Ep.41 Bランク昇格への試練⑥
「……なかなか、しぶといじゃないか」
炎に包まれる森の広場で、私を散々いたぶった男―ラルカンバラ・ネオワイズは言った。何度も殴られ、地面を転がされ、終いにはもう痛みも希望すらも感じることもなくなった私は、その度に気力だけで立ち続けていた。
「こんなものじゃ、折れないわよ……」
「立派な心根だ。だがどうだね?本気で足止めをするつもりでここに留まるとそう言っていたが……実際何分もったというのかね。」
「何分……知らないけど、私を倒しきる前にそんなことを言っても意味はないでしょう。」
「倒しきる必要がどこにあるんだい?このまま俺とコイツがこの場を離れても、君はそれを止める術を持たないだろう。だから、もう君に足止めはできない……。」
「だめ、逃がさない……」
ラルカンバラ達の逃走を察知した私はそれを止めるべく前に進もうとする。しかし足がついて来ず、前方に転けてしまった。私がすぐさま立ち上がろうとした瞬間、
「いっ……!」
私の背中に、飛竜の爪が刺さる。しかしそれは命を刈り取る攻撃のためのものではなく、私の命を質として押さえつけ貫く準備のためのものであった。
「別に逃げやしねぇよ……今俺が興味あンのは、お前なんだからよォ」
「え……」
「なぁアンタ、どこの人間だ?ルリとか言ったが、南の人間にしちゃ戦い慣れしてなさすぎるぜ。」
「!!」
しゃがみこんで私の顔を覗き込むように見つめてきたラルカンバラの質問に、私は思わず動揺を見せる。しかしすぐに取り繕い、強がりながら言い放つ。
「教えない。」
「それさ、もう答え言っているようなもんだぜ。まあいい、次。お前さ、変な体質あるだろ。リィワンから聞いたぜ。」
「……知らない!知っててもアンタに言うわけないでしょう!」
「意味のない問答はやめようぜ。リィワンから聞いたって言ってるだろ。だからさっき女王で例え話をしたんだからさァ。」
ラルカンバラはやれやれといった様子で肩を竦め、首を振る。それを見ていた飛竜の爪に力が入っていく。
「ぐっ……う、ううううう……」
「あんまりつまらない回答続けられると、腹に穴空いちゃうから気をつけなよ。そんじゃ続けるぜ。お前のその魔力が見えるとかいう目、それだけじゃないだろ。お前の体質、全部吐けよ。」
「え……全、部……?」
「とぼけんなよ。さっきの俺のリンチ、途中から痛みが消えていただろ。それ、なんだよ。魔力が見えるだけの人間がそんなことできるわけないだろ。」
ラルカンバラの疑念の声と共に、飛竜の爪の力が上がっていく。私は悲鳴をあげながら、命からがら否定する。
「しらっ……知らない!!ぐぅっ……わ、私だって急に、こんな魔力が見えるようになって、そんな体質のこと、詳しく調べる時間もなかったし、知らないわよ!」
「……」
「がぁっ……うああああああっ!!」
鋭い眼光で私を見つめるラルカンバラの前、私は強く押し付けられた飛竜の爪の痛みに苦しみ悶える。あまりの痛みに悲鳴の声も枯れ始めたその時、ラルカンバラが手で飛竜に合図する。
「ハァッ!ハァッ!!」
「……最後のは、どうも嘘ではねェな。だったらそれでいい。本題に入るとしよう。」
「本題……?」
ラルカンバラはそういうと、ニヤリと笑みを浮かべ私の顎をグイッと引き込みながら言った。
「アンタ、気に入ったぜ。俺の女になれ。」
「え……」
「特殊な出自、特殊な目、特殊な体質……俺の研究のためにこれ以上ない理想の女だ。身寄りもないならなお都合が良い!ネオワイズ盗賊団にはそういう人間で構成されているからな。」
「研究……?」
「さっきも言っただろう?魔力の質による人間の進化についてさ。人間、魔族、竜族、そしてその他のどの種族でもそうだが、魔力の適性については完全なる理想状態が存在するのだ。」
ラルカンバラは一層笑顔になりながら嬉々として語り始める。私は呼吸を整えながら、ぼんやりとした意識でラルカンバラの声を聞いていた。
「その理想状態を、俺は『中庸』と呼んだ。それは一切の質の適性を超越し、一切の禁忌の質を持たず、質の適性のいずれかに傾くことはない完全たる魔の化身と成る。そしてその中庸たる存在が、現在たった一例だけ存在する……それが現魔王『強欲と破壊の堕天使』なのだ。」
「魔王……ネームレス……」
「俺は力を渇望した!だが25年前、あの女に先を越されてしまった。あれは魔族の血と人間の血、そして特殊な体質と出自が起こした奇跡であることは既に突き止めている……だから、俺は特殊な体質と出自を持つお前が欲しいのだ。」
顎を掴まれ、無理やり目を合わせられながら朦朧としていた意識の中で話を聞いていた私は、ラルカンバラの手を掴み、無理やり引き剥がした。ラルカンバラの顔から感情が消えるのを確認し、私は吠えた。
「お断りよ!!アンタなんかに力を貸すわけないじゃない!!!」
「……どうも、勘違いをしているようだね。」
ラルカンバラはそう言うと、飛竜に目配せをする。飛竜の爪が私の背中に深々と食い込み、体を押し潰していく。
「うぎゃぁぁぁぁ……」
「君の生死はどうだっていいんだ。君の意志が素直に従わないと言うなら仕方がない、物言わぬ屍へと処理してから持ち帰るとしよう。」
体組織を飛竜の爪先がブチブチと斬り潰す。その音を耳にしながら私は意識を手放そうとしていた。その瞬間、
「グオオオオッッ!!」
横薙ぎの何かが、私の上を通過し飛竜とラルカンバラを襲う。咄嗟に間合いを取るラルカンバラ。しかし飛竜は反応が遅れ、巨大な爪を一本切り落とされてしまった。
「なんだ!?」
「森を焼く咎人よ、我が刀の前に散れ。」
燃え盛る森の奥から、右目を隠す白髪が特徴的な背の低い少女が現れた。140cmほどしかない体格に似つかわしくない5メートル超の大太刀を担いだその少女は、私を庇うように立ちはだかる。私はそれを見届けたところで意識を失ってしまった。




