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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.52 ビターテイストな一杯⑥

「暗夜の双月は……冒険者としてのエイラは、この男のせいで終わったんだ!!」


 ラズベリィはライオハートを指さしながら言い放つ。私はそのあまりの剣幕に押し戻されながら、ライオハートの方へと視線を向ける。ライオハートは黙って頷き、元の椅子へと座った。


「暗夜の双月は、エイラさんだけの称号ではなかったってことかしら?」

「はい。今ではエイラの二振りの鎌を扱う戦闘スタイルとして定着している呼び名ですが、元々暗夜の双月はエイラとこちらのラズベリィさんのパーティーのことを指す名前でした。」


 そう言われると、エイラさんの紺色の髪とラズベリィの白い髪のコントラストは夜の闇とそこに浮かぶ月にも例えられるような気もする……私はそんなことを想像しながら、ライオハートの言葉を聞いていた。


「二人が冒険者として登録した頃は俺もまだ新人のギルドスタッフでした。」

「同期、みたいなものかしら。」

「恐れ多いですよ。方や冒険者の期待の新星で、方や凡庸ないちスタッフなんですから。」


 ライオハートは自嘲しながら笑う。私は黙ったまま彼の瞳をずっと見ていた。


「ですがある日、エイラも貴女と同じことを言ったんです。」

「同期だって?」

「はい。彼女が冒険者になってから3週間くらい経った頃です。既にランクはDまで上がり、たまたま俺が依頼のサポートについた日で少し話をする機会があったんです。」

「ちょっと待って、3週間で、D……!?」


 その異次元の早さに、私は思わず動揺しライオハートの言葉を遮って止めた。Dといえば、私がここでドンパチやらかした男もDランクで、その時の話を信じるなら2年でDですら快進撃と評される程で……それを、3週間だと?


「暗夜の双月、恐るべしね……」

「一緒にしないで。我はまだそのときBランクだった……それに、ルリは人のこと言えない。」

「それは……ラズベリィさんは、戦闘スタイル的にランクが上がりにくいだけですから。」


 確かに、5mの大剣を振り回すラズベリィはギルド的には高ランクでは使いにくい要件として扱われがちなのかもしれない……と私はラズベリィの顔を見ながらそう考える。ラズベリィはふいとそっぽを向いて頬杖をついた。


「月並みかもしれませんが、彼女があのとき俺を同期として扱ってくれたのが本当に嬉しくて……それ以降俺はギルドスタッフとして彼女に同行できる任務はできる限り参加したんです。そうしたら、徐々に彼女の方からも俺を選んでくれるようになっていったんです。」

「なるほど……話が見えてきたわ。エイラさんが冒険者を辞めるきっかけになった『大怪我を負って帰ってきたスタッフ』がライオハート……貴方ってことね。」

「……はい。それから半年ほど経った頃のことです。俺が彼女達の任務への同行中、生死の境を彷徨う大怪我をしました。そして怪我を治しギルドへ戻った頃には、彼女は冒険者を既に辞めていました。」

「それが、4年前と。」


 私は確認するようにライオハートへと言った。ライオハートは黙ったままコクリと頷く。すると、ラズベリィがボソリと呟いた。


「分かったでしょう。」

「何が?」

「今、この男が言ったように!あの子はこの男に惚れたせいで……半年で、DからFにしかランクが上がってないの。3週間でランクDに達する才能が!!それから半年経ってもたった2つしか上げられなかったの!挙句あんな死に様を晒して……あの才能の末路として、みっともなさすぎる……」


 徐々にトーンが落ちていくラズベリィの声。私は悔しがるラズベリィを見ながら、先程言ってしまった思い上がりが脳内で反響していた。


「ラズベリィ……ごめん。私が一番、思い上がってた。」

「もういいよ……もう、いいの。」


 ラズベリィはフルーツティーを一気に飲み干し、そのまま立ち上がってギルドを出て行った。ライオハートは気まずそうに俯きながら、彼の分のコーヒーカップを持って立ち上がる。


「ルリさん、俺のわがままで……急に呼び止めてしんどい話をさせてすみません。」

「……」

「自分でもなんとか折り合いをつけて、エイラの分まで生きようって思います。ルリさんも思いつめないで……」

「……私ね」


 片付けて奥へ向かおうとするライオハートを遮るように、心の奥底から言葉が滔々と流れた。


「私ね、そのネックレスの写真を見ていい写真だと思ったの。その二人にとっての幸せの定義って……そこで二人時を共にすることなんだなって伝わってくるような、そんないい写真。」

「ありがとう、ございます……?」

「確かにエイラさんは貴方に恋をして弱くなったのかもしれない……そういう憶測があるのは否定しない。でもエイラさんは最後までそのネックレスを身につけていた。それは事実で、その写真の二人の笑顔も事実なんだ。だから私はその憶測を否定したかったんだ……否定できなかった。ラズベリィの心も本物だって思って……だから私、悔しくて。」

「ルリさん……」

「ごめんね、呼び止めて。もういいわよ……一人にさせて。」


 ライオハートはその場で少し戸惑いながらも、私の言葉に従ってすぐにその場を離れた。



 日が沈み、カツカツと階段を降りる足音が聞こえる。ギルド1階のロビーには一人の例外を除き冒険者の姿はなく、足音の主アルマスト・フォーゲルはその例外――コーヒーカップを持ち佇むルリの元へ歩み寄り声をかける。


「一緒に帰りたくて待っててくれたんですか?」

「……」


 アルマストは茶化すようにそう声をかける。しかしルリの返答は無く、アルマストは少し不機嫌そうに眉を顰めた。仕方なく回れ右をしルリに背を向けた瞬間、


「アルマスト。」


 ルリがアルマストの名を呼んだ。


「なんでしょう?」

「コーヒーって、塩っ辛いのね。」

「なに、文句?いくらウチのが安物だからって、そんなこと……」

「初めて飲んだけど、塩っ辛いし、苦いわ、これ。」


 ルリの肩が小刻みに震えている。アルマストはその様子でようやく、ルリが起立することが困難であると状況を察知する。


「全く……なんでコーヒーなんて飲んだのよ。」

「……背伸びしたかった。こんなに辛くて苦いなんて知らなかった。もうしばらくは勘弁ね。ハハッ。」


 ルリはそこまで呟いて、勢いよく鼻を啜った。アルマストは椅子を引きルリを背中におぶった。アルマストは服の背中の部分が濡れていくのを感じながら、ギルドを出てゆっくりと屋敷に向かって歩き帰った。

 紺の帳が下り白の弓張が町を照らす。背負われた一等星は失意に濡れ煌めいていた。

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