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優越感

 始業からはかなり遅れて、学校への道を一人純は歩いていた。確実に遅刻の時間だった。

 だが、そうであるにもかかわらず、急ぐどころかその道すがら純は突然立ち止まった。

「・・・」

 そして、しばらくためらった後、踵を返し、せっかく来た道をまた駅の方へと戻り始めた。

 いつしか、純は学校に行けなくなっていた。どうしても行けなかった。学校に行かなければと、自分を奮い立たせるがどうしても行けなかった。まるで自分の意志を狂わせるバグにでも感染したみたいに自分で自分をコントロールできなかった。

「どうしちまったんだ俺・・」

 なんだか、無気力で学校という存在がもう、どうでもよかった。いや、それ以外のすべてもどうでもよかった。

 サッカーのない日々――。勉強は端から興味がなかった。もともとこの学校に来たのもサッカーをやるためだった。最近、クラスの連中にもなんだか嫌われている。そう感じることも多かった。そんな学校へ毎日通うことが堪らなく無意味で苦痛に感じられた。

 だからといってどこか行く当てもなかった。純は一人とりあえず駅まで戻り、駅ビルの中を彷徨った。

「・・・」

 何を見ても、虚しかった。本屋に入り以前好きだった漫画を立ち読みするが、まったく面白いと感じなかった。

 純は本屋を出て、またぶらぶらとビルの中を歩き出す。そんな純を同じく学校をふけているのであろう、東岡と最寄り駅が同じの地元のヤンキー高校のヤンキーっぽい奴らがニヤニヤと見ていた。今の純は見るからに、うつむき気味に暗く沈み、落ち込んでいる。しかも、一人だ。そんな純を、ヤンキーたちは見逃さず、面白そうに挑発的に見つめてくる。

 こういう連中は、頭は悪いが弱い者を嗅ぎ分ける能力だけは異常に鋭く、そして、そういう人間を見つけるとすかさずいじめようとしてくる。自分よりも弱いと判断した人間をバカにすることを決して逃さず忘れない。

 ここで映画なんかでは、荒んだ主人公がこんなヤンキー連中なんかとケンカをするのだが、純にはそんな度胸も気概もなかった。相手のヤンキーたちもヤンキーっぽいと言っても、ヤンキーもどきのどうしようもない屑のような連中だった。大して根性もないのだろう、それ以上は絡んではこなかった。

 しかし、その場を離れても、ヤンキーたちのあのにやにやとしたあのなんともいやらしい笑いが、純の心をさらに暗くした。世界のすべてが暗黒に閉ざされたような鬱々とした気分が純の世界全体を覆った。


 ドンッ

 日明が廊下を歩いていた時だった。誰かが日明にぶつかって来た。また三年の先輩か調子こいたヤンキーたちかと日明は相手を見る。

「・・・」

 それは高津弟だった。高津弟は身長百八十三、体格もがっしりしていて筋肉質だった。日明も身長は百七十五あるが、日明は線の細いタイプだった。

 日明は、睨むように高津弟を見上げる。だが、その口元は、優越に裏づけられた余裕の表情で日明を薄ら笑っていた。

「・・・」

 自分にもそんな時があった。自分が世界の中心で、敵など誰もいない無敵の自分――。

 日明は、何も言わず、そのまま黙って高津弟を無視して通り過ぎた。

 かつてのそんな自分は今、遥か彼方の遠い世界の幻影だった。


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