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学園では、一か月後に控えた選抜魔法大会の話で持ちきりだった。


この大会は王都にある魔法高等学校からそれぞれ選抜されたメンバーが招待され、トーナメント方式で魔法の腕を競い合うという毎年恒例のイベントだ。


この学園からは、今年高等部に上がってきたアシュレイが見事に選抜メンバーの1人として選出されていた。


「セレスの義弟くんは注目株ね」

「有難い事にね。いろんな意味で目立ってるようで」

「強いのは勿論だけど相当カッコいいものね、義弟くん」


友人はそう言ってうんうんと頷く。


確かに、周りを見回すと上級生の中にもアシュレイの名前を見て騒いでいる女子は少なくない。

ふわふわしたプラチナブロンドに甘いマスク。

物語の王子様を思わせるようなその風貌は、学年を問わずかなりの人気を集めていた。

それに加えて、同大会で三連覇の偉業を成し遂げているハロルドの義弟ときている。

それは注目される訳だ。


「けど実力は申し分ないと思うし、期待したいわ」

「当日が楽しみね、私も応援するわ」

「ありがとう、あの子もきっと喜ぶわ」


それじゃあと言って自分の席へ戻っていく友人を見送ると、次の授業に備えて準備を始める。


私に頑張ってみると言ったアシュレイは、その言葉通りに日々相当な努力を重ねていた。

武器自体の扱いも随分上達しており、今ではかなりの精度で魔武器を使いこなすまでに成長している。

まだ1年生ではあるが、頑張ればきっと優勝だって狙えるだろう。

魔法省や王宮魔導師のスカウトもチェックしに来るような大きな大会だ。

その努力が身を結んでくれる事を願うばかりだ。


「大会か…」


そういえば今までアシュレイの前で応援歌を歌った事はなかったな、とふと思い出した。


不思議な事に、この国では日本語を古典語として学ぶ。

この世界に無い物の名前は流石に理解されないが、アシュレイは私の歌を聴いた時にその歌詞の意味をきちんと理解していたようだった。

あれ以来彼はメッセージ性のある曲をよく聞きたがったため、今までは無難に人生観を綴ったような曲を選んで歌ってきた。

しかし大会に出場するというなら、今こそちゃんと応援歌を贈るべきじゃないだろうか。


一つ良さそうな曲がポンと浮かび、そこから頭の中で無限リピートが始まる。

ちゃんと聴かせるなら、伴奏も含めて練習しなくてはいけない。


家ではアシュレイに聴かれてしまう可能性があるため、学園の音楽室を借りようと思い立った。

普段は授業で音楽を学ぶ事はないが、この学園には校歌を練習する時に使用されている小さな音楽室がある。

そこなら誰もいないし、周りを気にせず練習する事ができるはずだ。


私は昼休みに入ると、早速鍵を借りて音楽室を目指した。




「うん、なかなか良い感じじゃない?」


大会本番まであと一週間と迫ってくる中、練習してきた曲もだいぶ納得いくものになった。

これならアシュレイに聴かせても大丈夫そうだと安堵する。


気持ちにゆとりができると気分転換したくなって、私は試しに別の曲を歌う事に決めた。

しっとりとしたバラードを選曲し、簡単な伴奏に声を乗せていく。

感情も乗ってきて最後のサビを歌いきり、エンディングの伴奏に入るところで突然扉の向こうからガタッという音が聞こえて手を止めた。


「っ、なに…?」


驚いて扉の方を見るが何も無くて、逆にシンと静まり返る教室内に段々怖くなってきてしまう。


「…今日はもうお終いにしましょう」


私は早く練習を切り上げる事にして、さっさと片付けを始めた。


荷物を持ち、恐る恐る扉を開けるがやはり廊下に人影らしき物は見当たらない。


「一体何だったのかしら…?」


首を傾げながら教室を出て長い廊下を進む。

途中で窓の外に人影が見えてそちらに意識を向けると、それが見慣れた人物である事に気付き自然と足が止まった。

隣にいる女子と2人で楽しげに話す様子からはその仲の良さが窺える。


「アシュレイ…」


何故だかその光景から目が離せなくなった。


その子に笑いかけるアシュレイは、足を止めると彼女の髪にゆっくりと触れていく。

彼女が恥ずかしそうに頬を染めるのが遠くからでもわかった。


血の気が引いていくような感覚に襲われる。


「…なんだ、親しい子が居るんじゃない」


別に私だけが特別ではなかったという訳だ。

それはそうだ。

アシュレイは元々引く手数多だし、なにより私たちは姉弟なのだから。


複雑な心境になってしまう自分が馬鹿みたいで、私はすぐに目を逸らすと早足で歩き出す。


握った鍵のチャリチャリという音が、やけに大きく廊下に響いて聞こえた。

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