Ep.14 親バカの心、子知らず④
レイズの独白後、私は改めて自分用の私服を見繕うべく店内をうろついていた。アルマストも私も身長は160cmに届かない程度であり、それと同じサイズのコーナーの服を何着か手に取り吟味していると、背後から声をかけられた。
「そちらの品をお求めかしら?」
「いえ、まだこれにすると決めたわけではなくて……」
「そう……なかなかいい品を手に取ってらっしゃるから、良い目利きをする方だと思ってたのだけれど。」
決して目利きをして決めたわけではないのだが、快適に動けそうなシャツとパンツを探している中でこれらがどうも目立つような気がしたから見ていただけである。
「動きやすい服装を探してこれらが少し気になっていただけです。どうも、他のものより目立っているような気がしましたので……」
「目立つ?どのように?」
「は……?いや、目立つというか、直感的に気になったというか……」
そこまで言ったところで、私は慌てて口を押さえる。私の目で『目立つ』ってつまり……。私はそう思いながら声の主へと振り返る。するとそこには180cmを超えた正装の大男が、微笑みながら私を見つめていた。大男は手をパンと一度叩くとそれまでとは打って変わって低い声で私に問いただす。
「その服が目立って見えた……お客様、詳しくお話をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ハメたのね……ということはこれらには魔力が込められている、そうでしょう?」
「ご名答。他のものより少し強力な防汚魔法、そして軽い身体強化の魔法がかけられています。噂通り、魔力を見る目というのは確かのようですね。」
「私のことも知っていたってわけね。」
「数々の御無礼、お許しください……ルリ様。改めまして、ベルジオ商会の代表、オリオン・ベルジオと申します。」
ベルジオはそう言うと、一歩下がりながら丁寧にお辞儀をする。私も少し慌てながら頭を下げると、個室のカーテンが再び勢いよく開いた。
「あれ!?店長とルリ、知り合いだったんですか?」
「え、店長って……」
私がそう言いながらベルジオの方へと目を送ると、ベルジオは咳払いをしながら、
「レイズちゃん。私たちは今知り合ったところよ……それに私は今からルリさんとお話があるから、少し大人しくしてちょうだい。」
「えー、ボクもついてきちゃダメなんですか?」
「それはルリさんに聞いてみないと分からないわよ。」
「え、私ぃ!?」
突然矢面に立たされた私に、キラキラと目を輝かせながら擦り寄るレイズ。そんなことより、咳払いの前と後でベルジオの口調が変わっていることの方が気になるのだけど……。
「お願い、ルリさん。一生のお願い!!」
「一生のお願いって異世界でも共通なんだね……」
「二人の邪魔はしないからさ、頼むよぉ!ボクを二人の元に連れて行って!」
どこぞの野球マンガで聞いたようなフレーズを耳にしながら、私はうんざりしていた。助けを求めるべくベルジオの方へと目配せをするが、なんと奴は見て見ぬふりと言わんばかりに目を背けやがった。いや、別にレイズを断る理由もないんだが……私はため息をついてレイズを引き剥がしながら、諦めたように言った。
「わかったわかった、大丈夫だから。ベルジオさんが問題ないって言うなら、私は構わないから。」
「やった!ルリ、ありがとう!」
「おごぉ!」
満面の笑みで私に向かってタックルするレイズ。睡眠不足の私にはなかなか無視できないダメージが入り、思わずよろめいた。心做しか節々も痛むような気がする中、ベルジオがパンと手を叩いて私たちの手を引いた。
「それでは、向かいましょうか。3階に私の部屋がございますので、そちらで。」
再び低い声に戻ったベルジオはそう言いながら、階段のそばまで歩いて私たちを上へと促した。
(また口調が変わった……?でもさっきは咳払いはなかった、どういうことだ?)
私はベルジオの変化を訝しみながら、階段をゆっくり登って行った。




