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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.36 Bランク昇格への試練①

「妙ね……」


 森の奥深くの遺跡の入口で一人佇む男を見た私は、思わずそう呟いた。エイラはその言葉を聞き逃すことなく、ひそひそ声で私に尋ねる。


「何が妙なのかしら?」

「持っている魔力ね。普通の人がたった一人でここにいるわけないってさっき貴女も言ってたけど、私もそう思ってる。だからずっとアイツの魔力を見ているのだけれど……量も質も普通ね。」

「念の為詳しくお聞きしますが、普通とは?」

「そろそろ私もこの体質に慣れてきたから、魔力を見る前にある程度人の外見で予想がつくようになってきたの。それであの人、見た感じ探検家か何かだと思うのだけれど、見た通りの魔力ね。特別高くも低くもないってわけ。」

「あ、中に入っていきますよ!」


 男の動きを怪しみながら見ていたレイズが、小声ながらも強めの勢いで割って入る。私は男が遺跡内部に入るのを見届けてから、エイラに目線を送り返事を窺う。


「私たちも進みましょう。」

「本当に大丈夫なの?」

「怪しむのも分かりますが、私たちだって調査に来ているわけなんだから進まないと始まらないでしょう。それに……一般人と同じくらいの魔力しかないなら、いくらこの森を通り抜ける何かがあるとしても、それで我々四人をどうにかできるとも思えません。そのために私がいるのですから。」


 エイラはそう言いながら、右耳のピアスにそっと触れる。するとエイラの目の前に紐で繋がれた2本の黒い鎌が現れる。エイラはそれを手に取り構えながら、ゆっくりと一歩ずつ遺跡の入り口へと向かう。


「なるほど。だから暗夜の双月、なのね。鎌を月に見立てたっていう。」

「自称ではないので名付けた方にしか真意は分かりませんが、私はそういう意味だと思っていますよ。それよりも、気を引き締めてください。」

「ええ……もちろん。」


 エイラの警告に私たち三人は息を呑み頷く。慎重に遺跡の入り口付近の壁に取り付いた一行を確認し、先頭を歩いていたエイラが遺跡の内部の様子を伺うべく、頭だけ覗き込む。


「いない……?どういうことだ?」


 エイラは顔を動かし遺跡の内部を見回しながら、怪訝そうに呟いた。どうやら先程遺跡に入った探検家風の男を探しているみたいだが、姿が見えないらしい。


「もう既に奥の方まで進んでいるんじゃないの?」

「入ってから5分程度で光の届かないほど奥まで進む可能性は高くないと思います。一般の探検家なら尚更。」

「私たちに気付いて、どこかに隠れているのかしら?」

「こちらに気付いたかどうかはともかく、身を隠している可能性は高いと思います。ですが、何のために……」

「そもそも、そんな男初めから存在しなかったとか?」

「幻影ですか?この辺りにそんな魔法を使える魔物がいるなら、Aランクの皆様にご依頼なんてするわけないでしょう。」


 私、リッサ、レイズが各々好きなようにエイラに問いかけ、彼女はそれに淡々と対応する。呆れたように答えるエイラの話を聞いていると、ふと列の最後尾から声が聞こえた。


「おいおい、誰が幻だってェ?酷いこと言ってくれるじゃないの、お嬢ちゃん達。」


 女性だけのパーティー(一人は男装中だが)にそぐわぬ、低く年季の入った声……すなわち、不審者及びストーカーの類いを警戒し一行は一斉に後方へ振り返る。


「「「「誰!?」」」」


 そこには、立派な虎髭をたくわえた中年男性……もとい、先程からエイラや私が様子を伺っていた探検家風の格好をした男がいた。


「ガッハッハ!まだまだこんな若い子達に迫られるとは、俺もまだ捨てたもんじゃねえのかもなぁ!」


 男は左手でわざとらしく髪を掻きながら、豪快に笑う。私はふと気になって、男の右手に目をやった。彼の右手には、手首から先がなかった。男はその視線を敏感に察知したようで、私の方に目だけ送り呟く。


「右手、そんなに気になるかい?」

「えっ」

「大方、ろくな武器も魔力もないのになんで隻腕の男がたった一人でこんなところに……って思ってんだろ?」

「……逆よ、その装備でここまで一人で来られるってことはそれが貴方の実力の証左。そんな奴に背後を取られたのだから、警戒するに決まってるじゃない。」

「フゥン……それ、俺に直接言うことじゃないと思うけどね。まあいいや、その可愛らしい一面に免じて自己紹介してあげよう。」

「なっ……」


 男は突然荷物をまさぐりはじめ、薄いカードケースのようなものを取り出した。指先で器用にケースを展開し、中にあるカードを四枚取り出し、一人にひとつずつ差し出した。


「オルデア魔法技術総合学会、考古学科……の調査員、ルバラ・ニューズさん?って書いてるよ」

「こんな名刺……」

「ふぅん。君は名刺、わかるんだ。」

「え……」


 予想外のところに食いつかれ、私は思わず目を逸らしながら狼狽える。ルバラと名乗ったその男は私に底知れないほど黒い瞳を向けながら、ゆっくりと歩み寄る。


「こんな名刺なんて文化、いろんな街を見てきたけどオルデアくらいなもんだよ。ま、普通は自己紹介程度で使うには紙はもったいないもんね。だからさ、あんた、もしかして……」


 私はダラダラと冷や汗を垂れ流しながら、ルバラの後ろで私と向かい合うように並んでいる三人に助けを求めるべく目で訴える。しかし、


(なんでこんなときにポンコツなんでしょうかこの人は)

(無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!)

(誤魔化して!お願い!!)


 それぞれの顔にそう断られてしまった。頼るものもなく完全な絶望のもと、私はルバラの言葉を祈りながら待った。


「もしかして、オルデア出身なのか?」

「えぇ?」

「だって、オルデア特有の文化を知ってるってことだろ?あいや、出身じゃなくても……オルデアで仕事とかしてるだけかもしれねぇか。だけどよ、いずれにしてもオルデアの縁者だってことだろ?」

「え、ええ、ハイ。そうです。」

「やっぱそうかァ!いや、こんな所でオルデアの人に会えるなんて思ってなくてさ!探索終わったら一杯飲もうぜ!あの店でさァ!!」

「うん……そうね、うん、あの店……うん、そうそう……いいわね。飲もうね……」


 ルバラに肩を組まれながら萎縮する私。なぜか切り抜けられたこの状況のまま、私たちは遺跡へと足を踏み入れた。

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