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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第一章 教育方針の反りが合わないなんてのは、異世界だって同じことで
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Ep.2 鷹が鳶を生んじゃうことだってよくある②

「ごちそうさま!!」


 リッサの元気な挨拶が部屋中に響く。スイーツを平らげ膨れたお腹をポンポンと鳴らし、リラックスしきった顔で寛いでいる。レイズは苦笑しながら話を進めた。


「それじゃ、改めて紹介するね。新メンバーのルリさん!二人とも仲良くしてね!」

「はじめまして、アイバラ・ルリです。これからよろしくお願いします。」


 私はそう挨拶をし、リッサとルガルに向けて手を差し出した。しかし二人ともぽかんと口を開け呆けたような表情をしている。しまった、握手とかそういう文化のない世界だろうか……私がそう思って弁明しようと口を開きかけると、二人はレイズに詰め寄るように声を上げた。


「ちょっとリーダー、どういうつもり!?」

「あのギルマスに何を吹き込まれたんですか?」

「ギクッ!」


 一斉に図星を突かれ、天敵を前にした小動物のように縮み上がるレイズ。レイズは二人に許しを乞うような目線を送りながら呟く。


「な、なんで……」

「いくら新人とはいえ、あんな魔法を使う人が私たちみたいな底辺パーティーに加入するなんて、誰だって裏があると思うに決まってるわよ!」


 リッサの耳が痛い正論に、ルガルが強く頷いている。やはりアレはやりすぎだったのか……と、私は改めて事の重大さを思い知った。レイズは頭を抱え、やがて観念したかのようにため息を一つつき、


「分かった、全部話すよ……いいよね?ルリ。」

「……まぁ、二人には知る権利があるだろうしね。」


 そう言って、二人に全てを打ち明けた。ギルドの修理費を借金したこと、そして私が異世界から来た存在であり、元の世界へ帰るまでの生活基盤としてこのパーティーで活動させてもらうこと……。二人は黙って話を聞いていたが、その表情は険しく必ずしも快く思っていないようだ。レイズが話し終わると同時に、ルガルが口を開く。


「借金って、僕たちは何もしてないじゃん!ルリさんとクライスが暴れただけで……」

「それでなんで、私たちが借金を返さないといけないわけ?」

「元はといえば、ボクとクライスの口論から始まった話だ、ボクも支払う義務がある。だから、二人には今まで通りの報酬を払って、残りのボクの取り分から少しずつ返済していくことにするよ。」

「そんなの、完済まで何年かかると……」

「そう。だから冒険者ランクを上げるんだ。魔法の使えない万年Aランクの底辺冒険者じゃなくって、実力と実績を兼ね備えた……皆に尊敬されるような冒険者になるんだよ!」


 レイズは目を輝かせながら二人を説得する。二人は後ろめたそうに目を逸らしているが、レイズは気にせず私の肩をぽんと叩き話し続ける。


「ルリはきっと、ボク達を憐れんだ神様からの贈り物なんだよ!このチャンスは逃すわけにはいかないんだ!リッサもルガルも、あれだけ実家を見返したいって言ってたじゃないか……」

「レイズ、その辺にしな。」

「えっ……」

「二人がどんな顔して聞いてるか、よく見てよ。」


 興奮し口を動かし続けるレイズの腕を払い、私はそう言った。皆の過去の話は分からないが、レイズが実家と言った瞬間泣きそうになったリッサとルガルを見るにそれなりの事情があるのだろう……とにかく、全員の地雷を揃って踏み抜いたレイズは止めなければいけなかった。レイズはリッサとルガルの顔を交互に見ると恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしながら、


「……ごめん」


 と呟き、椅子に座った。暫し痛い沈黙が続き、無理やりにでも事態を前に進めるべく何か依頼を受けないかと私が提案しかけた瞬間、左隣で俯くルガルが口を開いた。


「ルリさん。」

「……なんだい?」

「僕のパパは、魔王を倒した英雄なんだ。」

「えぇっ!?」

「でもね、血筋のせいで普通の魔法が使えない……僕も同じ。僕はそれが嫌だったんだ。英雄の子供として期待されることも、魔法が使えないことも。だから、パパにも使用人にも黙ってここに来て、僕の力だけで冒険者として成功して生きてやるって思ったんだ。」


 私は黙ってルガルの独白を聞いていた。普段ならこれくらいの年頃の少年によくあるような、男親への反骨心の萌芽だと断ずるような話ではあった。しかし、少年の瞳からはちきれんばかりに湛えられた挫折と無念の雫が、私にそれを禁じた。私は懐から布を取り出し、ルガルにそっと差し出す。


「超えたいんだね、すごいお父さんを。」

「……うん。だからお願い、もしルリさんがリーダーの言う通りすごい人なら……いや、ルリさんみたいなすごい人に、せめてそうなれるように見届けて欲しいんだ。」


 ルガルが決意を秘めた目で私を見上げる。レイズとリッサは顔を真っ赤にしながら手で口を押さえながら見守っている……まるで部外者だ、都合が良すぎるぞ、特に元凶(レイズ)

 生憎私は神の使者とやらではないし彼らの救世主でもなんでもない。私はふうとため息を一つつきルガルの頭を撫で口を開く。


「そんな高級な口説き文句は、私にはもったいないよ。」

「え……?」

「もともと私には行く宛てがないんだ。二人に異論がないなら私が断る理由なんてない。」

「それじゃ……!」

「これからよろしくね……リッサ、ルガル。」

「はい!」


 ルガルは勢いよく返事をし、私の腕を掴み勢いよく上下にシェイクする。リッサも


「べ、別に私はまだ認めたわけじゃないから……」


 と言いながら、そっと握手を交わしてくれた。

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