰を落として臨戦態勢を取る。今まで話題にすら出ていなかったCランク昇格の話なんてできるわけがない……私はそう考え、ランを睨みつける。


「他人の事情を知ったふうにそんなにべらべら喋って、どういうつもり?」

「ガッハッハッハ!!」


 ランは私の言葉を大声で笑い飛ばすと、懐から通信用の魔道具を取り出し、少し操作をしたあと電話の受話器のように耳元で押さえる。不敵な笑みを浮かべたまま暫く時が経ち、やがてランは通信用の魔道具に向かって喋りだした。


「よう、ギルマスか?喜べ、アンタの話に乗ってやる。その代わりこのルリって女を預かっておく。」

「は、はあああああああ!?!?」


 あまりにも堂々とした誘拐宣言に、私は驚き慌てて彼の魔道具をひったくろうと飛びかかる。


「貸しなさい!ちょっと!当事者抜きで話を進めんな!こら!!」

「明日の正午に連れて行けばいいんだろ?」

「その話……アンタ、もしかしたらって思ってはいたけど、ギルドって冒険者ギルドのことじゃないの、それ!アルマストが向こうにいるんでしょ!替わりなさいよ!!」

「あーもう!両方共やかましいわ!切る!!」


 ランはそう言って魔道具を耳から離し、力強くボタンを押す。そして何故かそのままその魔道具をバキリと折って破壊した。


「ええええ!?なんで!?」

「あ?ギルマスから折り返して来れねえようにだよ。」

「だからってあんな、簡単に壊して……」

「終わってから直しゃいいんだよ。俺が作った魔道具なんだから、俺は直せるの。」

「そういう問題じゃないでしょ……もういいわ。とにかく私をこんなところに連れ出して何するかだけでも答えてよ、いい加減。」

「そう焦んなって、全く。」


 ランは私を鬱陶しがるように回廊の奥に進んでいく。私は不信感を募らせながらもランを追いかけ奥へと進んだ。僅かな灯りを頼りに足元も不安定な中、回廊とその先にあった階段を降りることおよそ5分。肌感覚で少し広い部屋に出たような気配を察知した。


「はい、着いたぞ〜」


 ランはおどけたような調子でそのようなことを言ってみせ、少し先にあった電気のスイッチを押す。その部屋一帯の電灯に光がともり部屋の全容があらわになる。そこには各種武器やら鎧の他に、ナイフの中に見えた回路や魔道具用の細かい装置などが乱雑に詰め込まれた箱がいくつも置かれている。そして中央には恐らくその精錬に用いるであろう、大きな炉のような装置が置かれていた。


「拷問でもするつもりかしら?」

「違うわ!お前に魔道具を作ってもらうんだよ!テメェで使う分の魔道具を、テメェ自身でな。」

「私が、自作……魔道具を?」


 驚いた……拷問は冗談にしても、そんな平和な用事だとは思っていなかったものだから。だったらアルマストにあんな脅迫まがいの電話をしなくたっていいじゃないと無言で悪態をつきながら、私は改めてランの言ったことを復唱していた。


「あぁ……俺が冒険者ギルドでアンタの噂を聞いた時からずっと思っててよ。魔力の流れも回路への流し方とその反応も全部見てわかるやつがいるなら、俺はそいつが作る魔道具を一目見たいとな。」

「そんなこと言われても、作り方も分からないのに……」

「作り方なら俺が教える。それでアンタなら3時間も試行錯誤すれば作れるようになるだろ。そっから夜が明けるまでひたすら精錬だ。」


 ランの言葉に、私は青ざめながら悲鳴をあげた。


「明け方……!?それでも、明け方までぶっ通し!?私そのあと模擬戦しなきゃいけないのに!」

「随分と、短いスパンの話をするんだな。」

「はあ?」

「知っているのだよ。君が力を欲する理由……だから、俺は最善の回答を提示しているのだ。君が友達を助けに行くそのときに右手で握りしめているべきものは、なまくら刀でも量産品の魔道具でもないはずだ……違うかね?」

「……うっさい。」


 ルガルを助け出すその瞬間に最善を尽くせるべく選択しろ……その主張自体は正しいとは思う。だけどその力が必要なのは今ではないし、何より擬似妖羽化(ヴァンデルン)の確認を筆頭に明日に向けて他にやることだってあるのだ。だからそんなことをしている暇はないと、ランに言おうとした……言うつもりだった。


「……」


 言葉が出なかった。私は死にかけたエイラが竜に改造されたあの瞬間を思い出していた。奴らとの次の邂逅でもし力が足りなければ……ああなるのは私やルガルなのではないかと、恐怖が理性を堰き止めた。その間もランは眉ひとつ動かさず、神妙な表情で私をじっと見つめていた。


「分かった……分かったから。魔道具を作る。一徹くらいならどうってことない、限界まで力を求めておかなきゃ……もうあんな思いは、懲り懲りだから。」


 私はそう言って、ランの顔を見返した。そうして奥にある武器一式を物色する。ランはその様子を見送り、優しく微笑みを浮かべた……ように見えた。

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