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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.35 藁にも縋る思いで、縋る藁を手で探る④

 森に入り5時間ほど経過した。既に日は高く登り、私たちは移動しながら簡単に食事を済ませる。


「む、美味い」

「ホント?よかった!今までリッサとルガル以外に食べさせたことがなくってさぁ。」


 この携行食はレイズが用意してきた物だ。日本でもよく見かけるような棒状のものに、レイズ自身が用意したのであろう薬草を何種類か潰して練り込んである。この薬草の効き目がなかなかのもので、ここまで魔物を倒しながら森を進んできた疲労があっさりと解消したのであった。その効果に一番反応を示したのはエイラであった。


「これは……一体どんな薬草を使えば、ここまでの物が?」

「ザイリェン郊外で取ったり、ザイリェンで買った物しか使ってないよ。まあかなり質のいい物を選ばなきゃダメだけど、ボクそういうの得意だからさ。」

「……得意だって仰るなら、そっちで生計を立てたらよろしいのでは?」


 エイラは憐れみを込めるように言う。レイズはそれを聞き、自嘲気味に笑った。


「あ……はは、やっぱそう言われるよね。」

「まあ採集も立派な冒険者の仕事ですから、そういう眼力があるに越したことはありませんが……、命を張る拠り所にしては弱いと思いますよ。」

「分かってますよ。冒険者に向いてないってことくらい……」


 レイズがエイラから目を逸らしながらそう言う。しかしエイラはやれやれと首を振り、再びレイズへと告げる。


「高ランクの依頼ですと、こういった危険地帯で何日も過ごすことがあります。そのために必要な補給物資を運搬する人員が、ギルドからも割かれています。」

「だから、高ランクの冒険者……具体的にはGより上の人達は、なかなか街には帰って来れないんだろ?それは聞いたことあるよ。」

「いいえ、今は補給要員の話をしています。後方部隊ゆえ命に関わるようなことはさほど多くないですが、それ以上に無傷で帰ってくることも少ない部隊です。現状ザイリェンでは、その部隊の編成にギルド職員までも駆り出されています。」

「人数不足、ってことね。」


 エイラは反応した私をチラリと見て、軽く頷いた。私はエイラのその態度に呆れながら言葉を続ける。


「だからレイズに、向いてない冒険者よりも才能もあって周りから必要とされる補給班を勧めようとしてる。そうなんでしょう?」

「……はい。その通りです。」


 エイラは背を向けたまま、ボソリと呟いた。


「と、とりあえず薬草のお茶もあるからさ、2人ともそれ飲んで落ち着こうよ?」


 空気の悪さを察したレイズがどこからともなくカップを取り出し、カバンから水筒を取り出してお茶を注ぐ。そのうちの片方を持ちエイラの隣へと進み、言葉を続けた。


「エイラさんの気持ちは嬉しいし、ギルドのスタッフさんもいつも忙しそうなのは分かってるから、ボクが力添えできることがあるならなんでもするからさ。でも、ボクは冒険者を……」

「分かっていません。」


 エイラはレイズの言葉を遮り、強く断じた。立ち上がり振り返ったその顔はこれまでの事務的な表情とは異なり、目を大きく開きながら彼女は訴える。


「貴方たち冒険者は、分かっていません!人手不足で危険なところへ連れて行かれる同僚が、毎度毎度怪我を負って帰ってくることがどんなに苦しいか。治療中の彼の元へお見舞いに向かったときに……迷惑かけて申し訳ないと謝られることが、どんなにやるせないかっ……」


 鬼のようであったエイラの顔は悲痛に歪み、虚しく握りしめた拳はゆっくりと無力感のままこじ開けられる。三人はエイラの嘆く声を黙って受け止めていた。


「だから貴女は、冒険者を辞めたの?」

「も、元冒険者!?」


 沈黙を破ったのは、リッサであった。エイラが元冒険者という初耳の情報に、私は驚きのあまりリッサに迫る。


「ルリ、近い……」

「え、ああ、ごめんね。」

「『暗夜の双月』って、ザイリェンじゃ有名だと思ってたんだけどね。Fランクまでザイリェン史上最速で辿り着いた伝説的冒険者だよ。4年前、Gランク目前ってときに急に引退したのは驚いたけどね。」

「リッサ、なかなか詳しいね……」


 私はリッサの知識量に苦笑しながら、改めてエイラの方へと向く。エイラはじっと私を見つめたまま、少しだけ頷いた。


「貴女の伝説は知らないし想いも正直分かってあげられないわ……でも、貴女を待ってくれている人が居るように、私たちを待ち続けている子がこの道の先にいるの。もちろんレイズにも本人がやりたいと考える意思だってある。だから今はそれも全部どかして、この道を歩かせて貰えないかしら?」

「……」


 エイラは黙ったまま荷物を抱え、そのまま進行方向へと再び歩み始める。そこへ私、レイズ、リッサが続いた。

 それから30分も歩かないうちに、大きな広場が目の前に広がっていた。


「ここが……」

「はい。この度探索する遺跡でございます。」


 鬱蒼と茂った森とは異なり、背の高い木が明らかに数を減らしていたその広場には、苔むした巨大な石の遺跡が佇んでいた。レイズはその遺跡を見てテンションが上がったのか、


「うっひょー!それじゃ早速ぅ!」

「待って!!」


 と今にも走り出しそうな勢いで飛び出すも、エイラの声で盛大にすっ転んだ。それを聞いた私は遺跡の入口へじっと目を凝らし、そこに一人の人間が居ることを見留めた。


「先客だ……何者かしら?」

「警戒していきましょう。ここに人間が一人で居ること自体が異常事態だと思ってください。」


 エイラの忠告に、レイズとリッサは思わず背筋を正す。私は一人の人間が放つ魔力に不思議な違和感を覚え、目を離せないでいたのであった。

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