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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第一章 教育方針の反りが合わないなんてのは、異世界だって同じことで
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Ep.28 見下ろす景色⑩

「前方に魔族を確認!魔法部隊は詠唱し準備せよ!前衛部隊は隊列を維持し、直進せよ!!」

「始まったか!」


 怒号のごとく戦場に響く檄の中、私は双眼鏡を通して魔族を探る。


「居た……」


 3秒ほど大地を見渡し、私はすぐにそれを見つけた。城壁からはるか遠い位置に存在するそれは、私が以前見たことのあるものと同じ魔力を発していた。


「ルリ!標的の魔力は?」

「愚者の石と完全に一致します!」

「ソイルバートと繋がったか……ルリ、貴女はもう一つの目的に集中してちょうだい。」

「魔法使いのお勉強ね……分かったわ。」


 アルマストはそういうと、街の外側の壁のへりから少し離れた。私は双眼鏡を城壁の前に居る魔法部隊の方へと向ける。


「くぅっ……」


 魔法部隊にも優秀な魔法使いがいるのであろう……やたら眩しい魔力の光に耐えながら、兵士達が扱う魔法の仕組みと回路をインプットしていく。


「うおおおおお!!!」

「魔族を倒せ!!!!」


 その前方では前衛部隊が一人の魔族に向かって突撃を開始していた。地鳴りに鬨の声が混じる異様な熱気の渦が人を飲み込む。人を狂わせる熱の中、私はひとつ妙な違和感を覚えた。


「あれ?」

「なんだ!?」


 思わず口をついて現れた違和感の声に、女王様への使者を用意していたアルマストが反応する。アルマストは使者への言伝を切り上げると、私の元へと戻ってきた。


「ごめん、見た方が早いわ。双眼鏡で一番眩しい光を見て。」

「分かった。」


 アルマストはすぐに双眼鏡に魔力を込めながら自陣の魔法部隊の方へ向く。私も同様に魔法部隊を覗き、先程覚えた違和感―最も眩しく光っている魔力反応が、一直線に前衛部隊の方へと移動していることを再び確認した。


「……なにこれ、どういうこと?何が起こっているの?」

「貴女の物でも確認できたということは、少なくとも魔道具の故障ではないというわけね。」

「他にこの異変に気付いている者は!?」

「多分いない!今この場で魔力を見ることができるのは私たちだけだとしたら……」

「分かった。ちょっと考えるわ。あの魔力の意味を……できるだけ早く。」


 アルマストは苦々しく唇を噛み締めながら双眼鏡を外す。私は双眼鏡を身につけたまま件の魔力を追いかける。


「魔力は……変わらず前衛部隊の方に向かっているわ。気のせいかもしれないけど……ただでさえ強い光も、だんだん強くなっているような気がする。」

「光が……強く……!」


 アルマストは何かに気付いたように、再び城壁に駆け寄って叫ぶ。しかし、


「魔族、討ち取ったぞ!!」


 アルマストの声は、兵士達の勝鬨に掻き消され消えてしまう。城外の兵士達が勝利に湧く中、私はアルマストが叫んだ内容に戦慄していた。


「まさか……羽々長けッ、『天火燦蚕(ザ・サン)』」


 私は青ざめながら右の手のひらを天に向け、炎の蝶を作り出す。そしてそのまま眩しく光っていた地面に向けて投げつける。それと同時に、アルマストがありったけを振り絞って叫んだ。


「地下だ!!地中からの奇襲だァッ!!!!」

「いけぇッ!!!」


 声に反応した兵士たちがこちらを確認すると同時に、炎の蝶が地表で爆発を起こす。爆風で砂煙が立ち上り、城壁から離れ分断された前衛部隊の兵士たちは再び警戒姿勢をとる。やがて砂煙が収まり、爆心地には仮面を被った小さな女の子が立っていた。かわいらしいフリルやリボンの付いた、ポップな色合いであれば魔法少女が着ていそうな感じの、真っ黒なドレスを身につけている。脱力し俯いたようにも見えるその立ち姿に、


「なんだこいつ?」

「人間のようだが……?」

「でもさっき、奇襲って……」


 兵士たちの間でざわめく声が広がっていく。前衛部隊を指揮するアルエットは大きく息を吸い、


「静まれ!」


 と一喝する。そのまま波を打ったように静まり返った兵士を一瞥し、側近の男を呼び出して耳打ちする。


「あの者に敵意がないかを確認して参れ。場合によっては有無を言わさず斬ることも視野に入れてな。」

「ハッ!承知しました!」


 男はアルマストの命を受け、馬を駆け少女に接近し、そのまま馬上から少女に通告する。


「貴様!所属と目的を答えよ。我々の邪魔をしないのであれば、たちさ……」


 しかし、男はそこまで言ったところで事切れた。少女は男の言葉に耳を傾けることなく、俯いた姿勢のまま男の方へとそっと手をかざした。その瞬間、男の体が正面と背面で真っ二つに斬られ、その分かたれた前半分が馬の首ごとどさりと崩れ落ちたのであった。


「え……?」


 兵士たちに困惑が広がる。続いて動揺、そして最後に怒りが伝播する。迸る怒りのまま、堰を切ったように少女へと襲いかかる兵士たちであったが、目に見えぬ何かに行く手を阻まれる。


「なっ……見えない壁?」

「結界術だと!?」


 壁の上で一部始終を見ていたアルマストが、それを見て叫んだ。少女は前衛部隊に背を向けると、一歩ずつゆっくりと、体全体を揺らしながら魔法部隊に向け歩き始める。そして右手をゆっくり掲げると、少女の手元にどこからともなく先端に星をあしらったステッキが現れた。


「しまった!あの子の狙いは初めから戦力の分断だったんだ!!」


 私はそう叫びながら再び天火燦蚕(ザ・サン)を展開し、少女に向けて放った。しかし少女が手にしたステッキを炎の蝶めがけて一振りしただけで、まるでロウソクの火を扇いで消したかのようにあっさりと無力化されてしまった。


「そ、そんな……」


 呆然とする私もまるで意に介さないまま、少女は改めて魔法部隊の方へ向き直る。


「おい、さっきの城壁からの魔法、相当の使い手の魔法のはずだが……」

「ああ、あいつあっさりと中和しやがった……!?」

「お、おい見ろ!こっちに来るぞ!!迎撃準備だ!!」


 少女はステッキを両手で持ち、大きく振りかぶって勢いよく振り下ろした。少しの沈黙の後、


「空だッ!!!」


 アルマストの声が響く。しかしそれも虚しく、魔法部隊はステッキの先端の星型のような、巨大な物質に全て押し潰されてしまった。


「は……?今ので、全滅……?」


 アルマストは腰を抜かし、体重を壁に預けへたりこんでしまう。一人の少女が齎した絶望に飲み込まれそうになる中、城壁の扉がゆっくりと開く音がした。

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