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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第一章 教育方針の反りが合わないなんてのは、異世界だって同じことで
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Ep.16 親バカの心、子知らず⑥

「が、額面の問題だけじゃないですよ。アルマスト殿下には住居の手配なんかもしていただいてますので、裏切るような真似はできません。」

「……それが、貴女自身の命を投げ打つ理由になるのですか?」


 ベルジオ商会、応接間。商会の代表オリオン・ベルジオは私を冒険者ギルドから引き抜くべく言葉を続ける。確かに、冒険者稼業は死と隣り合わせである……先日の月光狼討伐でも、あのままガステイルさんが通りがかってなければと思うと肝が冷える。そんなことを考えていると、ベルジオは再び口を開き、低い声で言った。


「ルリさん、貴女のその体質は才能です。それは他の誰にも……いえ、今後誰にも下賜されるものではないかもしれません。」

「そうかしら、そんな大層なものではないように思うのだけれど。」

「大層すぎるほどですよ。何しろ前例が非常に少ない。貴女と女王くらいのもんです。」

(……そういえば、アルマストもそんなことを言ってたかしら。)


 私はベルジオから目を逸らし、今朝のアルマストの言葉を思い出していた。このベルジオ商会が私の能力を悪用しようとしている、とは思わないけれど万が一ということもある……やはり話を受けることはできないなと考えていると、ベルジオは改まったように両手の掌で口元を隠すようにしながら言った。


「才能とは、然るべき場所で輝くべきなんです。みすみす損失されるべきものであってはなりません。」

「できることなら、私もそれが一番いいとは思うわ。」

「いいえ、できることならではありません。これは義務です。そうしなければならないのです。」

「才能の有無で人生を決めるべきってことかしら?」

「人間の寿命は短い、築き上げてきた歴史に比べるとあまりにも……。才能の恩恵による人族の発展と比べれば些細なことでしょう。」


 ベルジオの目は、恐ろしいほど黒く澱んでいた。先程までの張っ付けたような笑顔からは想像だにしない、どこまでも続く闇のような冷たい瞳の前に、私は固唾を飲み黙り込むしかなかった。

 暫く沈黙が続く。レイズはあたふたと私とベルジオを交互に見つめ、何度も話を切り出そうとしている。やがてベルジオが頬杖を解き、手をパチンと叩いて口を開いた。


「今は、分かって貰えなくてもいいわ……いずれ、そうね。貴女にも子を思う気持ちが芽生えたときかしらね、そのときにまた同じことを聞こうと思っているわ。」

「……不思議な口調ですね。まるで女性に切り替わったかのよう。」

「ふふ……それもまた、今じゃなくていいの。とにかく、その様子じゃ交渉は決裂ってことかしらね。」


 正直、ベルジオの言うことが分からないといえば嘘になる。日本にいたときは毎日のようにどこかで誰かが死んだというニュースを耳にしていたが、老人と子供の死だとどうしても後者の方が辛いと感じる。それは老人へのうっすらとした差別意識なのか、それとも…大量の時間を奪われたように見える錯覚による、怒りのようなものなのか。そしてそれが、子を思う気持ちというものなのか……もしもそうなら、私には人よりもそういう気持ちは、ちょっとある方だと思う。


「多分、そうです。私はベルジオさんを分かってあげられる程の人間ではありません。」


 だから、私は嘘をついた。ベルジオは笑った……心底、嬉しそうな顔で。



「えぇ〜、ルリ、ずるいよ〜!ボク、そのメンバーズカードがずっと欲しかったのに!!」

「うるさいな……渡せるものならアンタに渡してるわよ。」


 ザイリェンの表通り、冒険者ギルドへと続く道を私はレイズと二人で歩いている。ベルジオ商会による引き抜きを断ったはずなのだが、どうも彼(彼女?)に気に入られたようで、重要な顧客にしか渡されないというメンバーズカードを押し付けられたのだ。曰く、「気が変わったとき、服が欲しいときはこれを見せなさい」と。そしてレイズ曰く、「メンバーズカードで買えば五割引!」と。そんなバカな……ああいや、このカードを渡された意味を考えれば安い話だ。


「だったらちょうだいよ!それなら借金返済だってもっと早くなるのよ!!」

「あのねレイズ、これはベルジオが私にかけた呪いなのよ。」

「え……?」

「私がこのカードを使ってベルジオ商会で買い物をすることが、将来的に私を引き抜くための貸しになるの。そしてもう一つ、ベルジオ商会を利用しないことを許さないという忠告も含まれているわね。」

「ひぃ……」

「恐らくそれを可能にするだけのコネクションだってあるだろうしね。全く、商売人はこれだから……」


 私とレイズは喋りながら冒険者ギルドの扉を開けた。右の奥、掲示板に人が群がっている……正確には掲示板の前に立つ大男に、だが。


「誰だ……?」


 鎧に身を固め、巨大な大剣を背負う大男は辺りをぐるりと見回している。50歳を過ぎたくらいだろうか、オレンジ色の髪と立派な口髭がよく目立つ。大男がすぅと息を吸い込んだ次の瞬間、よく通る大声がギルド中を拡散した。


「ルガル・ユールゲンはどこにいる!」

「ルガルだって……!?」


 知っている者の名前に思わず反応した私とレイズを、大男は見逃さなかった。ギロリと私たちに狙いを定めると、威圧感を放ちながら私たちの方へと迫った。

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