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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.42 Bランク昇格への試練⑦

 中二のとき、習っていた野球を辞めた。

 私とレーナは、地元では有名な女子バッテリーだった。早めに来た成長期のおかげで、当時はそこいらの男子相手でも簡単に打たれる気はしていなかった。

 中二の春、とある試合の後で私はレーナに言った。


「わたし、野球辞めるわ。」

「え……」


 レーナは予想だにしていなかったといった様子で、私を見つめた。そして私の肩を掴み、心配するような面持ちで言った。


「今日、打たれたから……?」

「まあ、そんなとこ。」


 この日のスコアは12-1だった。私は2回途中で9失点。打撃もからっきしで5回コールドが成立した試合だった。それでもレーナは、私の手を取り言う。


「今日は調子悪かっただけだよ!ストレートも変化球もいつもの調子なら、あんなに簡単に打たれないから!」

「打たれるよ。特にこれから、二年三年って上がっていくにつれて……男子には勝てなくなっていくんだよ。」

「そんなことない……」

「あるのよ。小学校のときにいた子達、もうみんな辞めちゃったでしょ。残った女子は私たちだけ。みんなこうやって、広がる一方の格差を感じて辞めていったのよ。」


 私はレーナの手を払い、荷物を片付けていく。レーナの顔は、意図的に見ないようにしていた。


「……嘘よ。アンタまたなんか変なものに影響されちゃったんでしょ!試合前に何見たのよ!!」

「……」


 私は何も言わず、荷物をまとめてショルダーバッグを右肩にかける。レーナはそれを見て反射的にショルダーバッグの紐を掴んだ。


「アンタ!!なんで右肩にかけてるのよ!!」

「離してよ。もうレーナには関係ないでしょ。」

「痛ッ!」


 私は無理やりレーナを振り切り、ロッカールームから出るべくドアノブに手をかけた。その際に思ったより強くレーナを突き飛ばしてしまい、私は思わず後ろを振り返る。レーナは目に涙を浮かべながら、私を睨みつけていた。


「私は逃げないから。男子からも、野球からも。アンタみたいに……約束放り出して、逃げたりなんかしないから!!」

「……監督にも、言ってくるわ。」


 私は逃げるようにその場を去り、その日限りで野球を辞めた。この一年後、レーナはチームを全国ベスト4へと導いた女子キャッチャーとして話題を集めるが、それはまた別の話。


 本当は、違う理由があった。辞める理由が嘘だというレーナの指摘は正しかった。

 私がチームを去る三日ほど前に、とあるプロ野球選手が大怪我をした。全力プレーを売りにし、力と力の真っ向勝負を好む実直な性格のピッチャーであった。贔屓にしている球団の選手というわけではなく、ライバル球団……それも元々は違うリーグで活躍していた選手の、痛ましいニュースであった。私はその怪我の瞬間を、たまたまネットの映像で見てしまっていた。


「え……靭帯……?」


 一人のピッチャーが投球後にマウンドで肘を抑えながら蹲るその映像は、私の中で小さく燃えていた不安の炎を煽るのには十分であった。


(全力プレーの結果がこんな、こんな惨めな……)


 肩を担がれてながらマウンドを去るそのピッチャーの後ろ姿は、私のトラウマとして永久に刻み込まれていた。結果の伴わない全力プレーを恐れ、それならば初めから全力なんて出さなければ良いと、最悪の自己保身をした私はこのとき、既に野球を辞めようと決断していたのである。



「打たれても、全力じゃないから。間違えても、本気じゃなかったから。本気で……全力でやんなかったら成長なんてあるわけないのに、我ながら酷い考え方だ。それで本気の取り組み方を忘れちゃうんだから、本末転倒よね。」


 ラルカンバラに気絶させられていた私は、走馬灯として流れる過去の自分を見ながらそう呟いた。意識を失う直前戦闘に割って入った闖入者を思い出し、それがなければあっさりと殺されていた自分の情けなさに苛立ちが募る。


「何が大人よ……自分で言ったことも為せないなんて、結局惨めなままじゃないか。」


 昂る感情のまま心の臓が熱く滾るのを感じる。高熱を帯びた魔力が血とともに全身を走る。私はその感覚に身を任せながら、それをヒントにひとつの魔法を思いつく。


「変化魔法……いいや、これは……必ずしも攻撃魔法とは、敵に放つだけではないのではないか?」


 私はそう呟きながら、胸元に右手をそっと置く。そしてそのまま魔力を右手に集中させながら、ひとつの魔法を起動した。


「羽々長け!―――」

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