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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.37 Bランク昇格への試練②

 遺跡に入りしばしの時間が経過した。私達一行にルバラを加えた五人は遺跡の壁面や床をひとつひとつ確かめながら奥に進んでいく。


「ルバラさん、ここって……?」

「ああ、それはだな……」


 ルバラという男は古代言語にも精通しているようで、遺跡に書かれている文章をエイラさんと二人で次々と翻訳している。先程彼はオルデアの学術機関の人間だと言っていたが、どうやら大嘘というわけでもなさそうだ。


「竜の力たる源泉、ここに封ず……だな。どうやらここは竜族に関わる遺跡らしい。」

「竜族……って、ルガルくんを連れ去ったあの女の!」

「連れ去った?何かワケがありそうな話だな。」

「ええ、まあね……」


 真剣な面持ちで呟くルバラに、私は思わず言葉を濁す。竜族という単語に動揺したとはいえ、ついさっき知り合ったような男にべらべらと喋るような話でもない、どう誤魔化したものか……と逡巡する私にレイズが助け舟を出すがごとくルバラに尋ねた。


「竜族……って、結局なんなんですか?魔族の上位種?先祖?みたいな存在としか知らないんですけど。」

「はは、竜族と魔族は全くの別物だよ。竜族はかつて地上を魔族と二分して統治し、神に挑んで敗れた者たちだ。生き残りのほとんどが封印されたと伝えられるが……どうやら、封印を免れた奴らが居たらしい。」

「それじゃこの遺跡は、その竜族を封印している遺跡ということかしら?」

「半分正解……かな。」


 ルバラはややぼやかすように語る。私は彼の言う半分が何を示すかを考える。とはいえ、先程ルバラの翻訳した文章を鑑みるに……


「竜族そのものじゃなくて、竜族の力に関わる何かを封印している、ってことか。」

「ま、合格かな。ここは恐らく"竜脈の楔"だ。」

「竜脈の楔……」


 私は聞き馴染みのないその単語を思わず復唱する。竜脈……私の知識にあるそれは風水用語としてのものだが、それはあくまで竜が伝説上の生き物である地球だから名付けられたものだ。竜族なるものが実在しているこっちの世界だと意味のある名付けのはず。そして、楔とは打ち付けて固定するもの。


「つまり、竜脈という竜族のエネルギー源になるものをこの場に留める……ということ?」

「概ね、その認識でよろしいです。」

「エイラ!」


 二手に分かれて別の区域を探索していたエイラとリッサが戻り、背後からそう声をかける。エイラはそのまま言葉を続ける。


「竜脈はこの世界の大地に満ち、流れ続ける特殊な魔力の流れです。古の竜族はそれを供給することによって強大な力を生み出し、神々に抗ったとされています。」

「……なるほど、それに楔を打ち込んだということは、流れを滞留させ竜族から力を奪ったということか。」

「その通りです。そうして弱体化した竜族を封印していったというのが歴史の流れです。なので……」


 エイラはそう語りながら鎌を構え、ルバラの首へと突きつける。あまりに唐突な出来事に四人は反応する暇もなかった。


「アンタ、そろそろ正体を明かしなさい。」

「ちょ、ちょっと待ってよ。今の話の流れで一体なんでルバラさんの正体の話になるんだ?」


 私はエイラに向き合い尋ねる。エイラはルバラを睨め付けたまま私に目線を向けることなく質問に答える。


「竜脈の滞留が竜族の力の封印である以上、楔であるこの遺跡は竜そのものを封印する遺跡よりも重要度が高いです。楔が全て外れてしまったら、奴らは封印を内側から破り地上へと出てきてしまう可能性が高いですから。そんな遺跡に正体不明の男を連れて歩けるわけがありません!」


 エイラはそういうと、ルバラの首元に鎌をかけた状態で力を込める。そのまま首を刎ねるべく鎌を引く……しかし、鎌は首を斬り裂くことはできなかった。


「なっ……」


 柔らかな皮膚を一枚隔てた先の凄まじい硬度の物質に完全に受け止められる感触に、エイラは戸惑う。そのエイラと対照的に、ルバラは満面の笑みを浮かべていた。


「素晴らしい警戒心だね。誇るべきだよ……人間としての感情が残っている、今のうちに。」

「危ない!!」


 突如、エイラの頭上に瓦礫が降り注ぐ。私の呼びかけに反応したエイラはバックステップでこれを躱し、ルバラと距離を取る。私は瓦礫が落ちてきた天井を思いっきり睨め付けるが、天井には瓦礫が落ちそうな様子すらなかった。


「一体どこから……!?」

「奴が落としたのでしょう……恐らく、転移系の魔法か何かを使ったのです。」

「ブッブー」


 エイラの考察を聞いたルバラが、わざとらしく口を尖らせ実に腹立たしいアホ面で否定する。どうやらエイラも少し頭に来たようで、ムッとした顔でルバラを睨む。


「おお、怖い怖い……昔王女サマ達を転移させるために使ったこともあるし、あながち間違いでもないけどねぇ。でも、本質は違うよ。せっかくだから見せてあげようか。」


 ルバラはそう言い、おもむろに左手を胸の前に突き出し、手のひらを上に向ける。すると彼の手のひらの真上、二十センチほど離れたその空間から、古びた木製の魔道具のようなものが現れた。私、エイラ、レイズの三人がその魔道具の存在に戸惑い言葉を失う中、リッサがぼそりと呟いた。


「あれって、その楔なんじゃ……」

「なっ!」

「ご名答!」


 エイラが慌ててルバラに飛びかかると同時に、ルバラは楔を握りつぶした。


「しまった!」


 封印が破壊されると同時に、遺跡全体に地響きが起こる。あちこちから漏れ続ける魔力の光と立つのがやっとの揺れの中で、私の陰に隠れるように様子を伺っていたレイズが真っ青になりながら言う。


「わ、わかった……今の魔法……」

「え!?」

「あ、亜空間魔法ってやつだよ……物を亜空間に出し入れするっていう、珍しい魔法だよ!」


 物を亜空間に出し入れする魔法……私はそれを聞いて、先程の瓦礫を思い出した。


「なるほど、あの瓦礫はそういう仕組みで……で、アンタは何をそんなに青ざめてるのかしら?」

「……」

「亜空間魔法はその難易度や要求魔力量からまともな使い手はそうそういません。あれほどの量を何の制約もなしに使える人は……滅多にいません。そして何より、とある大罪人が扱う魔法であるから多くの人は忌避したがる魔法でもあります。」


 ガタガタと震えているレイズの代わりに、こちらへ戻っていたエイラが答える。エイラは険しい表情を浮かべながらルバラを見つめ言葉を続けた。


「それらの要素とオルデアの人間であることを合わせるのならば、当てはまる人間は一人しかいません。」

「それって、つまり……」

「はい。あの男はその大罪人そのもの……ネオワイズ盗賊団の団長、ラルカンバラ・ネオワイズです。」

「あー……バレちまったか。」


 突如、ルバラの周囲が魔力の霧のようなものに包まれる。すぐに晴れたその霧から姿を現した男は、先程までの学者のような風体とはまるで正反対の、荒々しい装いでそこに立っていた。

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