Ep.47 ビターテイストな一杯①
「……ただいま。」
ラズベリィと共に森を抜けた頃には既に日は落ちていた。月明かりを頼りに街道を少し進んだ先で、私はレイズや相当名のギルド職員達を連れたアルマストに出会った。ボロボロになった服、血の赤と痣の青が斑点のように浮かび上がった肌とを見たアルマストは、その場で崩れ落ち嗚咽を漏らした。
「貴女……私がどれだけッ、心配したと……!」
「ごめん……エイラさんは、元には戻らなかった。」
私はそう言いながら、懐からエイラのネックレスを取り出してアルマストに差し出した。あの時――ラルカンバラの胸を刀で貫く直前に、刀と一緒に亜空間から取り出したものであった。
「詳しい報告は、馬車で聞きます。まずは二人の治療を……レイズ。」
「うん。もう用意してあるから……ルリと、貴女も。」
私とラズベリィはレイズに手を引かれ、揃って奥の馬車の中に連れ込まれる。揺れ防止のためのサスペンションがついた馬車の中は、担架のような寝床が二人分用意されていた。
「ラズベリィの分まで……」
「そもそも我はギルドの救援要請で助けに来たのだからね。」
「そう。ボクがギルドに連絡した直後、ギルドマスターが現場に一番近くてランクの高いラズベリィさんに要請したらしいんだ。」
レイズは薬研を取り出し治療の準備をしながら答える。エルフでも冒険者として登録している者がいるのかと私は感嘆しながら横たわる。そのまま天井を黙って見つめていた。
「いっっ……たぁ!!」
もやもやとした情念を抱えたまましばらく脱力していた私の体に、痛覚の電撃が走る。私は慌てて身体を起こし痛覚の源を探すと、黄緑色の得体のしれない物質が傷跡に塗りこまれていた。
「はい!暴れない!!」
「せ、せめて塗る前に一言……モゴォ!!」
傷跡に薬草を塗り込んだ張本人ことレイズは、私の力なき抵抗を抑え込みながら、私の口に薬草の塊を突っ込んだ。ゴーヤの5倍は苦くパクチーの7倍は臭いそれで口を塞がれた私は、涙ながらにレイズに訴える。
「まは、おほっへうの?」
「心当たりがあるなら、そうなんじゃない?」
「うぅ……」
「リーダーであるボクの言うことを聞かないで勝手に命かけて、たまたま生きて帰れたからって最初にボクにかける言葉がそれでいいって思ってるなら……もうちょっと反省して欲しいけどね。」
レイズは私の方を向くことなく、薬草を潰しながら答えた。私は口に突っ込まれた薬草の塊を噛み砕き、吐きそうになりながらも無理やり飲み込んだ。
「ごめん。」
「……別に、全員で逃げて下手に追いかけられた結果、ザイリェンで暴れられるかもしれないって意見にはボクも納得してたんだ。だからボクにも責任はあるんだ。でもっ……」
レイズの言葉に感情が乗ると共に、薬草を潰す動きが強く、ゆっくりになっていく。やがてその手が止まると、レイズは私の方へ向いた。
「でも!そのあとの大人がどうこうっていうのは違う!!ボクらはたしかに子供だけど、戦うべきときに戦う覚悟はできてる!それに……あのときのルリは、大人として子供を守って死んでも構わないって顔をしてた。」
「……」
「子供のボク達よりも自分の命を安いもんだと勝手に値踏みしてたんだ!!そんなのは違う!ボクもリッサも、ルリが死んじゃうのなんて望んでいないんだよ……子供の望みを無視するのが、大人として正しいことなの?」
服の袖のシワが深くなる。泣きそうになりながら訴えるレイズの顔から目が離せない。あれだけ苦かった薬草の味も、ラルカンバラや飛竜の攻撃の痛みも、それらの記憶を上から塗りつぶしていくように――その攻撃は、私の心を幾重に貫いた。
「またあんな……ルリ自身の命を軽んじるようなこと言ったら許さないから。それで死んだら、もっと許さない。わかった?」
「……うん。」
レイズはいつの間にか掴んでいた私の服の袖を離し、潰した薬草を湯呑みのような容器ふたつに均等に分け、水筒からお湯を注いでいく。お茶のような香りが馬車に広がる中、レイズは湯呑みを私とラズベリィの枕元に置いた。
「ザイリェンに着くまでに飲んでください。魔力回復を促進するので早く治りやすくなります。そのうえで睡眠をしっかりとってください。ギルドマスターにもそう伝えておきます。」
レイズはそう言うと、ケガ人用の馬車から退出した。




