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試合

「なんて自分はダメなんだろう」

 自分が情けなく、そして、恥ずかしかった。一日中家にいて、頭に浮かぶのは自責の念と自分に対する呪いの言葉だけだった。

 そんな学校に来ない純を担任はしつこく訪ねて来た。しかし、行けないものは行けなかった。自分でもよく分からないが、どうしてもだめだった。説明しようにも、自分でも分からないのだから説明のしようがない。だから、担任には当然、純の苦しみは伝わらなかった。担任は、ただ、純が怠けているとしか理解していないようだった。そのことも、純には重い心的負担となっていく。 

 日明は、週に二、三回だという不定期のその社会人サッカーの練習に、どんなに部活で疲れていようが、練習がある日は欠かさず参加した。リーダーの小川さんは、毎回来ていたが、社会人サッカーチームのメンバーはいつも、全員集まるわけではなく、大体いつも七、八人くらいで、多くが集まるわけではなかった。だが、練習風景は和気あいあいとしていて、みんな楽しそうだった。

「・・・」

 その光景を眺め、この人たちもサッカーが本当に好きなのだなと日明は思った。日本では、まだ、Jリーグができる前で、サッカーは全然普及していない、認知度の低いスポーツの中でもマイナーな存在だった。というか、野球以外はみんなそんな存在だった。そんな時代。それでも、時間と場所を何とかひねり出して、サッカーを続けている彼らの情熱はそれだけで、相当のものがあった。

 まして気楽な学生の日明と違い、彼らは社会人、昼間働いているのだ。その疲れた体を押してサッカーをやるには、それなりの思いがなければできないことだった。

 そして、軽くいつものパス練習からシュート練習。それらを終えると、今日も二手に別れミニゲームが始まる。 

「君が今度の試合出てくれたらなぁ」

 落合という人が言った。この人は割と気さくで、十歳くらいは年の違う高校生の日明にもよく話しかけてくれた。

「おお、そうだ。出てくれよ。そしたらうちも勝てるぞ。ねえ、小川さん」

 ひょうきんな柴田という人もそれにのる。どうやらそんなに強いチームではないらしかった。

「そうだな」

 小川が答える。

「出れるんでしょ」

 落合が小川を見る。

「ああ、高校生でも問題はないよ。選手登録さえすればね」

「じゃあ、出ろよ」

 落合が日明を見る。

「はははっ、そうっすね」

 日明は笑ってごまかす。気持ちはうれしかったし、日明も出てみたかった。試合もしてみたかった。しかし、日明には部活があり、日曜日休むわけにはいかなかった。

「部活があるだろ」

 小川が困る日明に助け船を出す。

「部活なんてさぼっちまえよ。俺はよくさぼってたぜ」

 日明もよくさぼっていた。しかし、今は絶対にできない。

「なっ」

 落合は諦めない。

「はあ、はははっ」

 それを、さらに笑って誤魔化す日明だった。

「みんな驚くぜ。こいつのドリブル見たらほんと腰抜かすぜ」

 落合は盛り上がる。

「一応登録だけしといたら」 

 白井というマジメそうな人が、その話を聞いていて小川に言った。

「そうだね」

 小川は日明を見る。

「いいかい?」

「は、はい」

「よしっ、決まり」

 落合が言った。


「・・・」

 次の日曜日、また一年と一緒に練習試合を見学している日明がいた。日明は、グラウンドの周囲の草の生えた丘から、ただ、無力に試合を見つめていた。

「・・・」

 試合に出たかった。ただ、試合に出たかった。日明はそれだけを思っていた。

 

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