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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.45 Bランク昇格への試練⑩

「ちっ……」


 ラズベリィはラルカンバラとの間合いを取りながら、巨大な刀を振り回す。しかしその剣撃は全てラルカンバラを斬ること叶わず、奴の歩みも止まることはなかった。


「変態、虫、寄るな!」

「虫って……酷いねぇ。取って食うつもりはないんだが。」


 ラルカンバラはそれだけ言うと、一瞬でラズベリィの目の前に移動する。そのまま左手を握りしめラズベリィの頬を殴打するべく突き出した。ラズベリィはすんでのところでそれを回避する。しかし、


「あっ……ぶな!」

「やはり勘が鋭い。どのようにして培われた感覚なのか興味深いが……君は教えてはくれないのだろうね。」


 ラズベリィが回避した先に回り込んだラルカンバラは、不敵な笑みを浮かべラズベリィを蹴り飛ばす。


「ぐあっ……ぐっ」


 数メートル転がり引きずられたラズベリィはすぐに立ち上がり、ラルカンバラの方へと顔を上げる。しかしそこに奴は見当たらず辺りをキョロキョロと見回した。


「どっ……どこだ!!どこにいる!?」

「全く、それはこっちのセリフだが。」

「ひっ……」


 ラズベリィの目の前に姿を現したラルカンバラは、怯んだラズベリィの首を掴み持ち上げる。その顔からは一切の笑みが消え、憎悪に塗れた顔でラズベリィを睨みつける。


「今、怯えたか?」

「……離してッ!」

「今、お前は俺に怯えたな?」

「そんなわけ……」

「俺に怯えて、自慢のセンスが鈍ったのだ。だから俺を見失い、さらに俺に怯え、こうして無様に捕まる羽目になった。」

「ぐ……うううっ」


 ラルカンバラは徐々に左手に力を込め、ラズベリィの首を絞めていく。爪が食い込み、ラズベリィの首から血が流れる。その様子を見ながらラルカンバラはため息をひとつつき、少しだけ左手の力を緩めた。


「まあいい、それよりも本題だ。もう一人の女はどこだ?」

「もう……一人?」


 解放されたラズベリィはラルカンバラの言葉を聞き、改めて辺りを見回す。木が何本も焼け焦げた大きな広場には、彼女ら二人と力尽きた飛竜の他には何者も存在していなかった。


「まさか俺が逃がしたと?しかしいつの間に……」

「フ、フフフ……」


 神妙な顔で余裕を無くすラルカンバラとは対照的に笑みを浮かべたラズベリィ。


「何がおかしい?」

「逃げてくれたなら好都合。お前の目的は果たされないというわけだ!」


 ラズベリィは刀を投げ捨てラルカンバラの腹部目掛けて突進する。


「なっ……」

「いくらお前でも、不意打ちには弱いみたいだな!」


 ラズベリィの体当たりをまともに食らったラルカンバラは、思わずよろめきながら数歩後退する。ラズベリィはそのまま間合いを取りながら再び太刀を拾い、その勢いのまま刀を振り回しラルカンバラを横薙ぎに斬りつける。


「チッ!」


 ラルカンバラはなんとか飛び上がって攻撃を回避する。その表情からはそれまでの余裕が完全に消え失せていた。


「ハァ、ハァ……」

「随分と、いい表情になってきたわね」


 ラズベリィはそう言いながら、ラルカンバラに追撃をするべく間合いを詰める。その瞬間、


「うっ!?」


 視界に映る違和感に、反射的に首を捻ったラズベリィ。しかし勢いを止めきることはできず、左の目尻の少し下に切り傷ができる。ラズベリィは流したその勢いのまま地面を転がり、その違和感の正体を確認する。それは……何もない空間に刀の刃先が浮かんでいる、異様な光景がそこにあった。


「亜空間魔法……」

「見えたかね?」

「……」

「これは青眼の構えと呼ぶらしい。君ほど剣に精通するものならよく知っているだろう?相手の目に切っ先を合わせたこの構えに突っ込むことが如何に無謀か……君の方がよく知っているのではないかね。」


 ラルカンバラはそう言い、刀を亜空間へと再び収納する。左頬を伝う血の涙を指で払い除けながら、ラズベリィは一歩後退する。その瞬間、


「今のを見ても、間合いを取る方が有利だとそう思うのかね?」

「ぐっ……」


 ラルカンバラの言葉と共に、地面から生えた刀がラズベリィの右の腿を貫いた。たまらずその場に蹲るラズベリィの元へ、刀をしまったラルカンバラが喋りながら近付く。


「初撃を躱したのは流石だと思っていたのだ。君ほどの使い手でなければ、あの見えない一撃で目と脳を貫いて終わりだっただろう。」

「黙れ……」

「だがその巨大な刀の所為で、君は自分が射程で有利に立っているとそう思い込んだのだ。俺の亜空間魔法の前には有限の射程などなんの意味も持たないことを、恐怖で失念していたのだ。」

「黙れッ!恐怖なんて、我には……」

「だが今君はこうして這いつくばっている。この結果は先程君を捕まえたあの瞬間、君が俺に恐怖した瞬間から決まっていたのだよ……君がどんなに否定しようと、この結果は揺るぐことはない。」


 ラルカンバラはそう言うと、手のひらの上に亜空間魔法を展開する。


「悲しむことはないさ。君は強かった……だから、褒美として俺が直々に斬ってやるのだ。」

「……ッ!!」


 ラズベリィは恐怖のあまり思わず目を閉じる。しかしラルカンバラの刀は彼女へ振り下ろされることはなかった。


「バカな……刀はどこへ!?」

「お探しのモノはこれかい?」


 ラズベリィはその声に反応し目を開く。ラズベリィとラルカンバラの間に割って入るように立ちはだかったルリが、それまでラズベリィを斬りつけていた刀で男の胸を貫いていた。


「アンタ……逃げたはずじゃ!」

「全く、ずっといたわよ……それはあとから説明するから、今はトドメを。」


 ルリはそう言い、刀を無造作に引き抜いた。ラルカンバラは魂が抜けたような形相で、ルリを凝視していた。

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