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アシュレイ side.


セレスティアは能天気なやつだと思う。

貴族に生まれながら魔法はほとんど練習せず、世間ではまだまだマイナーな音楽家を目指そうとしている。

確かにカロンが上手いのは認めるが、魔法の腕がないと貴族でなくても馬鹿にしてくる奴は少なくないとうのに。


俺は10歳でカーディナル家に引き取られてからというもの、この家を継ぐために天才で完璧な義兄と常に比較されるという重圧を背負ってきた。

元々魔法にはかなり自信があったのだ。

それをここに来て、義兄に完全にへし折られてしまった。

その差を埋めるべく毎日欠かさず魔法の練習をしてきたが、いつまで経っても義兄との差は埋まる気配を見せない。

焦りが出てくると、能天気にカロンの練習をするセレスティアを見る度に苛立ちが募った。


それがついさっき、一変した。


「凄いじゃないか、アシュレイ!剣に魔法を纏わせたまま攻撃できてるぞ」

「これは魔武器使いになれるかもしれないな」


喜ぶ義父と義兄を唖然と見る。

剣から放たれた一撃の威力は、義兄にも負けないほど勢いがあった。


コントロールが難しくてまだ攻撃も覚束無いが、まさか自分にこんな才能があるとは。

この剣があれば、もしかしたら兄上にも勝てる可能性がある...?

いや、だけどよく考えたら俺だけ武器を持つなんてフェアじゃないよな...。


叫び出したいほど浮かれていた心中が一気に複雑なものに変わっていく。

気付かれないように小さく溜息を吐いた時、義父が再び口を開いた。


「セレスに感謝しないとな」

「セレスティアに、ですか?」

「あの子が私に頼んできたんだ、お前に武器を試させてやってほしいとな。後でお礼を言っておきなさい」

「あいつが...」


どういう理由で義父に頼んだのかはわからないが、セレスティアのお陰で新たな可能性が開けた事には素直に感謝しなくてはいけないだろう。

義父にも言われてしまったし、面倒だが一応お礼は言いに行っておこう。


こうして、恐らくカロンの練習をしに行ったであろうセレスティアの元へ足を運ぶことになったのだ。


部屋に近付くにつれて聴こえてくる音に、自然と歩く速度が落ちていく。

カロンの音に混じって微かに歌声が聴こえてきていた。


歌ってる...?あいつの歌を聴くのは初めてだな、多分。


それはどうやら古典語の歌詞のようだった。

扉の前まで来ると、黙ってその少し風変わりな歌に耳を傾ける。


悲しげなメロディーに乗せて聴こえてくるその声は澄んでいるのに息っぽく時折掠れていて、細かく揺れる音はとても繊細だった。

まるで泣いているかのような歌声に、切なくて心がぎゅっと掴まれるような感覚を覚える。


すげぇ好きな声...あいつ、こんな声だったか...?


気付かないうちに息まで止めていたようで、思い出したように息を吸う。

しかし次の瞬間には眉を顰めることになった。


すれ違いからその手を離してしまい、もう二度と戻って来ない事を悟って涙する。

時間が経てど恋しさが消える事はなく、今も尚深く想い続けている。

そんな愛する人への一途な想いを綴った歌詞だった。


...好きな奴がいたのか?

泣いて縋りたいと思うほど想っていた相手が?


セレスティアにはまだ婚約者もいないし、好きな奴の話も今まで聞いた事がなかった。

それなのに...


誰だよ、あんたにそんな歌を歌わせてる野郎は。


じわじわと黒い感情が湧き上がった。

他の奴の事を歌って欲しくない。

他の奴にはこの歌声を聴かせたくない。

そんな考えが浮かんできて、感情を持て余す。


なんとか気持ちを落ち着かせて中に入ると、うっすら目元を濡らしたセレスティアが目に入り奥歯をぎゅっと噛み締めた。


勘弁しろよ、あんたのせいで感情がぐちゃぐちゃだ。

頼むからどこの誰かも知らない奴のために泣くなよ…。


理不尽に気持ちを振り回されている気分だった。


しかしこちらの事情など知る由もないセレスティアは真っ直ぐに自分を見つめて言う。


『誰が何と言おうと、貴方の持つ才能は素晴らしいものだわ。自信がないなら誰にも文句を言わせないくらい極めてみせなさい。それでもカッコ悪いと言う奴は、ぶっ飛ばしてわからせてやればいいのよ』


本当になんなんだよ、あんたは。


カッコ良くて、可愛くて、憎たらしくて、愛おしくて...ムカつく。


そうか、今わかった。

他の誰かに取られるくらいなら、あんたはずっと俺のものでいればいい。


見つめられているとわかっているのに、わざと目を合わせようとしない彼女を見下ろしながら決意する。


そうとわかれば手加減はしない。

覚悟しておけよ、セレスティア。


アシュレイ side end.

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