クモをつつくような話 2024 その1
2024年、1月1日。晴れ。最低4度C。最高12C。
午前10時。
アスファルトの継ぎ目から生えているスミレの仲間が黄葉し始めていた。「やっと秋が来た」という認識なんだろうか。
1月2日。晴れのち曇り。最低マイナス1度C。最高12度C。
午前7時。
ロードバイクのハンドルカバーの素材をレジ袋からエコバッグに替えてみた。レジ袋ではクモを撮影するためにロードバイクを草地に寝かして置いただけで穴が開いてしまうのだ。一番いいのは雨具の生地だろうな。
午前8時。
スーパーの近くのスミレの実が3つに割れて種が見えていた。この季節には種を運んでくれるアリがいないだろうに。
1月3日。曇りのち雨。最低1度C。最高13度C。
1月4日。晴れ一時雨。最低5度C。最高13度C。
午後2時。
ジョロウグモの25ミリちゃんが姿を消していた。産卵だと思いたい。
長さ50ミリ、直径25ミリほどのガの繭を見つけた。大きな穴が開いているから羽化には成功したんだろう。
1月5日。晴れ。最低マイナス1度C。最高14度C。
1月6日。晴れ。最低0度C。最高16度C。
午後2時。
光源氏ポイントの近くではナナホシテントウ2匹とナミテントウ1匹が歩きまわっていた。それくらい暖かいのである。
木の幹に取り付けられたジョロウグモの卵囊を新たに2個見つけた。どちらもほとんどカモフラージュされていない。気温とカモフラージュするかしないかに関係があるかどうかを調べてみるのもいいかもしれない。
午後4時。
体長12ミリほどの4本脚のジョロウグモを見つけた。バリアー風の糸を張っているが、お尻はソーセージ型だから産卵を済ませた子だろう。
1月7日。晴れのち曇り。最低2度C。最高10度C。
1月8日。晴れ。最低マイナス1度C。最高7度C。
午前11時。
スーパーの近くで直径15センチくらいの円網を見つけた。クモの場合、越冬中でも代謝はゼロにならない。特に小型のクモの場合は蓄えられる栄養が少ないので、春までに使い尽くしてしまう可能性も高くなる。暖かい日には網を張って、少しでも何かを食べる努力をしなければならないのだろう。
1月9日。晴れ時々曇り。最低マイナス2度C。最高11度C。
1月10日。晴れのち曇り。最低マイナス2度C。最高12度C。
1月11日。曇りのち晴れ。最低1度C。最高9度C。
お詫びと訂正。すみません。いままで「ツバキ」と呼称していた樹木は「サザンカ」でした。
ツバキは花びらが根元の部分で繋がっている(五裂という)のに対して、サザンカは多数の花びらが独立して付いているのだそうだ(品種にもよるらしいが)。葉の縁もギザギザになっていて、これも滑らかなツバキとは違っていたのだった。花を見るまでは「常緑広葉樹」としておくべきだったのだなあ。
1月12日。晴れ。最低マイナス3度C。最高14度C。
1月13日。晴れ一時雨か雪。最低0度C。最高9度C。
1月14日。晴れ。最低マイナス4度C。最高10度C。
1月15日。晴れ。最低マイナス2度C。最高10度C。
午後3時。
近所に生えているマメ科の草の何株かに緑色のアブラムシが群れていた。調べてみると、アブラムシの仲間は卵で越冬ということらしいので、冬が来ているのに気が付いていないドジっ子たちなんだろう。
ついでに言っておくと、アリのように歩くタイプの昆虫は翅を持つ昆虫が飛べなくなるような低温でも活動していることが多い。筋肉の温度が飛行できる範囲にまで上げられなくても歩くことはできるというわけだ。そこでアブラムシはというと、彼女らはほとんど歩くこともない。基本的にただ植物の汁を吸い、単為生殖で個体数を増やすだけなのである(卵で越冬するので、冬の前には交尾するための雄を産む)。歩くタイプよりもさらに省エネ型の昆虫と言えるだろう。
なお、ウィキペディアによると、アブラムシと同じカメムシ目のカイガラムシの仲間は「多くの場合に脚が退化する傾向にあり、一般的に移動能力は極めて制限されている」のだそうだ。ヒトに例えると、手の届く範囲に常に食べ物が用意されているのなら寝たきりでも生きていけるというようなものだな。〔トイレはどうするんだ?〕
それはもちろん、垂れ流し。〔…………〕
ただし、雌のところまでたどり着く必要がある雄だけは、オトナになると翅と脚が生えるのらしい。
1月16日。晴れ。最低マイナス2度C。最高5C。
午前11時。
スーパーの近くに2羽のメジロがいた。ウィキペディアによると、食性は雑食だが、花の蜜や果実を好むらしいから、サザンカの花の蜜を吸うためにやって来たんだろう。
1月17日。晴れ時々曇り。最低マイナス4度C。最高12度C。
午前11時。
近所のスミレは枯れ始めている。
アブラムシはというと、1匹だけだが翅付きの成虫らしい子がいた。最低気温が氷点下という日が何日もあったはずなのだが、よく耐えられるものだ。
午後2時。
光源氏ポイントの近くで直径約25ミリ、長さ約45ミリくらいの羽化済みの繭を見つけた。以前拾ったものと比べると一回り小さいが、スズメガの仲間のものだろうと思う。で、もちろん穴が開いているのだが、ガの口器はストロー型だし、脚もまともに歩けるような太さではない。いったいどうやって穴を開けたんだろう?
午後3時。
今日は常緑広葉樹に取り付けられているジョロウグモの卵囊を見てまわった。結果は、葉の表面に取り付けて別の葉を引き寄せて被せたものが2個、同じく、落葉広葉樹の枯れ葉を被せたものが1個、幹とツタの間に産みつけて、ツタの葉を被せたものが1個、2枚の葉が少し重なっている部分を利用して取り付けたものが1個、表面が凹んでいる葉にむき出しで取り付けられたものが1個というところである。
この木の葉は表面が平らになっているものが多いので、かなり苦労したようだ(以前報告したハンモック式の空中産卵ほどではあるまいが)。もしも産卵できなければそれまでのクモ生が無駄になってしまうのだから、なんとかして産卵に適した場所を見つけるか、どうしても見つからないようなら作ってしまう必要があるわけだ。ジョロウグモだけではなく、一般的にクモは工夫することができる節足動物なのである。
午後4時。
ジョロウグモの4本脚ちゃんがいなくなっていた。合掌。
1月18日。曇りのち晴れ。最低1度C。最高14度C。
午前11時。
近所にいたアブラムシをティッシュペーパーを使って10匹くらい捕まえて、玄関にいるオオヒメグモの不規則網の上から振りまいてみた。そのうちの3匹が糸に引っかかって、その1匹にオオヒメグモが近寄ってきたのだが、どう見ても届くとは思えない間合いから糸を投げかけている。しかも、途中でやめてしまった。室温が低すぎて思うように脚が動かせないのだろう……と思ったのだが、もしかすると他のアブラムシが身動きすることによって発生するノイズが気になるのかもしれない。
この子のお尻はだいぶ小さくなっているのだが、何とかして春を迎えさせてあげたいと思う。
※5月30日に、この子はオオヒメグモではなさそうだということがわかる。お尻の模様がだいぶ違っていたのだ。マダラヒメグモだったらしい。
午後1時。
玄関のオオヒメグモはアブラムシを待機位置まで運んでいた。他の2匹のアブラムシは放置されているから、このまま忘れられてしまうかもしれない。今は冬だし、1匹だけでも食べてもらえればよしとするべきだろうな。
1月19日。晴れ時々曇り。最低5度C。最高12度C。
午後1時。
玄関のオオヒメグモはアブラムシ3匹をホームポジション近くまで運んでいた。食欲はあるのだろう。ただ、アブラムシはクモが好まないカメムシの仲間なので、出来れば食べたくないと思っている可能性はある。
午後10時。
部屋の隅で体長3ミリほどのクモを見つけた。お尻は細いが、不規則網だからヒメグモ科のクモだろうと思う。
1月20日。晴れのち雨。最低5度C。最高9度C。
午後1時。
玄関のオオヒメグモがアブラムシに口を付けていたので撮影しようと思ったのだが、いつものように横木の下に入り込んでしまった。なかなか難しい子である。ああっと、こういうことをするオオヒメグモを観察するのは初めてだなあ(作者が出会ったオオヒメグモはせいぜい数匹だが)。そして、この行動は「ここは安全な場所である」と思っていることを表しているんじゃないか?
※新海栄一著『日本のクモ』によると、オオヒメグモは「不規則網の中央部に枯れ葉や土を吊して住居を作る個体も見られる」のだそうだ。ヒメグモの仲間なんだなあ。
1月21日。雨時々曇り。最低5度C。最高14度C。
午後11時。
文庫版で686ページのアーサー・C・クラーク著『月は無慈悲な夜の女王』を読み終えた。いい作品だとは思うが、年寄りにこの長さはキツい。もっと若い内に読むべきだったな。
1月22日。晴れのち雨。最低6度C。最高13度C。
午前10時。
玄関のオオヒメグモがアブラムシに糸を巻きつけていたので撮影させてもらう。今回はドアを開けずに撮影したので、警戒されずに撮り放題だった。
ただ、こういう条件では補助光が必要になる。しかし、内蔵フラッシュだと再生ボタンを押すまでどんな画になっているかわからないし、影が目立つ。その点、WG-6はレンズの周囲に6個のLEDが配置されているので便利……なのだが、テントウムシを撮った時には鞘翅に2個の光点が写り込んでしまった。
映り込みが気にならない被写体であるかどうかを見極めてから撮影というのはめんどくさいのだが、慣れるしかないな。〔年寄りには難しいか?〕
このカメラはおそらく、6個の恒星で構成されている連星系で使うための製品なんだろう。〔…………〕
1月23日。晴れのち雪。最低5度C。最高11度C。
1月24日。晴れ。最低マイナス1度C。最高7度C。
1月25日。晴れ。最低マイナス2度C。最高10度C。
1月26日。晴れ。最低マイナス2度C。最高10度C。
1月27日。晴れ。最低マイナス2度C。最高11度C。
1月28日。晴れのち曇り。最低マイナス3度C。最高11度C。
1月29日。晴れ。最低マイナス1度C。最高12度C。
1月30日。晴れ時々曇り。最低1度C。最高13度C。
午後二時。
光源氏ポイントの近くで落葉広葉樹の幹に2本の糸で取り付けられた卵形の糸の塊を見つけた。ただし、手が届かない高さなのでジョロウグモの卵囊かどうかまではわからない。ジョロウグモのものであれば、さほど珍しい行動ではないということになるが……。
午後三時。
肉入りワンタン型の卵囊らしいものも2個見つけた。ただし、縦20ミリ、横15ミリくらいと小さいので、チュウガタコガネグモかコガタコガネグモのものかもしれない。
今日は暖かかったので網を張っている子がいるかなと思ったのだが、クモの糸は何本かあったものの、円網は見当たらなかった。最低気温が低すぎるんだろうか?
1月31日。晴れ。最低0度C。最高15度C。
午後三時。
ひさびさにスズミグモのスズちゃんの卵囊を見てきた。当たり前だが、第三の卵囊から子グモたちが出囊した様子はなかった。
水田ポイントにはナガコガネグモの卵囊があった。これがまあ、いままで見たことがないと言えるくらい色が濃い。ナガコガネグモの通常の卵囊は白っぽい茶色なのだが、これは完全に茶褐色である。数メートル先にはノーマルな卵囊があったから、多分個体差なんだろう。
コガネグモの卵囊は見当たらなかった。コガネグモはだいたい夏までに出囊してしまうので、それほど強固に固定する必要はないのだろう。クモは基本的に必要十分な仕事しかしないのである。
午後四時。
光源氏ポイントの近くで体長2.5ミリほどのクモを見つけた。やはり最低気温が高ければ活動するんだろう。
2月1日。晴れのち曇り。最低4度C。最高16度C。
午前7時。
ロードバイクが歯飛びしたのでチェーンを交換。完全にアウトという状態だった。いかんなあ。
2月2日。晴れ、時々曇り。最低0度C。最高8度C。
午後二時。
今日は寒いので、おとなしくロードバイクのタイヤ交換。
ついでにサイクルコンピュータも交換。いままで使っていたモデルはバッテリーが公称でも3000キロしか持たないので、計算上9000キロくらい走れるモデルに替えたのだ。バッテリー交換、というか、電池室の蓋を外すのには手間がかかるので、電池持ちがいい方がありがたいのである。
2月3日。晴れ時々曇り。最低マイナス4度C。最高11度C。
午前二時。
台所に体長7ミリほどのハエがいた。クモの神様のお導きだろう。ありがたい。さっそく捕まえて、玄関のオオヒメグモの不規則網に落としてあげた。室温は9度Cなのだが、ちゃんと糸を巻きつけられるようだ。
2月4日。晴れ一時雪。最低0度C。最高10度C。
2月5日。曇りのち雪か雨。最低0度C。最高8度C。
2月6日。雨時々曇り。最低2度C。最高6度C。
2月7日。晴れ。最低マイナス2度C。最高10度C。
2月8日。晴れ。最低マイナス2度C。最高10度C。
2月9日。晴れ時々曇り。最低0度C。最高11度C。
午後八時。
カーテンに体長3ミリほどのカのような体型の昆虫がとまっていた。エアコンの設定は16度にしてあるから少しは飛べるようだ。
2月10日。晴れ。最低マイナス1度C。最高12度C。
午後二時。
一株だけだが、ヒメオドリコソウが咲いていた。
ジョロウグモが落葉広葉樹の葉に産卵する場合には、その葉と枝を多数の糸で繋ぐのが普通だ。これは葉が落ちないようにするためだろう。
しかし、今日確認した3個の産卵済みの常緑広葉樹の葉は、落葉広葉樹ほど丁寧に固定されていなかった。1個だけだが、枝まで糸が届いていないものもあった。サンプル数は少ないのだが、ジョロウグモは落葉広葉樹と常緑広葉樹とで産卵のやり方をわずかに変えるのかもしれない。あるいは、寒いから手抜きをしたのか、だなあ。
午後4時。
陽が当たっているコンクリートブロックにナミテントウの幼虫が6匹いた。ただし、午前中にも陽が当たりそうな面には角の部分に1匹だけだった。暖かい時間帯に陽が当たる面が好きなんだろうか?
2月11日。晴れ時々曇り。最低1度C。最高10度C。
午後一〇時。
流し台の下の排水ホースの袋ナット部分から水が漏れているのに気が付いてしまった。ホースも硬くなっているので交換しようと思う。それでも治らなければ業者にお任せだな。
2月12日。雪のち晴れ。最低1度C。最高10度C。
午後一時。
漏れていたのはホースではなく、その上のトラップ部分からだった。パッキン交換だなあ。
午後八時。
玄関のオオヒメグモはハエを5センチくらい低めの位置に移していた。食べ終わったんだろう。
2月13日。晴れ。最低マイナス3度C。最高16度C。
2月14日。晴れのち曇り。最低0度C。最高19度C。
午前一〇時。
以前、アブラムシを採取した場所の近くに生えているマメ科植物(カラスノエンドウ?)の他の株もアブラムシだらけだった。玄関のオオヒメグモに与える獲物に困らなくて済みそうだ。
なお、カラスノエンドウ(正式な和名は「ヤハズエンドウ」らしい)は一年草または越年草で、秋に発芽だそうだ。ただ、花期は3月から6月らしいのだが、ここではすでにいくつかの株で花が咲いている。また、花の付け根には花外蜜腺と呼ばれる黒い点があって、ここから蜜を出してアリを呼び寄せるらしいが、この季節に活動しているアリは少ない。アブラムシにとっては天国のような環境だろうな。寒いけど。
午後一時。
光源氏ポイントでアシナガバチの巣らしいものを見つけた。葉が落ちるといろいろなものが見えてくるのだ。
午後二時。
道端のマメ科の草に群れている体長1ミリから1.5ミリほどの黒いアブラムシを見つけた。多分マメアブラムシかワタアブラムシだと思う。撮影しておこうと思ったのだが、これが難しい。オートフォーカスがうまく作動しないし、そよ風でも被写体ブレが起こるし、お尻の2本のトゲばかり写るし……。適当なところであきらめた。
今日は気温が上がったので、オレンジ色の蝶が飛んでいた。その他にもナナホシテントウが2匹歩いていたし、体長7ミリほどのハエは仰向けになっていた。
午後三時。
道路脇のコンクリート板の水抜き穴に生えているスミレが一輪咲いていた。その他に色あせた花が3輪。陽当たりのいい場所のコンクリートというのは暖かいのかもしれない。
午後八時。
流し台のトラップのパッキンを交換……したのだが、それでも水が漏れる。やり直し。流し台のトラップをはめ込む穴の縁が錆びているからパッキンが密着しないのかもしれない。安物のステンレスは錆びるのだ。
接着剤を塗って再組み立て。今は漏れていない。
2月15日。晴れのち雨。最低2度C。最高20度C。
午後4時。
今日は早めに帰宅したので、近所の池にいるハクチョウ約30羽を撮影した。そうしたら、そのうちの5羽が寄ってきた。餌をもらえると思ったんだろうか? 悪いことをしたかなあ……。
2月16日。雨のち晴れ。最低8度C。最高12度C。
2月17日。晴れ。最低マイナス1度C。最高12度C。
2月18日。曇りのち晴れ。最低5度C。最高18度C。
午後五時。
今日は暖かかったせいか、玄関のオオヒメグモが脚を広げてくつろいでいた。それでわかったのだが、この子は7本脚だ。不規則網の中に脱皮殻が2個あるから、それだけの期間はここにいたはずなのだが、いったいどういう状況で脚を失ったんだろう? ドアを開け閉めするのが良くないんだろうかなあ……。
2月19日。曇りのち雨。最低9度C。最高18度C。
2月20日。曇りのち雨。最低16度C。最高22度C。
午前一一時。
ハルノノゲシとカタバミが一輪ずつ咲いていた。
スーパーの壁には緑色のカメムシがとまっていたし、玄関のオオヒメグモも脚を伸ばしている。暖かいのだなあ。明日は一気に寒くなるらしいんだが。
2月21日。雨時々曇り。最低6度C。最高8度C。
2月22日。雨のち曇り。最低4度C。最高6度C。
2月23日。曇り時々雪。最低0度C。最高5度C。
2月24日。晴れ時々曇り。最低マイナス1度C。最高10度C。
2月25日。曇りのち雨。最低1度C。最高7度C。
2月26日。雨のち晴れ。最低5度C。最高12度C。
2月27日。晴れ時々曇り。最低3度C。最高10度C。
2月28日。晴れ。最低1度C。最高13度C。
2月29日。晴れのち雨。最低マイナス1度C。最高10度C。
午前10時。
以前アブラムシを採集したカラスノエンドウは花がいくつか咲いていた……のだが、同時に葉は白っぽくなり始めているようだ。もしかすると、株の寿命は尽きかけていて、最後にひと花咲かせたかったということなのかもしれない。
午後三時。
光源氏ポイントの近くで体長3ミリから5ミリくらいのゴミグモを8匹見つけた。そのうち、ちゃんと円網を張っていたのは3匹で、1匹はゴミを付けていた。残りの2匹はまだゴミの用意ができていないらしくて、ホームポジションの上下にI字形の隠れ帯を付けていた。
これで観察できたゴミグモの隠れ帯はナガコガネグモ風のI字形、雲状、多重ループ型の3種類になった。これは「ゴミがない、あるいは少ない時には隠れ帯を付ける」「隠れ帯のパターンは各自の好みで」ということになっているんじゃないだろうか? 本能のプログラムではこれほど多くのパターンは現れないような気がする。
3月1日。晴れ時々雨。最低6度C。最高15度C。
3月2日。晴れ時々曇り。最低2度C。最高10度C。
午前一一時。
このところトレーニングをサボっていたので血圧がじりじりと上がってきている。そこで階段を2階まで2往復してみたら、いったん177まで上がってから147まで下がったのだった。運動しなくちゃ。
午後三時。
ツバキの花を見つけた。葉の縁はギザギザだが、花びらが五裂だから間違いないだろう。
3月3日。晴れ。最低マイナス2度C。最高12度C。
3月4日。晴れ。最低マイナス1度C。最高13度C。
午後一時。
光源氏ポイントではアリの群れが巣穴の入り口を開けていた。春なんだなあ。
午後二時。
光源氏ポイント周辺に取り付けられているミノムシの繭には、小型のものと「通常の2倍です!」と言いたくなるような大型のものがあるようだ。雄と雌なのか、別種なのかはわからない。
午後三時。
那珂川の堤防ではツクシが出始めていた。
その近くではメタリックブルーの鞘翅を持つ体長7ミリほどの甲虫が交尾していた。春なんだなあ。
※『ムシミル』というサイトによると、この甲虫はコガタルリハムシらしい。食草は成虫も幼虫もギシギシやスイバなど。成虫で越冬して、春先に卵を産むのだそうだ。
気温は低いが、食草はあるのだし、捕食者の活動も活発ではない。こういう生き方もいいだろうな。
3月5日。曇りのち雨。最低2度C。最高9度C。
午前11時。
膝下くらいの段差につま先を引っかけて転んでしまった。睡眠不足でぼーっとしていたせいもあると思うのだが、足を上げる能力も低下しているんだろう。しょうがない。老いるというのはそういうことだ。
3月6日。雨のち曇り。最低3度C。最高9度C。
3月7日。晴れ時々曇り。最低2度C。最高9度C。
3月8日。雨時々曇り。最低1度C。最高8度C。
3月9日。晴れ。最低マイナス2度C。最高11度C。
午前8時。
翅付きアブラムシを撮影した。「お前なんかアブラムシじゃない」と言われてしまうのか、それとも羽ばたくのにじゃまになるのか、群れから離れていることが多いようなので見つけやすい。ただし、体長2ミリの昆虫を撮影するのは楽ではない。デジタルズームを使い、あえて日陰にしておいてフラッシュを使った。
ここにはテントウムシの幼虫も2匹いた。楽園は終わりに向かっているようだ。
3月10日。晴れ。最低マイナス2度C。最高11度C。
3月11日。晴れのち曇り。最低マイナス2度C。最高13度C。
午前8時。
寝起きの血圧が196と92。それが30分後には140と81になった。あっはっはっはっは。
3月12日。曇りのち雨。最低4度C。最高11度C。
3月13日。晴れ。最低4度C。最高12度C。
午後3時。
七分咲きの桜が2本、五分咲きが1本あった。菜の花(セイヨウアブラナなのかセイヨウカラシナなのかまではわからない)も咲いている。
午後5時。
血圧は106と63だ。まいったね。
3月14日。晴れ。最低マイナス1度C。最高16度C。
3月15日。晴れ。最低1度C。最高18度C。
午前10時。
近所のアブラムシの群れ周辺には翅付き成虫が十数匹いた。この子たちは群れから離れた葉の上にお互いに距離を置いてとまっている。
カラスノエンドウはすべてうなだれていた。その葉も一部枯れ始めている。さらにテントウムシの成虫と幼虫が1匹ずつ。諸行無常、盛者必衰である。
午後1時。
バルーニングしてきたらしい体長2.5ミリほどのライムグリーンのクモが腿にとまっていた。何グモの幼体かまではわからない。
白い蝶が2匹、黄色い蝶が1匹、体長10ミリほどのハエも1匹飛んでいた。
体長4ミリほどのお尻が白いゴミグモも2匹見つけた。春先のゴミグモの幼体はお尻が白い子も珍しくはない。何か意味がありそうな気がする。
午後2時。
枯れ草に取り付けられた白い袋状のものを2個見つけた。これは多分、ナカムラオニグモの住居だろう。ナカムラオニグモは北方系のクモらしくて、低温には強いのだそうだ。その代わり暑い地方は苦手らしい。
スズミグモのスズちゃんの3番目の卵囊がなくなっていた。路肩の整備が行われたらしい。残念だが、これまでだな。
午後5時。
しばらくぶりで80キロ走ってしまったので少々腰にきた。
3月16日。晴れ。最低6度C。最高17度C。
午後1時。
舗装の割れ目でシロバナタンポポが咲いていた。この花は毎年いくつか見るのだが、数が増える様子がない。黄色い花のタンポポより弱いんだろうか。
小さな神社の灯籠に体長2.5ミリほどの赤いクモがいた。多分クサグモの幼体だろう。
オレンジ色の蝶も数匹飛んでいた。
光源氏ポイントではオニグモの仲間のものらしい円網も2個見つけた。
午後2時。
舗装路の脇でゲンノショウコが咲いていた。
3月17日。曇り時々晴れ。最低9度C。最高20度C。
3月18日。晴れ。最低6度C。最高11度C。
午前11時
スミレの仲間の花がまた咲き始めていた。スミレにとって今回の冬は1ヶ月ちょいしかなかったということになるようだ。
3月19日。晴れ時々曇り。最低マイナス1度C。最高12度C。
3月20日。晴れ時々雨。最低マイナス1度C。最高14度C。
3月21日。晴れ。最低1度C。最高9度C。
3月22日。晴れ。最低マイナス3度C。最高12度C。
午後3時。
クサグモのものらしい不規則網付きの棚網をいくつか見つけた。
ゴミグモたちは円網にゴミを付けている子と付けていない子が混在している。
比較的大型の円網を張るクモの中では、春が来ると真っ先に姿を見せて、秋には最後まで網を張っているのがゴミグモである。その円網も見るからに通り抜けができないような場所に張られていることが多いようだし、ゴミも付いている。ということは、小型の獲物を狙っているのではないかと思う。細く長く生きようというタイプなのかもしれない。あるいは、鳥や大型昆虫などに網を破られないことを最優先としているのか、だな。ゴミを集めるのには手間もかかるし、卵囊もその中に取り付けるのだから、オニグモのように網を使い捨てにするわけにはいかないという可能性もあるだろう。
3月23日。雨時々晴れ。最低マイナス1度C。最高9度C。
3月24日。曇りのち晴れ。最低2度C。最高16度C。
午前11時。
近所のカラスノエンドウにはアブラムシの群れ(コロニー?)が3個しかなかった。テントウムシは見える範囲で5匹だ。完全に出遅れている。
かと思ったら、そこから数メートル先のカラスノエンドウにもアブラムシが群れていたのだった。確か2月末の時点では、この場所にはアブラムシはいなかったはずだ。花も咲いているから活きのいい株に乗り換えたという形になるだろう。しかもテントウムシの幼虫は見当たらない。アブラムシは活きのいい草を追いかけ、それをまたテントウムシの幼虫が追いかけているのだな。
3月25日。曇り時々晴れ。最低8度C。最高14度C。
午前11時。
干しておいたタオルに体長10ミリほどのガがとまっていた。この季節に現れるということは成虫で越冬した子だと思う。幼体や成体で越冬するクモも多いことだし、節足動物の場合は、卵でも繭でも成虫でも体内の水分が凍結しなければ死ぬことはないのかもしれない。
3月26日。雨。最低10度C。最高11度C。
午後11時。
今日は1日中雨だったので、馬場友希著『クモの奇妙な生活』を読み返してみた。すると、「フロリダ州におけるアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)を対象とした研究によりますと、なんと都会に生息するジョロウグモは田舎に生息するジョロウグモに比べて、60%も腹部が長いこと、さらに網も田舎や公園のクモに比べて網が大きく、網を張る場所も地表面高くに作られることも分かりました」という記述があったのだった。
やれやれ……。この文章における「ジョロウグモ」と「クモ」は正しくは「アメリカジョロウグモ」であるはずだ。こんな書き方をしたのでは読者に日本産のジョロウグモもそういう性質を持っているような印象を与えてしまうではないか! 多分、馬場氏も「すべての昆虫はショウジョウバエである」という考え方をする論文屋さんなんだろう。
それと気になったのが「昼行性種」であるコガネグモ、ナガコガネグモ、ジョロウグモなどは「夕方になると網の隅のほうに移動して夜を過ごします」だ。私はこういう行動を見た記憶がない。
ナガコガネグモやジョロウグモが真夏の昼頃に獲物を捕食しようとしなくなったとか、コガネグモが葉の陰に入ったというのは見てきたが、それは気温が高くなりすぎると飛行する昆虫も少なくなるからだろう。むしろ、真夏であれば気温が低い夕方から朝までの時間帯の方が獲物は多いのではないかと思う。そもそも、この3種は成体で越冬することはできないのだから、積極的に捕食しなければそれまでのクモ生が無駄になってしまいかねないだろうに。
おそらく、クモの論文屋さんは昆虫についての知識が不足しているのだろうと思う。今シーズンはこの辺りにも注意して観察してみよう。
気になる記述はまだある。その先には「昆虫には人間の目では、見えないような波長の低い光(すなわち紫外線など)も見ることができます」と書かれているのだ。「波長」は「長い」とか「短い」とか言うものではないのか?「高い」とか「低い」とか言えるのは周波数ではないのか?「波長が低い」というようなデタラメな表現を使ったのは大崎茂芳氏の方が先なのだろうが、何も明らかに間違っている表現を丸写しすることはあるまいに。
ついでに言わせてもらえば、その次の「ですので、紫外線を通すフィルターを使って写真撮影すると、昆虫の眼からクモがどのように見えているかが分かります」というのもあまり正しくない。昆虫の色覚はだいたい紫外線の領域からオレンジ色辺りまでのようだ。したがって、「紫外線を通すフィルター」はいいとして、赤から赤外線の領域の光も透さないフィルターでなくては昆虫の視覚にはならないはずだ。
まあ、言いたいことはわかるような気がしないこともないのだが、どうして、こんな非科学的な表現をしてしまうんだろう? 現在のクモ学は「科学である」と言えるレベルに達していないからしょうがないのか?
3月27日。晴れ。最低4度C。最高14度C。
午後3時。
木の幹に取り付けられた小指の爪半分ほどのジョロウグモの卵囊を見つけた。
体長2ミリから3ミリほどのクサグモの幼体(多分)も数匹いた。その他に白や黄色の蝶が数匹、それに蚊のような昆虫の群れなども飛んでいた。春なんだなあ。
午後4時。
1本のハクモクレンが満開になっていた。
3月28日。曇りのち雨。最低1度C。最高14度C。
午前11時。
スーパーの近くでスミレの仲間が満開になっていた。
3月29日。雨のち晴れ。最低12度C。最高20度C。
午前7時。
玄関のオオヒメグモが何かを食べていた。ただし、不規則網はゴミだらけのままだ。室温は14度C。これくらいの暖かさでないと動けないのらしい。屋外なら日光浴で体温を上げることもできるのだろうが……。ああっと、空腹度にもよるだろうな。
3月30日。晴れ時々曇り。最低9度C。最高24度C。
午前1時。
寝付けないので、クラックが入っていたサングラスのレンズを交換した。レンズの耳部分が割れてテンプルの取り付け部分に残ってしまったので、お湯で温めてから千枚通しで掘り出すようだった。寿命だったんだな。よく働いてくれたものだ。
午前10時。
スーパーの近くをハチのような昆虫が歩いていた。ハエの仲間かもしれないが、めんどくさいので確認はしていない。人間も多いし。
冬でも少し暖かければモンシロチョウサイズの蝶やハエなどは飛べるようだ。で、本格的に気温が上がるとハチの仲間が飛び始め、大型の蝶がそれに続くような気がする。食べ物が十分に多くなってから活動を開始するということなんじゃないかと思う。
3月31日。晴れのち曇り。最低9度C。最高21度C。
午後1時。
体長4ミリほどの二種のハエトリグモの仲間を見つけた。種名まではわからないが、カメラの方を向いてくれると大きな眼がかわいい。フラッシュを使うとキャッチライトも入るし。
体長5ミリほどのサツマノミダマシとアシナガグモの仲間も歩いていた。
午後4時。
モクレンが咲いていた。舗装の継ぎ目ではスミレの仲間も多数咲いているし、ゲンノショウコも一株だけだが花を咲かせていた。ナガミヒナゲシのつぼみもうつむいている。
ナガコガネグモやジョロウグモの出囊は去年よりも早くなるかもしれない。
4月1日。雨時々晴れ。最低9度C。最高14度C。
午前11時。
スーパーの東側のツツジの植え込みでブタナの黄色い花が咲いていた。高さは60センチを超えるくらいだ。
それに対して、舗装の割れ目から生えている高さ5センチくらいしかないナガミヒナゲシの花の直径は10ミリほどで、花びらも3枚しか残っていなかった。なんとしても子孫を残したかったのだろう。植物は「置かれた場所で咲くしかない」のである。ただし、作者は動物である人間に向かって「置かれた場所で咲きなさい」と命令するような人間にはなりたくはない。
4月2日。晴れのち曇り。最低4度C。最高18度C。
午前11時。
スーパーの近くでノーマルサイズのナガミヒナゲシが咲いていた。
午後6時。
ローラー台に乗って負荷をかけたら血圧が201と99になった。なお、現在までの最低記録は108と66だ。〔そんなこともあるさ。血圧だもの〕
ちなみに、主治医によると「血圧は低い方がいい」のだそうだ。ゼロがベストということだな。〔……死ぬぞ〕
血圧についてはその程度の知識しかない医者なのである。
4月3日。曇りのち雨。最低8度C。最高16度C。
午前8時。
起き抜けの血圧は163と94。
「スクワットをすると血圧が下がる」というような発言をしていた医者がいたのでスクワットを10分間してみたのだが、たいして下がらない。そこで高さ25センチの踏み台を利用して1段だけの踏み台昇降運動を10分間行うと140と78になった。作者にとってはスクワットよりも踏み台の方が効果的であるのらしい。筋肉の負荷も少ないようだし。なお、念のために言っておくと散歩、というか、20分以上のウォーキングも効果があるようだ。
4月4日。雨のち晴れ。最低12度C。最高18度C。
午前10時。
気温と連動して室温もある程度は上がっているはずなのだが、玄関のオオヒメグモの網はゴミだらけのままだ。冬の間に食べさせすぎたかもしれない。
午後1時。
イトトンボの仲間やハエ、ハチ、ベニシジミ、そしてアゲハサイズの大型の蝶も飛んでいた。
草の葉の上には緑色のカメムシがたたずんでいた。
ソメイヨシノ(多分)も咲き始めている。
午後8時。
日本直物生理学会のホームページに寄せられた質問とそれに対する回答を編集したという『植物の謎』(2024年発行)を読み終えた。
作者には理解しきれないことも書かれているのだが、説明が丁寧でわかりやすいし、わかっていないことにはちゃんと「まだわかっていません」という語尾が多用されているので、いかにも「科学だなあ」という印象である。反論されては困るので語尾を「~だ」「~である」にしているらしい更〇功氏だとか、「すべての昆虫はショウジョウバエである」などと考えているらしいクモ学の論文屋さんたちとは大違いだ。
日本蜘蛛学会のホームページにもこういう質問コーナーを設ければ、数年で地動説レベルまで進化できるだろう……とは思うのだが、大半の論文屋さんが失業することになりかねない。銭儲けをするのには天動説レベルのままにしておいた方が楽なのだろうな。質問にまともに答えられる論文屋さんがいるかどうかもあやしいことだし。
4月5日。雨のち曇り。最低9度C。最高12度C。
4月6日。雨。最低8度C。最高15度C。
4月7日。雨時々曇り。最低13度C。最高18度C。
午前7時。
アセビの花が咲き始めていた。
アブラムシが群れていた近所のマメ科の草はほとんど枯れていたが、数メートル先の活きのいい群落に新たな群れができていた。テントウムシが1匹とその幼虫も数匹いたが、食べきれる数ではなさそうだ。もっとも、食べ尽くしてしまったらテントウムシも困るのだろうが。
4月8日。曇り一時雨。最低14度C。最高19度C。
午前11時。
ちらっと見ただけだが、舗装路の片隅に白いスミレが咲いていたようだ。
4月9日。雨時々曇り。最低15度C。最高18度C。
4月10日。晴れ。最低3度C。最高14度C。
4月11日。晴れのち曇り。最低4度C。最高17度C。
午前11時。
玄関のオオヒメグモが住居から出て脚を伸ばしていた。
午後2時。
ソメイヨシノが見頃になっていた。ヤマザクラとオオシマザクラも咲き始めている。黄色い花が咲いている低木はレンギョウだろう。
午後3時。
お尻が白いクモが2匹歩いていた……と思ったのだが、白くて丸いものは卵囊だろう。ということは、お尻に卵囊を付けて持ち歩くという徘徊性のコモリグモの仲間だったのだろう。残念ながらカメラを用意する前に枯れ草の下に入り込まれてしまった。なお、大きめの子と小さめの子がいたのは別種なのか、ただの個体変異か、あるいは、産卵後も成長を続けるのかもしれない。
4月12日。曇りのち晴れ。最低10度C。最高17度C。
午後3時。
近所のアブラムシが群れているカラスノエンドウの第二の群落も枯れ始めていた。しかも、テントウムシの幼虫は逆に増えているようだ。「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」だなあ。
その先に生えていたスイバの茎には黒いアブラムシがびっしり群れていた。『虫の写真図鑑』というサイトのアブラムシ科のページに掲載されている黒いアブラムシにはマメアブラムシ、ワタアブラムシ、ガマノハアブラムシ、クリオオアブラムシがある。ただし、ガマノハの出現期は5月から11月ということだし、クリオオはその名の通り体長が4ミリから5ミリということなので除外するとして、見た感じはワタよりはマメかなという気がするのだが、マメアブラムシは「カラスノエンドウ、ソラマメ、アズキ、インゲンのほか、ミカンにも付く」のだそうだ。うーん……マメ科もミカン科も食べられるということならばタデ科のスイバも食べられそうな気もするのだが、どうなんだろう? スイバは栽培植物ではないから見落とされている、とか?
4月13日。晴れ。最低8度C。最高19度C。
4月14日。晴れ。最低8度C。最高22度C。
午前10時。
玄関のオオヒメグモは住居から20センチくらいの場所にいた。それくらい暖かいのだな。「その前に不規則網のゴミを外したらどう?」と言いたいところだが、オオヒメグモは地上を歩く獲物を狙うクモだから、円網ほどこまめに掃除する必要はないのかもしれない。
スーパーの近くではキュウリグサが咲き始めていた。
4月15日。晴れ時々曇り。最低9度C。最高23度C。
午前8時。
ソメイヨシノの花は散り始めている。
スーパーの周囲に体長3ミリから5ミリほどのゴミグモの幼体が7匹現れていた。お尻が白いのは体長3ミリほどの子だけで、あとは濃淡はあるものの、茶褐色である。
体長3ミリほどのコガネグモの仲間の幼体も1匹見つけた。隠れ帯は向かって右下に1本。
直径約30センチのオニグモの仲間のものらしい円網もあったが、そのこしき部分には糸の塊が取り付けられていた。つまり無こしき網ではない。
体長5ミリほどの緑色のバッタの子虫はタンポポの花の中に潜り込んでいた。
午後7時。
朝見つけた円網で体長7ミリほどのオニグモの幼体が待機していた。やはり、この季節には夜明け前に網を張り替えるのらしい。
これ幸いとツンツンして退いてもらうと、予想通り、こしき部分に穴が開いていた。ただし、アシナガグモの仲間のようにほぼ円形の穴ではなく、角張った楕円形である。もしかして、仕上げが雑だから「無こしき網」と認めてもらえないということなんだろうか?
この子にはお礼として体長4ミリほどのアリをあげておく。
4月16日。曇りのち晴れ。最低11度C。最高22度C。
午前7時。
ゴミグモの3ミリちゃんのお尻は薄い茶褐色になっていた。やはり、1日か2日くらいで色が変わってしまうようだ。
オニグモの7ミリちゃんは円網を張り替えて住居に戻ったらしかった。こしき部分はもちろん塞がっている。
スーパーの南西の角にも体長8ミリほどのオニグモがうずくまっていた。
午後2時。
くすんだオレンジ色の体長1ミリほどの子グモたちがまどいを形成していた。だいたい25匹くらいいるようだ。今シーズン初のまどいである。ジョロウグモやナガコガネグモの子たちではないようだが、何グモかまではわからない。
コシロカネグモらしいクモを3匹見つけた。体長はそれぞれ5ミリ、3ミリ、2ミリほど。今日は風が強かったので5ミリちゃんと2ミリちゃんの円網は大きく破れていたのだが、3ミリちゃんの円網は比較的被害が少なそうだったので、そうっと指で触れてみた。3ミリちゃんは期待通りに脚先でチョンチョン、触肢でもしょもしょしてくれたのだが、この体長ではもしょもしょの手触りを感じられない。もしょもしょは10ミリ以上の子に限るな。〔相手は迷惑してるんだぞ〕
午後3時。
用水路の脇の枯れ草に糸で造られた袋状のものが多数付いていた。おそらくはナカムラオニグモの住居だ。
ただ、その近くに張ってある円網のほとんどはこしき部分に穴がない。円網で待機していた体長10ミリほどの子をツンツンして、こしき部分から退いてもらってみたのだが、やはり穴はなかった。
同じコガネグモ科でもオニグモはオニグモ属であるのに対してナカムラオニグモはナカムラオニグモ属らしいから、コガネグモ科の場合は属レベルでこしきに穴を開けたり開けなかったりするということになのかもしれない。
ちなみに、ゴミグモ属のゴミグモはもちろん穴なしで、ヒメオニグモ属のサツマノミダマシは穴ありのようだ。その他のコガネグモ科のクモについてはよくわからない。今シーズンはその辺りも意識して観察しようと思う。
午後4時。
マメアブラムシの群れを撮影した。体長2ミリほどの黒い個体とその3分の1くらいのグレーの個体がいたのだが、成虫と子虫なんだろうか?
午後5時。
帰宅したら、部屋の中を体長5ミリほどの昆虫が飛んでいた。「飛んで部屋に入る春の虫」である。〔…………〕
さっそく捕まえて、玄関のオオヒメグモの不規則網の上から落としてあげた。少し時間はかかったが、ちゃんと仕留めたようだ。
午後7時。
オニグモの7ミリちゃんはひも状になった円網の残骸からぶら下がっていた。網を張り替えてくれないとできることは何もない。
4月17日。雨のち晴れ。最低14度C。最高22度C。
午前6時。
去年、オニグモの25ミリちゃんがいた場所に体長1ミリほどの子グモが数匹いた。すでに分散する時期に入っているのかもしれない。
「我はまどいを見逃したー」〔古いと言うのに!〕
『オニグモの卵囊「蜘蛛の子を散らす」』というサイトに、2023年9月にオニグモの卵囊の周囲に黒い子グモたちが群れていたという画像もあったから、年内に出囊ということもあるのだろう。ナガコガネグモでもそういう観察例が報告されているらしいから、早めに産卵できれば秋に温量指数が基準値に達して出囊ということもあり得る……と思う。また、少なくともオニグモにもまどいを形成する時期があるのは間違いないだろう。
スーパーの西側の植え込みにはオニグモの幼体のものらしい円網が数個残されていた。こしき部分の穴は開いていたりいなかったりだ。
そして、体長2ミリほどのオニグモの幼体は横糸を張っているところだった。そのまま見ていると、横糸を張り終えてこしき部分に戻ってから脚をぎゅっと縮め、それから時計方向に一回りした、これでこしき部分の糸を回収して穴を開けたのだろう。
午後10時。
玄関前にいた体長8ミリほどのズグロオニグモ(多分)の円網にそーっと指を置いてみた。するとこの子は、少し時間はかかったものの、脚でチョンチョンした後、触肢でもしょもしょしながら指に乗ってくれたのだった。今シーズン初の指乗りグモである。
4月18日。曇りのち晴れ。最低13度C。最高20度C。
午前10時。
オニグモの7ミリちゃんは円網を張り替えていなかった。食休みだと思いたい。
午前11時。
スーパーの西側には体長4ミリから6ミリくらいのゴミグモの幼体が7匹いた。お尻が白い……というか、アイボリーの子が1匹、ほとんど黒の子が1匹、残りは茶褐色のお尻に一対の白っぽい斑があるというノーマルタイプだ。
右足の裏にチクッとした痛みを感じたのでサンダルをチェックしてみたら、スポンジ状のソールを尖った石が貫いていた。帰宅してから細いドライバーで掘り出したのだが、たまには点検しないと危ないな。
玄関のオオヒメグモはいつの間にか8本脚になっていた。脱皮したんだろう。もちろん、左の第四脚は少し短めだ。
午後2時。
アヤメやマーガレットが咲き始めていた。なお、今日は曇っているのでアヤメの紫色がきれいに撮れる。そういう意味ではいい天気である。
頭胸部と脚が薄緑色でお尻は白地に褐色の斑が3つあるカニグモ科のハナグモ(多分)が2匹、マーガレットの花の上で第一脚と第二脚を広げて獲物を待っていた。
ハナグモはその長い第一脚と第二脚で獲物を抱え込みながら牙を打ち込んで仕留めるという狩りをするクモなので、イネ科の草の葉をちぎって広げている脚の内側をツンツンすると、パッと抱え込んでくれる。そこまでは「面白いなあ」で済む話なのだが、この子は草の葉を上方、つまり作者の手に向かって登り始めてしまったのだった。おそらく、「これは獲物ではない。植物だ。ということは、上に向かって行けば水平な所(花)があるかもしれない」というような判断をしたのだろう。しかし、これは作者にとっては予想外の行動である。
「ちょ、ちょっと待って。まだ心の準備が……」などとジョークをかましながら指先でツンツンしてマーガレットの花の上に戻ってもらおうとしたのだが、しおり糸を引いて地面に逃げられてしまった。ごめんね。
というわけで、2匹目の子は撮影するだけにしよう……と思ったのだが、これもうまくいかない。カメラを近づけていくと花びらの下に隠れてしまうのだ。これでは絵にならない。指先でツンツンして花の上に戻ってもらって撮影した。やれやれ……。
※帰宅してから検索してみると、カニグモの仲間は基本的に4対8個の個眼を前方、上方、斜め前方、斜め後方に向けているのらしい。つまり、背面側ならばほぼ半球形の視界を持っているということなのだろう。そして作者が使っているコンパクトカメラは縦が65ミリ、横が115ミリくらいある。この大きさでは捕食するのは無理。逆に捕食されてしまいかねない。となると、花の下に隠れるのが正解になるわけだ。これもまた「クモ3億年の知恵」である。
午後3時。
光源氏ポイント近くの畳1枚分くらいの場所にはゴミグモが数匹いた。どうも、ゴミグモは間を開けて群れる(?)傾向があるような気がする。交接するためには雌と雄が近くにいた方がいい。しかし、近すぎると獲物を奪い合うことになりかねない。そのバランスでそれぞれの円網の位置を決めている可能性がある……と思う。まあ、いつかは論文屋さんが室内飼育して検証してくれるだろう。ただ、観察期間が2週間くらいになりそうなのがネックになるかもしれない。
体長7ミリほどのハエトリグモの仲間は別種のクモらしい獲物を咥えていた。ハエトリグモもカメラを近づけていくと逃げるタイプだ。
ついでに言っておくと、体長40ミリほどのガもいた。一気に賑やかな季節になったものだ。
午後4時。
体長15ミリほどのアシナガグモの仲間が半分くらいの体長の雄(多分)を追いかけ回していた。交接する気のない雌にとって雄は獲物でしかないのだろう。しかし、アシナガグモの雄としては他の雄と交接されては困るわけで、捕食される危険を冒してでも雌の近くに居なければならないわけだ。人間の雄たちもそういう生き方ができれば世界はもっと平和になるはずなんだけどなあ……。
4月19日。曇りのち晴れ。最低13度C。最高21度C。
4月20日。晴れのち曇り。最低9度C。最高25度C。
午後1時。
タンポポの花の上にベニシジミがいたので撮影した。いつもなら近寄っただけで逃げられてしまうのだが、今日は風が強いから花にしがみつくので精一杯ということらしい。そういう意味ではいい天気である。
体長5ミリほどのバッタの子虫を2匹見つけた。1匹は緑色でもう1匹は黒。今年孵化した子たちだろう。
体長40ミリほどのキリギリス体型のバッタもいた。こちらは成虫で越冬するタイプだろう。ちなみに緑色の個体と茶色の個体がいたのだが、これはバッタの仲間にはよくある個体変異のようだ。
午後2時。
ユリ科のアマナが咲き始めていた。近寄ってよく見ると、アマナのおしべの茎(花糸?)は葉のように扁平な形だった。この季節には昆虫が少ないから、おしべまで使って昆虫を誘引しようということなのかもしれない。
緑色のカメムシ2匹が背中合わせに寄り添っていた。仲良きことは美しきかな?〔疑問符を付けるんじゃない!〕
光源氏ポイント周辺ではゴミグモの数がだいぶ増えていた。最大の個体は体長8ミリほど。やはり大きめの子ほど春の目覚めが遅くなるようだ。体内に蓄えておける栄養の問題か、あるいは、気温が低い時期には大型昆虫が少ないから網を張ってもコストに見合うだけの獲物を捕食できないということなのかもしれない。
4月21日。晴れのち曇り。最低11度C。最高19度C。
4月22日。雨のち曇り。最低14度C。最高17度C。
午前10時。
1羽だけだが、ツバメが飛んでいた。
午後1時。
フジの花が咲き始めていた。当然クマバチも飛んでいる。
午後3時。
後輪がパンクした。チェックしてみると、尖った石が突き刺さっている。どうも尖った石というものは「何かに刺さってやろう」という強い意志を持っているようだ。〔…………〕
さっさと帰ってタイヤ交換をしよう。
午後7時。
スーパーの西側にいた体長10ミリほどのオニグモの円網は無こしき網であることを確認した。その穴には糸が2本張られているが、これはしおり糸だろう。
そして、その近くにいた体長6ミリほどのズグロオニグモの幼体2匹の円網のこしき部分には穴がなかった。なるほど、種によって違いが出るのだな……と思ったら大間違い! スーパーの南側にいた体長10ミリほどのズグロオニグモのこしき部分には穴があったのである。これはいったいどう解釈すればいいんだろうか。……体長……かな? 体長7ミリくらいから穴を開けるのか、あるいは、円網がある基準以上に大きくなったら穴を開けるんだろうか?
4月23日。曇り。最低14度C。最高18度C。
午後8時。
台所の床の上に体長5ミリほどのクモがいた。ハエトリグモの仲間かと思ったのだが、上から撮った画像を拡大してみると頭胸部が丸っこい。ハエトリグモの仲間は長方形であることが多いようだから、ワシグモ科とかネコグモ科とかの可能性もあるかもしれない。よくわからん。
4月24日。雨時々曇り。最低14度C。最高17度C。
午前6時。
オダマキの花が咲き始めていた。
スミレのシーズンはほぼ終わったようだ。。
4月25日。晴れ一時雨。最低15度C。最高25度C。
午前5時。
スーパーの西側にいるお尻の白いゴミグモが足場糸を張り始めたところだった。
4月26日。晴れのち曇り。最低11度C。最高23度C。
4月27日。曇り時々晴れ。最低16度C。最高21度C。
午前1時。
ガガンボが台所で元気に飛んでいた。オオヒメグモは本来、歩くタイプの獲物を狩るクモなのでしょうがない。
だいぶ暖かくなってきたことだし、この子にも「森へお帰り」をしてもいいかもしれない。
午前6時。
スーパーの周辺では3匹のオニグモの幼体が円網を張っていた。どれもきれいな円網なので早朝に張り替えたものだろう。
体長10ミリほどの子は獲物を探している間に住居に戻ってしまったのだが、ワラジムシを円網に投げ込んだ後、気が付いた時には捕帯を巻きつけていた。
ついでにお尻がアイボリー色のゴミグモにもアリをあげておく。
午前7時。
玄関のオオヒメグモが住居から出て不規則網の中で待機していたのでアリを落としてあげた。〔甘いな〕
午前11時。
残業している体長6ミリほどのオニグモの幼体がいたので、歩道に倒れていた体長15ミリほどのハチのような体型の黒いハエ(多分)を円網に放り込んでみた。この子はいったん円網の反対側の端まで逃げたのだが、危険はないと判断すると近寄って捕帯を巻きつけた。この時期に体長で2倍以上の獲物なら正しい対応だろう。
お尻がアイボリーだったゴミグモのお尻の中心線には濃い茶褐色の縦帯ができていた。その両脇に大きなアイボリーの斑という模様である。これは困った。これではゴミグモの白いお尻には誘引効果があるということになってしまいそうだ。……見なかったことにしようかなあ。〔正直に生きろよ〕
※池田博明編『クモの巣と網の不思議』という本には「九州大学の馬場友希さんは、ゴミグモで誘引説を検証しました。ゴミリボンのある網と無い網で、虫のかかり方を比較したところ、はっきりした差はありませんでした。また、かかる虫が種類によって異なるということもありませんでした。ゴミリボンは紫外線の反射特性も小さく、誘引説で説明するのは無理があります」と書かれている。やれやれ……。誘引説教信者らしい考え方だ。ゴミグモは越冬できるのだから、基本的に獲物を誘引するような危険な行為を行う必要がないのだろう。
しかし、これはあくまでも雌の場合だと思う。雄は、先に成体になって雌が成体になるのを待ちたいはずだ。特に他の雄が近くにいて、それを感じる能力が雄の幼体に備わっているとしたら、急いで成体になろうとすることは十分に考えられる。さらに、ゴミグモは腹面側に藪や枝葉などがあって通り抜けがしにくい場所に網を張る。これだとオニグモ成体の網のように獲物に体当たりされることは少なくなるかもしれないのだが、同時に獲物は減るはずだ。そこで危険度が高くなるのを承知の上で、お尻を白くして獲物を誘引するのではないだろうか。
というわけで、白いお尻は「早くオトナになりたい」と考えている雄の幼体だけの特徴なのではないかと思う。これも室内飼育すれば検証できるだろう。ああっと、その前に論文屋さんが白いお尻の存在に気付くことが必要だなあ。
※後でこの白いお尻ちゃんは雌だとわかる。ただの個体変異なのかもしれない。
4月28日。曇りのち晴れ。最低15度C。最高25度C。
午前5時。
昨日獲物をあげたオニグモの幼体2匹は円網を回収していた。十分な量の獲物を食べたので、今日は働く必要はないということなのか、あるいは引っ越しをするのかもしれない。
午後2時。
体長16ミリほどの黒くて細い体型の昆虫が2匹、アブラムシを食べているようだった。繁殖力が強い生物は食べられなくてはいけない。そうしないと増えすぎて自滅してしまうのだ。しかし、人間には捕食者がほとんどいない。人間が戦争をするのは個体数を調整するためなのかもしれない。
4月29日。曇り。最低15度C。最高22度C。
午前5時。
オニグモの10ミリちゃんは横糸を張っているところだった。
同じく6ミリちゃんはワラジムシをもぐもぐしている。もちろん円網はボロボロのままだ。
体長6ミリほどのズグロオニグモが住居へ戻るところだった。その円網のこしき部分には穴が開いている。
午後1時。
キアゲハと黒いアゲハが飛んでいた。暖かいのだなあ。
オドリコソウが咲いていた。観察をサボっていたので少し旬を逃したようだ。見栄えのする株を選んで撮影しておく。
ゴミグモ婦人がいた生け垣にもお尻がアイボリーのゴミグモがいた。どうも、畳1枚分くらいの広さにいる5匹に1匹、最も小柄な子がお尻を白くするような気がする。成長が遅れているので、危険を承知の上で獲物を誘引しようというのか?
ウズグモも円網に隠れ帯を付けていたし、ヨツデゴミグモもきれいな円形の隠れ帯を付けていた。
午後2時。
昨日アブラムシを食べていた黒い昆虫が妙な姿勢でいるなと思ったら、その頭部をハナグモが抱え込んでいた。こういう場面では何回か失敗してきたので、最近では「手づかみできそうだな」と思った場合でも、よく観察してから手を出すようにしている。
不自然な
姿勢とりたる
昆虫の
正体見たり
ハナグモの狩り
その他にもよくわからない徘徊性らしいクモが甲虫を仕留めていたり、ハエトリグモの仲間が眼をキラキラさせていたりした。賑やかだこと。
午後3時。
オニグモのものらしい円網に翅付きのアブラムシが60匹くらい、黒い昆虫も6匹かかっていた。食う者も食われる者も等しく食われる。これもまた自然界の掟である。
体長12ミリほどのガを捕まえた。後でオニグモの10ミリちゃんにあげよう。
午後6時。
オニグモの7ミリちゃんのものらしいボロボロの円網を見つけた。元いた場所から5メートルほど南へ引っ越したらしい。オニグモにとっては、変な獲物が投げ込まれる場所もまた、よくない環境なのかもしれない。
午後10時。
オニグモの10ミリちゃんは円網の糸を回収して、その中心だった場所にたたずんでいた。円網を張る気になれないようだ。あまり空腹ではないのだろう。
より小型の幼体の1匹はすでに張り替え済み。もう1匹は張り替え中だった。残りの1匹は姿を見せていないから腹ごなしだろう。つまり、一斉に日没後に円網を張り替える体制に移行したわけだ。おそらく「夜間の気温が獲物が飛べる程度になった」と判断したのだろう。しかも、その判断基準はすべてのオニグモで共通である可能性もあるかもしれない。
円網を張っている体長3ミリ以下のオニグモ体型の子グモも数匹いた。今年になってから出囊した子たちだと思う。夜行性のクモが1日に食べることができる獲物の量は、単純計算で24時間営業のクモの半分にしかならない。越冬できるとはいえ、確実に2年で成体になるためには少し早めに出囊するのも有効なのだろう。
午後11時。
部屋の中に体長3ミリほどの羽虫がいたので捕まえて玄関のオオヒメグモにあげた。そこで気が付いたのだが、こうして作者が獲物を上から落とすので、この子は「獲物は上から降ってくるものだ」と学習してしまったんじゃないだろうか。そういう仮定を導入すると不規則網の手入れをしないのも説明できるし、クモならばその程度の学習能力を持っていても不思議はないような気もする。
さて困った。「森へお帰り」をすると、この子は飢え死にしてしまうかもしれない。もう半年近く掃除していないのだけどなあ……。
4月30日。雨のち晴れ。最低17度C。最高22度C。
午前1時。
オニグモの10ミリちゃんが横糸を張っているところだったのでガを放り込んだ。迷惑なのはわかっているのだが、雨が降り出す前に捕食してもらいたかったのである。なお、10ミリちゃんの円網の直径は約40センチだ。
ゴミグモの白いお尻ちゃんは全面アイボリーのお尻になっていた。「もっと食べたい」ということなんだろう。しかし、この子の体長は5ミリほどでしかない。こんな小さな子でも捕食できるような小型の獲物は捕まえるのも難しい……ああっと、アブラムシがいいかな。十分小さいし、逃げないし、群れているから捕まえ放題だし。
5月1日。雨時々曇り。最低17度c。最高18度C。
冷蔵庫に入れてあったガガンボをゴミグモの白いお尻ちゃんにあげよう、と思ったのだが、横糸を張っていなかった。もしかすると脱皮が近いのかもしれない。
しょうがないので、その近くにいた体長5ミリほどのオニグモの幼体(多分)の円網に放り込んだ。この子にとってはかなりの大物なのでDNAロールで捕帯を巻きつけていた。そして、もう夜が明ける時間帯だというのにその場で食べ始めたところを見ると、かなり空腹だったのではないかと思う。
5月2日。曇りのち晴れ。最低11度C。最高18度C。
午後8時。
オニグモの7ミリちゃんが横糸を張っているところだった。あとでアリをあげることにしよう。他に円網を張っていたオニグモは昨日ガガンボをあげた5ミリちゃんだけだった。
5月3日。晴れ。最低8度C。最高24度C。
午前11時。
民家の塀でじっとしている体長25ミリほどの緑色のイモムシを見つけた。その下には白っぽいベージュ色のサナギもいたから変態の準備だろう。
しかし、おそらく今年になってから出囊……もとい、孵化した子だろうと思うが、まだ春だというのにサナギになってしまうというのはとんでもない成長能力である。「イモムシや毛虫は歩く消化器官である」と言われるわけだ。〔誰の言葉だ?〕
それはもちろん、5分ほど前に作者が考えついた言葉である。〔…………〕
午後2時。
田植えが始まっていた。とは言っても、この辺りは区画整理された水田が多いのでトラクター型の田植え機が使われている。
4月29日に翅付きアブラムシと黒い昆虫がかかっていたオニグモのものらしい円網は壊れてひも状になっていたのだが、アブラムシだけが残されていた。オニグモは大型の獲物から食べるようだ。
午後3時。
またカメラを落としてしまった。間抜けなことに、カメラを入れたサドルバッグのジッパーを開けたまま走っていたのである。
幸いにも……あえて幸いにもと言わせてもらうが、スプロケット(ロードバイクの後ろのギヤ)に自作のストラップが絡まったので、路面までは落下しなかった。カメラ自体の被害は擦り傷が2ヶ所くらいである。今のところは作動にも問題はない。ただ、ストラップに黒い油汚れが付いてしまったので、帰宅してから台所用の洗剤で洗うことにする。
午後5時。
玄関先にダンゴムシがいたので、丸くしてから玄関のオオヒメグモの不規則網の下に転がしてあげた。吊り上げ式の狩りを忘れていなければ捕食できるはずだ。
午後7時。
玄関のオオヒメグモはダンゴムシを吊り上げていた。これなら「森へお帰り」をしても生きていけそうだ。
午後8時。
オニグモの7ミリちゃんが円網を完成させていたので、体長5ミリほどの甲虫を投げ込んであげた。
5月4日。晴れ。最低11度C。最高26度C。
午前3時。
オニグモの5ミリちゃんが円網を張り替えていた。
ゴミグモの白いお尻ちゃんは今日も円網を張り替えていない。その数メートル先の体長7ミリほどのゴミグモのお尻は真っ黒な地に小さな白い斑が1対になっていた。
午前10時。
最近小バエが飛ぶようになってきたので、浴槽の下に置いていたキッチン用のぬめり防止剤をチェックしたらほとんど残っていなかった。交換しよう。
午前11時。
近所にオニグモのものらしい円網の残骸があるのに気が付いた。大きさから推測すると体長10ミリ前後の子だろう。
真っ昼間だというのにオニグモの5ミリちゃんが円網で待機していたので、そこらで捕まえた交尾中のルリチュウレンジ2匹を放り込んでみた。しかし、獲物が大きすぎるということなのか、5ミリちゃんは駆け寄ってこない。慎重に歩み寄っていくうちに2匹とも円網から外れて落ちてしまった。張り替えてから11時間は経っている円網だからしょうがない。今夜張り替えるようなら何かあげよう。
7匹のゴミグモたちのうち、3匹のお尻がほとんど真っ黒になってしまった。何年か前に観察した時にこういう変化を見せた2匹のゴミグモはどちらも雄だったんだよなあ……。
白いお尻ちゃんは今日も横糸を張っていなかった。ちょっとまずいかもしれない。
午後5時。
オニグモの5ミリちゃんが体長10ミリほどのハエ(?)を食べていた。何よりである。
カメラの動作がおかしくなってしまった。再生ボタンを推してもモニター左上に小さく表示されるだけで、残りの4分の3にはデータが表示されてしまうのだ。帰宅してから初期化しようと思う。
5月5日。晴れ。最低13度C。最高30度C。
午前6時。
近所のオニグモの体長は4ミリほどだった。同じくらいの体長のハエ(?)を食べている。またまた大ハズレだ。
ゴミグモの白いお尻ちゃんが円網を張っていた。お尻は薄いグレー。同じくらいの体長のアリを少し弱らせてからあげると、慎重に近寄って、第一脚と第二脚4本で十分にチョンチョンしてから捕帯を巻きつけ始めた。
その隣にいるオニグモの5ミリちゃんにも体長3ミリほどのアリをあげておく。この子は24時間営業をしているんじゃないか?
午前11時。
オニグモの5ミリちゃんは円網で待機していた。オニグモは脚を曲げているのが基本姿勢なので触肢の形を確認し難いのだが、この子は雄なんじゃないかと思う。
この子が雌だったなら、オトナになって交接できれば、ほぼ確実に子孫を残すことができる(寄生蜂に卵を産み付けられるというような危険はあるが)。それなら24時間営業までして成長を急ぐ必要はない。しかし、雄だった場合は、まだ交接していない雌と出会う必要があるわけだ。そのためには、できるだけ早くオトナになって「雌を求めて三千里」の旅に出ることが必要だろう。
ああっと、もしかしたら1.5メートルくらい離れた所に円網を張っている10ミリちゃんは雌である可能性もあるかもしれない。乱暴な仮説であるのは承知の上だが、オニグモの雌成体はもちろん、幼体も性別や成長段階がわかるようなフェロモンを放出しているとか、あるいは、しおり糸にそういう情報が含まれているのなら、5ミリちゃんには「早くオトナにならないと10ミリちゃんを他の雄に取られてしまう」というプレッシャーがかかるだろう。この場合、危険な24時間営業をしてでも早くオトナになろうとする理由になるかもしれない。
というわけで、5ミリちゃんには10ミリちゃんより先にオトナになれるように積極的に獲物をあげようと思う。異常に多くの獲物がかかるような環境でも引っ越しをしないようなら雄だろう。そして、雄が近くにいることを感じている10ミリちゃんも引っ越しをしない可能性もあるんじゃないかと思う。
このカップルのためなら、作者にできることは何でもしてあげよう。〔あしながおじさんだな〕
短足のおじいさんだけどな。
午後9時。
オニグモの5ミリちゃんはいなかった。24時間営業はやめたのかもしれない。オニグモは何を考えているのかわからん。〔当たり前だ!〕
5月6日。晴れのち曇り。最低17度C。最高24度C。
午前9時。
光源氏ポイント近くの街灯のポールに小指の爪くらいのまどいができていた。子グモたちの体長は1ミリほど。近くにはジョロウグモの卵囊が3個あったから、そのどれかから出囊した子たちだろうと思う。光源氏ポイント周辺ではこれが今年初のジョロウグモのまどいのようだ。
なお、広葉樹の枯れ葉で包まれた卵囊からは出囊した様子がない。街灯は金属でできているので温度が上がりやすいのかもしれない。天気次第になってしまうが、しばらくはこまめにチェックしようと思う。
午前11時。
玄関のオオヒメグモが住居から出て腹面を見せていた。これ幸いと撮影させてもらう。気温が上がったせいか、不規則網の中で待機していることが多くなったようだ。
午後6時。
ダンゴムシを捕まえたので、丸めてから玄関のオオヒメグモの不規則網の下へ転がしてみた。ダンゴムシが体を伸ばし始めると、オオヒメグモが近寄っていった……と思ったら、ダンゴムシは吊り上げられてしまった。これはこれで面白い狩りである。
5月7日。雨時々曇り。最低20度C。最高22度C。
午後5時。
玄関のオオヒメグモはダンゴムシを捨てていた。もう食べ終えてしまったらしい。
5月8日。雨時々曇り。最低16度C。最高22度C。
5月9日。雨のち晴れ。最低11度C。最高16度C。
午後2時。
光源氏ポイント近くの草むらでジョロウグモのものらしいまどいを見つけた。その近くに卵囊は見当たらなかったから、移動中の鉄砲玉グループかもしれない。
その側の木の幹にも体長5ミリほどの虫が群れていたのだが、触角があるようだから昆虫の子虫だろう。草の茎でツンツンしても数匹が身動きしただけだった。「蜘蛛の子を散らす」行動は子グモのまどいでしか見られないのかもしれない。ああっと、まどいを構成している子グモたち全員が一斉に行動できるのはどういうわけなんだろう? まどいの周囲に糸が張られていて、その振動に反応している……のか?
午後3時。
体長30ミリほどのオナガグモを見つけた。5月でこの体長ということは越冬した子なんじゃないかと思う。
光源氏ポイントではゴミグモの雄成体を4匹見つけた。そのうちの2匹はまだ成体になっていない雌の近くにいる。で、見ているうちに片方のカップルの近くに別の雄がやって来て居着いたようだった。修羅場の予感がするなあ。〔クモの不幸を願うんじゃない!〕
全体に黒くて、第一脚と第二脚の肘(?)から先が緑色のカニグモの仲間もいた。キハダカニグモかヤミイロカニグモの雄だろうと思うが、カニグモ科の雄は見た目が似ている子が多いらしいので断言はしかねる。
マルカメムシがクズの芽(?)に群れていた。
クサギカメムシのカップルは交尾していた。この2匹は交尾を終えた後、頭部を押しつけ合っていたのだが、この行動の意味はわからない。
1匹のハナグモがアシナガグモの仲間らしい獲物を咥えていた。常に円網で待機していればこういう形で捕食されることはないのだろうが、それはそれで危険なのかもしれない。
午後11時。
台所に体長10ミリほどのゴキブリ体型の昆虫(甲虫かもしれない)がいたので、玄関のオオヒメグモにあげた。この子のお尻はかなり丸くなっているのだが、食欲旺盛である。
5月10日。晴れ。最低6度C。最高25度C。
5月11日。晴れ。最低12度C。最高28度C。
午前5時。
オニグモの10ミリちゃんが円網を張っていた場所に、また円網が張ってあった。ただし、10ミリちゃんが張ったものだとは言い切れない。今夜にでもまた見に行くことにしよう。
その直径は30センチくらいで、枠糸から5センチまでの部分だけに横糸が張ってある。あまり食欲はないようだ。また、きれいな円網だから張り替えたのは夜明け前だろう。
その近くにいたゴミグモたちのうち、3匹が姿を消していた。いずれも全身ほとんど真っ黒という子たちだったので「雌を求めて三千里」の旅に出たんだろう。しかし、その近くにはどう見ても雌の幼体というゴミグモがいるのに、その側には雄が1匹もいない。これはどういうことなんだろう? まだそこまでたどり着いていないだけなのか?
白いお尻ちゃんのお尻はアイボリーのまま。とりあえず、体長6ミリほどのアリをあげておく。もしかすると……獲物が少ない場合は雄も雌もお尻を白くするという可能性もあるかもしれない。
午後1時。
だいぶ若葉が茂ってきて見つけにくくなっているのだが、光源氏ポイント周辺で新たなジョロウグモのまどいを数個見つけた。そのうちの3個は一つの卵囊から出囊した子グモたちのようなのだが、フィールドでの観察なので断言はしかねる。
本日のお土産は体長7ミリほどのバッタの子虫を1匹である。
午後7時。
近所のオニグモに体長4ミリほどの甲虫をあげた。それでわかったのだが、この子の円網のこしき部分にも穴が開けられている。
午後9時。
オニグモの10ミリちゃんが円網を張っていた場所には体長17ミリほどのオニグモがいた。5ミリちゃんの姿も見えなくなったのだから、おそらく10ミリちゃんと5ミリちゃんはいっしょに引っ越しをしたのだろう。その後、休眠から覚めた17ミリちゃんが円網の残骸をリフォームして入居したのではないかと思う。それならば夜明け前に張り替えることも、横糸の本数が少ないことも説明できるような気がする。
午後10時。
オニグモの17ミリちゃんに、そこらで捕まえた体長15ミリほどのガをあげた。もちろん、横糸の粘球は劣化し切っているので17ミリちゃんがしっかりホールドするまで翅をつかんだままにしておく。これは何回やってもドキドキものである。
17ミリちゃんが脚を伸ばしたのでわかったのだが、この子の触肢には丸い膨らみがある。つまり、この子は雄だったのである(以後「17ミリ君」と呼ぶことにする)。お尻がぺったんこなのにあまり食欲がなさそうだったのも、成体に近い雄なので雌のように積極的に捕食する必要がなかったからだと考えるとつじつまが合うだろう。
そして、そこから6メートルほど離れたところには体長15ミリほどのオニグモが円網を張っていた。こちらが10ミリちゃんだろう。そこらで捕まえた体長15ミリほどのガをあげてみると、その触肢は細かった。つまり雌である。
ということは、5ミリちゃんも雌で「雄を求めて三千里」の旅に出たということなのかもしれない。ただし、17ミリ君が近くにいたのに、なぜわざわざ旅に出たのかがわからない。もしかして、越冬中の雄は感知できない……とか?
5月12日。晴れのち曇り。最低15度C。最高25度C。
午後8時。
オニグモの10ミリちゃんが直径40センチ弱の円網を張っていたので、体長10ミリほどのバッタの子虫をあげた。
17ミリ君は電柱を支えるワイヤーの黄色いカバーの近くにいた。少し隙間があるから、そこを住居にしているのだろう。また、外に出てきたということは、今夜中に円網を張り替えるつもりなのかもしれない。
午後11時。
17ミリ君は横糸を張っているところだった。午後7時頃に円網を張り替えるようになるまでは獲物をあげる必要はあるまい。雄だし。
5月13日。雨時々曇り。最低19度C。最高23度C。
5月14日。曇りのち晴れ。最低13度C。最高20度C。
午前8時。
ゴミグモの白いお尻ちゃんの近くで1匹の雄成体が待機していた。つまり、この子は雌である可能性が高い。雌でも雄でも、体長5ミリ以下の幼体であればお尻を白くすることがあるということなのかもしれない。白いお尻に小型昆虫を誘引する効果があるのならば、早くオトナになりたいという子にとってはそういうやり方も正解になるだろう。
オニグモの17ミリ君の円網は糸1本すら残っていなかった。昨日はほとんど丸1日雨だったのだ。
それに対して、10ミリちゃんはきれいな円網を残していた。雨がやんでから張り替えたんだろう。
体長4ミリほどのオニグモの幼体(多分)は足場糸を張ろうとしている子と円網で待機している子が1匹ずついた。
さらに、体長2ミリから3ミリほどの幼体たちが数匹、円網で待機していた。小さなうちはすぐに空腹になるので日没まで待てないということなのかもしれない。人間の幼体も数時間おきに母乳を要求するらしいしな。〔……「赤ちゃん」という用語を使った方がいいんじゃないか?〕
5月15日。晴れのち曇り。最低11度C。最高21度C。
午前1時。
ゴミグモの白いお尻ちゃんの側にいた雄がいなくなっていた。旅の途中で立ち寄っただけだったのかもしれない。白いお尻ちゃんの脚の間から見えた触肢には膨らんだ部分はないようだから雌だと思うんだが……オトナになるまで待てない、もっとオトナに近い雌を探そうという判断なのか? そもそも、どう見ても雌という個体がすぐ近くにいるのに、なぜ旅に出たのかがわからない。好みの問題だろうか?
オニグモの10ミリちゃんは横糸を張っているところだった。この時間に張り替えるということは、日没後まで張りっぱなしにするんじゃないかと思う。
17ミリちゃんは張り替えていない円網のホームポジションで待機していた。
午前7時。
17ミリ君は円網を回収して住居へ引き上げたらしかった。夜明け前頃に食欲が戻ってきたのか?
10ミリちゃんの円網は残されていた。こちらはカゲロウを1匹食べたので円網まで食べる必要はなかった……ということかもしれない。昨夜は気温が低めだったから、その分、獲物を消化する能力も低下していたはずだ。
午後8時。
10ミリちゃんと17ミリ君がいた場所に園芸業者が入って草刈りをしてしまった。17ミリ君は無事だが、10ミリちゃんの姿は見えない。野生のクモを観察しているとこういうリスクもあるのだ。
5月16日。雨のち晴れ。最低15度C。最高24度C。
午後11時。
オニグモの10ミリちゃんと17ミリ君が円網を張っていた場所には、それぞれ糸が1本だけ残されていた。2匹とも無事だったようだ。
スーパーの東南の角辺りで体長15ミリほどのオニグモ(以後「15ミリちゃん」と呼称する)が横糸を張っているところだった。
円網を完成させるのを待って冷蔵庫に入れてあった同じくらいの体長のハエをあげると、ちゃんと仕留めてくれた。それでわかったのだが、この子の触肢は細い。したがって雌である。
その後、15ミリちゃんは住居にしているらしいガードパイプの切り口まで獲物を持ち帰って、そこにぶら下がった姿勢で獲物を食べ始めた。まだ夜中だというのに……。春のオニグモは標準的ではない行動をする子が多いようだ。何か理由があるような気もするのだが、それが何なのかは今のところわからない。
5月17日。晴れ。最低13度C。最高27度C。
午後1時。
光源氏ポイント周辺にはジョロウグモのまどいが4個あった。そのうちの1個は今年初のまどいを見つけた街灯のポールにあったのだが、10日間もまどいを形成したままでいるとは思えない。他の卵囊から出囊した子たちだろう。なお、このまどいから5センチほどのところにも5匹の子グモがいた。
そして、手のひらサイズの円網も数個見つけた。そのホームポジションにいるのは1.5ミリから2ミリくらいのジョロウグモの幼体(多分)である。
午後2時。
道路脇のマンネングサの黄色い花が見頃になっていた。ただし、マンネングサ(セダム)の仲間は外来種も含めていろいろあるらしいので種名まではわからない。
その近くのガードレールの裏側には体長7ミリほどのコガネグモの仲間の幼体(?)が円網を張っていた。隠れ帯は下側2本と向かって右上に点が一つ。捕帯を巻きつけられたカメムシが1匹、円網の隅に固定してある。
去年の夏が暑かったせいか、この春もカメムシが多いようだ。
午後7時。
オニグモの15ミリちゃんが張り替えていない円網で待機していた。問題は何時頃張り替えるか、だな。ああっと、「雄を求めて三千里」の旅に出るという可能性もあるなあ……。
午後10時。
オニグモの15ミリちゃんが円網を張り替えていたので、冷蔵庫に入れてあった体長15ミリほどのガをあげた。15ミリちゃんはすぐに飛びついて、ガの腹部辺りに牙を打ち込み、捕帯を巻きつけた……のだが、今回はホームポジションのすぐ近くで食べ始めたのだった。さて困った。オニグモが獲物をどこで食べるかを決める要因がわからない。……食べるのに時間がかかりそうな時は住居、あるいは住居の近くで、獲物が小さめだとか気温が高めだとかで、すぐに食べきってしまえそうな時にはホームポジションで、という判断だろうかねえ……。
17ミリちゃんも円網を張っていたので、そこらで行き倒れになっていた体長20ミリほどのアリをあげておいた。
5月18日。晴れ。最低14度C。最高26度C。
午前1時。
オオミズアオを拾った。気温が下がったために飛べなくなったんだろう。かなり大型のガだが、大きいのは翅だけで体長は25ミリほどでしかない。
午前6時。
オニグモの15ミリちゃんは円網を回収せずに住居へ戻ったらしかった。十分な量の獲物を食べることができたので、円網の糸まで食べる必要はないということなんだろう。クモの糸を食べるのはクモだけらしいから、かなり消化し難いんじゃないかと思う。
なお、15ミリちゃんの円網には体長2ミリから3ミリの羽虫が数匹かかっていたのだが、体長5ミリほどのアシナガグモの仲間が小さめの羽虫を3匹食べた後、円網から出て行った。見事な空き巣狙いである。しかし、円網を回収されたらこういうやり方はできないはずだが、その場合はどうするんだろう? ただ諦めるだけか?
17ミリ君も円網を張りっぱなしにしていた。
10ミリちゃんが円網を張っていた場所には糸が1本だけ残されていた。10ミリちゃんが残した糸だと断言することはできないのだが、円網を張るほど空腹ではないだけだと思いたい。
午前11時。
スーパーの東側と西側で円網に隠れ帯を付けているゴミグモを1匹ずつ見つけた。形はどちらも幅広のジグザグのループとホームポジション付近の面の組み合わせ。ゴミの量が少ないので、その代わりに付けているのらしい。
5月19日。曇り。最低15度C。最高25度C。
午後10時。
オニグモの10ミリちゃんが帰って来ていた。ただし、15ミリまで伸びていた体長は5ミリまで縮んでいた。〔んなわけあるかい!〕
実際は立ち去った10ミリちゃんが円網を張っていた場所に5ミリちゃんが入居したというところだろう。円網を張るクモではよくあることである。
しかし、これは困った。10ミリちゃんが戻ってこないようなら、プランBとして17ミリ君を拉致して15ミリちゃんとお見合いさせてしまうつもりでいたのだが、そういうわけにはいかなくなってしまったのだ。「クモ観察は人生に似ている」と言われるわけだな。この子には挨拶代わりに体長10ミリほどのガをあげておく。
オニグモの17ミリ君は横糸張りの途中だった。まあ、雄はどうでもいい。〔それもセクハラになるんだぞ〕
オニグモの15ミリちゃんは円網のホームポジションにいた。横糸はまだ張り替えていないようなのだが、小雨がぱらついてきているので、オオミズアオの片方の翅をつかんで反対側の翅でパッタパッタと円網を叩かせる。しかし、これは失敗だった。15ミリちゃんは「こんな大っきいの無理!」とばかりに、住居の近くまで避難してしまったのである。しかし、この程度は予想の範囲内だ。〔「しかし」が多いぞ〕
すかさずオオミズアオを回収し、その翅をちぎって3分の1くらいの面積にしてから大穴が開いている円網の無事な部分を叩かせる。仕留められるサイズのガが円網にかかっているのに放っておけるようなオニグモはいないのである。ただ、さすがに狙いが狂ったらしくて翅に牙を打ち込んでしまったようだが。それでも翅に取り付いたままじりじりと前進して、最終的には胸部に牙を打ち込んだらしかった。
午後11時。
15ミリちゃんは円網でオオミズアオを食べていた。ただし、これは獲物が大きすぎるせいなのかもしれない。しばらくしてからもう少し小さな獲物をあげてみる必要がありそうだ。
スーパーの東側に体長7ミリほどでお尻がぺったんこのオニグモがいた。横糸を張っているところだったのだが、すでに雨が降り出しているので体長10ミリほどのワラジムシをあげてしまう。さすがに未完成の円網だと獲物の位置を正確に感知できないらしくて、ややずれた方向へ向かってしまったのだが、枠糸まで行ってから引き返して獲物にたどり着いていた。
5月20日。雨時々曇り。最低16度C。最高21度C。
午前11時。
オニグモの15ミリちゃんの住居の入り口に捕帯を巻きつけられたオオミズアオが吊されていた。食べきれなかったのだろう。
午後8時。
スーパーの東側に新たに2匹のオニグモが現れた。体長はそれぞれ10ミリと15ミリほど。15ミリほどの子は雄だが、もう1匹は近寄れないので確認できない。
7ミリちゃんは横糸を張っているところだった。後で何かあげよう。
東南の角にいる15ミリちゃんは円網を張り替えずにオオミズアオを食べていた。
西側にいる17ミリ君の円網から1.5メートルくらいのところに体長15ミリほどの雌のオニグモが円網を張っていた。その直径は約50センチ。17ミリ君のそれより少し大きい。この子はかつての10ミリちゃんではないかと思う。約6メートルを5日間で移動というのは妥当な数字だろう。まあ、別の雌だとしても、雌が雄の円網の隣に引っ越してきたという観察例が一つ増えたのは間違いなさそうだ。
5月21日。曇りのち晴れ。最低15度C。最高27度C。
午前7時。
スーパーの西側にいるオニグモの10ミリちゃんと17ミリ君は円網を残したまま住居に戻ったらしかった。
東南の15ミリちゃんは円網を張った様子さえなかった。体長で1.7倍の獲物だったので食べ切れていないのらしい。
東側の7ミリちゃんも張りっぱなしだった。
この時期のオニグモが夜明け前に円網を張り替えない場合、2つの理由があり得るのでやっかいだ。
(1)十分な量の獲物を食べたので網の糸まで食べる必要がない。
気温が低い時期には、変温動物であるオニグモ自身の消化能力も低下しているはずだ。
(2)空腹なので昼間にかかる獲物に期待して張りっぱなしにしている。
15ミリちゃんの場合は(1)だろうが、他の子たちはどちらとも言えない。日没後に張り替えたとか、夜明け前に張り替えたとかならわかりやすいのだが、オニグモの場合、円網を張ってしまってから「あら? あたし、お腹すいてないみたい」と気が付くようなところがあるのだ。待ち伏せ型のハンターは食べられる時に食べておく必要があるのでしょうがないのだけど。
午前10時。
光源氏ポイントでは数匹のジョロウグモの幼体がクサグモの不規則網部を利用して円網を張っていた。楽ができるのならそれに越したことはないのだ(もちろん、自力で網を張っている子たちもいる)。
ジョロウグモのまどいがあった街灯のポールの高さ2メートルくらいの位置に脱皮殻が数十個残されていた。卵囊の位置から脱皮殻を超えて、さらに高いところまで多数のしおり糸らしいものも付けられている。街灯のポールに産み付けられた卵囊では基本的に上に行くか、下に行くかしかないわけだ(バルーニングするクモは下方へは行きたがらないだろうとは思うが)。ただし、脱皮殻の位置から車道の反対側の藪に向かって糸が1本だけ残されていたから、これがジョロウグモの幼体のものだとしたら、エリート子グモたちは糸伝いに藪へ向かったという可能性もあるだろう。
ガードレールの裏にいるコガネグモの仲間の幼体はほぼ完全なX字形の隠れ帯を付けていた。
本日のお土産は体長25ミリほどのキリギリス体型のバッタの子虫である。
午後5時。
今日は午前と午後に分けて100キロ走ってしまった。ちょっと脳貧血気味でふらふらする。やだやだ。年は取りたくない。
午後10時。
体長15ミリほどのガを2匹捕まえてしまったのだが、困ったことに円網を張り替えたオニグモが1匹もいない。
冷蔵庫の在庫が多すぎるので、体長7ミリほどのゴキブリ(?)は玄関のオオヒメグモの不規則網に上から落とし込んだ。オオヒメグモ本来の狩りではないのだが、ちゃんと仕留めてくれる。こういう形で獲物がかかることも予想の範囲内なのだろう。
午後11時。
オニグモの17ミリ君は円網を回収して住居へ戻ったらしかった。この時間帯としては異常な行動だ。オトナになる日が来たのかもしれない。
10ミリちゃんは獲物を食べ終えていたのだが、半円形になってしまった円網を張り替えることはあるまい。
しょうがないので、キリギリス体型の子虫はリリースする。「大きすぎる獲物は誰も食べやせん」ということわざもあるしな。〔「大きすぎる火は何も生みやせん」だ! そもそもことわざじゃなくて台詞だぞ〕
5月22日。曇りのち晴れ。最低15度C。最低21度C。
午前2時。
オニグモの10ミリちゃんも円網を回収して住居へ戻ったらしかった。これほど近くにいると、パートナーが円網にいないことまでわかるのかもしれない。〔そうかあ?〕
次に円網を張るのは日没後か、あるいは明日の夜明け前になるだろう。
ゴミグモの白いお尻ちゃんは円網を回収しているところだった。ゴミグモの場合は夜明け前の張り替えが普通だ。
午前5時。
ゴミグモの白いお尻ちゃんが円網を張り替えていた。そのお尻の中央には濃い色の横帯が入って、その前後がアイボリーになっている。白いお尻は幼体の時期にだけ現れる個体変異なのかもしれない。なお、スーパーの西側にいるゴミグモはこの子だけになっている。側に雌がいるのに雄たちが引っ越していくし、オトナになった雌までいなくなるというのは……この場所の環境はゴミグモにとって耐えがたいものだったんだろうか? もしもそういうことであるならば、白いお尻ちゃんもいずれは姿を消すことになるんだろうな。
午後2時。
水田ポイントのガードレールの裏に体長5ミリほどのコガネグモの幼体(多分)がいた。
その近くでは体長1ミリほどの子グモが25匹くらい、まどいを形成していた。お尻の模様から推測するとコガネグモ科のようだが、こんな小さなクモの母親を推定できるほど作者はクモに詳しいわけではない。
午後3時。
大変だ。ガードレールの裏のコガネグモの幼体(?)はこしき部分を中心に直径五センチまでの範囲しか横糸を張っていなかったのだ! つまり、4本の隠れ帯は脱皮の前兆だったんだっぴ。〔茨城弁の基本的な語尾は「~だっぺ」だっぺ〕
気温が低いから時間がかかっているのかもしれないが、早ければ今夜のうちに脱皮するかもしれない。まあ、脱皮後は隠れ帯を減らすはずだから、それで確認できるだろう。当分の間、こまめな観察を続けることにしよう。
午後6時。
スーパーの西側にゴミグモの雄が1匹いた。黒いし、円網も張っていないから見落としていたらしい。
午後10時。
オニグモの10ミリちゃんが円網を張っていたので体長15ミリほどのガをあげた。円網を翅でパタパタと叩かせると、10ミリちゃんは素早くガに駆け寄って胸部と腹部の境目辺りに牙を打ち込んだらしかった。ガの羽ばたきが弱くなると、獲物の下側で円網を切り開いて、そこから捕帯を投げ上げ、さらにバーベキューロールに切り替えて棒状に成形してからしおり糸でぶら下げてホームポジションに持ち帰った。この豪快さと繊細さが同居しているようなオニグモの狩りが好きな作者である。
17ミリ君も待っていることだし、この子には積極的に獲物をあげて早くオトナになってもらおうと思う。
なお、今日の10ミリちゃんの円網のこしき部分の周囲には縦横斜めに糸が張り回されたドーナツ状の領域があった。もしかすると、これが新海明氏の言う「張り直す閉こしき網」なのかもしれない。穴は開いているし、こしきの外側だし、すべてのオニグモが常にこういう網を張るわけでもないとは思うが……。もしかして、これも「一を見て十を語る」なんだろうか?
※池田博明編『クモの巣と網の不思議』によると、「張り直す閉こしき」とは、横糸を張り終えた後にこしき部分の糸を噛み切って穴を開け、それからまた糸を張って穴を閉じた円網のことで「オニグモに見られます」だそうだ。
クモは人間ではない。その行動にはほとんど無駄がなく、論理的に説明できることが多い。そんなオニグモがもともと穴のないこしき部分に穴を開け、さらにそこに糸を張って塞ぐことなどあるのだろうか? と思ったのだが、実はこれは簡単な話で、オニグモは回収した古い網をこしき部分に固定しておいて、横糸を張り終えてからこの古い網を食べるらしいのだ。そうすると、こしき部分に不定形の穴が残る。これが無こしき網の段階である。この穴は多角形だったり、サツマイモ形だったり、円網の中心にあることもあれば、サツマイモ形の場合は左右どちらかに寄っていることもある。したがって、この穴はアシナガグモの仲間のきれいな丸い穴のように何らかの機能を持っているとは考えにくい(論文屋さんにとってはいいネタかもしれないが)。
そして、この穴の上をオニグモが行き来すると、その度に穴の中にしおり糸が残される。その結果、「張り直す無こしき網」ができあがるのだ。
ちなみに他のコガネグモ科のクモは、古い網を食べてしまってから新しい網を張るので無こしき網になるのらしい。
東南の15ミリちゃんは円網を張って、そのホームポジションでだいぶ小さくなったオオミズアオを食べていた。
5月23日。晴れ時々曇り。最低14度C。最高25度C。
午前5時。
ゴミグモの白いお尻ちゃんが円網の張り替えを終えていたのでガガンボをあげてみた。網を弾いて獲物の位置を確認した後、歩み寄って牙を打ち込むという翅が大きい獲物用のやり方で仕留めた白いお尻ちゃんだったのだが、大変なのはそれからだった。
ひととおり捕帯を巻きつけた後、右の翅を押さえつけながら捕帯を巻きつけて整形、続いて左の翅。そこまではいいとして、ガガンボは脚も長いのである。円網の糸を切りながら脚をたたんで捕帯を巻きつけていくのだが、脚は6本もあるのだ。必ずしも1本ずつということはないのだが、それでも脚の周囲で円網の糸を切って、脚をたたんでは捕帯を巻き、たたんでは捕帯を巻きして棒状に整形していくのである。
ゴミグモは獲物を必ずホームポジションに持ち帰って食べる。そのためにはまず、持ち運べるような形にしなければならないのらしい。もう少し手抜きをすればいいのに。〔脚を外してからあげればよかったんじゃないか?〕
…………。
午前11時。
スーパーの東側にいるマルゴミグモの1匹は円網に3個の卵囊を取り付けていた。体長が最大でも5.5ミリという小柄なクモなのでオトナになるのも早いのだろう。人間もネズミサイズになれれば、生きていくのに必要な資源量を大幅に減らすことができるのにね。
午後2時。
ジャガイモの花が咲いていた。薄紫の花と白い花があったのだが、イモの味は変わらないんだろうか?
光源氏ポイントでは子グモのまどいを1個見つけた。体長1.5ミリほどで、密集したまどいと少し離れたところに25匹くらいの間隔を開けているグループがいるという点はジョロウグモの子グモらしいのだが、どうにもお尻が白っぽい。もしかすると別の種かもしれない。
また、バラバラグループの中に侵入して捕食しようとしているらしい体長2ミリほどのジョロウグモの子グモも3匹いた。もしかすると、これくらいの時期には網を張らずに捕食する子もいるのかもしれない。ただし、作者が見ている間は一度も成功しなかった。糸の上を歩く速度に大きな差がないのらしい。とはいえ、何度も追いかけていたから、逃げ遅れる子が現れることもあるのかもしれない。
そして、密集しているまどいを攻撃しようとする子はいないようだった。ということは、密集型のまどいは捕食者対策なのかもしれない。「こんな大っきいの無理!」という判断をしてもらえる、とか?
午後10時。
オニグモの10ミリちゃんが張り替えていない円網で待機していたので、体長15ミリほどのガをあげた。この時間に張り替えていないということは、明日は日付が替わってから張り替えることになるかもしれない。
困ったことに、お隣の17ミリ君も円網を張っていた。つまり、まだオトナになってはいなかったのだ。しょうがないので、そこらで捕まえた体長20ミリほどの甲虫をあげておく。
10ミリちゃんの円網から北へ16メートルくらいの所にオニグモの円網があった。係留糸をたどってみると、道路標識の陰にオニグモがいる。この状況なら係留糸に脚先を置いているはずなので、そこらで捕まえたアリを放り込むと、予想通り、飛びだしてきた。それでわかったのだが、この子は体長15ミリほどの雄である。もしかすると、かつての5ミリちゃんのなれの果てかもしれない。〔「なれの果て」はあんまりだろ〕
もとい、成長した5ミリちゃんだろう。この子を拉致して東南の15ミリちゃんとお見合いさせるのもいいかもしれないなあ。
5月24日。曇りのち晴れ。最低16度C。最高29度C。
午前1時。
下着の中にアリが入り込んでいたらしくてタマタマを噛まれてしまった。これはタマらん。すぐに下着を脱いで潰してやった。
しかし、冷静になってから考えると、これは「無益な殺生」であった。クモに食べてもらうなり、「森へお帰り」をするなり、命を無駄にしないやり方はあったはずなのだよなあ。〔未熟者め!〕
タマタマを
噛まれて我は
目覚めたり
憎きアリなど
ひねり潰さん 〔命を大切にね〕
午前4時。
オニグモの10ミリちゃんが横糸を張っているところだった。これでは夕方までに横糸の粘球が劣化してしまう。獲物をあげられないではないか!
東南の15ミリちゃんは円網すら張っていないし、獲物を食べてくれそうな雌が1匹もいないという状況である。雄にあげてしまうか、それとも冷凍しておくかだなあ。
午前11時。
オニグモの10ミリちゃんは直径約40センチの円網を残して住居へ戻ったらしかった。しかし、その円網の外側10センチくらいの部分だけにしか横糸がない。これはどうも「もう夜明けだわ。円網を張り替えなくちゃ」と張り替えを始めたものの、空腹ではないことに気が付いたので、作業を中断してしまったという感じだ。クモの世界にはよくいるドジっ子である。
17ミリ君も円網を残していたのでわかったのだが、10ミリちゃんと17ミリ君の円網のこしき部分には共通のパターンがあるようだ。
第一に、こしき部分の不定形の穴が円網の中心からわずかにずれている。
第二に、中心の反対側に縦横斜めに糸が張られた部分がある。22日に見たぐちゃぐちゃのリングはこの縦横斜めに糸が張られた部分が円形にまで拡張されたものだと考えることもできるだろう。
というわけで、この2匹は同じ卵囊から出囊した兄妹で、運命のいたずらに翻弄されながらもめぐり会い、やっとカップルになれたのではないかと思う。また、それに気が付いた5ミリちゃん、もとい5ミリ君も「けっ。やってらんねえや」とか言いながら、潔く10ミリちゃんを諦めたのだろう。〔擬人化し過ぎだ!〕
何グモだったかは憶えていないが、ある種のクモは遺伝的に近縁の異性と交接することを好むという論文があったような気がする。アブラムシのように単為生殖を基本とする種もあることだし、節足動物においては近親交配の方が有利である場合が多いのかもしれない。
午後5時。
血圧を測定してみたら93と57だった。これは「低血圧症」と診断されかねない数値らしい(その医師の判断による)。なるほど、軽い脳貧血の症状が出るのはそういうわけだ。まあ、今のところは歩けば治まるというレベルだから「倒れなければどうということはない!」だろうと思う。〔スレンダーは被弾して戦死したんだぞ〕
5月25日。晴れ時々曇り。最低16度C。最高24度C。
午前1時。
また外した。オニグモの10ミリちゃんが円網を張り替えていたのだ。気温が上がった分、獲物を消化する能力も向上しているのらしい。冷蔵庫に入れておいた体長18ミリほどのガをあげておく。
オニグモの5ミリ君は円網に大穴を開けてしまったせいか、住居で甲虫らしいものを食べていた。
東南の角にいる15ミリちゃんは住居の入り口近くにたたずんでいた。お尻がもっこり……。〔「もっこり」言うな! 女の子なんだぞ〕
もとい、ふっくらしているから、一度脱皮するまでは円網を張らないかもしれない。
さてさて、15ミリちゃんと5ミリ君をお見合いさせるとしたら、どんな問題が予想されるだろうか?
第一に体長15ミリほどに成長している5ミリ君を拉致する必要がある。5ミリ君の円網は地上から2メートルくらいの高さにあるので、捕虫網を使うしかなさそうなのだが、捕虫網に脚の爪が引っかかると脚がもげてしまう可能性がある。捕虫網の枠だけを使って円網ごと拉致するという手もあるのだが、暗い中での作業になるので、逃げられたら二度と見つけられないだろう。
東南の角まで5ミリ君を運ぶのには蓋付きのプラスチック容器が使える。クモは小型動物だし、呼吸器官もあまり発達していないので、数分間なら密封しても問題はない……はずだ。
お見合いは15ミリちゃんの円網の係留糸に5ミリ君を乗せてあげるだけでいい。一度は逃げることもあり得るが、冷静になれば女の子のフェロモンに気が付いて近くに居着くはずだ。作者によるジョロウグモのお見合い成功率は100パーセントなのである。〔2回しかやってないだろうが!〕
同じくらいの体長であれば、獲物だと判断されて食べられてしまうということはないだろう。そもそも、15ミリちゃんにしても交接しなければ子孫を残すことはできないのだから、「こいつは同種の雄だわ」と認識すれば捕食しようとはしないはずだ。多分。
とはいえ、作者が手を出さなくても雄がやって来るならそれがベストである。ギリギリまで様子を見ていようと思う。
午後4時。
陽当たりの悪そうな電柱にジョロウグモのまどいらしいものが2個あった。近寄れないのでデジタルズームで拡大して撮影してみたのだが、ゴミの塊にしか見えない。
午後5時。
サイクリング用のソックスの在庫が切れてしまったので、12足買い込んだ。3足組の安物だが、何回か洗うと靴の中で滑りにくくなるので気に入っているのだ。
午後8時。
スーパーの東側で体長15ミリほどのオニグモの雄が縦糸を張っているところだった。この子は5月20日に現れた15ミリ君だと思う。ああっと、この子は手の届く位置にいるから拉致しやすいなあ。
午後11時。
スーパーの東側にいるオニグモの15ミリ君は横糸の間隔が「通常の半分です」と言いたくなるような円網を張っていた。脱皮したばかりだとかで積極的に捕食したいということなのかもしれない。体長10ミリほどのワラジムシをあげておく。横糸が多いと獲物を投げ込むのが楽でいい。
東南の15ミリちゃんは15ミリちゃんは住居の入り口近くにたたずんでいる。
西側の15ミリちゃんは円網を回収して住居へ戻ったらしかった。これは何だかわからない。脱皮するなら絶食するだろうし……。確実に言えるのは食欲がないということだけだな。
17ミリ君は縦糸を張り始めたところだった。あまり空腹ではないのだろう。
体長35ミリほどのスズメガの仲間を捕まえてしまった。できればオニグモの雌にあげたいのだけどなあ……。〔捕まえなきゃいいだろうが!〕
作者はクモと同じで、獲物を見ると捕まえたくなってしまうのである。おそらく、地獄に墜ちることになってもお釈迦様が蜘蛛の糸を垂らしてくれることはないだろうが、クモという生物を理解できるなら悪魔に魂を売り渡してもいいと思うのだ。お釈迦様に内緒でクモの神様が糸を垂らしてくれるかもしれないし。
5月26日。曇り時々晴れ。最低14度C。最高25度C。
午前8時。
スーパーの東側の15ミリ君と西側の17ミリ君は円網を回収せずに住居へ戻ったらしかった。
オニグモの雄は雌よりも捕食することに消極的であるようだ。雌はオトナになってからも卵を産むために獲物を食べ続けなくてはならないのに対して、雄は交接できればいいという条件の違いによるものだろう。長距離走に例えるなら、雌のゴールは42.195キロ先なのに対して、雄の方は20キロでゴールというようなものだな。
ゴミグモの白いお尻ちゃんは横糸を張っていなかった。ちなみに縦糸は10本。そして、この子はとにかく成長が遅い。もしかすると、ゴミグモの白いお尻には獲物を減らす効果があるのかもしれない。「オトナになるのは来年」と決めているのなら、意識的に成長を抑制するというのもいいかもしれない。〔そこまで考えるか、クモが?〕
最近では細菌、もとい、粘菌も迷路の最短経路を見つけ出すような「知能」を持っていると言われているのだ。
午後9時。
スーパーの西側にいるオニグモの5ミリ君が円網を張り替えていた。相変わらず住居の近くで係留糸に脚先を置いているようだ。なお、5ミリ君の円網のこしき部分も向かって左半分が不定形の穴、右半分がぐちゃぐちゃの閉こしき(?)だった。というわけで、10ミリちゃんと17ミリ君と5ミリ君は兄妹なのかもしれない。
午後11時。
スーパーの東南の角にいる15ミリちゃんが住居から出ていたので拉致した。使ったのは塩を入れるためのスクリューキャップ付き保存容器だ。手の届く位置ならこういうこともできる。
しかし、ここで問題が発生した。ジョロウグモの雄の場合、容器の口を雌の網の係留糸近くに持っていくだけで糸に乗ってくれたので同じやり方が通用するものと思い込んでいたのだが、15ミリちゃんは脚を縮めて死んだふりをしてしまったのだった。しょうがないので15ミリ君の係留糸が取り付けられているサザンカの葉の上に落とすことにする。15ミリ君の係留糸まで7センチくらいだから、うまくいけば雄の存在に気付いてもらえると思う。
ああっと、オニグモの雄もこの死んだふり行動をするんだろうか? 一度実験してみるのもいいかもしれない。
5月27日。曇り一時雨。最低19度C。最高25度C。
午後1時。
また失敗した。ガードレールの裏にいたコガネグモの仲間の幼体が脱皮していたのだ。やや大きくなった円網に隠れ帯は付いていないし、明らかに脚が長くなって、体長も1ミリくらい伸びているので間違いあるまい。
昨日は観察をサボってしまったのだが、隠れ帯をX字形にしたのを確認したのが5月21日なので、だいたい6日か7日で脱皮したことになる。翌日に疲れが残らない程度のサイクリングにしておけば毎日観察することもできたのだが、クモ観察のためにサイクリングを控える気にもなれなかったのだ。これもまた、クモの神様に与えられた試練なのかもしれん。〔…………〕
午後7時。
スーパーの東側に体長2ミリほどのジョロウグモの幼体がいた。円網の前後にバリアーがあるから間違いない。
体長25ミリほどのガを捕まえたので、張り替えていない円網で待機していたオニグモの17ミリ君にあげた。
5月28日。雨時々曇り。最低20度C。最高24度C。
5月29日。雨のち晴れ。最低19度C。最高25度C。
午後2時。
光源氏ポイントでは体長3ミリほどのジョロウグモの幼体が現れ始めていた。
束になった糸に卵囊1個付きのゴミがぶら下がっていて、そこから40センチくらいの場所に1匹のゴミグモがゴミなしの円網を張っていた。多分、昨日の雨と風で円網が破れてしまったので避難したのだろう。多数の卵を産むクモの場合、卵囊を放棄した方がより多くの子孫を残せることも多いのだろう(子グモたちが出囊するまで卵囊を持ち歩く徘徊性のクモもいる)。
ゴミグモが
卵囊捨てて
避難せり
雨にも負けよ
風にも負けよ
「我に七難八苦を与えたまえ」などと三日月に向かって吠えていいのは人間の男だけなのである。
午後3時。
5月25日に見つけたジョロウグモのまどいらしい物はなくなっていた。その代わりに、近くの自動販売機の脇に数匹のジョロウグモの幼体が現れていた。当たり前の話だが、陽当たりの悪い場所では出囊が遅くなるのらしい。
5月30日。晴れのち雨。最低15度C。最高27度C。
午前3時。
オニグモの17ミリ君が円網を張っていたワイヤーの反対側に体長15ミリほどの雌のオニグモが現れた。地面から2メートルくらいの位置にいるので確認は難しいのだが、タイミングと体長からして10ミリちゃんが引っ越してきたのではないかと思う。
冷蔵庫に入れておいた体長45ミリほどのスズメガの仲間をあげると、10ミリちゃんは直接牙を打ち込んで仕留めた後、捕帯を巻きつけて棒状、というか、紡錘形に成形した。そこまではいいとして、お尻から引き出した2本のしおり糸で獲物を水平にぶら下げたままホームポジションに持ち帰ろうとするのだ、この子は! これでは獲物が回転する度に粘球付きの横糸に触れてしまうのである。やはり「体長で3倍です」という大物を捕食するのは無理があったのか……と思ったのだが、2回立ち往生した10ミリちゃんは、いったん獲物を円網に固定すると、その上の円網を大きく切り開いたのだった。なるほど、じゃまになる横糸などなくしてしまえば問題は解決するわけだ。これもまた、クモ3億年の知恵なのだろう。それでも、獲物はホームポジションではなく、円網に開けた大穴の縁辺りで食べ始めた様子だったが。
また、10ミリちゃんの円網の横糸の間隔は狭いめだった。これは、ほとんどのガが飛べなくなるような気温なので、昼間に日光浴をすれば飛べるようになる小型昆虫を狙おうという意図があるのではないかと思う。確認はこれからだが、これはおそらく、24時間営業のクモには不向きな、あるいは不必要なテクニックだろう。
と思ったのだが、その近くにいる雄の15ミリ君は円網の上半分は横糸の間隔が狭く、下半分は連続的に広くなる円網を張っていたのだった。上は小型の獲物用、下はガ狙いというわけである。
「円網にはこういう使い方もあるんだ!」
「気に入ったぞ、小僧。そんなテクニックを持っているとはな」〔…………〕
15ミリ君には冷蔵庫の中で力尽きていた体長40ミリほどのスズメガの仲間をあげる。もちろん知らん顔をされてしまったが、そんな時には必殺のツンツン攻撃である。オニグモは獲物がもがいているのを感じると仕留めずにはいられないのだ。だからこそ、脱皮前のように絶食が必要な時には獲物がかからないように円網を張るのをやめるしかないのである。
午前4時。
玄関のオオヒメグモのホームポジションから斜め上方へ五センチくらいの位置に卵囊が2個あるのに気が付いた。壁の色も白っぽいので見落としていたらしい。ライトを当てるとふわふわした糸の層の下に多数の卵があるのがわかる。産卵祝いにダンゴムシを1匹あげておく。
さてさて、この子はどうやらオオヒメグモではないようだ。卵囊の見た目が違うし、お尻の背面の模様もオオヒメグモのような細かいドットの集合体ではなく、輪郭のボケた大面積の斑だ。では何グモかというと、これがわからない。とりあえず、今後は「玄関のヒメちゃん」と呼ぶことにしよう。
午前10時。
オニグモの10ミリちゃんはワイヤーの黄色いカバーのてっぺんで獲物を食べていた。おそらく、その辺りに住居があるんだろう。17ミリ君もそのカバーの中を住居にしているので、集合住宅の2階と3階に入居しているような状態である。
午後1時。
ガードレールの裏のコガネグモの幼体はいなくなっていた。腹面側にガードレールがあれば安全度は高いのだろうが、その分獲物も少なかったはずだ。脱皮して大きくなった分、リスクを承知の上で、より多くの獲物を食べることが必要になったのかもしれない。
午後2時。
不規則網の中にいる体長5ミリほどの黒っぽいクモを見つけた。で、このクモのお尻の腹面が円錐状に尖っているようなのだ。おそらく、ヒメグモの仲間だと思うが、何グモなのかまではわからない。
5月31日。雨のち曇り。最低16度C。最高20度C。
午前10時。
台所で体長3ミリほどの円網を張るタイプのクモ(多分)を見つけた。オニグモの仲間のような大きなお尻ではないようだが、それ以上のことはわからない。
午前11時。
近所で花びらが大小15枚くらいあるドクダミを見つけた。なお、ウィキペディアによると、この花びらに見えるものは苞(読みは「ほう」で、花や花の集まりの基部にある特殊化した葉)だそうだ。〔ほう、そうだったのか〕
……この苞の上に萼片や花弁を欠く小さな花が密集しているということだから、花の一部が苞に変化したのだろう。脊椎動物だと、脇腹から5対10本の小さな脚が生えているようなものなのだが、動き回ったりしない植物では大きな問題にはならないのだろう。
6月1日。晴れ時々雨。最低16度C。最高23度C。
午前7時。
アジサイが咲き始めている。
ゴミグモの白いお尻ちゃんの体長は10ミリを超えていた。というわけで、この子は雌らしい。それなのに、近くにいた雄たちが1匹も居着かなかったのはどういうわけなんだ? なお、この子のお尻はいまだに濃いめのアイボリーだ。どうやら個体変異の範囲内らしい。
オニグモの15ミリ君は横糸の間隔が狭いめの円網を張っていた。
去年、オニグモの25ミリちゃんが円網を張っていた強力ライトの前にオニグモの仲間のものらしい円網が2枚残されていた。直径はそれぞれ約30センチと約20センチ。好条件の物件なので入居希望者は多いのである。
午後9時。
スーパーの東側では体長20ミリほどのオニグモが円網を回収しているところだった。雌であることと場所から推測して東南の15ミリちゃんだろうと思う。雨が降り出す前に張り替えが終わるようなら冷蔵庫に入れてあるガをあげよう。
強力ライトの前には体長10ミリほどのオニグモとそれより小さいズグロオニグモがいた。
午後10時。
東南の15ミリちゃんは円網を張るのを途中でやめていた。足場糸を張り終えたところで係留糸が1本切れたので、やる気をなくしてしまったらしい。
6月2日。雨時々曇り。最低16度C。最高21度C。
午前11時。
スーパーの東側にはオニグモのものらしい円網が2枚あった。15ミリちゃんも円網を張り直してから住居に戻ったらしい。もう1枚は脱皮した15ミリ君のものだろう。とりあえず、お見合いは成功した……と思いたい。
午後8時。
玄関のヒメちゃんの卵囊が3個に増えていた。いつの間に産んだんだろう?
6月3日。雨時々晴れ。最低16度C。最高22度C。
午前4時。
スーパーの東側にいるオニグモの15ミリ君が円網で待機していた。きれいな円網だから雨がやんでから張り替えたのだろう。
急いで家に戻って、冷蔵庫の中で力尽きていたガを用意する。しかし、その間に15ミリ君は住居へ戻ってしまっていた。
「温かい。まだ遠くへは行っていないな」〔今時の子は読まないぞ、白土三平なんか〕
円網にガを放り込むと、近くの低木から15ミリ君が飛びだしてきた。ビンゴ!
ところが、15ミリ君はホームポジションで糸を弾くばかりでガに寄ってこない。ガをツンツンしても知らん顔である。
「食欲がないんだったら円網を張り替えなきゃいいじゃないかあ!」
まあ、なんとなく張り替えたい気分の時もあるのかもしれない。念のために、そこらで捕まえた体長8ミリほどのアリをあげると、これにはちゃんと捕帯を巻きつける15ミリ君だった。すでに力尽きているガだということを見破られていたのかもしれない。
6月4日。晴れ一時雨。最低15度C。最高23度C。
午前11時。
スーパーの東側ではオニグモの15ミリちゃんと15ミリ君が円網を張り替えていた。体長3ミリ以下の小型昆虫も何匹かかかっている。これはまずい。何時頃に張り替えているのかを確認しなくちゃ。
午後8時。
オニグモの15ミリちゃんと15ミリ君が円網で待機していたが、それを張り替える様子はない。現在の気温は16度Cで、ガも飛んでいないようだから、日没後の気温が低い場合には夜明け前に張り替えることにしているという可能性もあるかもしれない。
午後11時。
また外した。オニグモの15ミリちゃんが円網を張り替えていたのだ。体長10ミリほどの甲虫をあげておく。
15ミリ君も円網の80パーセントくらいを回収していたから、「夜中」と言える時間帯に張り替えるつもりだろう。
なお、15ミリちゃんの円網のこしき部分は中央に穴があり、その周囲に足場糸(多分)がらせん状に張られていて、その外側に縦糸だけの部分があり、さらに外側に横糸が張られているという構造だった。
スーパーの西側に体長20ミリほどのオニグモの雌が円網を張っていた。そのこしき部分の穴は中心から外れていて、反対側には縦横斜めに糸が張り巡らされている。というわけで、この子は10ミリちゃんだろうと思う。住居にしていたワイヤーのカバーから2メートルくらい引っ越したらしい。体長10ミリほどの甲虫と15ミリほどのワラジムシをあげておく。
6月5日。晴れ。最低14度C。最高23度C。
午前11時。
スーパーの東側にいるオニグモカップルと西側の10ミリちゃんは円網を残したまま住居に戻ったらしかった。
またまた失敗だ。獲物をあげてしまったので、気温が低いせいで張りっぱなしにしたのか、それとも空腹ではないせいなのかがわからない。まあ、気が向いたら説得力のあるデータが得られるような実験をしよう。
午後1時。
タチアオイが咲き始めていた。
今日は小さな羽虫が多かった。左眼に1匹飛び込んできたので、ボトルの水で洗い流した。
光源氏ポイントでは、卵囊をゴミごと放棄して避難したゴミグモが円網に新たな卵囊を1個取り付けていた。
体長8ミリほどのコガネグモの幼体(多分)もいた。そのお尻はすでに黄色と黒の横縞模様になっている。だいたい、これくらいの体長からお尻を黄色と黒にする必要が出てくるのだろう。なお、円網にはX字形の隠れ帯が付けられていた。
草地には数匹のナガコガネグモの幼体も現れていた。一番大きな子の体長は8ミリほど。ジョロウグモの幼体やゴミグモがいる低木ばかりを見ていたのは失敗だったなあ。
午後8時。
スーパーの東側のオニグモカップルと西側の10ミリちゃんは張り替えていない円網で待機していた。
たまたまTシャツに体長20ミリほどの甲虫が飛びついてきたので、捕まえて10ミリちゃんにあげた。「窮虫懐に入らばクモにあげてしまえ」である。〔そんなことわざはない!〕
さっき作者が作ったのだ。したがって今は存在しているのである。〔…………〕
午後11時。
スーパーの東側でオニグモの15ミリちゃんが円網を張り替えていたので、体長10ミリほどのガとワラジムシ、おまけにそこらで捕まえたチャバネゴキブリをあげた。
その近くにいる15ミリ君は休憩しながら円網を回収しようとしている。張り替えるのかどうかはわからない。
西側の10ミリちゃんは円網のほとんどを回収して住居へ戻ったらしかった。
体長7ミリほどの乳白色、というか、半透明のユウレイグモの仲間を見つけた。その近くには脱皮殻らしいものもあったから、脱皮直後は白いのかもしれない。
6月6日。晴れのち曇り。最低14度C。最高24度C。
午前11時。
また外した。スーパーの東側のオニグモカップルはともかく、西側の10ミリちゃんの円網も残っていたのだ。つまり、いったん住居に戻って獲物を食べてから張り替えたということになる。なお、その円網には体長3ミリ以下の小さな羽虫が12匹かかっていた。
昨日の昼過ぎに小型の羽虫が大量に飛んでいたことも考慮すると、この季節でこの気温ならば、昼間も網を張りっぱなしにして小型の羽虫を狙うのが有効だということをオニグモたちは知っているということになるかもしれない。実にややこしい。
とはいえ、十分な量のデータが集まれば、AI様によってオニグモが円網を張り替える時間帯を予言していただける日が来てしまうんだろうなあ……。
午後6時。
スーパーの東側にいる15ミリちゃんの円網には小さな羽虫が各種合わせて50匹くらいかかっていた。
午後11時。
東側の15ミリちゃんが横糸を張っているところだった。円網の直径は六〇センチくらいだ。
その近くにいる15ミリ君は張り替えていない……と思ったのだが、直径二〇センチくらいの円網にしたのらしい。成体になる日が近いんだろうか? 体長10ミリほどのワラジムシをあげておく。
西側の10ミリちゃんは円網を回収して住居へ戻ったらしかった。昼間に飛んでいる小さな羽虫を捕食するのなら、夜明け前に張り替えて粘球が劣化するのを遅らせるのも有効だろう。しかし、たったの200メートルしか離れていないのに、張り替えの手順が違うというのは面白い。東側にいるオニグモたちと西側の子たちは母親が違うのかもしれない。
6月7日。曇りのち晴れ。最低18度C。最高24度C。
午前0時。
スーパーの東側の15ミリちゃんがやっと横糸を張り終えた。直径六〇センチくらいで横糸の本数も多いめなので時間がかかるのらしい。
じっくり観察してわかったのだが、この子は古い円網を小さな羽虫ごと太い紐状にしてこしき部分に固定しておき、横糸を張り終えてからそれを食べたのらしい。その結果、不定形の穴が残るというわけだ。
西側の10ミリちゃんは今夜も数本の糸だけを残して古い円網を回収してしまっていた。それなのに張り終えた円網のこしき部分に穴があるということは……古い円網を食べずに取っておいて、それをこしき部分に固定してから新しい円網を張り始めるのかもしれない。どうしてそんな手順の違いができてしまうんだろう? ええと……新しい円網を張ってから古い円網を食べるという点は共通であると仮定してみようか。その場合、円網を張れば、それに要する原料の分だけ腹部の容量に余裕ができるだろう。それから古い円網を食べるということなのかもしれない。
午前2時。
西側の10ミリちゃんが円網を張り替えていた。こしきの穴はほぼ中央にある。こしきの穴の位置などはたいした問題ではないということだろう。
なお、この子のお尻の中央の頭胸部寄りには小さな白い斑がある。これはおそらく、夜間に飛ぶ昆虫に対する「私はここにいます」という信号だと思う。キャサリン・クレイグ様なら「この斑には誘引効果がある」と言われるだろうな。
しかし、念のために確認すると、東側の15ミリちゃんのお尻にはこの斑はないのだった。過去にはお尻の両側面により小さな斑が数個ずつという子もいたから、これもまた、なくても大きな問題にはならない、という程度のものなんだろう。
近所のユウレイグモは今夜も白いままだった。アルビノかなあ……。致命的な弱点を抱えていても生き残れる確率はゼロにはならないのだ。あるいは、本来の色荷なるまでに時間がかかっているだけ、とか?
あと2時間ほどで夜明けらしい。少しでも眠っておこう。
午前10時。
スーパーの東側の15ミリちゃんと西側の10ミリちゃんは円網を張りっぱなしにして住居へ戻ったらしかった。
それに対して、東側の15ミリ君の円網は見当たらなかった。西側の15ミリ君は円網を張る様子もない。クモの場合、成体に近くなると雌雄の行動に明確な差が現れるのだ。これはもちろん、交接して精子を受け渡すだけでいいか、産卵のためにさらに多くの獲物を捕食しなければならないかの違いである。
午後9時。
スーパーの東側にいるオニグモの15ミリちゃんは張り替えていない円網で肉団子をもぐもぐしていた。今夜は獲物をあげなくてもいいだろう。
その近くの15ミリ君は住居にこもったままらしい。このまま円網を張らないようなら成体になったと判断していいと思う。
西側の10ミリちゃんも張り替えていない円網で待機していた。この子の体長はざっと20ミリを超えているようだ。
午後10時。
ダンゴムシを捕まえたので、玄関のヒメちゃんにあげた。
6月8日。晴れ時々曇り。最低15度C。最高25度C。
午前1時。
冷蔵庫の中の獲物たちがだいぶ弱っている様子だったので、スーパーの東側の15ミリちゃんに体長15ミリほどのガと小型の甲虫を1匹ずつ、西側の10ミリちゃんには小型の甲虫3匹をあげてしまった。「ダイエットは明日から」である。
午前10時。
ネジバナが咲いていた。
スーパーの東側の15ミリちゃんと西側の10ミリちゃんは円網を残して住居へ戻ったらしかった。
もしかすると、オニグモが円網を張り替える時間帯を日没後に変更するのも温量指数によって決定されるのかもしれない。この仮説が正しいとすると、15ミリちゃんと10ミリちゃんはほぼ同時か、あるいは、陽当たりのいい場所にいる15ミリちゃんの方がやや早めに日没後張り替えに切り替えることになるだろう。〔軽はずみな予想は外れるぞ〕
何度も言うようだが、失敗するのも芸の内なのである。
午後2時。
光源氏ポイント付近の下水溝の鉄製の蓋(グレーチング)の格子の間に不規則網があるのに気が付いた。その隅には直径3ミリほどの卵囊らしいものがある。これが卵囊だとしたら、母親もかなり小型のクモだろう。
そこらにいた体長5ミリほどのアリを不規則網に放り込むと、下の方から頭胸部と脚が黒でお尻だけが赤い体長2.5ミリほどのクモが駆け寄ってきた。不規則網だし、お尻も丸いから、おそらくヒメグモ科のクモだろうと思う。
※帰宅してから新海栄一著『日本のクモ』を開いてみたのだが、それらしいクモは見当たらなかった。こういう場合、論文屋さんなら、そのクモを殺して外雌器を顕微鏡で観察し、「茨城県某所で〇〇グモを採取した」という論文を書くところなんだろうが、作者は生きているクモが好きなのだ。ネクロフィリアではないのである。
午後4時。
この2日間で150キロ走ってしまったので少しふらつく。血圧も93と53だ。
『循環器最新情報』というサイトによると「低血圧とは収縮血圧が100㎜Hg未満の場合である」のだそうだ。さらに「検査や治療を必要とする低血圧で重要な病態はショックである。心原性ショックは収縮期血圧が90㎜Hg未満、もしくは通常血圧より30㎜Hg以上の低下と定義されている」とも書かれている。うーん……「30㎜Hg以上の低下」には引っかかるかもしれない。ふらつくわけだなあ。少し休む必要がありそうだ。
午後5時。
玄関のヒメちゃんが最初に産んだ卵囊(多分)の卵塊の部分の色がやや濃くなったようだ。出囊の目安にできるかもしれない。
午後11時。
近所の白いユウレイグモの近くに濃い茶褐色のユウレイグモがいた。体長は白い子が7ミリほどなのに対して8ミリほど。これはおそらくカップルだろうと思うのだが、『日本のクモ』には雄が白いユウレイグモの仲間など載っていない。何者なのかわからん。
思いがけず体長20ミリほどのカマドウマを捕まえてしまったので、スーパーの東側の15ミリちゃんにあげた。15ミリちゃんはセオリー通りに獲物の上下で円網に大穴を開けて、必殺のバーベキューロールで捕帯を巻きつけたのだが、少々ぎこちない感じだった。大型のバッタを捕食するのは初めてだったのだろう。
なお、この時間帯にクモの写真を撮るのは難しいのだが、レンズの周囲に配置されている6個のLEDを使うと、それなりの記録画像が撮れた。
「これはいいじゃないか」と西側の10ミリちゃんも撮影したのだが、こちらはどうしても画像が白っぽくなってしまう。しょうがない。内蔵フラッシュの発光部の4分の3くらいを指で覆って撮影する。アナログなやり方だが、記録はできるだけ残しておきたいのである。
西側の15ミリ君は住居から10センチくらい離れた場所にいた。雌を訪ねて三千里の旅に出る時が来たのかもしれない。
6月9日。曇りのち雨。最低18度C。最高24度C。
午後6時。
エウレカ! エウレカ! 大発見だ。「(横糸を張り終えて)中心部へ戻ってきたクモがこしきをかみ切り、一度穴を開けて、その後再びそこに糸を張り直して、こしきを閉じる」という、伝説の「張り直す閉こしき」らしいものを見つけたのだ。
それはスーパーの東側にいるオニグモの15ミリちゃんが残していった円網で、不定形のこしき部分の穴にしおり糸(多分)が5本張られていたのである。何のことはない。これは閉じようとして閉じたこしきではなく、15ミリちゃんが円網のあちこちへ移動する度に、常にお尻から引いているしおり糸がこしきの穴に置かれていくことによって閉じられていったものだったのだ。あっはっはっはっは。
この場合、獲物がかかる度に2本のしおり糸がこしきの穴に張られていくことになる。獲物が5匹もかかれば立派な閉こしき網ができあがるだろう。まあ、「新海明氏が提唱した」という辺りで警戒はしていたのだがね。
新海氏はおそらく、オニグモが円網を張り替えてから数時間後に観察したのだろう。それに対して作者は完成したばかりの円網を観察していたのである。これでは違う観察結果が得られてしまっても不思議はない。とはいえ……15ミリちゃんは閉こしきにすることを目的としてそこに糸を張ったわけではない。新海氏も作者も嘘をついているわけではないのだが、そこには狼少年と正直爺さんくらいの差がある。こういうことをやらかすから「論文の恥は書き捨て」「あとは野となれ山となれ」という考え方をする論文屋さんは信用できないのだ。
午後10時。
スーパーの東側にいる15ミリちゃんは円網を回収し始めたところだった。そのお尻はパンパンに膨らんでいる。英語で言うと「Her hip is bread bread.」である。〔……文法に間違いはないが……通じないぞ〕
西側にいる10ミリちゃんは古い円網のホームポジションにたたずんでいた。
6月10日。雨のち晴れ。最低18度C。最高24度C。
午前10時。
玄関のヒメちゃんの卵囊が4個になっていた。夜の間に産卵したんだろう。
それはいいとして、出囊する時期になったら玄関が子グモだらけになってしまうかもしれない。どうしよう……。
午前11時。
体長4ミリほどのオニグモの仲間の幼体(多分)が円網で待機していたので、体長7ミリほどのアリを少し弱らせてからあげてみた。かなり大型の獲物のせいか、4ミリちゃんは慎重に観察した後、獲物の上で円網を切り開いて獲物に被せてから下側に回り込んで捕帯を投げ上げた……のだが、第四脚が短いのでアリの脚までしか届かない。
「これではダメだわ」と気が付いたらしい4ミリちゃんは、さらに獲物の横辺りまで円網を切り開き、縦のバーベキューロールで捕帯を巻きつけるのだった。幼体には幼体なりのテクニックがあるということだなあ。ああっと、ハエトリグモのような襲撃型の狩りをするクモならば獲物を選べるだろう。仕留めやすい大きさの獲物を選べるのなら、これほどのテクニックの幅は必要ないかもしれないな。
スーパーの西側にいるオニグモの15ミリ君は住居に戻っていた。何だかなあ……。この子はカボチャの馬車に乗った王女様が現れるまでここで待ち続けるつもりでいるんじゃないだろうか。
午後1時。
光源氏ポイントで6月5日に見つけたコガネグモの幼体は横糸を張っていなかった。というか、昨夜の雨で流されてしまったんだろう。そして、今朝も張り替えなかったということは、この子のX字形の隠れ帯も脱皮のサインなのだろう。
その近くには体長12ミリほどのコガネグモの幼体が現れた。隠れ帯は向かって左下に点が一つだけ。地面から2メートルくらいの高さにある円網なのでやりにくかったのだが、そこらで捕まえた体長10ミリほどの黒くて細い体型のハエの仲間(多分)を放り込むと、すぐに飛び付いて捕帯を巻きつけた。隠れ帯が少ない子は食欲旺盛なのである。
カメムシの仲間のカップルが3組交尾していた。そのうちの一組を横から撮影すると、片方のカメムシだけ腹部が膨らんでいる。おそらくこの子は雌なんだろう。
体長5ミリほどのバッタの子虫も撮影したのだが、フラッシュを使ったら本来緑色の体色が黄色になってしまった。気を付けなくては。フラッシュを使うと手ブレし難くなるから便利なんだけどなあ……。
午後3時。
体長4ミリほどのオニグモの幼体(多分)が円網で待機していたので、そこらで捕まえた体長12ミリほどのクロオオアリを少し弱らせてからあげてみた。この子は予想通り、円網を弾いてから慎重に獲物に近寄ると、上の方へ移動して円網を切り開き始めた。しかし、サツマノミダマシなどとは違って、円網の糸を切りながら、ほぼ一直線に獲物に向かって行くのだった。
大型の獲物がかかった場合に円網を切り開くのは同じなのに、サツマノミダマシなどは横方向に、オニグモの幼体は縦方向に切り開くというのが面白い。いったいなぜ、こんな差が出てしまうんだろう? オニグモはオニグモ属でサツマノミダマシはヒメオニグモ属なんだが、そういう問題だろうか? コガネグモ科の他のクモでも実験する必要があるかなあ……。
午後8時。
スーパーの東側にいる15ミリちゃんは横糸を張っているところだった。食欲があるということだ。まいったね。冷凍してあるハエをあげてしまおうかなあ……。
西側にいる10ミリちゃんも古い円網を回収しているところだった。
午後9時。
東側にいる15ミリちゃんにチャバネゴキブリ1匹と体長5ミリ前後の甲虫4匹をあげてみた。すると予想通り、15ミリちゃんが獲物をこしき部分に持ち帰る度にそこに引かれているしおり糸が増えていくのだった。はっはっは。初歩的なことだよ、ワトソン君。
西側にいる10ミリちゃんには何ヶ月も前から冷凍してあったハエ1匹と甲虫2匹をあげた。
午後10時。
体長4ミリほどのズグロオニグモの幼体に体長8ミリほどの羽アリをあげてみると、この子も獲物の上で横方向に円網を切り開いて獲物に被せたのだった。オニグモの幼体でのデータを増やす必要があるかなあ……。
スーパーの東側にいるゴミグモが、ぺったんぺったんとお尻の腹面をゴミに打ち付けていた。産卵だと思う。
6月11日。晴れ。最低17度C。最高27度C。
スーパーの東側にいるゴミグモは産卵を終えて横糸を張っているところだった。
午前5時。
スーパーの東側の15ミリちゃんは住居へ戻ったらしかった。で、残されている円網のこしきの穴にはY字形の糸しか残っていない。余計な糸は回収してしまったのかもしれない。ということは、新海明氏は「張り直す閉こしき」が見られるわずかな時間帯にオニグモの円網を観察したということになりそうだ。うーん……そんな珍しいものを観察してしまうということは、この人もクモの神様に愛されているのかもしれない。
体長40ミリほどの腹部から卵がはみ出しているスズメガを拾ってしまった。コウモリに襲われたのかもしれない。飛ぶことはできないが、脚は動かせるようだ。夜になったら15ミリちゃんにあげようと思う。
近所のユウレイグモは少しだけ茶褐色になってきたような気がする。脱皮してから標準的な体色になるまで数日かかるのかもしれない。陽当たりのいい場所は好まないようだから日焼けするのにも時間がかかるんだろう。〔オニグモも基本的に夜行性だぞ〕
午前10時。
近所のサザンカの植え込みに体長1ミリくらいのヒメグモが4匹いた。そのうちの1匹は何か獲物らしいものを咥えていた。
午後1時。
光源氏ポイントで隠れ帯をX字形にしていたコガネグモの幼体が脱皮したらしかった。体が少し大きくなって、脚も伸びている。円網も横糸が張ってある部分の直径が20センチくらいまで広くなって、隠れ帯は逆に下側2本だけになっている。
コガネグモの12ミリちゃんは平屋の屋根くらいの高さに引っ越していた。獲物らしいものをもぐもぐしている。
午後9時。
右眼だけ視力が低下していてパソコンのモニターが見にくい。疲れているのだなあ。
スーパーの東側では15ミリちゃんが円網の回収を始めていた。
午後10時。
スーパーの東側の15ミリちゃんの円網は直径約40センチしかなかった。脱皮の準備にかかっているのかもしれない。しかし、ガは冷蔵庫に入れておいても甲虫ほど長くは生きてはくれないので、強引に重傷のスズメガをあげてしまう。円網に獲物がかかれば仕留めずにはいられないのがオニグモなのだ。
「口でなんと言おうと体は正直だのう。ほれほれ、どうだ? 食わずにはいられまい」〔いい加減にしないと18禁指定になるぞ〕
西側の10ミリちゃんは張り替えていない円網にたたずんでいた。それでも円網に体長18ミリほどのガを投げ込むと、素早く飛びついて牙を打ち込んでしまう10ミリちゃんだった。
獲物がかかれば食べずにはいられない。だからこそ、食欲がないオニグモは円網を張っている時間を短くするのだろう。
6月12日。晴れ時々曇り。最低18度C。最高30度C。
午前3時。
近所のユウレイグモがナミテントウを咥えていた。なお、ウィキペディアによれば、ユウレイグモ科のクモはオオヒメグモのように粘球糸で吊り上げるという狩りをするのらしい。
スーパーの西側では10ミリちゃんが横糸を張っているところだった。円網の直径は約六〇センチ。24時間営業のクモなら「食欲があるんだな」と判断するところなんだが……。
午後1時。
去年、ベランダで出囊したジョロウグモの子グモたちが残していった糸の塊の側にヒメグモの仲間のものらしい球形の卵囊が4個あった。いつ産卵したのかまではわからない。
卵囊を包んでいるものも含めてクモの糸はほとんどタンパク質でできているのだろうから、消化することができれば獲物代わりの餌にもなるのだろう。ただし、オニグモの卵囊では少なくとも二年以上放置されていることもよくあるようだから、卵囊までたどり着けるかとか、特にクモ以外の節足動物については、消化できるかという問題もあるのかもしれない。
午後9時。
スーパーの東側の15ミリちゃんは古い円網を回収しているところだった。気温が上がったので、獲物を消化する能力も向上しているようだ。
西側の10ミリちゃんは古い円網にたたずんでいる。
6月13日。曇りのち晴れ。最低19度C。最高25度C。
午前3時。
スーパーの東側にいるオニグモの15ミリちゃんと西側の10ミリちゃんは円網を張っていなかった。2匹がいた場所にあるのは糸が1本だけだ。その他に体長8ミリほどの子と12ミリほどの子も円網を張っていない。そして、東南の角の強力ライトの前に円網を張っている体長12ミリほどの子は張り替えていない小さな羽虫だらけの円網で獲物をもぐもぐしていた。
これらの観察結果は、夜中に張り替えた円網を日没まで張りっぱなしにするという体制(「半夜行性」とでも言おうか)から、基本的に日没後に円網を張り、夜明け前に回収して住居へ戻るという「真の夜行性」に移行する時が来たことを意味しているのかもしれない。つまり、怨霊指数(怨みの指数)……。〔そんなものはない!〕
もとい、温量指数(暖かさの指数)が目標値に達したので「真の夜行性に移行せよ」スイッチが入ったのだと考えるべきだろう。
ただし、単なる偶然という可能性も否定できないし、体長4ミリ以下の幼体2匹は円網を張り替えていたから、成長段階による制限もあるかもしれない。
ノイズの中に埋もれている法則性を見いだすためにはもっと多くの観察例が必要だなあ。
午前4時。
体長4ミリほどのオニグモの幼体(多分)が円網を張ったまま住居に戻っていった。
東南の角の体長12ミリほどの子も羽虫だらけの円網を残したまま、姿を消していた。
午前6時。
光源氏ポイントにいるコガネグモの12ミリちゃんは高さ1.5メートルくらいの場所に引っ越していた。
脱皮したコガネグモの幼体は8ミリほどの体長になっていた。この子も40センチくらい引っ越したようだ。久しぶりに素手で捕まえたハエをあげておく。この時間帯には昆虫の動きも鈍くなるので捕まえやすいのである。
「夏はつとめて。気温なども低くありぬれば、ハエなどを素手で捕まえるもやすし」〔清少納言に謝れ!〕
光源氏ポイントの低木の枝に子グモのまどいのようなものが付いていた。
「ジョロウグモのまどいの季節は終わっているはずだが?」と思ってよく見ると、触角がある! それは数十匹の昆虫だったのだ。ああっと、ツンツンして、それに対する反応を観察しておくべきだったなあ。
「認めたくないものだな。自分自身の……」〔やめんかい!〕
午前7時。
光源氏ポイントの数キロ先では体長12ミリほどのオニグモが小さな羽虫だらけの円網で待機していた。このまま日没を待って張り替えるつもりでいるんじゃないかと思う。この子も真の夜行性へ移行しようとしているんだろう。
午前11時。
今日は105キロ走ってしまったので、帰宅してから血圧を測ってみると91と59だった。少しふらふらする。意識を失うことが予想されるようなら床に伏せて凌ぐようだな。「ああ……」とか言いながら気を失うのは裕福な家のお嬢さんだから絵になるのであって、一人暮らしの爺さんはうかつに倒れたりするわけにはいかないのである。
ちなみに、なぜ伏せるのが有効なのかというと、心臓と脳を同じ高さにすれば、血圧が下がっても脳に血液が届く、つまり、脳が酸欠になるのを防ぐことができるからだと思う。
なお、作者はもともと血液中の赤血球が少なめなのだが、最近では年のせいか酸素を取り込む能力まで下がってきているのだ。やだねえ。〔若者とは違うのだよ、若者とは!〕
…………。
午後8時。
スーパーの東南の角にいるオニグモの12ミリちゃんが横糸を張っているところだった。これで夜明け前に円網を回収するようなら「真の夜行性」に移行したと言えるだろう。
東側の15ミリちゃんがいた場所には数本の糸だけしか残っていなかったが、これは食べ過ぎたのでしばらく腹ごなしか、あるいは脱皮の準備かもしれない。
やっかいなのは西側の10ミリちゃんで、糸1本すら見当たらない。最悪、真の夜行性への移行を機会に引っ越しをしてしまった可能性もある。冷蔵庫には甲虫やガ、チャバネゴキブリなどが10匹も入っているというのに……。
東側の15ミリちゃんが拉致される前に円網を張っていたガードパイプの間には体長8ミリほどのオニグモの幼体が円網を張っていた。誰かがいた場所はいなかった場所よりも安全だったり、快適だったりする可能性は高いだろう。問題は、これが他の円網を張るタイプのクモでも共通する性質であるかどうか、だなあ。「エリートと鉄砲玉」仮説ではピンポイントで空き家に入居することを説明しきれないだろう、とは思うんだが……。
6月14日。晴れ。最低18度C。最高31度C。
午前1時。
血圧は170と九七だ。さてさて、どうしたものやら……。
6月15日。晴れのち曇り。最低19度C。最高26度C。
午前5時。
ゴミグモの白いお尻ちゃんのゴミの中に卵囊らしいものがあった。雄はちゃんとわかっていたのだなあ。
スーパーの壁にアリが1匹……と思ったのだが、どうもおかしい。念のために撮影しておこうとカメラを近づけていくと、このアリは触角まで使って8本脚で歩き始めた! こいつはアリじゃない。〔「ナシだ」というのはなしだぞ〕
8本の脚のうちの2本を持ち上げて触角に見せかけるアリグモがいるというのは知っていたのだが、実物を見るのは初めてだ。馬脚ならぬクモ脚を現さなければ「変なアリ」としか思わなかっただろう。なんとも見事な擬態である。しかし……触角があるかないかまで気にするような捕食者などいるんだろうかなあ……。
午後8時。
スーパーの西側では体長12ミリほどのオニグモが横糸を張っているところだった。あとで何かあげよう。
玄関のヒメちゃんが最初に産んだ卵囊(多分)の内部が黒くなってきている。交接しそこなって無性卵を産んだということでなければいいのだが……。雄のクモが玄関の中まで入り込むのは難しいのかもしれない。ドアがある分、フェロモンも拡散し難いだろうし。
午後9時。
オニグモの12ミリちゃんはルリチュウレンジを食べていたのだが、かまわずに体長15ミリほどのガを円網に放り込んだ。
なお、この子は建物の壁のすぐ前に円網を張っている(高さは五〇センチくらい)。この場合、壁を「翅を休められる場所」と認識するような昆虫は網にかかるだろうが、より長時間飛び続けられる昆虫は壁を「障害物」と認識するのではないかと思う。この子がもっと大きくなったら、より開けた場所に引っ越していくような気がする。
6月16日。雨のち晴れ。最低20度C。最高29度C。
午前10時。
玄関のヒメちゃんの卵囊が5個に増えていた。食べさせすぎたんだろうかなあ……。
昨日ガをあげたスーパーの西側にいる12ミリちゃんは獲物を円網に固定したまま住居に戻ったらしかった。雨が降り出したので住居へ戻ってしまったというところだろうか。
6月17日。曇り一時雨。最低20度C。最高30度C。
午前5時。
スーパーの西側の15ミリ君の姿はなかった。やはり旅立ったのらしい。
同じく西側の12ミリちゃんは円網を残したまま住居へ戻ったらしかった。うーん……十分な量の獲物を食べることができた場合は円網まで食べる必要はないというのが正解だろうか。表現を変えると「獲物がないのなら網を食べればいいじゃない」だ。
6月18日。雨時々曇り。最低20度C。最高21度C。
午後11時。
玄関のヒメちゃんの2番目の卵囊も黒くなってしまった。
6月19日。晴れ。最低16度C。最高29度C。
午前11時。
スーパーの東側にいるゴミグモと西側にいる白いお尻ちゃんの卵囊がそれぞれ2個に増えていた。
スーパーの周辺にいるジョロウグモの幼体も増えた。東側にも西側にも5匹くらいいて、最大の子は体長5ミリほどになっている。
西側にいるオニグモの12ミリちゃんは円網を残して住居へ戻ったらしかった。これは何故なのかわからない。獲物がかからないのでギリギリまで粘っていたら夜が明けてしまって、円網を回収する時間がなくなってしまったというところだろうか? しかし、その近くににはどうどうと残業している体長5ミリほどのオニグモの幼体もいるのだ。オニグモの円網張り替えには一定のパターンがあるような気もするのだが、かなり複雑なので、今のところはうまく説明できない。
午後1時。
光源氏ポイントにいるコガネグモの12ミリちゃんの体長は17ミリほどになったようだった。そこらで捕まえた体長20ミリほどのショウリョウバッタの子虫をあげておく。
いつも思うんだが、コガネグモはなぜ、獲物に捕帯を巻きつけた後で休憩するんだろう? コガネグモ科の他のクモのように、すぐに牙を打ち込んでしまえば逃げられることもないし、捕帯の量も少なくて済むだろうに……。体型の問題で体温が上がりやすく、下がりにくいんだろうか?
ここでもジョロウグモの子グモたちの最大の子は体長5ミリほどになっていた。これくらいの体長になると、脚が一気に長くなるようだ。
ナガコガネグモの最大の子は体長15ミリほどになっていた。
午後3時。
カブトムシの脚2本が付いた胸部と頭部、それに脚を1本見つけた。こういう食べ方をするのはカラスらしい。
午後8時。
後輪のタイヤをチューブごと交換した。もう丸坊主だし、かなり深い傷もあったし。
と思ったら、サイクルコンピュータのバッテリーインジケーターも点滅していた。ついでに交換。
6月20日。晴れのち曇り。最低18度C。最高29度C。
午前1時。
近所のユウレイグモの姿はなかった。引っ越したのかもしれない。
スーパーの西側にいるオニグモの12ミリちゃんは体長15ミリほどに成長していた。肉団子をもぐもぐしていたので手は出さないでおく。
午前6時。
オニグモの12ミリちゃんは今日も円網を張りっぱなしで住居へ戻ったらしかった。
スーパーの西側ではズグロオニグモがお尻ぺったんぺったんをしていた。白い糸の塊もあったから産卵したんだろう。
体長4ミリほどのオニグモの幼体が残業していたので、冷蔵庫の中で力尽きていた羽アリをあげた。それでわかったのだが、この子の円網のこしき部分にも穴があった。ということは、古い円網を回収した直後に新しい円網を張り、それからこしき部分にまとめてあった古い円網を食べるので穴が残るということなのかもしれない。では、夜明け前に回収して日没後に張る場合はどうなるんだろう? 昼間のうちに消化してしまえるような気もするんだが……。
午後7時。
また間違えた。玄関のヒメちゃんの最初の卵囊(多分)から子グモたちが出囊していたのだ。卵囊の内部の黒っぽい塊もなくなっている。
今日わかったことを書いておこう。
(1)ヒメちゃんは交接していた。
うかつなことは言うもんじゃないね。
(2)卵囊の中の黒っぽいものは子グモたちであった。
最初の卵囊(多分)は白い糸の塊になっている。つまり、この卵囊はオニグモなどと同じ綿菓子タイプなのだろう。出囊前なのがわかりやすいのは楽でいい。
(3)子グモたちは卵囊の周囲に7匹。しかも1匹ずつ分散している。
クモとしては一度に産む卵の数が少ない方かもしれない。また、まどいを形成しないタイプのクモのようだ。ただし、作者が見ていない間にまどいの時期が終わっているという可能性はある。
(4)子グモたちは体長1ミリほど。頭胸部も腹部も濃い赤褐色である。
画像を10倍に拡大すると脚が8本見えるぞ。
(5)産卵から出囊までの日数は今のところわからない。
(6)ヒメちゃんが何グモなのかもわからない。
交接できたということはそれなりの個体数が存在しているはずだ。そう珍しいクモではない……と思うんだが……。
お尻がだいぶ小さくなっていたヒメちゃんにはダンゴムシを1匹あげておく。出囊祝いである。
6月21日。雨時々曇り。最低21度C。最高25度C。
午前1時。
スーパーの東側で体長15ミリほどのオニグモ体型で赤っぽい体色のクモを見つけた。円網のこしき部分から近くのサザンカまで引かれた糸の上で、より小型でお尻が細いクモとじゃれ合っていた。何というか、人間がやる「せっせっせーのよいよいよい」というのを第一脚と第二脚4本でやっているような感じだ。大きい子が小さい子を追い払う様子もなかったから、この2匹はおそらく同種の雌と雄なんだろう。つまり、この行動は交接の前の儀式、あるいは求愛行動に違いない。そして、この行動は以前観察したオニグモのそれとはまったく違っている。この儀式の違いは正しい交接相手であることをお互いに確認するためのものなんじゃないかと思う。種が違えば生殖孔の形も違っていて交接はできないんだろうが、交接の前に「異種だ」とわかれば、余計な手間をかけずに済むわけだ。
しばらく見ていると、雌は脚をたたんでうずくまり、そこに雄が近寄って互いに脚を絡め合い、糸の上で回転したりしていた。おそらく、この時に交接したんだろう(真夜中なので、ライトを当てていてもよく見えないのだ)。オニグモと比べるとひどく複雑な手順である。
その後、雄は立ち去り、雌は円網のこしき部分に落ち着いた。いいものを見せてもらったお礼にアリを1匹、円網に投げ込んであげる。
しかし、この子はいったい何グモなんだろう? 新海栄一著『日本のクモ』に載っているクモで一番それらしいのはヤエンオニグモなんだが、お尻の模様が微妙に違っているし、雄の写真も載っていないのだ。
※円網のこしき部分からサザンカまで愛の糸を引いたのはどちらなのか、という問題もある。ヤエンオニグモの雌は毎日、日没後に円網を張り、おそらく夜明け前頃に回収しているはずだ。となると、雌が円網を張り終えてから、雄が愛の糸を風に乗せて円網まで届けた……んだろうか? とにかく、糸さえ繋げてしまえば、その糸に付いている雄のフェロモンによって雌の攻撃性は抑制されるのだろう。
そして、円網を張るクモの場合、その縄張りは枠糸の内部に限定されていて、円網の外にある糸は誰でも自由に使っていいということになっているのらしい。したがって、ヤエンオニグモの雌は交接する前に、愛の糸に乗ってきたクモが同種の雄であることを確認する必要があるはずだ。「せっせっせーのよいよいよい」行動はそのためのものなのだろうと作者は思う。
午前7時。
光源氏ポイントにいる小さい方のコガネグモはまた隠れ帯をX字形にしていた。横糸も張っていないから脱皮するつもりなんだろう。ちなみに今の体長は15ミリほどになっている。
体長17ミリほどになっているコガネグモの12ミリちゃんの隠れ帯は向かって右下に1本だけだった。お尻も真っ平らだ。冷蔵庫から出してきた体長20ミリほどの甲虫をあげておく。
体長7ミリほどのジョロウグモが1匹、網も張らずにうろうろしていた。成体になってしまった雄かもしれない。あと4ヶ月か5ヶ月生きられればそれでいいのだから何とかなるんだろう。
ナガコガネグモの最大の子は体長15ミリほどになっていた。
午前8時。
今日も頭部と胸部だけにされたカブトムシが転がっていた。しかも、雌が2匹と雄が3匹だ。雌1匹と雄2匹は前脚2本を動かす力が残っている。人間で言うと、下半身を切り落とされたようなものなのだが、昆虫、というか節足動物というのはタフなのだなあ。
午前11時。
スーパーの東側にいるゴミグモの下側の卵囊がしぼんでいた。出囊したんだろう。
午後9時。
ヤエンオニグモ(確認できたわけではないが、以後「ヤエちゃん」と呼ぶことにする)が円網を張リ終えていた。ヤエちゃんの円網はサザンカの枝葉の下にあるので、雨が直接降りかかることはないのだろう。
6月22日。晴れのち曇り。最低17度C。最高31度C。
午前3時。
オニグモの12ミリちゃんが円網で待機していたので、そこらで捕まえた体長20ミリほどのガをあげた。
その近くにいるゴミグモの白いお尻ちゃんは足場糸を張り終えたところで休憩しているらしかった。ゴミグモの場合は夜が明ける前に張り替えが終わればいいのだろう。
では、オニグモの12ミリちゃんが円網を張り替えていたのはどういうことなんだ? 肌寒い夜に飛べる昆虫など多くはないだろうに。もしかして……暖かくなってきたので「今日からは日没後に張り替える」と決めてしまった、とか? そういうことであれば、生活のリズムを頻繁に切り替える必要がない分楽だろうな。
夜間の気温によっては円網の張り替えが無駄になるのだとしたら、24時間営業のクモたちのように、何も考えずに夜明け前に張り替えるというシンプルなやり方の方が合理的になるかもしれない。まあ、そのためにはお尻の色をグレーから黄色と黒のような目立つ色に変える必要が出てくるのかもしれないのだが。
午前11時。
近所のサザンカの植え込みにはヒメグモが10匹以上いるようだ。ヒメグモにとってはかなり快適な環境なんだろう。ただ単に母親たちがいた場所だというだけのことかもしれないが。
午後8時。
ヤエンオニグモのヤエちゃんが張り替えたばかりの円網で肉団子をもぐもぐしていた。明日は雨らしいので、体長7ミリほどの甲虫をあげておく。とりあえず、最初の産卵までは積極的にサポートしようと思う。
6月23日。雨時々曇り。最低20度C。最高25度C。
午前11時。
玄関のヒメちゃんの二番目の卵囊は内部が黒っぽくなったままだ。哺乳動物なら陣痛が始まっているという段階のような気がするのだが、この状態が長い。ナガコガネグモはまどいの時期を卵囊内で過ごすという話もあるから、この子たちもまどいの時期を終えてから出囊するのかもしれない。〔予想すると外れるぞ〕
古い仮説を否定したり欠点を指摘したりして、より整合性の高い仮説を選び出す、ということを続けることによって真理に近づいていく。それが科学というものなのである。とはいえ、信教の自由は日本国憲法で保証されているのだから、天動説や「紫外線を反射する隠れ帯は昆虫を誘引する」説などを信じてはいけない、とは言えないのだがね。
なお、3番目の卵囊の内部もグレーになりつつある。
近所のサザンカの植え込みでは体長2ミリほどのヒメグモが1.5ミリほどのガらしい獲物を仕留めているところだった。作者は老眼なので文庫本の細かい文字はよく見えないのだが、クモなら見えるのだ。
「見えるぞ! 私にもクモが見える」〔……オールドタイプのくせに……〕
午後1時。
スーパーの東側のオニグモの15ミリちゃんがいた場所に数本の糸が張ってあった。脱皮を終えて再起動しようとしているのかもしれない。雨がやむようなら今夜中に円網を張ることもあり得るだろう。
冷蔵庫には残念ながらガは入っていないが、ルリチュウレンジと小型の甲虫が2匹ずつ入っている。横糸の間を通り抜けてしまわないように浅い角度で投げ込めば何とかなるだろう。
午後6時
玄関脇に置いてあるシューズラックの近くに体長1ミリもないようなクモがいた。玄関のヒメちゃんの子だと思う。
午後10時。
オニグモの15ミリちゃんが円網で待機していた。円網には水滴が付いていないから雨がやんでから張り替えたんだろう。
その体長は25ミリほど。もうオトナと言っていい体格である。ということは、昨夜の内に交接してしまったかもしれない。オニグモのベッドシーン……。〔「交接」と言え!「交接」と〕
もとい、交接を観察するのは難しいのである。
午後11時。
地上すれすれの高さを、一度に数メートルずつ飛ぶ昆虫がいたので捕まえてみたらケラだった。地中を生活の場としながら空を飛ぶ能力も持っているという轟天号のようなコオロギの仲間である。〔今時の子は知らないぞ。『海底軍艦』なんか〕
体重の割に翅が小さいから、大きな円網にそっと置くようにしないと突き抜けてしまいそうだ。とりあえず冷蔵庫に入れておいて、明日にでも誰かにあげてみることにしようと思う。
「ケラ、ケラ、ケラ~。なるようになるわ~」〔今時の子は知らないぞ、ドリス・デイなんか〕
6月24日。晴れ時々雨。最低22度C。最高33度C。
午前11時。
オニグモの15ミリちゃんは円網を張りっぱなしにしたままで住居へ戻ったらしかった。
午後1時。
光源氏ポイントにいる小さい方のコガネグモ(以後「妹ちゃん」と呼ぶことにする)は脱皮したらしかった。直径約20センチの円網には横糸が張ってあるし、隠れ帯はない。
妹ちゃんにルリチュウレンジをあげよう……と思ったのだが、横糸の間をすり抜けてしまった。こんなこともあろうかと用意しておいた2匹目もすり抜けてしまう。
「ええい、コガネグモの円網は大物狙いか!」
翅をたたんだ状態のルリチュウレンジはシルエットが細くなるので、横糸に対して直交する向きで放り込まないと引っかからないようだ。
3匹目はなんとか円網にかかった。
体長20ミリ弱まで成長している大きい方のコガネグモ(以後「お姉ちゃん」と呼ぶことにする)の隠れ帯は向かって左下に1本だけだった。そこらで捕まえた体長40ミリほどのツチイナゴ(多分)を投げ込むと、お姉ちゃんは円網を大きく切り開いて、獲物を糸1本で吊り下げた状態にした後、縦のバーベキューロールで捕帯を巻きつけていた。体長で2倍以上の獲物なのだが、明日の隠れ帯は何本になるのやら……。
午後2時。
体長40ミリほどのトンボを拾った。右前の翅がしわしわになっているために飛べないようだ。光源氏ポイントに戻ってコガネグモの妹ちゃんの円網に投げ込んであげる。
妹ちゃんは円網の反対側に避難してしまったのだが、5分ほど後にはトンボに捕帯を巻きつけていた。
午後3時。
ハエトリグモの仲間が草の葉の上に取り付けられた白い糸の塊の側にいた。徘徊性のクモなら「卵囊を守る」こともできるのかもしれない。
6月25日。曇り一時雨。最低23C。最高30度C。
午前1時。
オニグモの15ミリちゃんが新しい円網で待機していたのでケラをあげた。翅が小さい上に体重がある獲物なので、横糸よりは切れにくい縦糸でその重さを支え、粘球付きの横糸で保持することができそうな位置にそっと落とす。15ミリちゃんの円網は手が届く高さにあるのでこういうこともできるのだ。
ヤエンオニグモのヤエちゃんには体長10ミリほどの甲虫をあげておく。
スーパーの西側の12ミリちゃんは横糸を張り始めたところだった。
午前10時。
光源氏ポイントにいるコガネグモの妹ちゃんは円網に隠れ帯を付けていなかった。しかも円網の直径は約30センチだ。昨日はルリチュウレンジとトンボを1匹ずつあげたのに、まだ食い足りないらしい。しょうがない。体長30ミリ前後の細め体型のバッタの子虫を3匹あげておく。
「見せてもらおうか、コガネグモの幼体の食欲とやらを」〔…………〕
お姉ちゃんの円網の隠れ帯は下側2本だった。そこらで捕まえた体長40ミリほどのキリギリス体型のバッタをあげる。さすがにこれだけの大物だと、バーベキューロールだけというわけにはいかないらしくて、DNAロールまで使って捕帯を巻きつけるお姉ちゃんだった。
お尻がライムグリーンとネオンイエローのウロコ模様というアシナガグモの仲間らしいクモを見つけた。体長は5ミリほど。アシナガグモ科にはウロコ模様のお尻を持つ子が多いのだが、見た目が一番近いのはウロコアシナガグモかなあ……。
午前11時。
玄関から続いている台所に体長1ミリほどの子グモが3匹いた。3匹とも頭胸部は黒でお尻は赤。それぞれ、藁と木の枝とレンガの不規則網を張っている。〔それは『3匹の子豚』だ!〕
多分、玄関のヒメちゃんの子どもたちだろう。放っておくと、部屋の中がクモだらけになってしまうかもしれないなあ。
午後8時。
ヤエンオニグモのヤエちゃんは今日も円網を張り替えていた。それに対して、オニグモの15ミリちゃんは張り替えていない円網でカメムシをもぐもぐしている。
オニグモは新しい円網を張る時間帯を食欲によって調整するらしいのだが、ヤエちゃんは常に日没後に張って夜明け前に回収しているようだ。この違いは何を意味するんだろう?
作者は検証のための実験をするほど暇人ではないのだが、オニグモの場合、網がなければそのまま獲物が飛び抜けられるような開けた場所に円網を張るので、時には大型の獲物や大量の獲物がかかってしまうこともあるのではないかと思う。そういう場合には食べ過ぎを防ぐために円網を張っている時間を短くする必要が生じてしまうというわけだ。
それに対して、サザンカの枝葉の下にいるヤエちゃんのように行き止まりの場所に円網を張っていると、より小型の獲物が安定してかかるのではあるまいか。そういうことならば、食べ過ぎという状態になる可能性が低くなり、その結果、円網を張っている時間の長さを調節する必要がなくなるのかもしれない。〔獲物をほいほい投げ込むようなやつがいなければ、だな〕
……大型の獲物がかからないとなると、その分成長が遅くなることもあり得るわけだが、その点は、あえて大きくならずにオトナになってしまうという方法で克服したのだろう。
オニグモの生き方とヤエちゃんの生き方のどちらが優れているかなどと考えることに意味はない。しいて言うなら、自分の命を次の世代に伝えていくことができたならばそれが正解なのだ。ああっと、新海栄一著『日本のクモ』には「網にはオニグモ属では珍しくかくれ帯を付ける」と書かれていた。これも円網にかかる獲物の量を、網を張っている時間の長さではなく、隠れ帯によって調節しようということなのかもしれないな。
ヤエちゃんには小型のガと甲虫をあげておく。
6月26日。曇りのち晴れ。最低20度C。最高28度C。
午前1時。
なんとなく眠り損なってしまったのでオニグモの15ミリちゃんの様子を見に行こうかと思ったら、玄関のヒメちゃんの卵囊の周囲に子グモが10匹いた。これがいわゆる「クモの知らせ」というものだろう。〔……確かにクモも虫(蟲)のうちだが……〕
第二の卵囊の内部はまだ黒っぽいから、すべての子グモが出囊したわけではあるまい。そして予想通り、1匹ずつ外に出てくるようだ。まどいの時期があるとしても、卵囊内で済ませてしまうのだろう。
午前2時。
オニグモの15ミリちゃんが円網を張り替えていたので、体長20ミリほどのコガネムシ体型の甲虫をあげた。15ミリちゃんのお尻はだいぶふっくらしてきている。
スーパーの西側にいる12ミリちゃんは斜めに張り渡された糸の途中にたたずんでいた。円網を張る気になれないのか、あるいは脱皮するのかもしれない。しばらくの間は注目しておく必要がありそうだ。
午前3時。
玄関の子グモたちは12匹になっていた。卵囊1個の中にいる子グモの数は、ざっと20匹から30匹くらいだろう。ヒメグモ科では通常の範囲内かもしれない。
子グモたちの画像を拡大してみると、頭胸部はオレンジ色で腹部はやや濃いめのようだ。何かを食べると腹部の色が濃くなるんじゃないかと思う。
午前7時。
玄関の子グモたちは25匹になっていた。卵囊は空になったようだ。
眠くてたまらん。少し寝よう。
午後8時。
ヤエちゃんには体長7ミリほどの甲虫を、15ミリちゃんには体長17ミリほどのゾウムシをあげた。しかし、2匹ともあまり積極的に仕留めようとしない。やっと食欲がなくなってきたようだ。「ガは別腹」かもしれないが。
クモをつつくような話 2024 その2に続く