不登校
純が高校を辞めたいと言っても、担任はなぜか頑なに高校を辞めさせてくれなかった。学校に戻るよう、執拗に純を説得しようとする。純は明確に、学校にはもう行けませんと担任に伝えていた。それは純の意志であり、どうしようもない状況だった。
この時代、不登校は恥であり、それだけで頭がおかしいと思われた。近所や同級生たちに顔向けできないほどに恥ずかしいことであり、特に人間関係の濃い田舎町ではあり得ない行為だった。それでも純は行けないと言った。完全に白旗を上げていた。
「逃げちゃダメ」
だが、そんな純に担任は言った。
「逃げた先には自殺しかないわよ」
何か、純の今の心境や状況とはトンチンカンなことを言われている気がしたが、反論する言葉をこの時純は持っていなかったし、そんな気力もなかった。
それでも、純は行けないと言った。だが、であるのにもかかわらず担任はそれでも頑なに純を学校に引き戻そうとし、純の言うことをまったく聞き入れなかった。
そして、両親も、担任と同じ態度をとる。そのことでも純は追い込まれていく。どちらかといえば、あまり押しつけがましいことは言わず、わりと子どもの好きにさせてくれるような理解のある親だった。しかし、不登校となると両親は急にこの世の終わりかというくらいに動揺した。そして、苦悩し、慌てた。何とかして、純を学校に行かせようと説得し、行動する。
しだいに、苦悩する純にとって一番味方であってほしい両親が最大の敵になっていくそのことがさらに純の精神を追い詰めていく。
純も何とか学校に行こうと思った。学校行かないことがどういうことかそれは、純自身が一番よく知っていた。同級生たちに顔向けできない、世間に顔向けできない。純自身は不登校は恥ずかしかった。だが、朝どうしても起きれなかった。どうしても起きることができなかった。ちゃんとしよう、ちゃんとしようと、前の晩絶対に起きて学校へ行くぞと誓うように思っても、いざ朝になると別人のような意志と気力のない自分がいる。そんなダメで意志の弱い自分に純は、自責するように苦悩するのだった。
そして、そんな純を、両親は朝無理やり叩き起こし、半ば強制的に連行されるように学校に連れていった。しかし、無理やりに学校に連れていかれても、心も意志も気力もついていけていない純は、ただただ、苦しむだけだった。
「これ」
練習前、日明が美希に何かを差し出す。
「なによ」
美希が日明を見る。
「ハンカチ、前に血で汚しちまっただろ」
「ああ、わざわざ買ってくれたの」
「ああ」
「・・・」
美希はまじまじと日明の顔を覗き込む。
「なんだよ」
「前はこんなことする人だっけ?」
美希は日明の顔をさらに覗き込む。
「いいだろ別に」
「やさしいんだ」
「そんなんじゃねぇよ。借りは返しとく流儀なんだ」
「流儀――ね」
「なんだよ。その間は」
「ふふふっ、まっ、でも、ありがたくもらっとくわ」
美希はそのハンカチを受け取った。
「あんたにも人の心があったのね」
冗談めかして美希が言う。
「ちぇっ」
その言葉に日明は不貞腐れたような表情をする。
「ふふふっ」
しかし、美希はうれしそうだった。それを見て、こいつも女なんだなと、日明は思った。




