Ep.51 ビターテイストな一杯⑤
「あなたは……」
自分を呼び止めた声に反応し振り返った私は、声の主の顔を見てそう呟いた。少し青みがかった短髪のその男性は、エイラのネックレスに描かれた男性にそっくりだった。
「立ち話もなんですから、あちらでお待ちください。」
男性はそう言って奥にある丸テーブルを指さす。私は目でレイズとリッサを帰らせて丸テーブルへ向かおうとした。そんな私を男性が呼び止める。
「なにか飲みますか?」
「それじゃ……コーヒーを1杯、いただきます。」
男性は頷き、受付の奥へと進んで行った。私は丸テーブルの前の椅子を引き、腰を下ろす。数分後、私の元へ来たのは……先程の男性ではなかった。
「あれ?まだいたの?」
「え?ラズベリィ?」
上の階から降りてきたラズベリィが、私の姿を見つけこちらに来た。まだギルドを出ていないことを不思議がる彼女が、私の傍らに立つ。そこへ、
「お待たせいたしました……あっ。」
タイミングが良いのか悪いのか、コーヒーを2つ用意した男性が現れる。ラズベリィはその男性の顔を見て、何かに気付いたようにハッとして呟いた。
「ライオハート……なるほどね。」
「ラズベリィさん……お久しぶりです。」
ラズベリィとライオハートと呼ばれた男性はそう言葉を交わすと、ラズベリィは私の左どなりの椅子に座る。ライオハートは私とその向かいの椅子にコーヒーを一旦置き、
「ラズベリィさんは、いつもので?」
「いらな……いや、うん。やっぱりそれでいい。」
お盆を抱え再び裏へと戻った。私はそれを横目で見送り、ラズベリィに尋ねる。
「なんで貴女も?」
「ライオハートの話を聞けばわかる……エイラの話をするつもりでしょ?」
「ええ、まあ……」
「それに、アンタだって知りたいでしょ?あの子が冒険者を辞めた話。」
「……それに貴女が関わっている、そういう話なのかしら?」
ラズベリィは私のその質問に答えることはなく、私から目線を外し物思いにふけるように正面少し上を見つめていた。そのまま沈黙が続いたしばらく後、ライオハートがフルーツティーを持って現れた。
「お待たせしました。」
ライオハートはそう言いながらフルーツティーをラズベリィに差し出し、私の向かいの椅子に座った。私はそれを見てから、話を切り出した。
「話は……エイラさんのことですか?」
「はい。ルリさん達にも辛い話になるのは分かっていますが……俺は彼女の最期をきちんと知っておきたいんです。」
「貴方は、彼女が万一にも生きているとは思わないのかしら?」
「はい……このネックレスだけが俺の元に帰ってきたということは、そういうことですから。」
「……」
ライオハートは手に持ったネックレスを握りしめながらそう言った。私は何から話した方がいいものかと躊躇しながらそれを見ていた。そしてライオハートは切実に私を見つめながら、再び口を開いた。
「教えてください!彼女の死は誇り高きものだったのでしょうか……冒険者時代の彼女の気高さに見合うような、意味のある死だったのでしょうか。」
「それは……」
意味はあった。ラルカンバラから私達三人を引き離し逃がすための時間を作るためというには、十分すぎるほど意味のある死だった。だが……最期の彼女の姿はあまりにも気高さとは程遠いものでもあった。だから私ははっきりと彼の問いに答えることができなかった。彼の問いにはっきりと答えたのは、隣に座っていたラズベリィだった。
「そんな大層な死じゃない。エイラは我が斬ったから。」
「ちょっと、ラズベリィ!?」
「事実でしょ。あの子は最期にみっともなく生にしがみつき、森を破壊し続ける醜い化身になった。だから我とルリで殺した。」
「そうですか……」
ライオハートは分かりやすく落ち込み、俯いた。腸が煮えくり返るような思いを必死に抑えている私とは対照的な反応だった。
「生にしがみつくことがみっともないって……いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるわよ!」
「違う。生にしがみつくことじゃない。生にしがみつくあまり縋ってはならない悪魔に擦り寄ったことがみっともないって言ってるの。冒険者時代のあの子ならそんな選択は絶対にしない。」
「なぜ、そう言い切れるの!なんで貴女がエイラさんの心を代弁できると思い上がってんのよ!」
「ルリさん、そこまでで……」
「ライオハートさんを残したまま死にたくない、生きてザイリェンに戻るために必死で……本気でもがくことが醜いって……アンタそれをよく本人の目の前で言えるわね!!」
「そこまで!!そこまでにしてください!!」
ラズベリィに掴みかかる寸前までヒートアップした私を、ライオハートが慌てて立ち上がり何とか押さえ込む。宥められながら椅子に座り込みながらも、私はラズベリィを睨みつけ続ける。
「アンタこそ……何も知らないくせに!!」
ラズベリィは唇を噛み締め拳に力を込めながら、漏れ出したように言葉を吐き捨てた。
「この男が!あの子を腑抜けにしたんだ!!この男がいるから……我とあの子、『暗夜の双月』はバラバラになったんだ!!」
ラズベリィはそう言い私の顔を睨みつける。有無を言わさない凄みを感じ、私は思わず言葉に詰まりすぐ隣に立っているライオハートの顔を覗き込む。ライオハートは眉を顰め俯いていた。




