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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.39 Bランク昇格への試練④

「グオオオオッ!!!」

「くぅっ……」


 飛竜エイラの叫び声が一帯に轟く。遺跡の壁面のあちこちにヒビが入り、崩れ去るのは時間の問題だった。


「とにかく一度、外の広場に出よう。このままだとボクら、アイツら諸共瓦礫で生き埋めだ!」

「……」

「ルリ!!」


 私は立ち止まったまま、エイラから目が離せないでいた。かの竜は割れんばかりに叫び、溢れんばかりの魔力を撒き散らすように暴れていた。崩れる遺跡の瓦礫がその鱗を引き裂こうとも、エイラは暴れ続けていた。私にはそれが……生にしがみつく必死の抵抗に見えてならなかった。

 涙が一筋、頬を走る。強張り小刻みに震えていた肩を掴み、レイズは私を正気に引き戻した。


「ルリ……エイラさんはもう、死んだんだ。」

「わかってる……わかってるから。」

「わかってない!だから早く逃げるの!」

「……」


 レイズに引っ張られるように、私は踵を返し遺跡の入口へと走った。どういうわけかラルカンバラはそれ以上追ってくることはなく、私たちは遺跡の外へと飛び出した。レイズはそのまま広場を囲う森の中に潜みながら、カバンから魔道具を取り出して操作し始める。


「はい、レイズ一行です……はい、えと、ネオワイズ盗賊団の妨害につき探索の続行が不可能です。はい、生存者だけで戻ります。はい……すみません。」


 レイズはその通信機のような魔道具を口元に添えて、報告するように言う。私は広場で尻もちをついたまま、遺跡の方をずっと睨むように見つめていた。


「ルリ!森から出るよ!!」

「……私はいいわ。二人で逃げてちょうだい。」


 私は大きく息を吐きながらそう言って立ち上がり、おしりについた土をパンパンと払う。レイズは信じられないといった表情で私を見つめる。


「馬鹿言わないでよ!死ぬ気なの!?」

「このまま私たち三人が逃げれば、ドラゴンもあの男も追いかけてザイリェンにまで到達してしまうでしょ。だから私は残る。残って食い止める。」

「だったら、ボクも残って……」

「それはダメ。こういうのは大人の仕事よ。子供のアンタ達には任せられ……」


 パァンと、乾いた音が広場にこだまする。レイズの平手打ちを受け、私は思わず少しだけ俯いた。レイズのいつになく真剣な眼差しが、頬の痛みを加速させる。


「くだらない!今大人か子供かなんて気にする場合じゃないでしょ!大人だろうが子供だろうが竜族なんか相手にしたらただじゃすまないのよ!!ボク達が命をかけるタイミングは、今じゃないでしょ!!」

「……そうね、アンタが正しいわ、レイズ。」

「だったら……」

「だから、子供のアンタはここに居てはいけないって言ってるのよ。」


 私はそう言い、レイズに背を向け再び遺跡を睨みつける。


「ルリのバカ!!もう知らないから!!!」


 レイズの罵声を背中に受け、私はナイフをゆっくりと構えた。徐々に遠ざかる二人の足音を聞きながら、私は深呼吸をして備えていた。


「ネオワイズ盗賊団……」


 思えばアルマストからその名を聞いたあの日から、自分の不甲斐なさを痛感する毎日だ。いや、この世界に来て魔力が見えるだなんて持て囃されていただけで、自分を過大評価していただけだったんだ。Bランクへの昇格試験は、その事実を認識しなおすためにアルマストが用意したものだったのだ。


「……ムカつく。」


 湧き上がる感情のまま口走った呟きが、やたらと脳内をリフレインする。弱い、不甲斐ない、何も守れない、思考が負のスパイラルに取り込まれていき、私はギリギリと歯を食いしばる。その時、私の脳裏にふと一人の女が思い浮かぶ。


「逃げなさいよ、ライカのときみたいに。」

「……邪魔しないでよ、レーナ。」

「事故死だと結論付け、園が説明責任を放棄するために貴女を辞めさせたあの時みたいに、逃げればいいじゃないのよ。」

「馬鹿ね。だから逃げたくないのよ、もう。」


 私の言葉を聞いたレーナは、鬼の形相で私を睨みつける。暫くお互いに沈黙が続き、根負けしたレーナが去っていった。


「それに、王都の件もあの男が関わっているなら、一発殴ってやらなきゃ気が済まないもの。」


 私がそう呟いた瞬間、それまでとは比較にならないほどの地鳴りが広場全体を襲う。それと同時に、遺跡は完全に崩れ去ってしまった。


「君たちはもう少し賢い生き方をすると思っていたが……まさか、見捨てられたのかね?」


 崩壊する遺跡から姿を現したラルカンバラが、私を挑発する。私は奴を睨みつけながら、ナイフに魔力を通した。


「当たらずも遠からず、かな?」

「三人が一斉に逃げてしまったら、あなた達がどこで何をするか分からなくなるでしょう。亜空間魔法とやらを使うのなら尚更。どこかの街が襲われて人が大勢死ぬなんてことが起こりうる。」

「なるほど……それで君が一人だけ、囮として残ったというわけだ。」


 ラルカンバラは納得したように目を細める。その直後、奴はニヤリと勝ち誇るように言葉を続けた。


「だが愚かだ。囮戦法で時間を稼ぐことが目的ならば、こちらに二人残すべきであろう!竜と俺を相手にして時間を稼ぐのが君一人では、あまりに不相応じゃないかね?」

「アッハッハッハ!」


 ラルカンバラの問いに、込み上げた笑いで私は答えた。ラルカンバラの浮かべた笑みは消え、奴は苦々しい様相で私を見つめていた。


「馬鹿ね。あの二人はまだ子供なの。こんな馬鹿げた自殺行為に子供の未来を犠牲にさせるわけないじゃない。命を張るのは大人の仕事、鉄砲玉は私以外じゃ役不足なのよ!」


 ラルカンバラに向かって啖呵を切り、私は天火燦蚕(ザ・サン)を発動した。

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