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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第一章 教育方針の反りが合わないなんてのは、異世界だって同じことで
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Ep.19 見下ろす景色①

「それで、ルガル君は王都に帰っちゃったのね。」


 冒険者ギルド、ギルドマスターの部屋。私は今回の一件をアルマストに報告した。アルマストは神妙な表情でそう呟き、口に手を翳し考えるように俯いた。


「ということは、多分王都からの呼び出しだな……いや、例の魔族の件で呼んだついでに……かなぁ。」

「英雄の息子だものね……ただの家出で処理する訳にはいかないか。」

「もう……なぁーんで親が直接出向いてくるかなぁ。鬱だぁ……。」


 アルマストは頭を抱え、机に突っ伏している。情けない悲鳴をあげながら彼女は頬を机に擦り付ける。


「そりゃ、大事な一人息子が家出したんだし……」

「そんなことは分かってるわよ。だから私は実家にルガル君の状態を逐一報告してたのよ。」

「……え?実家って、女王様に?」

「もちろん。ルーグさんはお母様ともよく知った仲だし、私も何度か会話したことがあるから。そしたら先方も『私のところにいるのなら安心ね』って仰ってたって、そう聞いてたんだけど。」


 アルマストが愚痴をこぼすように言葉を漏らす。先程までのルーグの態度とその言葉の間にある違和感……私はそれを問い質すべく、アルマストに尋ねた。


「……おかしくない?だったらなんで、心配だって今更連れ戻しに来たのよ?」

「え?」

「ルーグさんの言い分を聞くに、ルガル君の家族は彼が冒険者になっていることを知らない様子だったわ……王都から遥か遠いザイリェンで日雇い冒険者など、家族が知ればどれだけ心配するか!って、アルマストの報告が通っているのならおかしな言い分じゃないかしら。」

「……確かに、ルリの言う通り不自然ね。」


 アルマストはゆっくりと頭をあげ、目を見開きじっと考えるように俯く。


「どこかで、私の報告が遮断されている……のかしら。」

「その線が一番有りうると思う。何者かがわざと情報を止めている……」

「だったら、ザイリェンと王都の間ではないと思うわ。お母様に報告するのはこのことだけじゃないし、都度返事を頂いているから……何かあるなら、そこからルーグさんのもとへ伝わるまでだと思う。」


 私とアルマストは暫く沈黙し、思案する。誰が?何のために?ルーグさんの言っていた、不安定な王都の情勢とはこういうことなのか……?私は疑問が尽きぬ中、アルマストの言葉で我に返る。


「ともあれ明後日、王都で確認せねば。何かしら、不穏な予感がするのだ。」

「ええ。それまで、ルガル君が無事だといいのだけれど。」


 私たちはそう言って目を合わせ、同時に頷いて部屋を出た。



「……執事長!リィワン執事長!!」


 同時刻。王都中心部、ユールゲン邸。召使いの少年が大きな声をあげて廊下を走り回っていた。


「ザイリェンからの信号です!リィワン執事長、何処におられますか!!」

「もっと静かにしたまえ……聞こえておるよ。」


 召使いの少年がとある部屋を通り過ぎた瞬間、その入口に燕尾服を着た細身の男が立っていた。後ろで束ねた長い黒髪と右目のモノクルが特徴的な男―執事長リィワン・ワンズリースは口元をさすりながら、召使いの少年に近寄りその肩を掴んだ。


「信号は、何と?」

「あ、はい。『今、帰る』と、それだけです!」

「そうか……坊ちゃんも困ったものだ。」

「坊ちゃんが見つかったんですか!?」

「ああ、辺境で冒険者をしていたそうだ……全く、似なくて良いところまで旦那様に似てしまってからに。」

「えぇ!?冒険者!?なんで?」

「知らん。とにかく、奥様への報告は私が行う。お前は普段の仕事に戻れ。」

「は、はい!失礼します!」


 リィワンはそう言って召使いの少年を下げさせ、部屋を出てドアを閉める。そうして廊下から階段へと進み、2階のとある部屋の前で立ち止まる。


「奥様。リィワンでございます。」


 リィワンはそう言葉を告げながら扉をノックする。リィワンが言い終わった瞬間に扉がゆっくり開き、中から一人の女性が現れた。


「あの人から連絡があったのかしら?」


 絹のような艶めかしい黒髪が目立つ女性がリィワンを部屋へ招き入れながら尋ねる。


「はい。どうやらザイリェンにいたようで。」

「はぁ……どうしてそんな辺境に……」

「知りませんよ、帰ってきてから本人にお聞きすることですね。」


 リィワンはそう言いながら、モノクルのレンズを拭いている。女性は奥の椅子に座り頭を抱えていた。


「心配をかけたわね、リィワン。どうにかしてあの子を王都から出さない策を考えなきゃ……」

「……私からは、何も。では奥様、失礼します。」


 リィワンはそう言って一礼し、部屋を後にする。首元のジャボを正しながら廊下を早歩きで進む。その表情は機械的なまでに冷たかった。

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