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ゴール裏

 純は日に日に、抑うつ的になっていき、すべてにおいてやる気を失っていった。そして、ついに朝起きることすらが出来なくなっていった。学校には遅れがちになり、遅刻が常習的になっていった。授業に出ても、集中力、やる気、忍耐力が続かず、二時限目、三時限目には、衝動的に学校を飛び出していた。

 もちろん、担任や他の教師、親から睨まれ叱責も受ける。だが、自分でもどうしようもなかった。

 純自身も、なんとかこの現状から立ち直ろう立ち直ろうともがいた。しかし、どうしても朝は起きれないし、抑鬱的で何をするにもやる気が湧かない。それはどうしようもなく、そして、無理にやる気を出そうとするとそれが空回りするばかりで、現状はどんどん泥沼に沈み込んでいくようにして悪化していくばかりだった。

 何とかしよう。何とかしよう。純は焦る。この現状を何とかしよう。だが、純がそう焦れば焦るほど泥沼にはまっていった。

 サッカーを失ったその喪失感。そんな自分が置かれている状況を認めたくなくて、でも、その虚無的な絶望は容赦なく目の前に迫ってくる。 

 だが、今さらまたサッカー部に戻ることなど絶対にできない。ただでさえ先輩に睨まれているのに、またそこに戻ることなどあり得なかった。

 失ってしまった。失ってしまったすべてを・・。

 その現実が容赦なく純の目の前に迫り、苛み、追い込み、純の中にはブラックホールのような絶望が渦を巻き始める――。

 

 次の日、グラウンドに再び日明の姿があった。昨日、一昨日と何も言わずにバックレ、部活に姿を表わさなかった日明だったが、誰も何も言わなかった。決して許されてそうであるというわけではなく、もはや、どうでもいい存在として扱われているのが現状だった。ほぼ、部員としては無視されているような状態だった。

「おいっ、あいつ来てるぜ」

 遠くからそんな先輩たちの囁きが聞こえた。しかし、先輩たちはしっかりと見ていた。それは鋭い視線だった。

「おいっ、ちょっとこっちこい」

 部活が終わってすぐだった。日明は先輩たちにドスの利いた声に呼びとめられる。

「・・・」

 日明はそのまま先輩たち数人に囲まれ、ゴール裏に連れていかれた。

「お前昨日と一昨日、練習バックレただろ」

 肥後が凄む。

「・・・」

「何また普通に来てんだよ」

 隣りから増田。

「すみません」

「そんな自分勝手が許されんのか」

 酒井が言った。

「俺たちは毎日出てんだよ。練習。何でお前だけ特別なんだよ」

 肥後が日明に顔を近づけ睨みつける。

「すみません・・」

 日明は何度もあやまる。

「勝手に休んでじゃねぇよ」

 言葉と同時に肥後の強烈な蹴りが飛んできた。日明は、思いっきり後ろにぶっ飛んだ。肥後の蹴りは容赦ないものだった。

「・・・」

 日明は、しかし、黙って立ち上がる。

「調子こいてんじゃねぇぞ」

 蹴りを入れ興奮する肥後がさらに怒鳴る。

「すみませんでした」

 さらなる暴力は飛んできそうな流れだった。

「おいっ、何やってんだ」

 だが、そこに偶然今年チームキャプテンをしている片桐がやって来た。

「何やってんだよ」

 片桐は、本当に分かっていない様子だった。

「おい、行こうぜ」

 肥後たちは、まずいと思ったのかその場からぞろぞろと去って行った。その場は、片桐の偶然の出現で、肥後の蹴り一発で何とか治まった。

「大丈夫か?なんかあったのか」

 片桐が日明を見る。

「いえ、何もないです。大丈夫です」

 日明はすぐに、練習の片づけに戻った。

 その後、日明が、先輩からの暴力を先生に言うことはなかった。それはチクリであり、その行為はこの年代では卑劣な最も嫌われる最低な行為として、共有されていた。日明もそのことをもちろん知っていた。そして、楢井に言っても、何も解決しないことも知っていた。だから、日明は何も言わなかった。

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