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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第二章 忘れるからこそ、記憶と思い出に依存する
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Ep.32 藁にも縋る思いで、縋る藁を手で探る①

「畜生……」


 ドーナ達が去り、城壁の周りには満身創痍の兵士たちが項垂れている。前衛部隊を分断していた結界も解け、アルエット達に率いられながら入城した彼らは、城内の死屍累々を横目にそれぞれが悔しさを露わにする。


「アルエットさん!」


 私は城門付近に通じる階段を死体を避けながら下り、アルエットを見つけ名を呼ぶ。アルエットはこちらを見るなり目を細め、そして安堵したようにほっと息をついた。


「そうか、ご無事でしたか!」

「はい!前衛部隊の被害は……?」

「怪我人が数名、戦死者は……一人だ。今は怪我人の回復中だ。どうされた?」


 戦死者が一人、という部分で、アルエットは眉間に皺を寄せ、険しい顔で俯く。私はその一人―マスクドネビュラに真っ二つにされたその将兵の最期を、再び思い出し、真っ青になって顔を背けて蹲った。


「す、すみません。あまり人が死ぬことに慣れてないので……」

「あ、ああ、そうか。いや、すまない……緊張が解けた今だからこそダメージになることもある。ご無理なさるな。」


 アルエットはそう言いながら、私の方へと歩み寄り背中に手をそっと触れる。しかし私は、ここに来た用事を思い出し、再びアルエットに向き直り、立ち上がった。


「もう、大丈夫かい?」

「はい……ルーグさんの治療のため、回復手段を持つ聖騎士を上にいただけないでしょうか。」


 アルエットは辺りを見回し、前衛部隊の兵たちの様子を確認しながら、一人の男に耳元で何かを囁いたあと、


「承知した。私が向かう。そうした方が一番都合がいいでしょう。」

「……ありがとう、アルエット。」


 恐らく言外の意図まで察知したであろうアルエットに、私は小さくお礼を呟く。アルエットは私に目配せをし、そのまま二人で上へと向かった。



 私がアルエットを連れて城壁の上へと戻ると、仰向けに倒れているルーグさんの周りにアルマストとレイズが座っている。レイズは傍らで何やら薬を作っているようで、植物を必死に潰している。


「アルマスト!連れて来たよ。」


 私はアルマストに声をかけた。だがそれよりも速く、アルエットがルーグさんの傍らへと駆け寄り、魔法を使用した。


「あれが聖魔法……」

「ルリ、多分もうすぐお母様が駆けつけてくる。そのときのことなんだけど……」

「私なら、もう着いているわよ。」


 アルマストのひそひそ話を遮るようにして、背後から声が響く。声の主―女王アドネリアは階段をのぼりきり私達が集まる方へとゆっくり歩く。その表情は険しさに満ちていた。


「じょ、女王様!」

「詳細は後で聞くわ。ルーグさんの体も心配ですし。ですが……アルマスト、貴女には聞かなければならないことが沢山あるようね。」

「……はい、お母様。」


 女王は険しい表情のまま、アルマストをじっと見つめて言った。アルマストは唇を噛み締め、俯きながら女王の言葉を聞く。


「単刀直入に言いましょう。貴女、リィワン・ワンズリースとはどういう関係なのかしら?占星蜘蛛(ディヴィネートウェブ)はもう既に使ってあるから、嘘をついても無駄よ。」

「知らない!少なくともここにいるルーグさんやお母様のいないところで、個人的に会話したこともないわ!だから、あんな反応されて私も困っているんです!」


 アルマストの弁明が虚空に響く。アドネリアも治療中のアルエットも、周りを囲む弓兵たちすらも、アルマストに疑心の目を向け睨みつけている……ように感じる。私はこの空気をアルマストだけに背負わせるにはあまりにも酷だろうと、アルマストに庇い立てするように割り込んで女王に言う。


「ちょ、ちょっと!流石にアルマストを疑いすぎではないですか!?」

「……君たちが王都に来たタイミングでの造反に、その首謀者はアルマストを知っているような物言いを残したと。今回の事件との関連を疑うには十分すぎる根拠でしょう。」

「だから、アルマストは知らないと言っているじゃないですか!」

「物証が無ければ、なんとでも言えましょう。」

「そんなの、悪魔の証明じゃないですか!奴との関係なんて存在しないんですから……」

「だったら、私たちの判決を甘んじて受け入れることですね。」


 女王はそう言うと懐から2枚の紙を取り出し、私に手渡した。私は文字に目を滑らせながら、言葉を振り絞って言った。


「以下の者は……王都への立ち入りを、禁ずる……。アルマスト・フォーゲル、アイバラ・ルリ、レイズ・ラフィール。」

「え!?ボクも!?」

「もちろんです。貴女がたには直ちに王都を出て、ザイリェンへと帰っていただきます。王都の内部に不安因子は置いておけませんから。」

「そんな……」

「もういいわ、ルリ、レイズ。帰りましょう。」


 食ってかかろうとする私を止めたのは、アルマストであった。アルマストは私を腕で押し退けて前に出ると、そのまま女王を一瞥し、階段を勢いよく駆け降りて行った。レイズはその様子と女王を数回見比べた後、気まずそうに製薬の道具を抱えて階段を降りていく。私はずっと、女王を睨みつけていた。


「……どんな未来を見たら、実の娘をこの場で追放なんてできるのかしら?」

「……貴女はもう少し、細部までよく見た方が良いですね。魔力が見える目を持つ者としてのアドバイスです。」

「そりゃどうも。忘れないうちは心に留めておくわ。」


 私は受け取った紙を持つ手に力を込め、階段を降りていった。

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