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迎えた大会当日。
【期待の新星が応えてみせた。優勝を掴み取ったのはアシュレイ・カーディナル!!】
アシュレイは順調にトーナメントを勝ち上がっていき、決勝まで進むとあっという間に優勝を掻っ攫った。
はっきり言おう、魔武器を持ったアシュレイは最強だった。
持ち前の素早さと凄まじい火力で次々と対戦相手を薙ぎ倒していく姿は、完全に観衆を味方に引き込んだ。
圧巻の勝利に一斉に会場が沸き、アシュレイコールが巻き起こる。
「やったわね、セレス!」
「えぇ、良かった…!」
友人と共に2階席で応援していた私は、無事に優勝を見届けられた事にホッと胸を撫で下ろしてステージを見た。
目標を達成してさぞかし喜んでいるだろうと思ったアシュレイだったが、何故か一切顔色を変えていない。
それどころか更に集中力を高めているように見えて、次第に違和感を覚え始める。
そんな中で実況のアナウンスが響いた。
【ここで大会の50周年を祝しまして、お待ちかねのサプライズゲストをご紹介いたします!】
きっと祝いの言葉を贈るために呼ばれたどこかのお偉いさんだろう。
そんな安易な私の考えは簡単に覆される事になった。
【ご登場いただきましょう!サプライズゲストはなんと、この大会でも数々の伝説を残してきた至高の天才。ハロルド・メレディス!!】
派手な炎と共にステージ上に現れたハロルドに、悲鳴にも似た歓声が沸き上がった。
歓声の大きさから、学生の頃から衰えぬ彼の人気ぶりが窺える。
「ハロルド様!?セレス、知ってた?」
「い、いいえ。何も聞いてなかったわ…」
興奮する友人の横で、私は呆然とステージを見た。
ハロルド兄様が、ゲスト…?
まさか…
言い知れぬ胸騒ぎがしてアシュレイに目線を移す。
彼は驚く事もなく、目の前に現れたハロルドを冷静に見据えていた。
【優勝選手には今回、挑戦者として特別にこちらのハロルド・メレディスさんと対戦していただこうと思います!さぁ奇しくも義兄弟同士となったこの対戦、一体どんな戦いを見せてくれるのでしょうかっ!】
ハロルドとの対戦と聞いて絶望にも似た感覚を覚える。
祝辞を述べるなんてそんな優しいものじゃなかったのだ。
魔武器が使えるようになったとはいえ、アシュレイは今まで一度もハロルドに勝った事がない。
彼は私に聞いてほしい事があると言った時、何故か優勝という言葉は使わなかった。
まさか今日ハロルドが来ることを知っていたのだろうか?
もしもハロルドと戦う事前提で、全員倒してと口にしたのだとしたら…
ごくりと喉が鳴る。
本当に勝てるのだろうか、あの無敵の兄に。
そう思うが、それを掻き消すように昨日のアシュレイの言葉が蘇った。
『絶対負けないから、会場の誰よりも俺の事を応援してて?』
…信じて待つしかない。
彼は今日のために誰よりも努力してきたのだから。
ステージ上のハロルドとアシュレイは一言交わしてから準備に入る。
【それでは、試合開始です!】
いよいよ本当の決戦が始まった。
先に仕掛けたのはアシュレイだった。
一気に距離を詰めていき、得意の接近戦に持ち込もうとする。
それをわかっているハロルドは、大きな水柱を次々と繰り出しアシュレイを寄せ付けずに攻撃を展開していった。
単純な魔力量だとハロルドの方が上だ。
おまけにアシュレイは決勝まで戦い抜いている。
長期戦になれば不利になると踏んで、アシュレイは一気に火力勝負へと打って出た。
とんでもない威力の炎と水がぶつかり合う。
ハロルドの方が属性有利なため優勢かと思われたが、信じられない事にアシュレイの炎がじわじわと水の勢いを押し返していた。
…これはひょっとするかもしれない。
祈る手に力が入る。
炎の一部がもうすぐハロルドに届くかという所で、ハロルドは水を氷へと変換させて一気に火力を上げた。
水の上位互換である氷は、勢いを増して炎を突き抜けていく。
途中から枝分かれしながら、先端を鋭く尖らせた氷が一斉にアシュレイに襲いかかった。
全ての攻撃を避けきれず、その一つが彼の身体を貫く。
鮮血が舞って、会場から小さく悲鳴が上がった。
それでも彼は素早くその氷を溶かすと、剣で道を切り開き炎で氷を受け流しながら前へ進み続る。
結着をつけるため、最後の力を振り絞ってハロルドに斬りかかった。
至近距離でお互いの最大火力がぶつかり合う。
防御壁で守られているはずの観客席が揺れてしまう程の大きな爆発が起こった。
すごい量の煙が辺りを包む。
「どっちが勝った…?」
ようやく煙が晴れた時に見えたのは両手を挙げて降参ポーズを取るハロルドと、ボロボロになりながらハロルドの背中に剣を突きつけるアシュレイの姿だった。
『勝ったのはなんと挑戦者、アシュレイ・カーディナル!!』
その衝撃の判定に、誰もが息を呑んだ。




