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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.49 ビターテイストな一杯③

 馬車の中で眠りに落ちた私が次に目覚めたのは、アルマスト邸の自室のベッドの上だった。私は身体を起こし掌を握ったり開いたりを繰り返し、肩をぐるぐる回しながら呟いた。


「身体は……動く。すごい効き目の薬ね。」


 私はふうと息を吐きながら、窓の外を見る。南東から射し込む陽の光が眩しく私を照らす。どうもザイリェンに着いてからも私は目を覚まさなかったので、そのままこの部屋に連れてこられたようだ。そして結局次の日の昼前まで眠っていた……と。


「とりあえず、ギルドに向かおう。アルマストも待ってるだろうし。」


 私は昨日から着ていた服を脱ぎ、クローゼットから新しい服を取り出す。そのとき、リィワンから受け取った紙がぱさりと落ちた。


「そうか、これは……」


 私は紙を拾い上げ、広げてみた。そこには今からちょうど3週間後の日付けと、聞き慣れない地名が併せて記されていた。


「ダガイア土鋼要塞跡地……そこにルガルくんがいるのね。アルマストなら知ってるかしら?」


 私は新しい服に袖を通し、紙を懐に無造作に突っ込む。髪は寝癖だけを軽く整えて、朝食も食わずに外へ飛び出した。その勢いのまま、止まることなく冒険者ギルドまで走りきった。


「ルリ!!もう大丈夫なの?」

「平気よ、リッサ。すぐに報告もしなくちゃいけないしね。」


 冒険者ギルドの扉を開けた瞬間、こちらに気付いたリッサが私に抱きつく。レイズはそれを気まずそうに見つめている。私はリッサを傍らへ避けつつレイズの方へ目配せして、


「昨日は勝手なマネしてゴメン!もっと冒険者のことも勉強して、レイズに迷惑がかからないように気をつける。だから……これからも私とパーティーを組むために、今から一緒にギルドマスターのところまで来て欲しい。」

「ルリ……」


 そう言いながら、頭を下げた。レイズの顔は見えないが、彼女の声色が当惑と少しの安堵を物語っていたように聞こえた。レイズはゆっくりと私に近付いて手を取り言った。


「そんなの、ボクだって勉強しなくちゃならないことばっかりなんだよ!ボクの方こそ、これからもよろしくってお願いしたいんだよ!ルリとのパーティー解消なんて、頼まれたってやるもんか!」


 私が顔を上げた途端、レイズは私を強く抱き締めた。自分より少しだけ背の低い少女のハグだったが、私は抵抗できずに捕まってしまった。


「いや……ゴメンね。そんなことより先に言うべきだったんだ……おかえり。」


 レイズは耳元でそう言うと、抱き締めた私を解放し肩を掴みながら満面の笑みを私に向けた。子供だと思っていた彼女の心意気は、じんわりと私の心に入り込み波紋を残して広がっていく。私はリーダーとしての彼女には、もう敵わないのだろうとそう直感した。


「でもリーダー、ギルドマスターも厳しく評価するよって言ってたんだけど。あーんなめちゃめちゃな依頼結果でほんとに大丈夫なのぉ?」

「ぐ……で、でも!今回がダメでももっかい次の依頼で……」


 ギルド内部、ギルドマスターの部屋に向かうべく階段を上りながらリッサとレイズはそんなことを話している。そして3階、ギルドマスター・アルマストの部屋の前でレイズは震えながら一歩ずつドアへと近寄る。


「失礼します……レ、レイズ・ラフィールが参りました!」

「いいよ、入って。」

「え、ラズベリィ?」


 ぶっきらぼうな言葉と共に扉を開けたのは、ラズベリィ・エルハーバーだった。ラズベリィに連れられて一行はアルマストの前へと通される。アルマストは大きな机に両肘をつき、口元で手を組むというどこかのアニメの司令がしているようなポーズで私達を待ち構えていた。


「怪我はもういいのかしら?」

「動く分には問題ないわ。また何かと戦うみたいな依頼をこなすにはちょっと分からないけれど。」

「分かったわ。それじゃあ早速だけど、昇格のお話をしましょうか。」


 アルマストはそれまでしていたポーズを解き、三本の指を立てながら私に示した。


「ルリさん。貴女に三つお尋ねします。」

「……ええ。」

「一、敵の男から貰った紙の内容を説明してください。」


 アルマストの指示を聞いた私は懐から紙を取り出し、広げて文字を読む。


「三週間後、ダガイア土鋼要塞跡地にて竜族復活の儀を執り行う。英雄ルーグ・ユールゲンの子、ルガル・ユールゲンを贄として。」


 私はそう言い切り、広げた紙をアルマストの机に差し出す。


「ダガイア土鋼要塞跡地……」


 アルマストは眉を顰めながら紙を睨みつけながら呟いた。私はアルマストを見つめながら尋ねる。


「ダガイア土鋼要塞跡地って何かしら、地名?」

「Aランクの方にお伝えする必要はございません。次です。ラルカンバラを撃退するために使用した魔法を全てお答えください。」

「……気になる言い回しだけど、まあいいわ。確か、天火燦蚕(ザ・サン)と、変化魔法と、逃視秘匿(ハインド)と、亜空間魔法……で、全部かしら。」


 私は思い出しながら指折りで数えて言った。アルマストは鋭い眼光で私を見つめたまま、しばらく黙り込んでいた。やがて、アルマストがゆっくりと口を開いて言った。


「まあ、これで三つ目でいいかしら……。そうね……擬似妖羽化(ヴァンデルン)、と言えば十分伝わるかしら。今この場でできるかしら?」

「え……?」

「すぐ戻ってもらって構わないわ。ただ魔力量が足りないだとか、元の姿に戻るのに手間取る可能性があるだとか、そういう懸念点があるならなって貰わなくても良い。」


 私はアルマストの言葉で、森の広場を出る直前のことを思い出した。あのときは全身から少しずつ魔力を抜く要領で擬似妖羽化(ヴァンデルン)を解除したのだが、決して難しい工程はなかった。とはいえ街中で使うには多少リスクが高いのでは……そう思った私は


「今は使えないわ。リスクも完全に把握できているわけじゃないの。」


 そう、アルマストにNOを突きつけた。アルマストは目を閉じてふうと大きく息を吐き、柔らかな表情で言った。


「そう、分かったわ……ランクアップを認めるわ。ルリはBでレイズとリッサはCランクに昇格よ。」

「え……私だけB!?」


 取り残された私のツッコミが、ギルマス室に響いた。

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