Ep.50 ビターテイストな一杯④
「ちょっと待ってください!」
アルマストの決定に真っ先に異を唱えたのはレイズだった。レイズはいきり立ちながらアルマストに迫る。
「納得いきません!ボクもリッサも、ギルドマスターだってボクらよりもルリが強くて優秀な冒険者だってことを理解しているはずです!なのに、なんでこんなルリを仲間外れにするような真似を……」
「レイズ。貴方のほうこそ冒険者ランクというものを勘違いしてないかしら?」
「どういうことですか?」
「冒険者ランクは強さだけで決まるものではありません。負傷及び死亡のリスクを最小限に抑えるため、高難易度の依頼を受けるにあたり懸念のある者のランクを迂闊に上げるわけにはいかないのです。」
「それは……」
レイズは押し黙ってしまい、アルマストはレイズから私へと目線を向ける。そしてそのまま毅然とした態度で私に言い放った。
「命令無視の独断専行、それも感情の優先という私的かつ非合理的極まりない理由での無謀な行為は大きく減点せざるを得ません。それに、再現性のない魔法も使用するとなると、それだけでハイランクの依頼で使いにくい理由になるでしょう。」
「でも、独断専行は結果的に……」
「レイズ、結果的にどうかという事実で擁護するには、独断専行は重すぎる罪です。その罪を野放しにするとやがてそれは取り返しのつかない失敗になります。」
アルマストはレイズを睨みつけながらそう言った。その鋭い視線はレイズを力で押さえつけ、言葉を詰まらせる。しかしレイズも負けじと圧を押し返すように反論を紡いだ。
「でも!ルガルを取り戻すのにルリの力は絶対必要です!ギルドマスターの言ってることも大事だとは思うけど……それだけでルガルを助けることはできません!」
「随分と、立派な口をきくようになったものね……貴方の言い分じゃまるで、私が綺麗事を言っているとでも言いたいみたいじゃない。」
アルマストの表情が怒りに染まっていく。一触即発の二人を制すべく、私はレイズの前に割り込み口を開く……しかしそれよりも前に、口を挟んだ者がいた。
「失礼……我もレイズ君に同感。ネオワイズ盗賊団と戦うなら、あの力は必要。戦闘部隊にCランクという条件があるなら、ルリ君だけを外すのは……流石に、愚策。」
ラズベリィがスッと手を挙げてそう言うと、アルマストは眉を顰めため息をつき呆れながら言った。
「全く……人の話は最後まで聞きなさいよね。私は別にルリ無しでルガル救出作戦を行うなんて一言も言ってないわよ。」
アルマストはそう言って机へと戻ると、書類の山から1枚の紙を私に差し出した。
「これは……」
「明後日、ウチのDランク冒険者数人と模擬戦をしてもらいます。それを以て、ルリさんのCランク昇格が妥当か判断いたします。当然、擬似妖羽化も使っていただくので……明日はその調整に使うことをおすすめします。」
私は紙を受け取り、アルマストの話を聞きながら一通り目を通す。
「明後日の正午に、ギルドの訓練場……これは?」
「当日十分前までに着いていただければ、私が案内します。」
「分かったわ……それで、アンタにしっかり力を見せればいいってことよね。分かりやすくていいわ。」
「ルリ!」
「大丈夫よレイズ、分かってるから。私だってルガル君を助けに行きたいって、そのためならなんだってするって思ってるから。」
「話はついたかしら?それじゃ、次はこれ。」
アルマストはそう言うと、机の下から麻袋を四つ取り出し、それをラズベリィ、リッサ、レイズ、そして私に手渡した。
「報酬よ。返済分はもう引いてあるわ。」
「え……ああ、ありがとう。」
「武器の新調にも必要でしょう?」
アルマストにそう言われ、麻袋を覗き込む。見たことないほどの金貨が所狭しと輝いていた。
「えぇ!?こんなに!?」
「ふふ、至福。」
「え、ルリの袋の方が大きくない?」
レイズ、ラズベリィ、リッサが三様にリアクションを口にする。リッサの問にアルマストが少し窘めるように答えた。
「ルリさんは先日の王都の分も込みです。1万ルペア近く入ってますので、今までのナイフよりもいい魔道具が買えるはずですよ。」
私はその言葉に従うように、麻袋に付いていたメモを見る。そこには中の金額を示すであろう、9310という数字が書かれていた。5%が返済として引かれているのなら……と残りの返済額をざっと計算する。
「あと、249万9500ルペア……凄まじく遠いわね。」
「計算が早いんですね。まあ、キリがいい方が計算しやすくなるでしょうと思いまして。経理のことも任せてみようかしら。」
アルマストは今日イチの笑顔でそう言った。私は顔を引き攣らせながら、部屋をあとにした。
「おめでとう、レイズ、リッサ。」
ギルドの階段を降りながら、私は改めてレイズ達のランクアップを祝福した。しかしレイズは真面目な表情のままであった。
「ありがとうルリ……でもそうじゃないでしょ、明後日のこと!」
「そうねぇ……」
「Dランクって強いんだよ!Gより上の人たちが遠征で町を離れがちだから、町に常駐する主力冒険者の中じゃ上位に食いこんでくる人達なんだよ!」
「レイズ、分かってるよ。そう簡単に勝てる相手じゃないことくらい。でも、私だってそう簡単に負ける女じゃないから。」
「それは……そうかもだけど。」
レイズはそう言って口ごもる。そういえば……初めてここの一階でやり合ったあの男も、確かDランクって言っていたな。あの程度ならなんとかなるとは思うが、まあ油断は禁物かとそんなことを考えながら階段を降りきりギルドのロビーへと足を進めると、
「アイバラ・ルリさんですか?」
受付の方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。




