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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.46 Bランク昇格への試練⑪

「うおおおおっ!!!」


 刀を引き抜かれた右胸からドクドクと血を流し立ち尽くすラルカンバラにトドメを刺すべく、私は袈裟斬りを放った。しかし奴の皮膚を斬り裂く直前、ガキンという硬い音と共に刀が止まる。


「なんだ……?」

「そこまでにしましょう……団長。」


 ラルカンバラの背中越しに聞こえる男の声、その正体を確認するべく私は視線を送る。そこには王都で出会った男――リィワン・ワンズリースが立っていた。


「お前は……王都の!」

「新手か!?」


 ラズベリィは一瞬で臨戦態勢を取り、リィワンに対応するべく睨みつける。そのまま刀で斬りかかろうとした寸前、ラルカンバラの口が開いた。


「お前、俺の亜空間に触れたな?」

「だったら、なんなのよ。」


 ラルカンバラは侮蔑と憎悪のこもった目で私を睨みつける。私の答えを聞いたラルカンバラの魔力は衰えるどころか、徐々に膨れ上がり息苦しい黒煙のように私を包み呼吸を阻害する。やがてその魔力は竜脈をも吸い上げていき、必死の思いでこじ開けた奴の胸の穴をいとも容易く塞いでいく。


「あっ……」


 目の前に君臨する捕食者に、私は戦意を喪失し視線ひとつ動かすことができなかった。一歩ずつ近付くラルカンバラを見ながら死を確信した次の瞬間、リィワンがラルカンバラの肩を掴み歩みを強引に止める。


「目的、忘れないでくださいよ。そこの女の捕縛は副次的な目標です。竜脈による妖羽化(ヴァンデルン)の実験体としてあの死体を持ち帰るのが優先でしょう?」

「黙れリィワン」

「亜空間魔法をコピーされて怒る気持ちも分かりますがね。なんせアンタの使う亜空間は……」

「黙らんか、リィワン!!!」


 激昂しリィワンに殴りかかるラルカンバラ。だがその拳がリィワンに届く前に、彼と飛竜の死体は一瞬で姿を消した。リィワンは素知らぬ顔でニコリと微笑みながら、


「今日は、貴女一人です?」

「アルマストなら居ないわ。ギルドマスターがそう簡単に動けるわけないでしょう。」

「そうですか。残念です。」


 リィワンはそれだけ尋ねて、踵を返しその場を去ろうとする。しかし、ラズベリィがそれを許さなかった。


「待て!」

「なんです?」

「この炎、どうにかしてから帰れ。トップが荒らした落とし前は部下がつけるべき。」

「部下、ねぇ……」


 リィワンはそう呟き、口元を少し歪める。そうして懐から小さな魔道具の玉を取り出し、無造作に投げ捨てた。玉が着地しふたつに割れた瞬間、その場を起点に凄まじい嵐が広場を包んだ。


「ぐっ、なにこれ……!」


 立っているのがやっとなほどの豪風が吹き荒れ、飛竜のブレスや私の魔法で残っていた炎は一瞬でかき消されていく。やがて風が収まると、リィワンはラズベリィを睨みつけながら言った。


「これで満足でしょうか?森の番人とやら……」

「私はね。でもあっちのは知らない。」


 ラズベリィはそう言い、私を指さした。リィワンはチラリとこちらへ目を向け、何かを待っているように黙っていた。私はゆっくりと、確かめるように言葉を紡ぐ。


「いつから、ここにいたのかしら?」

「アンタの『逃視秘匿(ハインド)』からですよ。」

逃視秘匿(ハインド)だって!?まさか、アンタが逃げたと思っていた時間って……」


 ラズベリィは驚きのあまり声をあげる。リィワンは咳払いをひとつし、再び口を開く。


「どうやったかは知りませんが……あの男を欺くほどの逃視秘匿(ハインド)を見たのは初めてですよ。いや、もはや姿を消すほどのそれは逃視秘匿(ハインド)とは別物と言ってよいでしょう。」

「だから、我には急に姿が現れたように……」

「そんなことより、さっさと本題に入ってくれます?アンタが聞きたいのはそんなことではないでしょう?」


 ラズベリィの独白を意図的に無視するかのように、リィワンは私に詰め寄った。


「聞きたくないのです?具体的には坊ちゃんの居場所やら、結界術を使える魔族のルーツやら……」

「貴方がそれをバカ正直に答えたとしても、信じられるわけないわ……一体、どういう風の吹き回しでそんなことをべらべら喋るのかしら。」

「……」

「貴方自身は、一体何を望んでいるのかしら?アルマストとも何かあるようだし、ラルカンバラにも……慇懃な態度の割に、腹のうちじゃ何考えてるか分からないように見える。」

「私自身、ですか。私自身は何もない空虚な存在ですよ。ですが……そうですね、それを求めて魔王に会いに行くというのは正しい手段だと、私も思いますよ。」


 リィワンはそういうと、胸元から1枚の紙を取り出した。そして私の元へと歩み寄り、紙を差し出しながら言った。


「ですが、英雄には一言伝えておいた方がよろしいでしょう。そうですね、エルフのあの方とか……」

「ガステイルさんか」

「坊ちゃんのことなら心配いりません……その紙に書かれた日までの安全は保証します。坊ちゃんを返して欲しければその日その場所に戦力を集め、奇襲をかけることをオススメいたします。」

「え……?」


 リィワンの思いがけない発言に、私は戸惑い紙とリィワンの顔を二度見する。おずおずと紙を受け取る私を見たリィワンはニコリと微笑み、背を向けて歩き出した。


「そんな日まで待たなくても、今乗り込んでしまえばって考えたりはしないの!?」

「その程度の力なら無駄死にでしかありませんよ。先程思い知ったでしょう。」

「こんなの、アンタの目的がますます分からないわ!盗賊団も王都も裏切っているようなものじゃない!!」

「不思議な物言いですね……まるで私が、その二つの勢力に属するかのような言い回しじゃないですか。」

「は……?」

「では。あの子にもよろしくお伝えください。」

「逃がすか!!」


 会話を終えたリィワン目掛けて、ラズベリィが飛び出し刀を振った。刀はリィワンに命中することなく、ラルカンバラ達が消えた時のようにリィワンは姿を消した。

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