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思い

 ヤンキーにでもなれたらどんなに楽だろうか。純は考えた。すべての常識も道徳も世間体も捨て、捨て鉢にただひたすら刹那的に生きる。だが、純はそんな人間にすらなれなかった。グレることも悪い人間になりきることも純にはできなかった。

 今まで何をやっても、失敗と挫折を繰り返してきた。何をやってもうまくいかず長続きしなかった。純はいつも何をやっても人間関係で躓いていた。みんなとうまくやっていけない。それが純だった。

 そんな中でサッカーだけは、不思議とうまくやれた。サッカーだけは、自然と続けることができた。サッカーをやっている時だけ、みんな純のことを一目置き、その存在を認めてくれた。だから、友だちもできたし、楽しかった。

 そのサッカーを失ってから、また、何をやってもうまくいかなくなった。何か違う目標や楽しいこと、友だちを求め、色々と彷徨うようにやってみたが、すべてがうまくいかなかったし、楽しくもなかった。逆にそんなことをすればするほど、やはりサッカーしかなかったのだと、思い知らされるだけだった。


 今日はいつもの日曜日によくやる他校との練習試合だった。

「・・・」

 日明は他の一年と一緒にそれをピッチ脇から見つめていた。相変わらず、たとえ練習試合であっても、日明はボールボーイをするか、ピッチ脇での見学だった。監督に日明が呼ばれることはなかった。

 二試合目は、日明と同じ二年生が主体のチームの試合だった。

「・・・」

 しかし、日明はボールを蹴る同学年の部員たちをただピッチ脇で見つめるしかなかった。

 練習も相変わらず一年と一緒に走り中心のメニューをただ淡々とこなす日々。日明は試合をしたかった。試合に出て、その中で思いっきりボールを蹴り、追いかけたかった。

「・・・」

 日明はピッチを見つめる。堪らなく試合がしたかった。試合に出れないことで、改めて自分はサッカーが好きなのだと思い知らされた。

 しかし、今の日明にそれは望むべくもない。

「こんなことになってから気づくなんて・・」

 日明は試合を見つめながら力の限り拳を握った。

 その日の帰り道。

 ゴンッ

「いてっ」

 日明が一人駅までの道を歩いていると、何かが日明の後頭部に直撃した。日明が振り返り下を見る。そこには石が転がっていた。「・・・」

 そして、日明は石の飛んできたその道路脇の森の中を見る。と、同時にそこからさらに森の影から次々と石が飛んできた。

「うおっ」

 日明は頭を抱え、身をかがめながらとっさに逃げた。だが、そんな日明の背中や足に容赦なく石がぶつかる。日明は全力で逃げた。

「ふぅ~、なんだよ」

 何とか、石の飛んできた現場からは逃げ切り、日明は道端で一息つく。

「ん?」

 頭から何から流れて来ていた。それに日明が気づく。手で拭うと、血が手の平一面にべっとりとついた。

「クソッ、なんだよ」

 日明はその自分の血を見つめる。

「なんだよ。クソッ」

 日明は、道の脇に丁度あった大きな石に座り込む。

「クソッ」

 日明は、頭の傷口を押さえながら、怒りに苦悶する。頭からは次々血が流れてくる。坊主頭の日明は、石の直撃によるダメージをダイレクトに受けてしまっていた。

「クソッ」

 日明はもう一度一人、毒つく。

「・・・」

 そして、これからどうしたものか考えた。医者に行くことを考えたが、ことを大きくしたくなかった。

「あんた何やってんのよ」

 その時、そう鋭い声がしたかと思うと、すぐに二本の手が日明の抑えている傷口に伸びた。

「滅茶苦茶血が出てるじゃない」

 美希だった。

「これで傷口抑えてて」

 美希は素早く自分のハンカチを取り出し日明に渡す。

「救急車呼んで来るわ」

 そして、学校の方に走り出そうとする。

「いい、やめろ」

 ハンカチで患部を押さえながら、日明がそんな美希に怒鳴るように叫んだ。

「なによ。すごい血が出てるじゃない」

「余計なことすんな」

「何言ってのよ。すごい血よ」

「押さえてりゃそのうちとまる」

「そんなわけないでしょ」

「いいから 余計なことすんな」

「・・・」

 日明の勢いに美希は黙った。 

 美希は黙って日明の隣りに座った。

「あんたって、相当嫌われてるわね」

「うるせぇよ」

 傷口を抑えるハンカチはすでに真っ赤になっていた。

「ほんと医者行った方がよくない?」

「大丈夫だよ」

「ほんとに・・」

 呆れたように美希が言うと、鞄からタオルを取り出した。そして、水筒から麦茶をそのタオルに滴らせ、濡らすと、日明の血で汚れた顔をそのタオルでやさしく拭き始めた。

「・・・」

 日明は黙ってそれをされるがままにしていた。

「もういいぜ。行けよ」

 日明が言った。

「血がとまるまでいるわ」

「・・・」

 不満そうな顔をしたが、日明はそれ以上何も言わなかった。

「勝手にしろ」

「勝手にするわ」

 美希はまったく動ずる風もない。

「三年の先輩たちが一年にやらせてたわ」

 美希が言った。美希はたまたまその場を通りがかり、その場面を見ていた。

「あいつらならやりそうだな」

 日明が顔をこわばらせる。

「くだらねぇ」

 そして、日明は吐き捨てるように一人言った。美希がそんな日明を見る。

「ほんとくだらねぇ」

 日明は、もう一度言った。

 日明は今、猛烈にサッカーがしたかった。ただそれだけだった。いじめとかそんなことは、今は滅茶苦茶どうでもよかった。日明はただ、サッカーがやりたかった。

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